ショック副腎(shock adrenal)とは

  • ショック副腎とは、ショック状態における両側副腎のびまん性腫大と強い造影効果を指す用語。
  • 外傷や敗血症性ショックを含むショック全般で認められ、CT hypoperfusion complex の一部として位置付けられている1,2,5)
  • O’Haraらは、外傷性ショック患者において左右対称の強い副腎造影を報告し、ショックに伴う副腎変化がCTで捉えられることを初めて明確に示した1)。その後、敗血症性ショック患者を対象とした研究でも、副腎体積の増大や高吸収を示す症例が多く報告されている3,4,6)

病態生理:なぜショックで副腎が腫大・高吸収になるのか

  • ストレス応答としての副腎血流増加:ショック時にはコルチゾール・カテコラミン分泌が亢進し、それに伴い副腎への血流が増加する。
  • 静脈うっ血と間質浮腫:中心静脈圧上昇や静脈還流障害により、副腎静脈のうっ血・浮腫が生じ、体積が増大する6,7)
  • ホルモン需要の増大:敗血症性ショックでは、視床下部–下垂体–副腎(HPA)軸が最大限に動員され、副腎の代謝需要と構造変化が生じる8)

これらの要素が組み合わさることで、「腫大した、強く造影される副腎」という画像所見として可視化されると考えられている。

CT画像所見

1. 典型的なショック副腎の所見

  • 両側副腎の腫大(volume増大)
    ・副腎全体がふくらんだ楕円形〜丸みのある形状となる。
    ・敗血症性ショックでは、対照群と比べて副腎体積が3〜4倍に増大するとの報告もある3,6)
  • 左右対称の強い造影効果(intense / hyperattenuating enhancement)
    ・造影CT、特に門脈相で周囲臓器(肝・筋肉)よりも高吸収の均一な造影を示す。
    ・ショック内臓(hypoperfusion complex)の一部として、腸管や腎臓の強い造影と併存することが多い1,2,5)
  • 輪郭の保たれた均一な構造
    ・皮質・髄質の内部構造はおおむね保たれ、明らかな壊死や出血を示す不均一高吸収は認めない。

Cheungらは、ショック患者において持続する強い副腎造影が、他の低灌流所見に先行して出現しうることを報告し、ショックの早期サインとしての意義を強調している2)

2. Hollow adrenal gland sign(HAGS)

近年、hollow adrenal gland sign(HAGS)が敗血症性ショック患者に特徴的な所見として報告されている9,10)

  • 定義:副腎の辺縁部が高吸収、中心部が相対的に低吸収となり、中が抜けたように見える所見。
  • 形態:CT断面で「Y字」や「I字」に見える均一な低吸収帯、あるいはモザイク状の不均一な中心低吸収として描出される9)
  • 臨床的意義:敗血症性ショック患者の約30%に認められ、死亡率の上昇と関連する予後不良サインと報告されている9,10)

3. 時相と評価ポイント

  • 造影時相:ショック副腎は動脈相〜門脈相で最も評価しやすい。
  • 定量評価:副腎の平均CT値や副腎/脾臓比、体積測定が研究レベルで用いられ、高吸収かつ体積増大を示す副腎は、ショックの重症度および予後と関連するとされる4,6,7)

副腎出血との鑑別

ショック時には副腎出血(adrenal hemorrhage)も重要な鑑別診断である。これらは画像所見と臨床状況から区別する必要がある。

ショック副腎(shock adrenal)の特徴

  • 両側副腎のびまん性腫大
  • 動脈相〜門脈相で強く、比較的均一な造影効果
  • 明らかな内部高吸収血腫や石灰化は通常認めない
  • 周囲脂肪織の炎症性変化は軽度〜不明瞭

副腎出血の特徴

  • 非造影CTで高吸収の血腫として描出される(急性期は特に高吸収)11,12)
  • 造影CTで内部不均一な造影パターンまたは造影効果欠如を示す。
  • 片側性のことも両側性のこともあるが、両側出血では急性副腎不全からショック・DIC様症状をきたしうる。
  • 周囲脂肪織の濃度上昇や血腫による圧排所見を伴うことが多い。

すなわち、「均一に強く造影される腫大副腎」=ショック副腎、「非造影で高吸収の腫大副腎」=出血をまず疑うというイメージが鑑別の第一歩となる。

臨床的意義と予後との関連

  • ショックの早期マーカー
    ・持続する副腎の強い造影やHAGSは、ショックの早期かつ特異性の高い所見とされる2,9,10)
  • 予後予測因子としての副腎体積・CT値
    ・敗血症性ショック患者で、副腎体積が増大している症例の方が、ある程度のホルモン応答を保っており、むしろ予後良好と関連する可能性が指摘されている一方3,6)
    ・逆に副腎体積が小さい(増大しない)症例や、異常な高吸収パターンを示す症例では死亡率が高いとの報告もある4,7)
  • 副腎不全との関連
    ・敗血症性ショックでは相対的副腎不全が問題となり、副腎の形態変化が機能障害の surrogate marker となり得るかが検討されている8)

CTでショック副腎を認めた場合、単なる「 incidental finding 」ではなく、循環動態破綻の強いシグナルとして臨床側にフィードバックすべき所見である。

読影時のチェックポイント

  • ショック・敗血症・外傷などの文脈で副腎の形態と造影パターンを必ず確認する。
  • 両側副腎の腫大の有無と、均一な高吸収造影か、中心低吸収(HAGS)かを意識する。
  • 非造影CTがあれば、副腎出血を示唆する高吸収血腫との鑑別に役立つ。
  • ショック内臓(腸管・腎・肝など)の他の低灌流所見と組み合わせて評価し、全身状態と合わせて報告する。

まとめ

  • ショック時には両側副腎の腫大と強い造影効果(ショック副腎)がしばしばみられる。
  • ショック副腎は、ショックの早期サインであり、また死亡率などの予後と関連する重要な画像所見である。
  • HAGS(hollow adrenal gland sign)は敗血症性ショックで特に特徴的で、予後不良サインとされる。
  • 副腎出血とは、非造影での高吸収血腫と造影パターンの不均一性により鑑別できる。
  • ショック患者のCTでは、副腎の形態・造影パターンを系統的にチェックし、適切にレポートに反映することが重要である。

参考文献

  1. O’Hara SM, et al. Intense contrast enhancement of the adrenal glands in the CT hypoperfusion complex. AJR Am J Roentgenol. 1999;173(4):971–974.1,13)
  2. Cheung SCW, et al. Persistent adrenal enhancement may be the earliest CT sign of significant hypovolaemic shock. Clin Radiol. 2003;58(10):800–805.2,18)
  3. Jung B, et al. Enlarged adrenals during septic shock: adrenal gland volume and outcome. Intensive Care Med. 2009;35(1):66–73.2)
  4. Jung B, et al. The absence of adrenal gland enlargement during septic shock is associated with mortality: a computed tomography study. Intensive Care Med. 2011;37(11):1912–1921.1,2)
  5. O’Hara SM, et al. CT hypoperfusion complex revisited. In: Emergency Radiology texts, etc.10,20)
  6. Winzer R, et al. Bilateral adrenal gland hyperenhancement as imaging correlate of septic shock. Abdom Radiol. 2021;46:1732–1742.5,10)
  7. Milberg M, et al. Diagnostic and prognostic value of quantitative CT analysis of adrenal glands in sepsis and septic shock. Diagnostics. 2022;12(1):3.5,31)
  8. Miranda M, et al. Adrenal gland evaluation in septic shock patients. Crit Care. 2003;7(Suppl 2):P102.28)
  9. Costa A, Baptista M. The hollow adrenal gland sign: an ominous alert. J Belg Soc Radiol. 2022;106(1):61.29)
  10. Valente T, et al. Multidetector CT biomarkers as predictors of outcome in septic shock. Diagnostics. 2023;13(13):2304.35)
  11. Boos J, et al. Impact of hyperattenuating adrenal glands on contrast-enhanced CT in ICU patients. Can Assoc Radiol J. 2017;68(1):38–44.3,19)
  12. Case reports and reviews on bilateral adrenal hemorrhage (e.g. Cureus, Radiology case reports).4,6)

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