術後に見られる局所的変化

  • 形態変化/構築の乱れ・瘢痕・線維化:切除・縫縮に伴う体積減少や瘢痕性収縮が生じる。時間経過で安定化するが、増大や新規出現は再発の赤旗である。
  • 浮腫・皮膚肥厚:急性期に顕著。多くは経時的に改善し、2〜3年でほぼ基線へ戻る。
  • 石灰化:脂肪壊死や治療性変化に伴う変性石灰化は治療後2〜3年ころから出現しうる。
  • 液体貯留(漿液腫・血腫):術後早期に高頻度。通常は縮小する。
  • SBI/TE関連所見:被膜内外破損、被膜拘縮、周囲炎症、稀にBIA‑ALCL を念頭に置く。CTは胸部撮像の機会が多く、偶発所見として検出される。

時相ごとのポイント

  • 急性期(術直後〜数か月):液体貯留、浮腫、皮膚肥厚が主体。時間とともに減弱する。
  • 亜急性〜晩期:瘢痕・線維化や脂肪壊死、治療性石灰化が前景化。安定化した後の増大・新規出現は再発を疑う。

    漿液腫(seroma)

    • 術腔や腋窩リンパ節郭清部に浸出液が嚢胞状に貯留した状態。
    • CTでは低吸収の境界明瞭な液体貯留として描出される。
    • 一般に縮小傾向を示し、多くは約1〜2年で消失する(1年以内に消退する報告と、平均24か月で消失した報告がある)。増大傾向は再発の可能性に留意する。
    • 放射線治療は漿液腫の縮小を遅らせうる。経時的体積変化の評価が有用。

    症例 50歳代女性

    右乳癌に対して部分切除が施行された。術後に液貯留を認め漿液腫(seroma)を疑う所見を認めている。

    症例 60歳代女性

    左乳癌術後に液貯留を認め漿液腫(seroma)を疑う所見を認めていたがフォローで消失している。

    乳房シリコンインプラント(SBI:Silicone Breast Implant)/組織拡張器,ティッシュエキスパンダー(TE:Tissue Expander)の評価

    • 日本では人工物による乳房再建(TE・SBI)が2013〜2014年に保険適用となり普及した。
    • 破損リスクは経年で上昇する。10年追跡のコアスタディでは、製品や適応により差はあるが、MRIで確認された破損率はおおむね約6〜13%の範囲が報告されている。
    • FDAは術後5〜6年で初回の超音波またはMRI、その後2〜3年毎の定期検査を推奨している(無症状例のサーベイランス)。

    乳房インプラントの破損

    • インプラントの破損には、周囲の線維性被膜が保たれている被膜内破損と、線維性被膜も破損しシリコンが周囲へ漏出する被膜外破損がある。
    • 被膜内破損:線維性被膜は保たれ、シリコンは被膜内に限局。検出能はMRIが優れる。CTでは内折れやシェル虚脱を示唆する所見をとらえ得るが感度は低い。
    • 被膜外破損:被膜も破綻し遊離シリコンが周囲へ漏出。CTではインプラント外の高吸収シリコンやシェル断裂を描出しやすい。

    稀な晩期合併症:乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA‑ALCL)

    • 乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA‑ALCL:Breast Implant–Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma)は、主としてテクスチャードタイプのインプラントに関連し、発症までの中央値は約8〜10年とされる。
    • 初発は遅発性の周囲液貯留(遅発性セローマ)が最多で、報告により約70〜80%を占める。
    • CTでは遅発性の大量皮下/被膜周囲液体貯留、被膜肥厚・小結節、腋窩リンパ節腫大などに注意する。疑った場合はUS下穿刺で液体を採取し、細胞診・CD30免疫染色等で評価する。初期評価は超音波が適切である。

    参考

    • Imaging of the treated breast post breast-conserving therapy:術後の時相変化・赤旗所見の整理。
    • Krishnamurthy et al., Radiographics:術後液体貯留は多くが1年内に縮小・消退。
    • Computed Tomographic Findings of Postoperative Seroma:CTでの漿液腫の経時変化(平均24か月で消失)。
    • ACR Appropriateness Criteria(2023)/MRIレビュー:インプラント整合性評価はUS/MRIが基本、CTは特に被膜外破損で有用。
    • Breast implants on CT—pictorial review:CTでの被膜内/外破損や被膜石灰化の描出

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