乳酸アシドーシス(にゅうさんアシドーシス)という体の血液の状態が酸性に傾く病態があります。
ちょっと難しい用語ですが、どんなことが原因で起こり、どんな症状が出ることがあるのでしょうか?
糖尿病の人や、糖尿病のメトホルミンという種類の薬を飲んでいる場合はとくに注意が必要とされます。
今回は、そんな乳酸アシドーシス(英語でLactic acidosis)について、
- そもそも乳酸アシドーシスとは
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療
といった点についてわかりやすくまとめました。
乳酸アシドーシスとは?
乳酸アシドーシスとは、血中の乳酸の値が上昇し、(非ケトン性)アシドーシスとなり、意識障害から昏睡などに至る疾患です。

上のように、酸素が足りない嫌気的条件のもとでピルビン酸は乳酸脱水素酵素(LDH)により乳酸が産生されます。
そしてこの乳酸からATPが作られエネルギーに変えることができます。
この乳酸の産生と代謝のバランスが崩れ、乳酸の産生が代謝を上回ると乳酸アシドーシスを生じます。
乳酸値の基準値と異常値の目安
乳酸アシドーシスを理解するうえで、乳酸値の基準値を把握しておくことが重要です。
| 状態 | 血中乳酸値の目安 | 意味 |
|---|---|---|
| 正常 | おおむね 1.0〜1.8 mmol/L | 生理的範囲内です |
| 高乳酸血症 | 2.0〜4.9 mmol/L | 要経過観察・原因精査が必要です |
| 乳酸アシドーシス | 5.0 mmol/L 以上 + pH < 7.35 | 緊急の対応が必要な状態です |
ただしこれらの基準値は施設や測定法によって異なる場合があります。乳酸値の測定は動脈血または静脈血で行われ、結果の解釈は必ず他の臨床所見と合わせて行うことが大切です。
ではどのようなときに、このバランスが崩れるのでしょうか?
その原因を次に見ていきましょう。
乳酸アシドーシスの原因は?
乳酸アシドーシスの原因は敗血症、出血、心疾患が多く、糖尿病患者の場合は、アルコール乱用やビグアナイド系経口血糖降下薬に注意を払う必要があります。
さらに細かく見ると、Cohen&Woodsによると、乳酸アシドーシスの原因は大きく
- 低酸素症があるもの(TypeA)
- 低酸素症がないもの(TypeB)
に分けられます。
それぞれ分けて原因を見ていきましょう。
低酸素症がある場合の乳酸アシドーシスの原因
低酸素症がある場合の原因は以下のものがあります。
- 低血圧(脱水、出血、心原性ショック、敗血症性ショック)
- 低酸素血症
- 重症貧血
- 一酸化炭素中毒
- 硫化水素中毒・シアン化物中毒
- 腸管虚血
- 四肢壊疽
- 酸素消費の増大(運動、痙攣発作、ふるえ)
低酸素症がない場合の乳酸アシドーシスの原因
低酸素症がない場合の原因は以下のものがあります。
- 糖尿病
- 肝不全
- 腎不全
- 敗血症
- 痙攣
- 褐色細胞腫
- 悪性腫瘍
- SIRS(systemic infallmatory response syndrome)
- チアミン(ビタミンB1)欠乏
- 感染症(HIV、マラリアなど)
- 先天性代謝異常(グルコース-6-ホスファターゼ欠損、MELASなど)
- D-乳酸アシドーシス
- 低血糖
- 薬物・中毒
この中でも一番下の乳酸アシドーシスを起こしうる薬物としては
- ビグアナイド系経口血糖降下薬(ブフォルミン、メトホルミン)
- フルクトース
- ソルビトール
- キシリトール
- サリチル酸
- イソジアニド
- メタノール
- エタノール
- エピネフリン
- シアン化合物
- 一酸化炭素
- β2アドレナリン受容体刺激薬
- エピネフリン
- イソニアジド
- 抗ウイルス薬(抗HIV薬)
- リトドリン(子宮収縮抑制薬)
- ナリジクス酸(抗生剤)
- リネゾリド(抗生剤、バンコマイシン耐性菌)
- テオフィリン
- ナイアシン
- プロポフォール
などが挙げられます1)2)。
ビグアナイド系経口血糖降下薬で乳酸アシドーシスが生じることがあることは有名です。
ビグアナイド系経口血糖降下薬にはメトホルミン(メデット®︎など)、ブホルミン(シベトスB®︎)などがあります。
メトホルミンをはじめとするビグアナイド系薬と関連した乳酸アシドーシスは、MALA(Metformin-Associated Lactic Acidosis)と呼ばれることがあります。
ビグアナイドはCTのヨード造影剤と併用注意
また、これらのビグアナイド系経口血糖降下薬を内服中の人に、CTの造影剤であるヨード造影剤を用いることで、乳酸アシドーシスが起こることがあることが報告されており、「併用注意」となっています。
ビグアナイドは肝臓での乳酸からの糖新生を抑制する作用があります。
とくに腎機能に低下がある場合は、ヨード造影剤により腎機能がさらに低下し、ビグアナイド系経口血糖降下薬の腎臓からの排泄が低下をすることで、乳酸値が増加すると言われています。

そのため、腎機能が悪い人(eGFRが60以下の人)は検査前後48時間はビグアナイド系経口血糖降下薬の内服を中止することが多いです。
造影CTを行う場合の休薬の目安
造影CT検査を予定している方がメトホルミンを内服している場合、腎機能の状態に応じて以下の対応が一般的です。
- 腎機能が正常(eGFR 60 以上):通常は休薬不要とする施設が増えていますが、施設の方針に従ってください
- 腎機能低下(eGFR 60 未満):造影CT検査の前後48時間はメトホルミンを休薬することが推奨されています
- eGFR 30 未満:メトホルミンの投与は禁忌とされています
実際の対応は施設の基準や担当医の判断によって異なります。メトホルミンを内服している方は、造影検査の前に必ず担当医または検査スタッフに相談してください。
乳酸アシドーシスの症状は?
乳酸アシドーシスの症状としては
- 傾眠から昏睡に至る意識障害
- 嘔吐・腹痛などの消化器症状
- 過呼吸
などを示し、しばしばショック状態となります。
乳酸アシドーシスの診断は?
乳酸アシドーシスの診断は採血により
- 代謝性アシドーシス(pH<7.35、アニオンギャップが高値(>20mEq/l))
- 血中の乳酸値が高値(>5.0mmol/lとなることが多い)
- 血中乳酸:ピルビン酸比の上昇(>10)
という検査値になることから代謝性アシドーシスがあり、その原因が乳酸であることを診断します。
ただし日常診療の採血では乳酸の値を測定しないことが多いため、ショック状態などから乳酸アシドーシスの可能性を考える必要があります。
代謝性アシドーシスの有無は動脈採血をします(血液ガス分析を行います)。
乳酸アシドーシスの治療は?
乳酸アシドーシスの治療は以下のようになります。
- 原因への治療
- 酸素化
- 輸液・輸血
- 昇圧剤
- アルカリ化
- 透析療法
原因への対処
乳酸アシドーシスの治療は、まず乳酸アシドーシスを起こしている原因への対処が重要です。
原因となっている疾患や状態を治療して、乳酸アシドーシスを起こさないようにします。
酸素化
また低酸素症を認めている場合は、酸素療法を行い、場合によっては人工呼吸器を用いることで酸素化を行います。
輸液・輸血
また循環血漿量の不足を補うために十分な輸液を行い、貧血などがある場合は輸血を行います。
昇圧剤
心拍出量の低下がある場合は、昇圧剤を用いることもあります。
アルカリ化
乳酸アシドーシスでは重篤なアシデミアの状態が、上に挙げたような様々な症状を引き起こしますので、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)(メイロン®︎)を用いることで血液のアルカリ化をはかります。
投与する量は、
- 重炭酸不足量(mEq)=0.6×体重(kg)×(15-[HCO3]測定値)
の半分を静脈内投与して、再度pHを評価します2)。
透析療法
透析により過剰な水分やナトリウムを除去したり、アシドーシスの補正、さらには乳酸を除去することができます。
乳酸アシドーシスに関するよくある質問(FAQ)
Q. 乳酸アシドーシスの診断基準となる乳酸値はいくつですか?
一般的に血中乳酸値が5.0 mmol/L以上かつpH 7.35未満(代謝性アシドーシス)の状態を乳酸アシドーシスと呼ぶことが多いです。乳酸値2.0〜4.9 mmol/Lは「高乳酸血症」として経過観察が必要な状態とされています。施設や文献によって基準値が異なる場合もあります。
Q. メトホルミンはなぜ乳酸アシドーシスを起こしやすいのですか?
メトホルミン(ビグアナイド系薬)には肝臓での糖新生(乳酸からブドウ糖を作る過程)を抑制する作用があります。これにより乳酸の処理が妨げられ、血中乳酸値が上昇しやすくなります。特に腎機能が低下している場合(eGFR 60未満)は薬の排泄が遅れてリスクがさらに高まります。
Q. 造影CTの前にメトホルミンを中止するのはなぜですか?
ヨード造影剤は腎機能を一時的に低下させることがあります。腎機能が低下するとメトホルミンの排泄が滞り、血中濃度が上昇して乳酸アシドーシスを引き起こすリスクがあるためです。腎機能が低下している方(eGFR 60以下が目安)では、造影CT検査の前後48時間はメトホルミンを休薬することが推奨されています。
Q. 乳酸アシドーシスとケトアシドーシスの違いは何ですか?
どちらも代謝性アシドーシスを引き起こす状態ですが、原因が異なります。ケトアシドーシスはインスリン不足などによりケトン体が蓄積して起こるもので、主に糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)が代表的です。乳酸アシドーシスは乳酸の蓄積が原因で、低酸素・敗血症・薬剤などが主な誘因です。血液検査でケトン体の有無と乳酸値を確認することで鑑別できます。
Q. アニオンギャップとは何ですか?
アニオンギャップ(AG)は血中の主要なイオンの差で計算します(AG = Na⁺ − Cl⁻ − HCO₃⁻)。正常値はおおむね8〜16 mEq/L程度です。乳酸アシドーシスではAGが高値(20 mEq/L以上)となることが多く、代謝性アシドーシスの原因を絞り込む際に役立ちます。
Q. 敗血症でなぜ乳酸が上昇するのですか?
敗血症では感染による炎症反応で末梢組織への酸素供給が低下し、嫌気的代謝が亢進して乳酸産生が増大します。また肝臓での乳酸処理能力も低下するため、血中に乳酸が蓄積しやすくなります。SEPSIS-3では乳酸値2 mmol/L以上が敗血症性ショックの診断基準の一つとなっています。
Q. メイロン(炭酸水素ナトリウム)は乳酸アシドーシスの治療に有効ですか?
メイロンはアシドーシスを一時的に補正するために使用されますが、根本的な治療ではなく対症的な処置です。pH 7.1〜7.15程度を目安に投与が検討されることが多いですが、過剰投与によるアルカローシスや高ナトリウム血症のリスクもあるため、慎重な管理が必要です。
Q. D-乳酸アシドーシスとは何ですか?
通常の乳酸アシドーシスで問題になるのはL-乳酸ですが、D-乳酸アシドーシスは腸内細菌がD-乳酸を産生することで起こる特殊な病態です。短腸症候群など腸管の吸収障害がある方で発症することがあります。通常の乳酸測定ではD-乳酸は検出されないため、疑う場合は専用の検査が必要です。
最後に
乳酸アシドーシスについてまとめました。
乳酸アシドーシスはしばしば重篤になりますので、あらかじめリスクや原因を知った上で、この病態疑う必要があります。
また糖尿病の人でビグアナイドという薬を内服している人は造影CT検査を受ける際には、乳酸アシドーシスのリスクがあるため注意が必要で、腎機能が悪い人の場合は、検査の前後で休薬の必要があることも重要です。
参考になれば幸いです( ^ω^ )
参考文献)
1)総合臨床 今すぐに役立つ輸液ガイドブック P165-169
2)ICU実践ハンドブックP133-136
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