子供の肺炎としては、最もよく耳にするマイコプラズマ肺炎。
しかし、子供だけではなく、大人でも起こります。
激しくしつこい咳が特徴でもあり、どれくらい症状が続くのかと心配になる方も多いと思います。
そこで今回は、マイコプラズマ肺炎(英語表記で「Mycoplasma pneumonia」)について
- 症状
- 潜伏期間
- 出席停止期間
- 検査(CT画像を中心に)
- 治療
など、イラストと実際にマイコプラズマ肺炎と診断されたCT画像を用いて徹底的にまとめました。
マイコプラズマ肺炎とは?
肺炎は大きく細菌性肺炎(定型肺炎)と非定型肺炎に分けられ、マイコプラズマ肺炎は後者の非定型肺炎の代表的な肺炎です。
市中肺炎の9〜29%を占め、入院を必要とする市中肺炎の5%を占めます。
- 飛沫感染(咳やくしゃみにより感染)
- 接触感染(細菌が付着した物品などに触れた手が何らかの理由で口に入ることにより感染)
が感染原因となります。
健康な若年者に多く起こるため、学校や保育園・幼稚園といった場所で流行します。
2000年以降、増加傾向にありますが、とくに2011年以降は著しく発生数が増えています。
秋の終わり頃から冬にピークはありますが、年中いつでも発生します。
オリンピックの年に多いと以前は言われていましたが、最近その周期は関係ないようです。
非定型肺炎についてはこちらにまとめました→非定型肺炎とは?細菌性肺炎との違いは?診断から治療まで!
マイコプラズマ肺炎の症状は?
乾いた頑固な咳が有名ですが、下のような症状があります。
- 咳嗽
- 喀痰
- 悪寒
- 発熱
- 胸痛
- 頭痛
- 全身倦怠感
などがあります。
マイコプラズマ肺炎の潜伏期間は?
2〜3週間の潜伏期間を経て発症します。
症状が出始めてから3〜5日後に咳の症状が出現し、徐々に増悪して、熱が下がった後も1ヶ月近く咳の症状が続くこともあります。
マイコプラズマ肺炎にかかると出席停止になる?
マイコプラズマ肺炎は、
- 感染症法:5類感染症に分類
- 学校保健安全法:第3種に分類
されています。
この学校保健安全法の3種というのは、マイコプラズマ肺炎が学校でもしも大流行した場合、校長と学校医とで相談した上で、出席停止措置をとることができるというものです。
個人が感染した場合に法律で出席停止が義務付けられているわけではなく、主治医が感染のリスクが減るまで登校や登園を控えるように助言することがあるという程度のものです。
ただし、学校側は医師の許可が出るまで登校や登園をしないでくれと申し出ることも多く、実際は1週間から長い場合は1ヶ月程度休むことも多くあります。
マイコプラズマ肺炎の診断は?
- マイコプラズマ抗体の血清免疫反応:確定にはペア血清(感染初期と回復期の血清を比較して4倍以上の上昇が診断基準)
- 寒冷凝集反応
- 一般的な血液検査
- 補助的に画像診断
が行われます。
血液検査では、
- 一般検査白血球上昇
- 白血球は正常〜やや上昇
- AST/ALTの上昇
が見られます。
とくにペア血清には時間がかかり、初期の治療には間に合いません。
そこで、画像診断(特にCT)による補助診断の意味は大きいとされます。
マイコプラズマ肺炎のCT画像診断の特徴は?子供と大人の違いは?
以下のような特徴があります。
マイコプラズマ肺炎の画像の基本は、気管支肺炎パターン(細気管支肺炎)で、
- 中枢気管支〜細気管支壁の肥厚
- 細気管支周囲の細葉大のすりガラス影〜コンソリデーション:小葉中心性の結節影
子供の場合は、大人よりもコンソリデーションが強い傾向にあります。
(ここでは簡易的に、コンソリデーションとはベターと(白く)広がる肺炎像と理解してください。)
では実際のマイコプラズマ肺炎のCT画像を見てみましょう。
症例 30歳代男性
胸部CTにおいて左の下葉に小葉中心性の分布を示す結節を多数認めています。
気管支壁の肥厚も認めており、マイコプラズマにも矛盾しない所見です。
(抗体検査でマイコプラズマと診断されました。)
この症例のCT画像を実際に見てみる→マイコプラズマ肺炎のCT画像所見
ただし、マイコプラズマ肺炎においても、広範なコンソリデーションを呈することはあります。
症例 50歳代 女性
この症例では、右の上葉に広範なコンソリデーション(ベターと白く広がる肺炎像)を認めていますね。
ただし炎症所見が軽微なところでは、小葉中心性の粒状影を認めており、細気管支炎を示唆する所見です。
また中枢側まで気管支壁の肥厚を認めており、気管支炎を伴っていることもわかります。
この症例を実際のCT画像で見てみる。→コンソリデーションを認めるマイコプラズマ肺炎のCT画像所見
中枢側まで目立つ気管支壁の肥厚は、比較的マイコプラズマ肺炎に特異的な所見と言われています。
マイコプラズマ肺炎のCT画像で中枢側まで気管支壁肥厚が目立つ理由
これはマイコプラズマが、気道上皮(線毛上皮)に親和性が高いためと言われています。
下の図のようにマイコプラズマが感染するのは腺毛上皮のある中枢側の気管支です。
それが画像では、中枢側まで目立つ気管支壁の肥厚として反映されるわけです。
中枢側の気管支炎が起こるため咳が強いのが特徴です。
他に、気道上皮(線毛上皮)に親和性が高い病原値には以下のものがあります。
- 百日咳
- マイコプラズマ
- クラミドフィラ・ニューモニアエ
では次にマイコプラズマ肺炎の治療について見ていきましょう。
マイコプラズマ肺炎の治療は?
- マクロライド系抗生物質
- テトラサイクリン系抗生物質
- ニューキノロン系抗生物質
- ケトライド系抗生物質
- 子供や妊婦→マクロライド系抗生物質
治療には抗生物質が使用されます。
中でもマクロライド系の抗生物質がマイコプラズマ肺炎には有効とされています。
その他にはテトラサイクリン系・ニューキノロン系・ケトライド系の抗生物質も有効とされています。
しかし、子供や妊婦の場合は、テトラサイクリン系・ニューキノロン系は禁忌で使えませんので、マクロライド系の抗生物質を用います。
小児を中心にマクロライド耐性(マクロライドが効かない)のマイコプラズマが増加しています。
近年は小児だけでなく、成人においても増えており、耐性の場合は他の抗生物質を考慮します。
多くの細菌に有効なβラクタム系の抗生剤ですが、マイコプラズマは細胞壁を有していないため、マイコプラズマには効きません。
マイコプラズマ肺炎で入院することは?
マイコプラズマ肺炎で
- 熱が高く、脱水状態になっている場合
- 咳が激しく、睡眠に支障がある場合
- 咳が激しく嘔吐し、食事がうまく取れない場合
入院となることが多くあります。
入院中の治療としては、
- 安静
- 抗生物質服用
- 点滴
- 吸入
などを行い回復を待ちます。
平均的な入院期間は、3日〜1週間程度なことが多くありますが、重症化すると入院も長引きます。
マイコプラズマ肺炎は重症化することってある?
重症化することはあります。
マイコプラズマ肺炎は自然治癒も多い肺炎ですが、稀に重症化することがあります。
とくに合併症を伴った場合は重症化することがあります。
合併症は以下の通りです。
- Guillain-Barre(ギランバレー)症候群
- Stevens-Johnson(スティーブンジョンソン)症候群
- 脳炎
- 髄膜炎
- 横断性脊髄炎
- 皮膚紅斑
- 関節炎
また、肺では、重症の閉塞性細気管支炎の合併やARDSをきたすこともあります。
上の2症例目のように、広範なコンソリデーションをきたす場合も重症化のリスクがあり注意をする必要があります。
非定型肺炎についてはこちらで詳しく掲載しました。→非定型肺炎とは?細菌性肺炎との違いは?診断から治療まで!
参考文献:病気がみえるvol.4呼吸器P130・134・135
最後に
健康な若年者に多いマイコプラズマ肺炎についてまとめました。
頑固な咳が症状としては多いですが、呼吸器以外の症状もきたすことがあるので、肺炎かもしれないと疑うことが診断につながります。
確定診断には時間がかかるので、診断を待たずとして治療を開始します。
補助診断としての画像診断も重要であり、特徴的な画像を掲載しましたので、ぜひ参考にしてください。