胃静脈瘤とは文字どおり、胃にできた静脈瘤のことです。

胃の静脈瘤が破裂すると、食道静脈瘤破裂と同様に、消化管の中に大量に出血をして命に関わることがあります

  • 「胃静脈瘤はどうしてできるのだろうか?」
  • 「胃静脈瘤にはどんな分類があるのだろうか?」
  • 「胃静脈瘤にはどのような治療法があり、その適応はどうなんだろうか?」

胃静脈瘤について理解するのは、文字だけでは結構キツイと思います。

そこで今回は胃静脈瘤について徹底的にイラストと動画を入れてわかりやすくまとめました。

胃静脈瘤とは?

胃静脈瘤とは、門脈圧が亢進した時にできる側副血行路の一つです。

下のイラストを見てください。

正常の場合と、門脈圧が亢進して胃静脈瘤ができている場合では血液の流れが全然違いますよね。

これは門脈圧が亢進することで、門脈から肝臓への血流が流れにくくなったり、流れなくなることが原因です。

※側副血行路とは、今回のケースでは、門脈から肝臓に流れたいのに流れられないためできた迂回路のことです。この迂回路にはいくつかパターンがあるのですが、胃静脈瘤はその一つだということです。

 

胃静脈瘤ができやすい部位(好発部位)は?

胃静脈瘤は、胃底部及び噴門部に見られることが多く、胃冠状静脈と短胃静脈の分枝が異常に拡張したものです。
※胃の解剖は下のイラストでチェックしてください。

胃の静脈瘤のCT所見を見てみましょう。

症例 60歳代 男性 アルコール性肝硬変

造影CTで、胃の穹窿部を中心に静脈瘤を認めています。

この造影CTでの様子を動画でチェックしてみましょう。

なぜ胃静脈瘤を治療する必要がある?

「なぜ胃の静脈瘤を治療する必要があるのでしょうか?」

それは、門脈圧亢進に伴う側副血行路のうち、大出血を起こす可能性がより高いのが

  • 食道静脈瘤
  • 胃静脈瘤 ←

だからです。

なぜこれらが大出血を起こしやすいかというと、胃液に触れ、血管が破綻(静脈瘤の破裂)する可能性があるからです。

ですので、食道・胃静脈瘤は緊急出血時に治療することはもちろん、破裂する兆候が見られるようになると待機的に治療する必要があります。

胃静脈瘤の原因は?どうやってできる?

胃静脈瘤は門脈圧亢進によって生じます。
その門脈圧亢進の原因として最も多いものは肝硬変です。

では、門脈圧亢進が起こるとなぜ胃の静脈瘤ができるのでしょうか?

それを理解するにはまずは正常の血流をチェックしましょう。

上のイラストのように腎静脈は大循環系である下大静脈へ流れますが、

  • 胃からの血流である左胃静脈
  • 脾臓からの血流である脾静脈
  • 腸管からの血流である上腸間膜静脈

はいずれも門脈へと流入して肝臓を経て肝静脈から大循環系である下大静脈へ流れます。

肝硬変などで肝臓が硬くなり門脈圧が亢進すると、門脈への血流が行き場を失います。

血流をどこかに流す必要があるので、側副血行路と言って迂回路が形成されます。

その迂回路の一つが、胃の静脈瘤であるということです。

下のように胃と腎静脈を結ぶ胃-腎シャントが形成され、腎静脈から大循環系である下大静脈へ流れます。

胃静脈瘤は、食道静脈瘤と併存することが多いですが、単独に発生することもあります。

胃静脈瘤への供血路としては上で挙げた左胃静脈のほか、後胃静脈や短胃静脈の挙げられます。

この胃静脈瘤(と食道静脈瘤)の発生する流れとその治療法について動画を作りましたので、ぜひ参考にしてください。

胃静脈瘤の分類は?

胃静脈瘤は、噴門輪との関係により3つのタイプに分類されます。

  • 1型:Lg-c 噴門輪に近接する静脈瘤
  • 2型:Lg-f 噴門輪から離れて孤立する静脈瘤
  • 3型:Lg-cf 胃噴門部から穹窿部に連続する静脈瘤

と分類されます。

胃静脈瘤の治療の適応は?

内視鏡で食道・胃静脈瘤を観察をして、上の静脈瘤のある部位以外に、静脈瘤の形態、色調、発赤所見を評価して治療の適応を判断します。

具体的には、以下の項目のうち

  • Cb、F2以上
  • RC1以上

などの場合は、破裂の徴候があると判断し、予防的治療を考慮します。

静脈瘤の形態(F:form)

  • F0:治療後に静脈瘤を認めない。
  • F1:直線的な比較的細い静脈瘤
  • F2:連珠状、中等度の静脈瘤
  • F3:結節状、腫瘤状の太い静脈瘤

静脈瘤の色調(C:color)

  • Cw:白色静脈瘤
  • Cb:青色静脈瘤

発赤所見(RC:red color sign)

  • RC0:発赤所見を全く認めない。
  • RC1:発赤所見を限局的に少数認める。
  • RC2:RC1とRC3の間。
  • RC3:発赤所見を全周性に認める。

※発赤所見とは、ミミズ腫れ(RWM)、チェリーレッドスポット(CRS)、血マメ(HCS)の3種類があります。

(日本門脈圧亢進症学会 編:門脈圧亢進症取り扱い規約、金原出版 2013)

胃静脈瘤の治療は?

静脈瘤の分類により治療は異なります。

Lg-cの静脈瘤の治療

Lg-cの静脈瘤は食道静脈瘤と交通しているため、食道静脈瘤と同様に内視鏡的硬化療法(EIS:endoscopic injection sclerotherapy)が有効です。

胃カメラを用いて静脈瘤にアプローチしてカメラから針を出して静脈瘤を刺し、そこから硬化剤を注入します。

Lg-fとLg-cfの静脈瘤の治療

一方で、Lg-fとLg-cfの静脈瘤は食道静脈瘤と距離があり連続性がありません。また噴門から離れた位置にある静脈瘤に対しては、胃カメラの固定が難しかったり、硬化剤が狙ったところに的確に入らないことがあります。

またこれらの静脈瘤は、

  • 胃-腎静脈シャント
  • 胃-下大静脈シャント

を形成して大循環系に流出している場合が多いとされます。

下のイラストでは、胃-腎静脈シャントを形成して、大循環系へと流出している様子がわかります。

この状態でEISを行って硬化物質を流すと、すぐに流れて大循環系に流入するリスクがあります。

そこで行われるのが、

  • バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO:baloon-occluded retrograde transvenous obliteration)
  • 経皮経肝的静脈瘤塞栓療法(PTO:percutaneous transhepatic obliteration)

といった治療です。

胃静脈瘤の治療BRTOとは?

BRTOとは胃静脈瘤に対するカテーテルを用いた治療法のことです。

読み方はアルファベットをそのまま、「ビーアールティーオー」です。

BRTOは、baloon-occluded retrograde transvenous obliterationの略で、日本語ではバルーン下逆行性経静脈的塞栓術と呼ばれます。

カテーテル(IVR)を用いて、足の付け根にある大腿静脈からアプローチして、下大静脈→左腎静脈→胃-腎シャント→胃静脈瘤へとアプローチをします。

そこで硬化剤を流し、胃静脈瘤を根絶しようとする治療です。

※硬化剤には、EO:ethanolamine oleate(オルダミン®)とヨード造影剤(iopamidol)を混ぜた、5%EOIが使用されます。ヒストアクリルを使うこともあります。

BRTOを行う際には、胃-腎シャントをバルーンで閉塞して、造影剤を流してみてどのように側副路が描出されるかをチェックすることが重要です。

というのは硬化剤を流したときに胃静脈瘤内にとどまらず他の側副路に流れてしまってはいけないからです。

他の側副路としては、

  • 下横隔膜静脈(最多)
  • 心膜静脈
  • 上行腰静脈、半着静脈系の細かい静脈

が挙げられます。

もし、バルーンで閉塞した状態で造影をしてこれらの側副路から下大静脈、奇静脈系への流出が見られたら、それらの側副路をあらかじめ閉塞させる必要があります。

その他、脾-腎シャントが胃-腎シャントとは別に副腎静脈に合流していることがあり、この場合は、硬化剤(5%EOI)が、脾静脈に流れて、門脈血栓を作る危険があるのでこれがないことも確認する必要があります。

症例 60歳代 男性 アルコール性肝硬変(上のCTの症例と同一症例)

右の大腿静脈から下大静脈→左腎静脈→胃腎シャントと進め、ここでバルーンを開いて胃腎シャントを封鎖します。

その状態で造影剤を流して、静脈瘤のみが描出されることを確認して、硬化剤を流して胃静脈瘤を固めます。これがBRTOです。

BRTOで使う薬剤とその量は?

EO(Ethanolamine Oleate)

オルダミン® 1og/V + 10mlの非イオン性造影剤 = 5%EOI ができる。血管内に血栓を作る作用があります。

オルダミンは1Vが最大量とされています。

適当量を流した後は、1-2時間程度そのままの状態で放置し、その後で吸引できるものは吸引してバルーン閉塞を解除して終了します。施設によっては、翌日まで留置することもあります。

ハプトグロビン

5%EOIは溶血を起こすので、腎不全を防ぐためにハプトグロビンを4000単位術前に投与します。

無水エタノール

5%EOIの投与量を減らすために使われます。ただし、最大使用量は0.5ml/kgまでとされています。

BRTOの合併症は?

BRTOの合併症としては、

  • 血尿
  • 腎機能障害(これを防ぐためにハプトグロビンを用いる)
  • 肝障害
  • EOIによる肺水腫、ショック
  • 肺梗塞
  • エタノールによるアレルギー反応
  • 食道静脈瘤の増悪

と言ったものが報告されています。

最後に

胃静脈瘤についてまとめました。

  • 胃静脈瘤は食道静脈瘤と同様に門脈圧亢進が原因となって生じる側副血行路の一つである。
  • 胃静脈瘤は破裂により大量出血を起こし命に関わることがある。
  • 胃静脈瘤の破裂のリスクの評価には内視鏡検査を用いる。
  • 胃静脈瘤の治療にはBRTOという治療法がある。

さらに、今回はBRTOについて、方法と適応、合併症について見ていきました。

胃静脈瘤についての難しさは少しは解消されたでしょうか?

動画もありますので、そちらも参考にしていただけるとより理解が早いと思いますヨ。
参考文献)

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