胆石は非常にありふれた病気ですが、胆石があるだけでは問題ないことが多いのです。
問題はそこに感染症を起こしたりし、胆嚢炎を生じる原因となってしまうことです。
(ただし、胆嚢炎は必ずしも細菌感染のみが原因というわけではありません。)
今回は急性胆嚢炎について
- 原因
- 診断
- 治療
- 看護
まで、徹底的にまとめてみました。
急性胆嚢炎とは?
胆嚢に起こる炎症を胆嚢炎といいます。
- 胆嚢内で最近が増加・炎症反応が増す
- 胆嚢が腫れる
- 腫れにより血管が圧迫される
- 循環障害が起こる
- 壊死
というように進行します。
上の図のように胆嚢が腫大(しゅだい)して胆嚢の壁が肥厚します。
また周囲に炎症波及を起こします。
急性胆嚢炎の原因は?
上の図のように9割以上が胆石(主に胆嚢結石)が原因となります。
単に胆石があっても胆嚢炎は発症せず、胆嚢炎が発症する機序には、
- 胆嚢の血行障害
- 感染
- 膠原病
- アレルギー反応
- 科学的な障害
が関与していると考えられています。
残り1割は石がないのに起こる無石性胆嚢炎です。無石性胆嚢炎とは?
急性胆嚢炎の10%は胆嚢結石を認めず、これを無石性胆嚢炎といいます。
石がないのに胆嚢炎になる原因は、複数の誘因が関与しているといわれます。
具体的には、
- 飢餓・術後・外傷後に生じる胆汁鬱滞
- 絶飲食・高カロリー輸液
- ショック・脱水・心臓第血管手術の際の体外循環による胆嚢虚血
- 敗血症
などが挙げられます。
急性胆嚢炎の症状は?
急性胆嚢炎の症状には以下のようなものがあります。
- 右季肋部痛
- 圧痛
- 筋性防御(お腹を触ると硬い)
- 発熱
- 炎症反応の上昇
右の上腹部が痛いということ、押さえると痛いということが特徴です。
診断の際には、Murphy徴候も重要な所見となります。
Murphy徴候(マーフィー)とは?
横になった状態で、他の人に右季肋部を圧迫してもらい深呼吸をすると痛みのために呼吸が途中で出来なくなってしまう徴候です。
LR+2.8であり、比較的有効な診察法であるという報告があります。
動画でチェック。
急性胆嚢炎はどうやって診断するの?
これらの特徴的な症状や所見に加えて、特徴的な画像の所見を認めることにより急性胆嚢炎を診断することができます。
画像とは、
- エコー(超音波検査)
- CT検査
- MRI検査
などが一般的です。
エコーとMRIは有用性が高く、感度特異度ともに80%程度といわれています。
MRIは救急の現場で簡便とはいえないため、医療の現場で胆嚢炎を疑った時に最も行われ有用なのはエコー検査といえます。
ただし、胆嚢炎の周囲への炎症波及状態や、気腫性胆嚢炎の有無などのチェック目的、被ばくの問題はあれど日本ではCT検査が好まれているのもあり、CTにおいても検査されることが非常に多いのが現状です。
急性胆嚢炎のCTでの所見は?
- 胆嚢の腫大(基準値は長軸8cm以上、短軸4cm以上)
- 4mm以上の胆嚢壁の肥厚
- 漿膜下の浮腫
- 胆嚢周囲の脂肪織濃度上昇・液体貯留
ただし実際は、
- 急性胆嚢炎は慢性胆嚢炎が急性増悪するケースが多い
- 線維化した壁に起こることが多い
- その場合、胆嚢の腫大はそれほど目立たないことが多い
という特徴があります。
胆嚢炎のCTはこんな感じです。
症例 50歳代男性 右上腹部痛 造影CT
胆嚢は左前の袋状のものです。
胆嚢は腫大して、周囲の脂肪織濃度上昇を認めています。
胆嚢頸部には結石を認めています。
急性胆嚢炎を疑う所見です。
急性胆嚢炎でMRIを撮影する意味はある?
エコーやCTで急性胆嚢炎は診断できますが、それに加えてMRIを撮影する目的は以下のメリットがあるからです。
MRI検査では、
- 胆嚢頸部結石の描出に優れている
- 胆嚢管結石の描出に優れている
- 周囲の炎症所見の描出に優れている
CTでは、胆嚢結石がはっきりしないことがしばしばありますが、MRではそのようなことが少ないということです。
またCTでははっきりしないような軽微な周囲の炎症所見であってもMRIのT2WIでは水の描出に優れている撮像方法があり、検出が可能なのです。
実際のMRIの画像がこちらです。
症例 50歳代男性 右上腹部痛 MRI T2強調像
上のCTと同じ症例です。
CTと比べてMRIのT2強調像では、胆嚢周囲の液体貯留の様子(高信号=白い)がよくわかります。
胆嚢頸部に結石を認めています。
また胆嚢は腫大して壁の肥厚を認めています。
急性胆嚢炎を疑う所見です。
胆嚢炎では採血結果はどうなるの?
白血球や炎症反応は上昇します。
しかし、肝酵素や、黄疸を疑うような、ALP,T-Bilの上昇は基本的には認めません。
ですので、これらの数値が上昇している場合は、本当に胆嚢炎だけなのかと疑う必要があります。
具体的には、
- 胆管炎
- 総胆管結石
- Mirizzi症候群
- 重症胆嚢炎
などの可能性を考える必要があります。
重症胆嚢炎とは?
胆嚢炎は、ガイドラインで、重症、中等症、軽症の3つに分類されます。
重症胆嚢炎の定義は
- 黄疸がある。
- 重篤な局所合併症がある。具体的には胆汁性腹膜炎、胆嚢周囲膿瘍、肝膿瘍。
- 胆嚢捻転、気腫性胆嚢炎、壊疽性胆嚢炎、化膿性胆嚢炎 いずれかがある。
場合とされ、放置すると致死的な経過をたどるものです。
急性胆嚢炎の治療は?
治療は基本的に急性胆嚢炎発症後、72〜96時間以内に手術にて胆嚢そのものを摘出する外科的手術(腹腔鏡下胆嚢摘出術)を行います。
ただし、何らかの理由で手術適応でない場合などは、抗生剤で様子を見たり、経皮的ドレナージ術(皮膚と胆嚢をつないで皮膚から胆汁を排泄する)こともあります。
保存的に抗生剤で様子を見た場合も、胆嚢炎がおさまってから、待機的に手術をした方が良いとされています。
経皮的ドレナージ術とは?
超音波ガイド下に穿刺をして、胆汁を排泄するというものです。
PTGBDとは?
PTGBDとは、percutaneous transhepatic gallbladder drainageの略で、経皮経肝胆嚢ドレナージのことです。
「経皮」とは皮膚を経由→「経肝」とは肝臓を経由→つまり、皮膚から肝臓を串刺しにして→胆嚢まで到達→ドレナージチューブを留置するという方法です。
PTGBAとは?
PTGBAとは、percutaneous transhepatic gallbladder aspirationの略で、経皮経肝胆嚢吸引穿刺のことです。
つまり、皮膚から肝臓を串刺しにして胆嚢まで到達して吸引穿刺をするということで、上との違いはドレナージチューブを留置せず吸引しておしまい、という手技になります。
急性胆嚢炎の看護は?
患者の自覚症状・他覚症状・バイタルサインに注意を払い急変や悪化を見逃さないことが重要です。
特に高齢者では、急激な悪化もありえるため注意深く観察しましょう。
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P367〜371
参考文献:内科診断学 第2版 P896・897
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P260
参考文献:パッと引けてしっかり使える 消化器看護ポケット事典[第2版] P148・149
まとめ
胆石持ちで、右季肋部痛が起こった場合、胆嚢炎の可能性があります。
(ただし他には、胆石発作といって炎症はなく、胆嚢結石により胆道が狭窄して痛みを生じている場合もあります。)
急性胆嚢炎は待機的も含め、基本的に手術による胆嚢摘出が治療となります。
抗生剤で一時的に治っても再燃する可能性が高いからです。
痛みを伴う場合は、我慢をせずに早めに病院を受診しましょう。
受診科としては消化器内科・消化器外科・内科となります。