脳血流SPECTにおける遠隔効果と呼ばれる血流現象についてまとめました。
目次
遠隔効果(remote effect、diaschisis)とは?
脳の各領域は神経線維を介して密接に連絡している。
ある領域に梗塞や脱髄などの障害が起こると、投射線維を介して機能的に関連している離れた正常部位の神経細胞の抑制が起こり、その遠隔領域の代謝や血流が低下することがある。これを遠隔効果(remote effect、diaschisis)という。
MRIで見える代表的な病巣遠隔部の二次変性
- 錐体路のワーラー変性←大脳皮質、内包の障害
- 橋小脳路のワーラー変性←橋底部の障害
- 視床の変性←大脳皮質の障害
- 交叉性小脳萎縮←大脳皮質の障害
- 下オリーブ核仮性肥大←中脳、橋、小脳病変といったGuillain-MoIIar‐et三角の関連障害
- 視放線の変性←外側膝状体、後頭葉の障害
- 後頭葉の萎縮←網膜、視覚路の障害
- 乳頭体、脳弓、乳頭体視床路の変性、萎縮←海馬の障害
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遠隔効果の種類とは?
- 視床の変性←大脳皮質の障害
- 交叉性小脳遠隔障害(crossed cerebellar diaschisis (CCD))←大脳皮質の障害
特に前者は非可逆といわれる。
遠隔効果(remote effect)の分類
一過性のもの=diaschisis(ダイアスキーシス)
- 両側大脳半球間(transhemispheric diaschisis)
- 一側大脳半球内
- 一側大脳半球と対側の小脳半球間(CCD)
非可逆性のもの=transneuronal degeneration
- 一側大脳半球(中大脳動脈領域)と同側の視床間(corticothalamic diaschisis)
遠隔効果の臨床的な意義は?
遠隔部の血流および代謝は低下を認めるが、基本的には機能的には正常。ただし、まれに機能低下や萎縮といった器質的疾患までみられることもある。
脳梗塞や脳出血のほか、アルツハイマー病、CBDなどの変性疾患、脳腫瘍、頭部外傷、てんかんなどでも起こるとされる。
症例 80歳代 右脳梗塞
右中大脳動脈領域の深部に脳梗塞あり。脳血流SPECTでは、左小脳半球に血流低下あり。ただし、CT上、左小脳半球には有意な所見は見られない。
交叉性小脳遠隔障害(crossed cerebellar diaschisis (CCD))を疑う所見。
また非提示であるが、この症例では、右視床にも血流低下を認めており、transneuronal degenerationも伴っていたと言える。
症例
症候性左内頸動脈閉塞症に対して行った 15O による PET 画像を示す(図).脳血管撮影上他の主幹動脈に狭窄閉塞性病変はなく,MRI 上も左大脳半球以外は虚血巣は認められない。
8回核医学専門医試験問題より引用。
左大脳半球の脳血流低下を認めています。
酸素摂取率(OEF)は増加しており、いわゆる貧困灌流(misery perfusion)の状態。
右小脳半球においても血流低下を認めていますが、こちらは、Crossed cerebellar diaschisisによる血流低下。
症例 30 歳代女性 突然の右片麻痺/失語
入院当日の MRI では左基底核部に脳梗塞が認められ,脳血管造影検査では左内頸動脈が頭蓋内で閉塞し,左中大脳動脈の描出が不良であった。
発症から 8 日後の 123I-IMP SPECT 定量画像 (ml/100 g/min)
8回核医学専門医試験問題より引用改変。
左大脳半球の血流低下を認めています。
また遠隔効果により、左視床の血流低下及び右小脳半球の血流低下を認めています。