先に結論:尺骨突き上げ症候群とキーンベック病(Kienböck病)は ulnar variance でつながる手首の病気

  • 手首のレントゲンで尺骨が橈骨より長い(ulnar plus variant)と尺骨突き上げ症候群、短い(ulnar minus variance)とキーンベック病に関連することが知られています。どちらも手首の痛みの原因になります
  • 尺骨突き上げ症候群は、手首の小指側で尺骨の先が月状骨・三角骨やTFCC(三角線維軟骨複合体)にくり返しぶつかることで痛みが出る病気です。MRIでは月状骨の尺側近位部の骨髄浮腫・軟骨下嚢胞・硬化やTFCCの変性・断裂が特徴で、保存療法で改善しない場合は尺骨短縮骨切り術などが行われます
  • キーンベック病は月状骨の血流が悪くなって壊死し、つぶれていく病気で、原因ははっきりしていません。X線は初期には正常のことがあり、MRIで月状骨全体のT1低信号が早期診断に役立ちます。進行すると硬化→圧潰→手関節の変形性関節症になります(Lichtman分類)
  • MRIでの見分けの手がかりは信号異常の範囲で、尺骨突き上げ症候群は月状骨の尺側に限局することが多く(Imaeda 1996)、キーンベック病は月状骨の全体に及びます

ulnar variance(尺骨バリアンス)とは?プラスとマイナスの見方

手関節X線の正面像(前腕を回さない中間位)で、橈骨の関節面と尺骨の先端の高さの差を測ったものです。尺骨が長ければプラス(ulnar plus variant)、同じならニュートラル、短ければマイナス(ulnar minus variance)と呼びます。

  • プラスもマイナスも珍しくなく、オランダの68人の測定ではプラス41.9%、ニュートラル25.7%、マイナス32.4%でした(Schuurman 2001)。
  • 健常者120人では中間位の平均+0.74mmで、回内して強く握ると平均+1.52mmと尺骨が相対的に長くなりました(Jung 2001)。このように撮影時の手の位置で変わるため(Tomaino 2000)、決まった姿勢で撮ります。左右差は小さく、反対側の手首との比較が参考になります(Hollevoet 2000)。
尺骨突き上げ症候群 キーンベック病
ulnar variance プラス(尺骨が長い)に多い マイナス(尺骨が短い)との関連が報告されている(因果関係は不明)
痛む場所 手首の小指側(尺側) 手首の中央(手の甲側)
MRIの信号異常 月状骨の尺側・三角骨の橈側・尺骨頭の一部。TFCCの変性・断裂 月状骨の全体がT1低信号
主な手術 尺骨短縮骨切り術、wafer手術 橈骨短縮骨切り術など(病期による)

尺骨突き上げ症候群とは?(ulnar impaction syndrome / ulnolunate abutment syndrome)

  • TFCの変性には尺骨と月状骨または三角骨の慢性的な衝突が関与している。(関連:手根骨の解剖)
  • ulnar impaction syndromeなどとも呼ばれる。
  • 尺骨が橈骨に比べて長い例(positive ulnar variance、ulna plus variant)に起こることが多いが、短い場合や差がない場合にも起こることがある。なお、尺骨が短い場合に尺骨遠位端が橈骨遠位部に衝突して痛みを起こすものは尺骨突き上げ(impaction)ではなく尺骨インピンジメント症候群と呼ばれ、区別されます。
  • スポーツや労働作業による負荷が原因となることがある。
  • 尺骨頭が月状骨や三角骨、TFCに衝突し、手関節尺側部痛を来す。
  • 早期にはTFCの変性が見られ、進行すると尺骨頭や月状骨近位部の変性を来したりTFC断裂を来す。
  • 月状骨、三角骨の近位側、尺骨遠位端に骨硬化または嚢胞性変化を来す。

関連記事)TFCC損傷とは?MRI画像診断のポイントは? 

尺骨突き上げ症候群の画像診断は?

単純X線写真

  • 尺骨が橈骨に比べて長い(ulnar varianceがプラス)。
  • 月状骨や三角骨、尺骨頭に硬化像や嚢胞変性を認めることがある。
症例 50歳代女性

ulnolunate abutment syndrome XP findings1

尺骨のやや高位あり。

術後のCT及びレントゲンは以下。

ulnolunate abutment syndrome post ope CT and XP findings

手関節MRI

  • 月状骨の尺側、三角骨の橈側、尺骨遠位端に軟骨下骨を主体の骨髄浮腫、嚢胞性変化、硬化像を認める。尺骨突き上げ症候群30手関節のMRI検討では、月状骨尺側の限局性信号異常が87%に見られ、三角骨橈側(43%)や尺骨頭(10%)より高頻度で、最も特徴的な所見であった(Imaeda 1996)。この信号異常は尺骨短縮術後に正常化することが多い。
症例 50歳代女性 上と同様の症例

ulnolunate abutment syndrome mri findings

月状骨に骨挫傷を認めています。

またTFCC損傷を認めています。

尺骨突き上げ症候群による、TFCC損傷を疑う所見です。

 症例 40歳代男性 右手関節尺側部痛

ULNOLUNATE ABUTMENT SYNDROME1

月状骨の骨硬化を認めています。

TFCCは尺骨付着部付近にて異常高信号を認めており、損傷が疑われます。

尺骨突き上げ症候群による、TFCC損傷を疑う所見です。

キーンベック病(Kienböck病)とは?

  • 月状骨が進行性に虚脱する無腐性骨壊死。
  • 原因は不明。なお、尺骨のマイナス変異などの解剖学的要因は壊死そのものではなく月状骨の骨折(圧潰)に関与する可能性があるとする総説もある。
  • 手をよく使う職業や振動工具との関係が論じられてきたが、因果関係を示す十分な根拠はない(Stahl 2012)。
  • また尺骨が橈骨よりも短い正常変異(negative ulnar variance)との関連が知られ、メタ解析では有意な関連(オッズ比3.58)がみられたが、因果関係は支持されていない(Stahl 2013)。(逆に尺骨が橈骨よりも長い場合は、上の尺骨突き上げ症候群やTFCC損傷の原因になる)
  • 月状骨の血流は主に関節包からの細い動脈に頼っていて不安定になりやすく、骨内の血流障害が関わると考えられている(Camus 2022)。
  • 症状のある患者は平均43歳との報告がある一方(van Leeuwen 2016)、フィンランドの全国調査では発生率は50歳代で最も高かった(Wernér 2025)。
  • 進行性の手関節痛、腫脹、運動制限。
  • 手根管症候群として発症することもある(Shinohara 2016)。
  • 進行した例では変形性関節症と同じ症状を呈する。

※虚血性骨壊死を来す手根骨病変の代表は、舟状骨骨折と、Kienböck病。

  • X線病期分類にはいくつかあるが、Lichtmanの分類法が用いられることが多い。

Lichtmanの分類法

  • Ⅰ期:月状骨は正常X線所見、
  • Ⅱ期:硬化性変化、
  • Ⅲ期:月状骨は潰れる。さらに、手根配列の崩れ(舟状骨の掌屈・回旋、有頭骨の近位移動)の有無でⅢAとⅢBに分けられる。
  • Ⅳ期:二次性関節症を呈する。Lichtman分類のほか、関節鏡で関節面の状態を評価するBain分類も広く用いられる。また、MRIで骨髄浮腫の範囲・月状骨皮質の連続性・舟状骨の背側亜脱臼を評価する分類は、修正Lichtman分類より検者間一致率が高く、とくにⅢAとⅢBの判定で両者に差が出たと報告されている(Bae 2023)。

キーンベック病のMRI画像所見

  • MRIではX線で所見のないⅠ期でも壊死の診断が可能。
  • 月状骨はT1WIで低信号を呈する。尺骨突き上げ症候群の信号異常は月状骨の尺側に限局することが多い(Imaeda 1996)のに対し、キーンベック病では月状骨のより広い範囲(全体)にみられることが鑑別の手がかりになる。
  • T2高信号(〜種々の信号パターンあり)、STIR 高信号を呈する。

手首の中央(手の甲側)の痛みや腫れが続くときは、整形外科などの医療機関に相談してください。

症例 80歳代男性

Kienböck

T1WIで月状骨は低信号で脂肪抑制T2WI高信号では全体的に高信号を示しています。

キーンベック病を疑う所見です。

関連記事:特発性骨壊死とその関連疾患

尺骨突き上げ症候群・キーンベック病でよくある疑問(Q&A)

Q. 尺骨突き上げ症候群は生まれつきなりやすいのですか?原因は?
A. 尺骨が長い(プラスバリアント)ことが関係し、これは生まれつきの場合も、橈骨の骨折後に橈骨が短くなるなど後から生じる場合もあります(Sammer 2010)。

Q. 尺骨突き上げ症候群の手術はどんな方法がありますか?
A. 保存療法で良くならない場合、主に尺骨短縮骨切り術と、尺骨の先端を薄く削るwafer手術(関節鏡で行うことも)があります(Sammer 2010)。メタ解析では機能・痛みの成績に差はありませんでした(Yu 2022)。手首の小指側の痛みが続く場合は整形外科で相談してください。

Q. 尺骨が短いと言われました。キーンベック病になりますか?
A. ulnar varianceのマイナスはキーンベック病との関連が報告されていますが(オッズ比3.58)、因果関係は支持されていません(Stahl 2013)。マイナスの人は珍しくなく(Schuurman 2001)、多くは病気になりません。手首の中央(手の甲側)の痛みや腫れが続くときは、整形外科などの医療機関に相談してください。

参考文献

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  3. Sammer DM, Rizzo M. Ulnar impaction. Hand Clin. 2010;26(4):549-557. PubMed
  4. Jung JM, Baek GH, Kim JH, et al. Changes in ulnar variance in relation to forearm rotation and grip. J Bone Joint Surg Br. 2001;83(7):1029-33. PubMed
  5. Yu H, Wang T, Wang Y, et al. Ulnar shortening osteotomy vs. wafer resection for ulnar impaction syndrome: A systematic review and meta-analysis. Int J Surg. 2022;104:106725. PubMed
  6. Arnaiz J, Piedra T, Cerezal L, et al. Imaging of Kienböck disease. AJR Am J Roentgenol. 2014;203(1):131-9. PubMed
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  13. Wernér K, Anttila T, Viljakka T, et al. Kienböck’s Disease – Incidence and operations in Finland: a nationwide register study. J Hand Surg Eur Vol. 2025;50(8):1083-1090. PubMed
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  15. Schuurman AH, Maas M, Dijkstra PF, et al. Assessment of ulnar variance: a radiological investigation in a Dutch population. Skeletal Radiol. 2001;30(11):633-8. PubMed
  16. Tomaino MM. The importance of the pronated grip x-ray view in evaluating ulnar variance. J Hand Surg Am. 2000;25(2):352-7. PubMed
  17. Hollevoet N, Van Maele G, Van Seymortier P, et al. Comparison of palmar tilt, radial inclination and ulnar variance in left and right wrists. J Hand Surg Br. 2000;25(5):431-3. PubMed

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