自己免疫性膵炎とは?(autoimmune pancreatitis:AIP)
- 慢性膵炎の一亜型。原因は不明。
- 50-60歳代の男性に多い。
- 血液所見ではIgGが高値。(1800mg/dl以上もしくはIgG4 135mg/dlをカットオフ値とすると陽性率は94%)。ただし、IgGが高値を認めないこともある。
- 病理学的には膵管周囲を中心としたリンパ球浸潤、形質細胞浸潤、閉塞性静脈炎、花筵状線維化を伴い、形質細胞はIgG4陽性を示す。
- 閉塞性黄疸(最多)、上腹部痛、背部痛、体重減少、糖尿病発症などの症状を呈し、膵癌の臨床像に類似する。
- 唾液腺(唾液腺腫脹)、涙腺、肺(間質性肺炎)、縦隔・肺門・膵周囲リンパ節、胆道(硬化性胆管炎)、腎(間質性腎炎)、後腹膜(後腹膜線維症)、前立腺、胃(胃潰瘍)、十二指腸(十二指腸乳頭腫大)などにさまざまな膵外病変を合併することが明らかとなっている。
- 膵外病変の検出にはGaシンチやFDG PETが有用である。
- 下部胆管狭窄に起因して、総ビリルビン上昇、胆道系酵素の上昇を高頻度に認める。
- 腫瘍マーカーの上昇もしばしば見られ、CEA,CA19-9が上昇することあり。
自己免疫性膵炎の画像所見
- 主膵管狭細像(1/3以上の範囲)、duct penetrating sign。
※膵癌は拡張している主膵管が突然途絶するが、自己免疫性膵炎の場合は、スムーズに細くなる傾向があり、Icicle sign(つらら様)とも呼ばれる(Eur Radiol. 2015 Jun;25(6):1551-60)。 - FS-T1WIで内部に粒状高信号。
- びまん性あるいは限局性膵腫大(膵表面の凹凸が消失し、sausage-like appearanceと呼ばれる)。
- 限局性腫大では、膵頭部腫大の頻度が高い。
- ダイナミックでは、早期で点状に濃染、後期相で内部均一な濃染。
- CTおよびMRIでは膵周囲の被膜様変化(capsule-like rim)が特徴的。この変化は線維化によると考えられており、早期には造影不良であるが、平衡相にかけて緩徐に増強。MRでは低信号。
- 脾静脈の狭窄・閉塞に伴う側副血行路の発達が見られることがある。炎症の波及に伴う血栓形成や慢性炎症に伴う線維化に起因すると思われる。
症例 60歳代男性
膵の分葉状構造は消失し、びまん性に腫大あり。体尾部には早期相から辺縁に造影不良域を認めており、被膜様構造(capsule-likerim)を認めている。
自己免疫性膵炎を疑う所見です。
症例 70歳代男性
膵はびまん性に腫大し、正常の分葉構造は消失。有意な主膵管の拡張所見なし。
自己免疫性膵炎が疑われる。
両側肝内胆管から総胆管には拡張あり。膵内胆管にて閉塞が疑われる。肝門部では胆管壁の肥厚を認め、同部位で総胆管は細くなり、同部位より末梢の肝内胆管にて拡張が目立つ。
IgG4関連胆管炎の疑い。
症例 60歳代男性
膵はびまん性に腫大し、正常の分葉構造は消失。体尾部背側有意に造影効果不良な被膜様構造(capsule-likerim)を認めている。
自己免疫性膵炎が疑われる。
大動脈周囲および両側腎門部には軟部陰影を認めており、後腹膜線維症の疑い。
自己免疫性膵炎の治療
- ステロイド治療:黄疸あるいは胆道系酵素上昇を認める症例は、ステロイドを積極的に使用するべきである。プレドニン30mg/日で開始して漸減し、5mgで維持する。
- 閉塞性黄疸を来している症例に対しては、ステロイドのみでなく、まずドレナージをする。
自己免疫性膵炎の経過
- 膵腫大は軽快する。むしろ萎縮することもある。
- 膵周囲のリンパ節腫大も改善することが多い。
- 被膜様構造は、残るものもあり、中には半年以上も残存する例もある。
- 脾静脈の狭窄や閉塞に伴い発達した側副血行路は、ほぼ残存する。
- 胆管および胆嚢壁の壁肥厚も残存しやすい。
- これらからわかることは、被膜様構造および側副血行路の発達、胆管、胆嚢壁の肥厚は線維化を主体とする非可逆的変化によって生じていると考えられる。
- 治療後、膵実質に石灰化、嚢胞性病変、主膵管の拡張が出現することあり。これらはアルコール性慢性膵炎所見に類似している。
参考)
- 肝胆膵の画像診断
- 自己免疫性膵炎の画像診断(画像診断2006年1月) 信州大学 藤永康成先生