中腸とは
- 発生上、CA,SMA,IMAによって支配されている腸管をそれぞれ前腸(foregut)、中腸(midgut)、後腸(hindgut)という。
- これらの境界は十二指腸下行部と横行結腸にある。つまり、中腸とは十二指腸下行部の途中から横行結腸の途中までを指す。
- 腸回転異常に関連するのは中腸。
中腸の回転とは
- 胎生初期には、中腸、SMAと腸間膜は矢状面の構造である。その後、いったん中腸は胎児の腹腔から臍帯内に脱出(胎生6週)、再び腹腔に戻る(10週)。
- 中腸は、この脱出時にSMAを中心に半時計回りに90°、帰還時に180°、合計270°回転して小腸間膜は左上部(Treitz靭帯)から右下部(回盲部)に至る長い付着部を有し、上行結腸は腸間膜を失い後腹膜に固定される。
中腸回転異常とは
- 最も多いのがほぼ90°回転しただけで止まってしまうもので通常無回転(non-rotation)と呼ばれる。十二指腸がSMAと大動脈の間を通過せず、中腸近位部(十二指腸、小腸)が腹腔の右、結腸が左、盲腸が中心付近に位置する。
- 多くは無症状で発見される。
- 180°回転したところで停止すると、盲腸が幽門の上に乗ったようになり、盲腸あるいは近くの空腸と右側腹壁との間に張る腹膜靭帯(Ladd靭帯)により十二指腸が圧迫され閉塞することがある。
中腸回転異常のエコー所見
- 腸回転異常を伴う中腸軸捻転の超音波検査にて、上腸間膜動脈本幹周囲に巻きつく捻転腸管が描出されるclockwise whirlpool signが確認可能なこともある。
- 最近は中腸軸捻転の診断は 超音波検査にて可能になってきている。
- Shimanukiらによる中腸軸捻転を疑う236例に対するカラードプラを中心とした超音波所見の検討では、中腸軸捻転の診断におけるclockwise whirlpool signの有用性は高く、疑った場合、カラードプラを第一選択とし、緊急手術開始を遅らせないために、上部消化管造影を省略できうることを強調している。(Radiology 199:261-264,1996)
中腸回転異常のCT所見
- SMAとSMVの位置が途中で左右逆転し、SMAがSMVの右に位置する。(回転異常を強く疑う)
- 中腸近位部(十二指腸、小腸)が腹腔の右、結腸が左、盲腸が中心付近に位置する。
- これに伴い軸捻を生じた場合には、腸管や腸間膜がSMA/Vを渦巻く所見“whirl sign”を呈する。
腸回転異常のCT所見2)
- 十二指腸水平脚の走行異常
- 回盲部の位置異常
- SMA、SMVの位置が逆転する
- 膵鉤部低形成
- 右側小腸・左側結腸の分布
- 横行結腸がSMAは異側に位置する(逆回転の場合のみ)
症例 60歳代 男性(無回転のタイプ)
SMAとSMVの走行が本来と逆であり、十二指腸、小腸が腹腔の右側に、結腸が左側に、盲腸が中心付近に位置する。
症例 60歳代 女性(無回転のタイプ)
上の症例と同じようにSMAとSMVの走行が逆であり、右側に結腸がなく小腸のみ、左側に結腸があるのがわかります。
この症例の動画をチェックする。
腸回転異常があって困ることは?
- 中腸回転異常(90°)→腸間膜付着部が短い→中腸軸捻症(whirl signを伴う)→イレウス
- 中腸回転異常(180°)→Ladd靭帯で十二指腸圧迫→イレウス(治療はLadd手術)
- 中腸回転異常→間膜欠損しやすい→内ヘルニア (小腸間膜ヘルニア、傍十二指腸ヘルニア)
中腸軸捻症(midgut volvulus)とは
- 中腸軸捻転全体の65-75%は生後1か月以内に、80~90%は生後1年以内に発見される。
- 新生児の多くは胆汁性嘔吐を主訴とする。嘔吐は間欠的で食事と関係し、噴水状で、胃の蠕動を確認できる場合もあるが、腹部膨満は一般的でない。
- 軽い軸捻転では、静脈血流の障害で消化管出血の原因となったり、リンパ流のうっ滞で蛋白漏出を来しうる。
- SMAとSMVの位置関係が(通常下からみて時計回りに)回転すると同時に、腸管や腸間膜がこれらの血管周囲を渦巻き、イレウスを起こす。渦巻きは特徴的な所見を呈し、whirl signと呼ばれる。
- ただし、whirl signは術後の癒着、癒着+軸捻症、横行結腸切除術後、右半結腸切除術後などでも認められるので、症状との関連が重要。
- 反時計回りのwhirl signは正常でも見られることがある。
- 腸管のみならず腸間膜血管も捻転しており、上腸間膜動脈と上腸間膜静脈の走行を評価することが有用。
参考)
- 1)ここまでわかる急性腹症のCT第2版 P163
- 2)腹部のCT(第3版) P408