頭部の外傷後などに
「脳ヘルニアにならないように、注意しなければいけない」
「重篤な場合、脳ヘルニアになる可能性が」
ということがよく言われます。
そこで今回は、脳ヘルニア(英語表記で「cerebral herniation」)について・・・
- 症状・分類
- 診断
- 治療法
についてまとめました。
脳ヘルニアとは?
脳ヘルニアとは、正常に収まっているはずの脳が、血腫や腫瘍などの部分的な浮腫によって、
- 脳が本来あるべき位置から押し出される状態
を言います。
こうなると、脳は様々な神経が密集しているため様々な影響が出ます。
神経圧迫や循環障害、脳幹を圧迫すると呼吸や心臓機能にも影響を及ぼし、生命の危険にもつながります。
ヘルニアというと、それ自体が
「正しい位置からはみ出した状態」
という意味合いを持ちますが、それが脳となると命に関わるものとなります。
そういう危険なものだからこそ、早期診断と治療が重要となります。
脳ヘルニアの分類は?
脳ヘルニアの分類には以下のものがあります。
- ①帯状回ヘルニア(大脳鎌下ヘルニア)
- ②鉤ヘルニア・海馬ヘルニア
- ③正中ヘルニア
- ④大後頭孔ヘルニア
主な脳ヘルニアの分類(種類)を1つ1つ見ていきましょう。
①帯状回ヘルニア(大脳鎌下ヘルニア)
前頭葉前部の帯状回ヘルニアの場合、初期は無症状なことが多いものの、進行すると対側または両側下肢の運動・感覚障害などが起こります。
また、このヘルニアの場合、前大脳動脈閉塞となり、脳梗塞を起こすことがあります。
②鉤ヘルニア・海馬ヘルニア ③正中ヘルニア
側頭葉内側部の鉤ヘルニアや海馬ヘルニアの場合、
- 病変側の瞳孔神経麻痺
- 瞳孔肥大
- 光反射消失
など、側頭葉内側部の正中ヘルニアの場合は、
- 注意力の低下
- 傾眠傾向
- cheyne-stokes(チェーンストークス)呼吸
- 両側縮瞳
などが起こり、症状が進行すると
- 意識障害
- 呼吸障害
- 片麻痺や除脳硬直
- 両側瞳孔散大
- 対光反射消失
- 同名性半盲
などが起こります。
この②③を合わせて下行性ヘルニア、さらに上行性ヘルニアと合わせてテント切痕ヘルニアといい、テント切痕ヘルニアが起こると後大脳動脈閉塞による脳梗塞を伴うことがあります。
さらに、両側のテント切痕ヘルニアでは、中脳の圧迫による意識障害が起こります。
④大後頭孔ヘルニア
小脳扁桃の大後頭孔ヘルニアの場合は、延髄圧迫による急激な意識障害・呼吸停止・水頭症・項部硬直など、前駆症状がなく突然呼吸停止することもあります。
脳ヘルニアの診断方法は?
上記でご説明した臨床症状の他、確定診断のためにCTやMRIによって画像診断を行います。
この画像診断を行うことで、何がどの部位を圧迫しているのか、把握することができます。
この臨床症状というのが、患者本人の意識がないために説明することが困難なことが多いため、患者の家族や救急隊員から当時の状況を聞かれることがほとんどで、症状が起こる前の患者の行動や異変・既往歴などの情報も重要になります。
脳ヘルニアの画像所見
脳ヘルニアを画像診断する上で最も重要なことは、命に関わる切迫脳ヘルニアがあるかどうかを見極めることです。
切迫脳ヘルニアの有無については以下の点を注意して画像を読影します。
- 大きな占拠性病変
- 5mm以上の正中偏位
- 脳底槽の圧迫もしくは消失を認める場合
以下の脳幹部周囲の脳槽が、きちんと見えているかを確認することが重要です。
また脳ヘルニアを診断する上で、それぞれの脳ヘルニアの画像パターンを押さえておくことが重要です。
- 大脳鎌下へルニア:反対側のMonro孔の圧迫、反対側の側脳室の拡大が認められる。
- 鉤ヘルニア:同側の迂回槽の拡大と反対側の側脳室の拡大を認める。
- 両側性テント切痕ヘルニア:中脳周囲の脳槽の消失が起こる。
- 小脳扁桃へルニア:大孔周囲の脳槽の消失。
さらに、テント切痕ヘルニアは冠状断像で、小脳扁桃ヘルニアは矢状断像で観察しやすいので、横断像だけではなく様々な方向からくまなく観察する必要があります。
それでは実際の症例を見てみましょう。
80歳代男性 広汎な脳梗塞による脳ヘルニア
CTの横断像では左の前頭葉・側頭葉の広汎な脳梗塞により、鉤ヘルニアを生じ、右側側脳室の拡大、左迂回槽の拡大、右側の迂回槽・四丘体槽が消失しています。
CTの冠状断像では、帯状回ヘルニア、鉤ヘルニアが非常にわかりやすく、右側の小脳テントにより中脳の大脳脚が圧迫されているカーノハン圧痕(Kernohan’s notch)が見られています。
80歳代女性 硬膜下血腫による脳ヘルニア
CTの横断像では、左の硬膜下血腫により、鉤ヘルニアを認めています。
CTの冠状断像では、帯状回ヘルニア、鉤ヘルニアが非常に明瞭に描出されているのがわかります。
脳ヘルニアの治療法は?
脳ヘルニアの治療は一刻を争います。
脳ヘルニアには、内的要因と外的要因があり、内的要因である血腫などの場合には、開頭術によって血腫を除去する方法が行われます。
出血が少なかったり血腫がない場合には、開頭手術を行わず、頭蓋内圧を下げる治療として点滴などを用る事があります。
また、一時的に圧迫を解放する方法として、開頭して頭蓋骨を外す治療が行われることもあります。
外的要因としては外傷などがあり、その場合、脳を守り止血することが大切で、上記でご説明したように脳ヘルニアに至っている原因を解消したのち外傷治療が行われます。
しかし、脳ヘルニアの最終段階である(脳幹の機能停)自発呼吸が行われなくなっている場合、手術することによって危険性が高まるため、開頭手術を行えません。