症例15
【症例】70歳代 女性
【主訴】右下腹部痛
【既往歴】S状結腸癌術後、C型肝炎、肺結核
【身体所見】右下腹部に圧痛、反跳痛あり。
【データ】WBC 10200、CRP 9.32
画像はこちら
盲腸および上行結腸、さらには回腸末端に壁肥厚を認めています。
いずれも3層構造を保った壁肥厚であり、肥厚が目立つのは粘膜下層(低吸収部位)です。
また、周囲の脂肪織濃度上昇が著明で、腹膜の肥厚を認めており、局所的な腹膜炎が疑われます。
虫垂は同定することができ、虫垂を追うと・・・
虫垂は腫大を認めており、虫垂と連続して隔壁が厚く造影される液貯留にたどり着きます。
液貯留は腸管などと連続性を認めておらず、膿瘍が疑われます。
虫垂炎が穿孔して後腹膜に膿瘍形成していることがわかります。
腹腔内遊離ガスは認めていません。
またダグラス窩など腹腔内に膿瘍形成を認めていません。
診断:急性虫垂炎穿孔による(後腹膜への)膿瘍形成
※外科コンサルトで手術となります。
手術記録から
膿瘍は右下腹部に限局していたので、後腹膜かと思いましたが、腹腔内の右傍結腸溝に存在していたようです。
膿瘍腔の左上には回腸がくっついていますので回腸で被覆されて広がらなかったのかもしれませんね。
手術を踏まえた正確な診断:急性虫垂炎穿孔による腹腔内(右傍結腸溝)膿瘍形成
その他所見:
- 心拡大あり。
- 肺野に石灰化肉芽腫散見。右肺門部石灰化リンパ節あり。脾臓に石灰化あり。いずれもにold Tbによる変化が疑われる。
- 両側腎結石あり。
- 右そけい部に小リンパ節あり。
- 腹壁瘢痕ヘルニアあり。
症例15の動画解説
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
限局した脂肪織の濃度上昇、
腹膜の肥厚でその辺りの炎症
だと気づくべきでした。
虫垂炎かな?と思いつつ
他の部位ばかり見ていました。
次似たような症例が、ある時は
炎症所見中心に見てみたいと思います。
そう考えると脂肪織の濃度上昇は
大事なサインなのですね。
今日もありがとうございました。
その他なのですが
右側の腕頭静脈が
左側と比較して大きいのですが
心肥大と何か関係しているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>右側の腕頭静脈が
左側と比較して大きいのですが
心肥大と何か関係しているのでしょうか?
関係していると思われます。
結果的に正解しましたが、
虫垂もここまで大きくなると逆に同定しずらい
(本当に虫垂なのか自信が持てない)ですね( ̄▽ ̄;)
しかし今回は、
反跳痛・嘔吐・CRP・「穿孔がすぐに見つからない」こと・「痛みが右下腹部にあること」
などを、総合的に判断して、
「恐らく虫垂だろう」
「分からないけど、オペ適ではありそうだ」
という思考回路で虫垂炎と診断できました。
正規ルートでの虫垂同定ができなかったため、
虫垂炎と正診できたことよりも、
オペ適の判断が正しかったことの方を嬉しく感じています^_^
さらに今回は、腹壁瘢痕ヘルニアもあり、
そして、なんと、神様がair windowまで用意してくれちゃったがためにw
(当然、free airが「無い」ことの確認にはとても有用でしたが(^_^))、
ヘルニア→イレウス→穿孔
の可能性に先に取り憑かれてしまいました( ̄▽ ̄;)
また、今回画像ではやっぱり
より口側の腸管にも液貯留が見られますが、
・高齢で機能的に落ちてしまっている
・瘢痕ヘルニアの影響
・腹膜炎による蠕動低下
の3つの要素が全部あると考えてよいですか?
あと、脾門部がぐちゃぐちゃしてて
見にくかったんですが、
脾静脈瘤チックな状態と見てもいいですか?
お手数をお掛け致しますが、ご回答の程よろしくお願い申し上げますm(_ _)m
アウトプットありがとうございます。
>air windowまで用意してくれちゃったがためにw
(当然、free airが「無い」ことの確認にはとても有用でしたが(^_^))、
ヘルニア→イレウス→穿孔
の可能性に先に取り憑かれてしまいました( ̄▽ ̄;)
バイアスがかかってしまいますよね・・・
>また、今回画像ではやっぱり
より口側の腸管にも液貯留が見られます
回腸末端に炎症が波及して閉塞機転となっている。
腹膜炎による蠕動低下
かと考えます。
>あと、脾門部がぐちゃぐちゃしてて
見にくかったんですが、
確かにそうですね。なんらかの側副血行路ができているんだと思います。
脾腎シャントはありそうですね。
膿瘍だと指摘することが苦手です。炎症を起こしている腸管のようにも感じて。
難しいですね。
アウトプットありがとうございます。
・右下腹部に炎症所見が強い。
・虫垂はどうか?追ってみる。
・盲端となっている液貯留を確認する。
ことが膿瘍の有無を判断する上で重要ですね。
膿瘍に気づけませんでした( ;∀;)
虫垂炎(あるいは、オペ適の状態)と気づける人はそこそこいたと思いますが、
今回は「膿瘍形成をしていることに気づけるか」がハードルになるのかな、と感じました( ̄▽ ̄;)
最初の画像上の診断は、「穿通」としても正しいですか?
あと、もう1つ質問なのですが、左肩のに石灰化が目立ちますが、血管ですか?
アウトプットありがとうございます。
回盲部と盲腸の繋がり
盲腸と虫垂の繋がり
を丁寧に追うと、虫垂にしては目立つ→液貯留がそこにある→穿孔して膿瘍形成をしている
ということになります。
>最初の画像上の診断は、「穿通」としても正しいですか?
今回はおっしゃるようにこれを穿孔というのか穿通というのかは意見が別れるところかも知れません。
【穿通の定義:穿通とは、被覆穿孔のことをいいます。つまり、穿孔部が周囲臓器や大網などの周囲組織によって覆われて、腸管内腔と腹腔内との間に交通がない状態のことです。】
今回の膿瘍がダグラス窩などに広がっている場合は、穿孔となりますが、腹腔内であったとは言え、被覆化されていたともいえます。そういう意味では穿通といってもいいかもしれません。
一方で、「腸管内腔と腹腔内との間に交通がない状態」という状態ではないのでやはり穿孔であるという意見もありますね。
個人的には腸間膜内や後腹膜に破れているわけではないので、今回は穿孔と表現します。
>もう1つ質問なのですが、左肩のに石灰化が目立ちますが、血管ですか?
造影剤かと思います。
こんばんは。今日もありがどうございます!
①腎結石の所見、わたしも述べられたのですが、この所見と結核との関係は濃厚でしょうか?
②結核の現病歴に惑わされて、回盲部の腸結核が疑わしいとしてしまいました。先生の虫垂の同定の動画も何回も視聴しているのですが、練習がまだまだ足りておらず、なかなかうまくいきません。今後もがんばります!
③冠状断で横隔膜下、横隔膜に微小な高吸収領域があって指摘したのですが、これは結核に伴う石灰化か何かでしょうか?(45スライド目あたりの所見です)
④右の腕頭静脈の所見について私も質問しようと思っておりました。同じ着眼点の受講生の方がいらして嬉しかったです。心拡大に伴ってこのような所見を呈することがあるということは頭に入れておきたいです。
⑤骨盤内の子宮周囲に認められる高吸収のもやもやは血性腹水でしょうか?(スライド106あたりです)。
これからリンク先の復習もがんばります!
アウトプットありがとうございます。
>①腎結石の所見、わたしも述べられたのですが、この所見と結核との関係は濃厚でしょうか?
うーん。これだけではなんとも言えないですが、全体的に石灰化が目立つという点からは結核による変化が疑わしいですね。
>先生の虫垂の同定の動画も何回も視聴しているのですが、
症例によって場所や見つけにくさは違うので、訓練あるのみですね。
>③冠状断で横隔膜下、横隔膜に微小な高吸収領域があって指摘したのですが、これは結核に伴う石灰化か何かでしょうか?(45スライド目あたりの所見です)
ですね。その判断で正しいと考えます。
>⑤骨盤内の子宮周囲に認められる高吸収のもやもやは血性腹水でしょうか?(スライド106あたりです)。
動画で述べているように私も最初、これも膿瘍なのかと思いましたが、前後関係をよく観察すると結腸のようです。
腹水は今回はなしで良いと考えます。
部位が腹腔内にあるのか後腹膜にあるのかいまいち分からないのですがご教授頂けないでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように今回は画像だけではどちらかというのは分からないですね。
今回も後腹膜なのかと思いましたが、結果的に傍結腸溝にあったということですので(^_^;)
いつも勉強になる症例をありがとうございます。
毎度のことながら言われれば膿瘍とわかるのですが、特に今回のような微妙な大きさの場合膿瘍に気が付けないことが多いです。
虫垂炎でも虫垂自体はここまで拡張することはないでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>毎度のことながら言われれば膿瘍とわかるのですが、特に今回のような微妙な大きさの場合膿瘍に気が付けないことが多いです。
確かに少し悩ましい症例かもしれませんが、
>虫垂炎でも虫垂自体はここまで拡張することはないでしょうか?
今回の膿瘍腔を虫垂そのものと考えるには無理があるサイズおよび形態ですね。
虫垂そのものにも粘膜下層の肥厚も今回認めていない(隣接する回腸末端には認めていますが)ので、膿瘍と考えるのが妥当です。
本日もありがとうございました。
回盲部に主座のある炎症で限局性腹膜炎をきたしていることは指摘できました。虫垂も同定できたのですが、先端部(?)近くにある膿瘍は指摘できませんでした。一部回腸の拡張と液体貯留が見られたので、その一部かと思って膿瘍と気づけなかったわけですが、きちんと腸管の連続性を確認する必要があるなと改めて感じました。本日も貴重な学びをありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>回盲部に主座のある炎症で限局性腹膜炎をきたしていることは指摘できました。虫垂も同定できたのですが
ほぼ読影できていますね。
>きちんと腸管の連続性を確認する必要があるなと改めて感じました。
虫垂炎穿孔からの膿瘍形成は日常臨床でも結構ありますので、おっしゃるように連続性を確認して本当に腸管内なのかをスクロールするようにしましょう。
盲腸~上行結腸の周りに脂肪織濃度上昇と腹膜の肥厚が見られ、回腸末端も腫大していて、限局性の腹膜炎が起こっているとわかりました。
84/123で憩室と思われる円形の高吸収が目に入り、でもその周囲は炎症が少ないからここの憩室炎ではなさそう。
初めは虫垂がどこかわかりにくかったですが、膿瘍腔と思われる低吸収域とそこにつながる肥厚した虫垂が見えてきました。いくつか所見が取れてよかったです。
アウトプットありがとうございます。
>盲腸~上行結腸の周りに脂肪織濃度上昇と腹膜の肥厚が見られ、回腸末端も腫大していて、限局性の腹膜炎が起こっているとわかりました。
いいですね。
>84/123で憩室と思われる円形の高吸収が目に入り、でもその周囲は炎症が少ないからここの憩室炎ではなさそう。
そうですね。
炎症所見が強い部位からは離れています。
>初めは虫垂がどこかわかりにくかったですが、膿瘍腔と思われる低吸収域とそこにつながる肥厚した虫垂が見えてきました。
素晴らしいですね。
虫垂炎かもしれないと考えたら、穿孔を来していないか、膿瘍形成はないかを常に考えるようにしましょう。
膿瘍形成は消化管と連続性を認めない辺縁に造影効果を有する液体貯留はないかをチェックすることが大事ですね。