肺アスペルギルス症(Pulmonary aspergillosis)
アスペルギルスは宿主の免疫状態により異なる画像所見を呈します。
合計、6つに分けられます。分類してそれぞれの臨床的特徴、画像所見を押さえましょう。
肺アスペルギルス症の分類
肺アスペルギルス症総論
- 通常、既存の肺疾患や何らかの免疫異常(過敏症または免疫抑制)を呈する患者に起こる。それは、好酸球性肺疾患または過敏性肺臓炎の様々な型と関係している場合がある。
- 喘息では、気管支拡張と粘液栓塞(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)を伴う過敏性反応を引き起こすこともある。既存の空洞に棲みつき、菌腫を形成することもある。
- COPDのような基礎疾患を有する患者では、慢性壊死性アスペルギルス症または半侵襲性肺アスペルギルス症を引き起こすこともある。
- 免疫抑制者では、アスペルギルスが血管に侵入して、出血性梗塞(血管侵襲性肺アスペルギルス症)を引き起こしたり、気管気管支炎、細気管支炎または肺炎(気道侵襲性肺アスペルギルス症)を引き起こすことがある。
- しばしば、1人の患者でアスペルギルス属関連肺疾患のこれらの様々な徴候が重複することがある。
慢性肺アスペルギルス症(CPA:chronic pulmonary aspergillosis)
- 単純性肺アスペルギローマ
- 慢性進行性肺アスペルギルス症
に大きく分類される。
単純性肺アスペルギローマ(SPA:simple pulmonary aspergilloma)
- 正常免疫能の患者に発症し、既存の空洞(結核やサルコイドーシス)や拡張した気管支、ブラ内にアスペルギルスが侵入して菌球(fungus ball,mycetoma)を形成する。
- 先行する疾患として結核治癒後の硬化性空洞の頻度高い。他、肺切除後や線維嚢胞性病変を形成する様々な疾患がbaseとなる。
- 無症状例が多いが、血痰・喀血を来すこともある。
- 現在では、慢性肺アスペルギルス症の一型に分類される。
単純性肺アスペルギローマの画像所見
- 胸部単純X線写真およびCTでは、空洞内に菌球による円形ないし類円形の結節・腫痛影を認め、meniscus sign(空洞の大部分を菌球が占拠した場合、空洞と菌球との隙間は三日月状の透亮像として認められる。
- air crescent signとも呼ばれる)が見られることも多い。
- 体位変換により菌球の移動が観察される。
※air crescent signは侵襲性アスペルギルス症でも認められるが、意味はこのケースとは全く異なる。
症例 70歳代男性
両側肺尖部の空洞内にfungus ballを認めています。
症例 40歳代男性
fungus ballが見られます。
免疫不全でのアスペルギルス症
- どの免疫不全患者にも発症する可能性あり。
- 特に、癌化学療法中の患者、あるいは移植患者に多い。
- 骨髄移植患者の肺炎の12-45%を占める。
- 結節を呈する場合が多い。
- 免疫不全患者の真菌性肺炎の60%はアスペルギルスによる。
- 免疫状態、および既存の肺の状態によって疾患が異なる。
免疫中等度低下
→半侵襲性肺アスペルギルス症(Semi-invasive aspergillosis)= 慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA:chronic progressive pulmonary aspergillosis)
免疫高度低下
→侵襲性肺アスペルギルス症(Invasive aspergillosis)
- 血管侵襲性肺アスペルギルス症(angio-invasive aspergillosis)
- 気道侵襲性肺アスペルギルス症(airway-invasive aspergillosis)
慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA:chronic progressive pulmonary aspergillosis)
- CNPA:chronic necrotizing pulmonary aspergillosis
- 侵襲性肺アスペルギルス症が急性発症なのに対して、こちらは慢性に経過する。
- 典型的には緩徐に進行する上葉の異常を認める。
- 罹患しやすい人・リスクファクター:TB、COPD、線維症または塵肺などの慢性肺疾患、低栄養、DM、アルコール中毒、高齢、ステロイド治療。=軽度〜中等度の免疫低下状態(low grade immunocompromised patient)、その他、肺切除後、肺気腫、陳旧性肺結核、放射線治療後など。
- 患者の免疫状態がやや低下していることがあるが、侵襲性アスペルギルス症ほど免疫不全は認めない。
- 病理学的にはTBに類似。肉芽腫性炎症、壊死、線維化が併存。
- 症状:非特異的で、喀痰、咳嗽、体重減少、発熱、喀血など
- 臨床経過は、しばしば数週間〜数年かけてゆっくり進行する空洞形成を伴う上葉のconsolidationで、TBとの区別は困難である。
- 進行性であり、予後不良のことも少なくないので注意。
慢性進行性肺アスペルギルス症の画像所見
【CT所見】
- 結核に類似する上葉の浸潤影
- 1つ以上の大きな結節
- 浸潤影または結節→空洞化→菌球形成(aspergilloma:菌球内部は高吸収のことあり。)※菌球型アスペルギルスからの移行もあり。
- 腔内菌腫
- 胸膜肥厚
- 数ヶ月から年単位で緩徐に増悪するため、しばしば診断が遅れる原因となる。
- 非結核性抗酸菌症の合併感染もあり。
症例 60歳代男性
右肺尖部に空洞性病変及び胸膜肥厚あり。
慢性壊死性アスペルギルス症としてフォローされています。
症例 60歳代男性
RadioGraphics, Jul 2001, Vol. 21: 825–837, 10.1148より引用
侵襲性アスペルギルス症invasive aspergillosis
- 好中球減少・機能低下、重度の細胞性免疫低下の患者では致死的となる。
- 急性骨髄性白血病などの血液疾患、造血幹細胞あるいは固形臓器移植後、大量ステロイド投与などにより、著明な好中球減少(<500mm3)(白血球数が1000/mm3以下)や高度の細胞性免疫低下で感染の危険性が増大する。
- 通常BMTや化学療法の15-25日後。
- 症状は発熱、咳嗽、血痰、呼吸困難、胸膜痛など非特異的。高度の好中球減少では、症状が現れないことあり。
- 発症から死亡までの気管が短く、予後不良。早期の治療での死亡率が41%、治療が遅れた場合は90%。
- 早期診断・治療が重要だが、喀痰からの検出率が低く、組織学的診断も困難なことが多い。
- 胸部X線では診断が困難であるため、IPAが疑われれば、CTをすぐに施行する必要あり。
- 血清マーカー:アスペルギルス・ガラクトマンナン、β-Dグルカン
- 血管侵襲型(angio-invasive)と気道侵襲型(air way invasive)の2型があるが、前者の頻度が高い。しばしば両者は混在。
血管侵襲型アスペルギルス症(angio-invasive aspergillosis)
- 病理:菌体の肺動脈浸潤による出血性梗塞。
▶CT所見:
- 単発性または多発性結節、浸潤影、胸膜面を底辺とする楔状影。
- CT halo sign : 結節周囲のすりガラス影。周囲のすりガラス影=haloは出血を反映。早期。
※但し、CT halo signはさまざまな疾患で見られるため、これをみたら→angio-invasiveアスペルギルスというわけではない。
例)細菌性肺炎、肺癌、CMV肺炎、カンジダ症、リンパ腫、クリプトコッカス、Wegener肉芽腫。
症例 40歳代男性
RadioGraphics, Jul 2001, Vol. 21: 825–837, 10.1148より引用
症例
RadioGraphics, Nov 1997, Vol. 17: 1359–1371, 10.1148より引用
- Air crescent sign : 白血球の回復により壊死組織の吸収・排出が進行し、三日月状(スリット状)の空洞病変が認められる。感染からの回復を示唆する所見。2-3週間後=後期に見られる所見。これがあると予後がよいとの報告あり。
RadioGraphics, Nov 1997, Vol. 17: 1359–1371, 10.1148より引用
気道侵襲型アスペルギルス症(airway-invasive aspergillosis)
- 菌体の深部基底膜への浸潤:気管支壁の破壊。
▶CT所見:
- 他の病原体による気管支肺炎との鑑別は困難。
- 斑状気管支周囲浸潤影(気管支肺炎の形態)
- 境界不明瞭な結節、小葉中心性結節影、またはtree-in-bud
- すりガラス状陰影、大葉性浸潤影
RadioGraphics, Nov 1997, Vol. 17: 1359–1371, 10.1148より引用
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
- アスペルギルスに対して生体のアレルギー反応を生じることにより、気管支喘息や肺浸潤が生じる病態。
- Ⅰ、Ⅲ、Ⅳ型アレルギーを生じる。
- 確定診断は喀痰よりアスペルギルスを同定することによる。Grocott染色による。
- 治療はステロイド。
- 他の真菌でも認められることがあるため、最近ではアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)と呼ばれる。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の画像所見
- 中枢側の気管支拡張症が特徴的。
- 粘液栓もしばしば見られGloved finger sign(finger-in-glove sign)と呼ばれ、カルシウム塩やマンガンを反映して高吸収域を示すことが多い。
- また粘液栓は細気管支レベルにも生じ、小葉中心性の結節として認められることがある。