先に結論:抗NMDA受容体脳炎
- 抗NMDA受容体脳炎は若い女性に多い自己免疫性脳炎で、かぜ症状のあと精神症状→けいれん・意識障害・不随意運動・呼吸低下と進みます
- 女性の約半数に卵巣奇形腫が合併するため、疑ったら骨盤MRI・エコーで探します。診断は髄液の抗NMDA受容体抗体です
- 原因はNMDA受容体に対する自己抗体で、卵巣奇形腫や単純ヘルペス脳炎のあとに起こることがあります。多くは治療で回復しますが、再発することもあります
- 脳MRIは正常のことが多く、異常があっても内側側頭葉などの軽いFLAIR高信号程度です。腫瘍切除と免疫療法で多くは回復します
抗NMDA受容体脳炎(anti-NMDA-receptor encephalitis)
- 抗NMDA (N-methyl-D-aspartate)受容体脳炎 は、中枢神経のシナプスをはじめとして生体内に広く分布するNMDA型グルタミン酸受容体に対する自己抗体が引き起こす自己免疫反応。
- 約9割が女性に発症(100例中91人、Dalmau 2008)
- 年齢中央値は21〜23歳と若年者に多く、18歳未満の小児も約4割を占める。
- 症状は、非特異的な感冒様症状に引き続いて統合失調症様症状が急性発症し、引き続いて痙攣、遷延性意識障害や中枢性低換気を特徴とし、人工呼吸器管理が必要となり不随意運動や自律神経失調も出現、しばしば致死的であるが、長期間の経過にて緩徐に回復傾向へと向かう例も多いという特異的な経過をたどる。
- 女性症例の半数以上に卵巣奇形腫が合併
- 幼い子どもや男性では腫瘍の合併は6%と少ない(Titulaer 2013)
- 傍腫瘍症候群と考えられている。ただし腫瘍を伴わない例も少なくなく、単純ヘルペス脳炎のあとに二次的に起こることも知られている。前向き研究では、ヘルペス脳炎51例中14例(27%)が経過中に自己免疫性脳炎を発症し、その64%が抗NMDA受容体抗体陽性で、多くはヘルペス脳炎の治療後2か月以内に発症した。
- 肺小細胞癌合併が知られている抗Hu抗体陽性の傍腫瘍性辺縁系脳炎は別の病気ですが、抗NMDA受容体抗体と抗Hu抗体の両方が陽性だった肺小細胞癌合併例の報告もあります(Shobatake 2023)。
- 治療は腫瘍切除に加えて、血漿交換、免疫グロブリン、免疫抑制療法。577例の観察研究では、第一選択治療(ステロイド・免疫グロブリン・血漿交換、腫瘍切除)で改善しない例でも、リツキシマブやシクロホスファミドの第二選択治療で転帰が改善しました。24か月時点で約8割が良好な転帰で、早期治療とICU入室がないことが良好な転帰の予測因子でした。
- 奇形腫の早期摘出により症状の回復が得られた症例が報告されており、抗原除去が症状の改善に寄与する点は、細胞表面抗原に対する自己免疫性疾患を示唆する
- 再発は2年以内に12%でみられるため、治療後も経過をみる(Titulaer 2013)。
抗NMDA受容体脳炎の原因は?
- 体の免疫が誤ってNMDA受容体に対する抗体をつくり、その抗体が神経細胞の表面の受容体を減らすことで症状が出ます。(Dalmau 2008)。
- きっかけとして最も多いのは卵巣奇形腫でです。577例の検討では、腫瘍の94%が卵巣奇形腫で、12歳以上の女性では52%に奇形腫があった一方、幼い子どもや男性では6%でした(Titulaer 2013)。
抗NMDA受容体脳炎の症状
100例の検討では、全例に精神症状か記憶障害があり、けいれん76例、意識の低下88例、不随意運動86例、低換気66例などがみられました(Dalmau 2008)。急に性格や行動が変わった、けいれんを起こしたなど気になる症状があれば、早めに医療機関を受診してください。
抗NMDA受容体脳炎の画像所見
- MRIで海馬・側頭葉などに異常信号を認めるのは一部の症例にとどまる。
- 側頭葉内側部のみならず、大脳皮質、脳梁、基底核、小脳脳幹や脊髄にも異常を認める。
- 100例ではFLAIR/T2強調像の高信号が55例にあり、部位は内側側頭葉22例、大脳皮質17例などで、14例に淡い造影効果を伴いました(Dalmau 2008)。577例では初回MRIの異常は33%にとどまり、脳波の異常は90%、髄液の異常は79%でした(Titulaer 2013)。MRIが正常でも抗NMDA受容体脳炎は否定できません。
- 内側側頭葉の高信号は、単純ヘルペス脳炎やほかの自己免疫性辺縁系脳炎でもみられるため、画像だけで区別せず、髄液・脳波・抗体検査と合わせて判断します。
ヘルペス脳炎の治療後に再び悪化したら何を疑うか
単純ヘルペス脳炎の治療でいったん良くなったあとに、また症状が悪化することがあります。このときに考えるのは、ウイルスの再燃だけではありません。自己免疫性脳炎(多くは抗NMDA受容体脳炎)が、ヘルペス脳炎のあとに起こることがあります。
- 頻度:ヘルペス脳炎51例を追跡した前向き研究で、14例(27%)が自己免疫性脳炎を発症し、全例で神経抗体が陽性、うち9例(64%)が抗NMDA受容体抗体でした(Armangue 2018)。
- 時期:多くはヘルペス脳炎の治療後2か月以内に発症しました(Armangue 2018)。ヘルペス脳炎から自己免疫性脳炎までの期間の中央値は、4歳以下で26日、4歳を超える場合で43日でした(Armangue 2018)。
- 症状は年齢で違う:4歳を超える人では精神症状(幻覚・妄想などの精神病症状)が31人中18人(58%)にみられました。4歳以下では舞踏アテトーゼ(不随意運動)が27人全員、意識の低下が27人中26人(96%)にみられ、1年後の経過も4歳を超える人より悪い傾向でした(Armangue 2018)。
- 見つけ方:ヘルペス脳炎の発症から3週間以内に神経抗体が検出された人は、その後の自己免疫性脳炎のリスクが高く(オッズ比11.5)、ウイルスの再活性化では説明できない新しい症状や悪化があった48人のうち44人(92%)で抗体が確認されました(Armangue 2018)。
- 治療への反応:特に4歳を超える人では免疫療法に反応しうるため、早く診断することが大切とされています(Armangue 2018)。
画像は、ヘルペス脳炎の後遺変化と新しい自己免疫性の変化が重なって読みにくいため、MRIだけで区別せず、髄液(ウイルスの検査と神経抗体)や経過とあわせて判断します。ヘルペス脳炎のあとに行動の変化、けいれん、不随意運動などが出たら、早めに主治医に伝えてください。
症例 10歳代女性 錯乱・意識障害

右側頭葉は腫脹し、T2WI、FLAIRで高信号を示している。
左側頭葉内側の海馬部にも高信号あり。
抗NMDA受容体抗体陽性であり、抗NMDA受容体脳炎と診断された。
その後骨盤MRIで卵巣の成熟嚢胞性奇形腫の摘出が行われた。
抗NMDA受容体脳炎でよくある疑問(Q&A)
Q. 抗NMDA受容体脳炎は治りますか?
A. 多くは治療に反応し、24か月時点で252例中203例(81%)が良好な状態で、回復は発症後18か月ごろまで続きました。早期の治療が良い経過の予測因子でした(Titulaer 2013)。
Q. 再発することはありますか?
A. あります。2年以内の再発のリスクは12%で、再発69回のうち46回(67%)は最初より軽い経過でした(Titulaer 2013)。
Q. ヘルペス脳炎が治ったあとに悪化したら、再発と考えてよいですか?
A. ウイルスの再燃ではなく、自己免疫性脳炎が起きていることがあります。ヘルペス脳炎51例の追跡では27%が自己免疫性脳炎を発症し、その64%が抗NMDA受容体抗体陽性でした。多くは治療後2か月以内に発症しています(Armangue 2018)。どちらかは髄液検査と抗体検査で見分けます。
Q. 子どもと大人で症状は違いますか?
A. 違います。4歳以下では舞踏アテトーゼと意識の低下が目立ち、4歳を超えると精神症状が多くなります(Armangue 2018)。
参考文献
- Dalmau J, Gleichman AJ, Hughes EG, et al. Anti-NMDA-receptor encephalitis: case series and analysis of the effects of antibodies. Lancet Neurol. 2008;7(12):1091-8. PubMed
- Titulaer MJ, McCracken L, Gabilondo I, et al. Treatment and prognostic factors for long-term outcome in patients with anti-NMDA receptor encephalitis: an observational cohort study. Lancet Neurol. 2013;12(2):157-65. PubMed
- Graus F, Titulaer MJ, Balu R, et al. A clinical approach to diagnosis of autoimmune encephalitis. Lancet Neurol. 2016;15(4):391-404. PubMed
- Armangue T, Spatola M, Vlagea A, et al. Frequency, symptoms, risk factors, and outcomes of autoimmune encephalitis after herpes simplex encephalitis: a prospective observational study and retrospective analysis. Lancet Neurol. 2018;17(9):760-772. PubMed
- Kelley BP, Patel SC, Marin HL, et al. Autoimmune Encephalitis: Pathophysiology and Imaging Review of an Overlooked Diagnosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2017;38(6):1070-1078. PubMed
- Shobatake R, Kumazawa A, Koyama N, et al. Autoimmune Encephalitis Associated with Anti-N-methyl-D-aspartate Receptor and Anti-Hu Antibodies Successfully Treated with Carboplatin and Etoposide for Small-cell Lung Cancer. Intern Med. 2023;62(3):469-474. PubMed
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