
先に結論:遊走脾は「正常の位置に脾臓がない」ことで気づく。ねじれる(捻転)と、脾門部の血管と脂肪の渦巻き像(whirl sign)や、造影されない脾臓が手がかりになる。捻転は急性腹症の原因になるので、腹痛があるときは早めの受診が大切
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな状態か | 脾臓を固定する靱帯のゆるみ・欠損で、脾臓が左上腹部から他の腹部・骨盤へ動く(Reisner 2018) |
| 原因 | しばしば先天性。脾腫や妊娠で靱帯がゆるむ後天性もある(Reisner 2018) |
| 危険な合併症 | 血管の柄(脾茎)の捻転による梗塞。急性腹症として発症することがある |
| CTのサイン | 脾臓が正常の位置にない。捻転では脾門部に渦巻き状の血管・脂肪(whirl sign)、梗塞では造影効果の低下 |
| 区別したい病態 | 副脾・脾症(余分な脾組織)、胃軸捻転との合併(Belayneh 2024) |
遊走脾とは
遊走脾(wandering spleen、異所性脾)は、脾臓が本来の左上腹部(左季肋部)から離れて、腹部のほかの場所や骨盤に位置する状態です。脾臓を所定の位置に固定する靱帯が、異常にゆるんでいたり、欠けていたりするために起こります(Reisner 2018)。まれな状態で、症例報告では「報告される頻度は0.2%未満」と述べられています(Masroor 2021)。
脾臓の位置が変わっても、脾臓につながる血管(脾動脈・脾静脈)は、位置が動く分だけ長く伸びます。この長い血管の束(脾茎)は、ねじれやすいという弱点を持っています。ねじれると、脾臓への血流が妨げられ、脾臓が梗塞(血流が途絶えて組織が傷むこと)を起こします(Reisner 2018)。
なぜ脾臓が動くのか
脾臓は、いくつかの靱帯で、胃・腎臓・横隔膜や結腸とつながって固定されています。遊走脾の発生に関わる主な靱帯として、胃脾間膜、脾腎間膜、横隔結腸間膜の3本があげられています(Puranik 2017)。
引用元の図 脾臓を支える靱帯

引用:Puranik AK et al. Gastroenterol Rep (Oxf) 2017(Figure 3)(CC BY 4.0)
図:遊走脾の発生に関わるとされる、脾臓を支える3本の靱帯の模式図。胃脾間膜、脾腎間膜、横隔結腸間膜が、矢印(a)〜(c)で示されています。
| 分類 | 考え方 |
|---|---|
| 先天性 | 靱帯が欠けている、または発達が不十分で、もともと固定が弱い(Reisner 2018) |
| 後天性 | 脾腫や妊娠などで、靱帯がゆるむ(Reisner 2018)。脾腫の原因は脾腫とは?脾臓が腫れる原因と症状、大きさの基準で説明しています |
先天性か後天性かは、画像だけでは決められないことがあります。この記事では、画像診断で何を見つけるかに絞って説明します。
症状:無症状のこともあれば、急な腹痛のこともある
遊走脾の人は、症状がなく、ほかの検査で偶然見つかることがあります。一方で、腹痛などのはっきりしない症状で受診し、画像で初めて診断されることもあります(Reisner 2018)。「脾臓がない」ことは、触診や症状だけではわかりにくいので、画像が診断で大きな役割を持ちます。
捻転や梗塞を起こすと、急性腹症(急に始まる強い腹痛)として発症します。Masroor 2021が報告した27歳の女性は、3日間の腹痛、発熱、吐き気、嘔吐、便秘で救急を受診し、診察で動く腫瘤(しこり)を触れました。CTで、脾茎の捻転が確認され、脾臓の摘出手術が行われました。この論文は、急性腹症で、左の横隔膜の下に脾臓の影がないときは、遊走脾を疑って画像検査を進めることが大切だとしています(Masroor 2021)。
画像診断:脾臓がどこにあるかを探す
遊走脾の画像診断の第一歩は、正常の位置に脾臓があるかどうかを確かめることです。ない場合は、腹腔内のほかの場所や骨盤の中を探します。骨盤に位置する遊走脾と、脾動脈から出る脾茎が確認できた例が示されています(Yildiz 2013のFigure 7)。
ただし、検査のたびに脾臓の位置が変わることがあります。ある時点のCTでは、脾臓が正常の位置にあるように見えることがあり、超音波検査、体位を変えた撮影、過去の画像との比較、複数回の検査で、はじめて診断されることがあります(Caruso 2023)。診断に迷う場合は、過去の画像を見比べることが大切です。
| 見つけ方 | 内容 |
|---|---|
| 位置 | 左上腹部に脾臓がない。腹部・骨盤のほかの場所にある(Reisner 2018、Masroor 2021) |
| 経時変化 | 検査ごとに位置が違う。過去画像との比較が役立つ(Caruso 2023) |
| 脾茎 | 脾臓につながる血管の柄が長く伸びていて、ねじれやすい(Reisner 2018) |
| 捻転 | 脾門部で、血管と脂肪が渦巻き状に見える(whirl sign)(Priyadarshi 2013) |
| 梗塞 | 脾臓の実質の造影効果が低下し、低吸収に見える(部分的、または全体)(Yildiz 2013のFigure 8) |
捻転・梗塞のCT所見
whirl sign:脾茎のねじれ
Priyadarshi(2013)は、成人と小児の2例の遊走脾の捻転が、CTでの脾茎の血管の渦巻き状の見え方(whirled appearance)によって診断された例を示し、これが脾捻転の特徴的な所見であると述べています。このサインは、ねじれた血管と周囲の脂肪組織が、同心円状に巻かれて見える現象です。
症例 20歳代女性 遊走脾の捻転(冠状断CT)

引用:Masroor M et al. BMC Surg 2021(Figure 1)(CC BY 4.0)
図:冠状断CT。左の横隔膜の下が空虚で、小腸と大腸が拡張しています。造影されない、軽度に腫大した脾臓が右下腹部から骨盤に位置し、膀胱の上に乗っています。膀胱に接する面には、被膜が明るく見えるrim sign(縁取り)があります(Masroor 2021)。
症例 20歳代女性 遊走脾の捻転(whirl sign)

引用:Masroor M et al. BMC Surg 2021(Figure 2)(CC BY 4.0)
図:同じ症例の軸位断CTで、脾茎に渦巻き状のwhirl signが見られます。この論文では、脾茎の捻転を示す所見とされています。手術では、うっ血して虚血に陥った脾臓と、脾茎の捻転、脾血管の血栓が確認されました(Masroor 2021)。
症例 19歳女性 捻転した遊走脾と梗塞

引用:Yildiz AE et al. ScientificWorldJournal 2013(Figure 8)(CC BY 3.0)
図:急な腹痛で受診した19歳女性の造影CT。(a)左上腹部に脾臓の組織がありません。(b)正中部に、不均一な低吸収の腫瘤(矢印)があり、手術で捻転した遊走脾と確認されました。低吸収の実質は梗塞を示します(Yildiz 2013)。
捻転による梗塞は、外傷による脾損傷と同じく、脾臓が造影されない部分として見えることがあります。外傷の病歴があれば、脾損傷のCT画像診断も参考にしてください。位置が正常でなく、脾茎に渦巻き像があれば、捻転による梗塞を考えます。
胃軸捻転との合併
胃軸捻転は、胃がねじれる病態です。Belayneh(2024)は、53歳の女性で、腸間膜軸性の胃軸捻転と、遊走脾を伴う脾臓・膵臓の捻転が同時に見つかった例を報告しています。この論文は、原発性の胃軸捻転は、無脾症や遊走脾を伴うことがあり、どちらも靱帯の付着が欠けている、あるいはゆるいことが共通する、と述べています。つまり、胃や脾臓を支える靱帯のゆるみが、どちらの病態の背景にもあると考えられます。
遊走脾を見つけたときは、胃の位置や形にも目を向けておくとよいでしょう。急性の胃軸捻転では、上腹部の痛み、吐くものがないのに起こる吐き気(空嘔吐)、胃管が入らないことが典型的な組み合わせとされます(Belayneh 2024)。この症例では、胃の亜全摘と脾固定術が行われました。
小児と成人
小児の遊走脾は、197例を分析した系統的レビューで、診断時の年齢の中央値が8歳、女児対男児が1.5対1でした(Ganarin 2021)。症状は、腹痛のみが最も多く(42.6%)、脾茎の捻転は56.3%で診断されました。
| 項目 | 小児(Ganarin 2021、197例) |
|---|---|
| 診断時の年齢 | 中央値8歳 |
| 女児:男児 | 1.5:1 |
| 最も多い症状 | 腹痛のみ(42.6%) |
| 脾茎の捻転 | 56.3% |
| 手術 | 脾固定術39%、脾摘出54.8% |
| 脾固定術の有効性 | 94.8%(捻転のある例だけでは88%) |
成人でも、遊走脾は報告されています。成人では、脾腫や妊娠で靱帯がゆるむことが原因のひとつとされています(Reisner 2018)。小児でも成人でも、腹痛の原因として考えておくことが大切で、Ganarin(2021)は、小児の遊走脾は、腹痛の鑑別に入れておくべき病態だとしています。
副脾・脾症との違い
「脾臓が正常の位置以外にある」という点で、遊走脾と間違えやすい病態に、副脾と脾症があります。画像診断では、本来の脾臓が正常の位置にあるかどうかが、見分けの出発点です。
| 病態 | 本来の脾臓 | 特徴 |
|---|---|---|
| 遊走脾 | 脾臓全体が位置を変えて、正常の位置にない | 脾茎が長く、捻転・梗塞を起こす(Reisner 2018) |
| 副脾 | 正常の位置にある | 先天的な余分な脾組織の小結節。脾臓と同じ密度と造影効果を示す。膵臓の中の結節として見え、造影効果が脾臓と似ることから副脾と診断された例がある(Yildiz 2013) |
| 脾症(splenosis) | 外傷や脾摘出後 | 脾組織が後天的に腹腔内へ散らばったもの。脾外傷や脾摘出の既往がある例が示されている(Yildiz 2013) |
まれに、副脾が移動する「遊走副脾」もあります。Yildiz(2013)は、54歳の男性で、脾臓の前方にある副脾が、連続した検査で位置が違っていた例を示しています。脾臓全体が動く遊走脾か、小さな結節だけが動く遊走副脾かを区別する出発点は、本来の脾臓が正常の位置にあるかどうかです。
治療の考え方
治療は、脾臓の状態で変わります。症状のない遊走脾は、経過をみたり、脾臓を元の位置に固定する脾固定術(splenopexy)を考えたりします。捻転や梗塞を起こしている複雑な例では、脾摘出が行われます(Caruso 2023)。小児では、脾固定術を第一選択とすべきだとする系統的レビューがあります。ただし、このレビューでも手術例の54.8%は脾摘出でした(Ganarin 2021)。
どの治療を選ぶかは、年齢、症状、脾臓の血流の状態などで決まります。この記事は画像診断の説明であり、個々の治療の判断ではありません。急な腹痛や、お腹のしこりに気づいたときは、早めに医療機関に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 遊走脾は、見つかったらすぐ手術が必要ですか?
A. 一律ではありません。症状がなく、捻転や梗塞の所見がない場合は、経過観察や脾固定術が選択肢になります。捻転や梗塞を起こしている複雑な例では、脾摘出が行われます(Caruso 2023)。担当医と相談して決めます。
Q. 検査で脾臓が正常の位置にありました。遊走脾ではないですか?
A. 遊走脾は、静止した画像では正常の位置にあるように見えて、位置が変わる別の検査や過去の画像との比較で、初めて診断されることがあります(Caruso 2023)。症状があり、疑うときは、過去の画像との比較や追加の検査を担当医に相談してください。
Q. 遊走脾と胃の病気は関係しますか?
A. 胃軸捻転と遊走脾が、同時にみられた例が報告されています(Belayneh 2024)。胃や脾臓を支える靱帯のゆるみが共通の背景と考えられていますが、頻度などは症例報告での記載にとどまります。
Q. 副脾があると言われました。遊走脾と同じですか?
A. 違います。副脾は、正常の位置にある脾臓とは別に、先天的に小さな脾組織が存在するものです(Yildiz 2013)。遊走脾は、脾臓そのものが位置を変えた状態です。
あわせて読みたい:脾損傷のCT画像診断|グレード分類(AAST)と腹腔内出血・造影剤漏出・治療
あわせて読みたい:無脾症・多脾症(内臓錯位)のCT
参考文献
- Reisner DC, Burgan CM. Wandering Spleen: An Overview. Curr Probl Diagn Radiol. 2018;47(1):68-70. PubMed
- Caruso MJ, Bidani K, Singh AK. Wandering liver, spleen, and kidney: what the radiologist needs to know. Abdom Radiol (NY). 2023;48(5):1854-1861. PubMed
- Ganarin A, Fascetti Leon F, La Pergola E, et al. Surgical Approach of Wandering Spleen in Infants and Children: A Systematic Review. J Laparoendosc Adv Surg Tech A. 2021;31(4):468-477. PubMed
- Priyadarshi RN, Anand U, Kumar B, et al. Torsion in wandering spleen: CT demonstration of whirl sign. Abdom Imaging. 2013;38(4):835-8. PubMed
- Masroor M, Sarwari MA. Torsion of the wandering spleen as an abdominal emergency: a case report. BMC Surg. 2021;21(1):289. PubMed
- Belayneh ES, Belete AW, Mitku A, et al. Gastric volvulus and splenopancreatic torsion with wandering spleen: A case report. Int J Surg Case Rep. 2024;116:109338. PubMed
- Yildiz AE, Ariyurek MO, Karcaaltincaba M. Splenic anomalies of shape, size, and location: pictorial essay. ScientificWorldJournal. 2013;2013:321810. PubMed
- Puranik AK, Mehra R, Chauhan S, et al. Wandering spleen: a surgical enigma. Gastroenterol Rep (Oxf). 2017;5(3):241-243. PubMed
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