
先に結論:血圧が下がっても「脈が遅ければ迷走神経反射」「脈が速く、皮膚や気道の症状を伴えばアナフィラキシー」を疑う。ただし脈だけで決めず、検査室の医師・看護師・技師が全体の状態で判断する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 分類(ACR Manual on Contrast Media 2026年版) | 急性反応は「アレルギー様(allergic-like)」と「生理学的(physiologic)」に分け、それぞれ軽度・中等度・重度で整理する。迷走神経反射は生理学的反応に入る |
| 迷走神経反射 | 低血圧と徐脈(ACRの表では脈拍60未満)。不安感と冷や汗を伴うことが多く、多くは軽症で自然に回復する |
| アナフィラキシー | 低血圧と頻脈(ACRの表では脈拍100超)。じんましん・顔やのどの腫れ・喘鳴などを伴うことが多い。急速に進み、命に関わる |
| 次回検査 | 迷走神経反射の既往はステロイドの前投薬の理由にはならない。アレルギー様反応の既往は別に検討する。反応の内容を記録して伝えることが大切 |
| 受診の目安 | 検査室では、気分不快・冷や汗・息苦しさ・体の発疹をすぐスタッフに伝える。帰宅後に息苦しさやのどの腫れが出たら救急を考える |
造影剤の急性反応はどう分類されるか
造影剤の注射のあとに起こる急性の反応は、大きくアレルギー様反応と生理学的反応に分けられます。ACR(米国放射線学会)のManual on Contrast Media 2026年版は、急性反応を、アレルギー様と生理学的の2種類に分けたうえで、軽度・中等度・重度の3段階で整理しています。たとえばアレルギー様反応を経験した人は、次の造影検査の前に前投薬を考えることがありますが、生理学的反応を経験した人では、前投薬の理由にはならないとされています(ACR 2026)。
欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR)の2025年のガイドラインも、急性反応を過敏反応と、化学毒性・生理学的反応に分けています(van der Molen 2025、Part 1)。
引用元の図 造影剤による急性副作用の分類

引用:van der Molen AJ, et al. Eur Radiol 2025;35(11):6798-6810 (Figure 1). CC BY 4.0・PMC12559081
図:造影剤による急性の副作用の分類。急性反応は、過敏反応(免疫学的な機序が定義されたか強く疑われるアレルギー性と、免疫学的な機序が除外された非アレルギー性)と、化学毒性・生理学的反応に分けられます。
| 重症度 | アレルギー様反応の例 | 生理学的反応の例 |
|---|---|---|
| 軽度 | 限られたじんましん・かゆみ、皮膚の浮腫、鼻づまり、くしゃみ | 一過性のほてり・悪寒、頭痛・めまい・不安、味覚の変化、自然に回復する迷走神経反射 |
| 中等度 | 全身のじんましん、顔の腫れ(息苦しさなし)、のどのつまり・声のかすれ、軽い喘鳴 | 長引く吐き気・嘔吐、胸痛のみ、治療が必要で、治療に反応する迷走神経反射 |
| 重度 | 全身の浮腫・顔の腫れと息苦しさ、全身の紅潮と低血圧、喉頭浮腫、強い気管支けいれん、アナフィラキシーショック(低血圧+頻脈) | 治療に反応しない迷走神経反射、不整脈、けいれん、高血圧緊急症 |
この表は、ACR Manual 2026年版のTable 1(ヨード・ガドリニウム造影剤の両方に使える分類)を整理したものです。ヨード造影剤のアレルギー全般は造影剤アレルギー(ヨード造影剤の副作用)の症状と対応まとめで詳しく説明しています。この記事では、そこに入る前の「どの反応か」の見分け方に絞ります。
迷走神経反射とは
迷走神経反射(血管迷走神経反応、vasovagal reaction)は、ACRのManualで低血圧と徐脈(脈がゆっくりになる)を特徴とする生理学的反応とされ、比較的よくみられます。正確な機序は分かっていませんが、脳から出る迷走神経の働きが強まり、心臓の拍動を刺激する部位の働きや、心房と心室の間の伝導が抑えられ、末梢の血管が広がることで起こると考えられています(ACR 2026)。
ACRは、この反応が不安に関係することがあり、同意書にサインをしている最中、針や留置針を刺すとき、造影剤を注入している途中のどの時点でも起こりうるとしています。多くは不安な気持ちと、冷や汗がきっかけの症状として現れます。ほとんどは軽く自然に回復しますが、症状が治まるまで経過をみることが勧められています。まれに、血圧が大きく下がって意識を失ったり、循環が破綻したり、狭心痛、けいれんが起こることがあります(ACR 2026)。
造影剤の注射のあとに、血圧が下がって徐脈になり、ショック状態になった症例が1987年に報告されています。この論文は、こうした反応が単なる迷走神経反射なのか、造影剤が直接引き起こすのかは分からないとしています(Poulsen 1987)。
アナフィラキシーとは
アナフィラキシーは、急速に進み、命に関わることのある重い過敏反応です。皮膚・粘膜(唇や舌を含む)、呼吸器、循環器、消化器のどれかが障害され、2024年の国際的な定義では、皮膚・粘膜の症状がなくても、命に関わるアナフィラキシーが起こりうるとされます(van der Molen 2025、Part 1)。
ACRのManualは、アナフィラキシーショックを「低血圧+頻脈」と整理しています(ACR 2026)。ACRの対応表では、収縮期血圧が90 mmHg未満の低血圧のうち、脈拍が60未満であれば迷走神経反射、100を超えればアナフィラキシー様反応と区別しています。
命に関わる造影剤の反応のほとんどは、造影剤を注射してから最初の20分以内に起こります(ACR 2026)。治療の中心はアドレナリンの筋肉注射で、最も重要な薬とされています(van der Molen 2025、Part 1)。
見分け方:脈・血圧・皮膚症状
迷走神経反射とアナフィラキシーは、どちらも血圧が下がるため、顔色が悪くなる・ぐったりするなど、見た目が似ることがあります。違いが出やすい手がかりを表にまとめます。
| 手がかり | 迷走神経反射 | アナフィラキシー(アレルギー様反応・重度) |
|---|---|---|
| 脈拍 | 遅い(ACRの表では60未満) | 速い(ACRの表では100超) |
| 血圧 | 下がる(収縮期血圧90 mmHg未満が目安) | 下がる(同じく90 mmHg未満が目安) |
| 皮膚症状 | じんましん・かゆみなどは目立たない。冷や汗が出る | じんましん、全身の赤み、顔・唇の腫れを伴うことが多い(伴わないこともある) |
| 呼吸・のど | 息苦しさ・喘鳴は目立たない | 息苦しさ、喘鳴、のどのつまり、声のかすれ、喉頭の腫れ |
| きっかけ・時間 | 同意書の記入中、針を刺すとき、注入中など、不安の強い場面 | 注入後、多くは20分以内。急速に進む |
| 経過 | 多くは軽く、横になって足を高くするなどで自然に回復する | 放置すると悪化する。ただちに緊急の対応が必要 |
ここに挙げた違いはあくまで目安です。ACRも、重症度の評価はやや主観的で、臨床的な判断が必要だとしています(ACR 2026)。たとえば、脈拍が速くないから安心、皮膚症状がないからアナフィラキシーではない、とは言い切れません。ESURは、症状が出たら脈拍・血圧・意識を確認し、著しい徐脈があれば迷走神経反射への対応を検討すると整理しています。視覚・聴覚の障害、神経・精神の病気、認知機能の低下がある人や、中枢神経に作用する薬を使っている人は、症状に気づきにくいことがあるとも注意しています(van der Molen 2025、Part 1)。
低血圧のときの基本的な対応は、点滴の確保、バイタルサインの監視、酸素、脚を高くすること、点滴での水分補給です。迷走神経反射が軽ければ、これ以外の処置は通常必要ありませんが、症状が強く続くときは追加の薬や救急対応が検討されます(ACR 2026)。薬の種類は、状態をみて検査室の医師が判断します。
どのくらい起こるのか・どんな症状が多いのか
現在使われている非イオン性の低浸透圧造影剤では、アレルギー様と生理学的反応を合わせた急性反応が0.2〜0.7%、重い急性反応は約0.04%(1万人に4人)と紹介されています(ACR 2026)。中国の3施設の外来CT 473,482人の検討では、薬の副作用の全体は0.110%、急性のものは0.099%、重篤なものは0.0004%(2人)でした(Zeng 2024)。
一方、心臓の専門病院で造影CTを受けた1,462人を前向きに調べた研究(2026年)では、62人(4.24%)に急性反応があり、このうちアレルギー様反応は20人(1.37%)、生理学的反応は42人(2.87%)でした。症状の出る臓器は、神経系(主にめまい)が41.9%で最も多く、消化器が30.6%、皮膚が27.4%、循環器が8.1%、呼吸器が3.2%でした(Xie 2026)。研究によって「軽いめまい・吐き気」を数えるかどうかが違うため、頻度は単純に比べられません。
引用元の図 造影CTの急性反応で症状が出た臓器

引用:Xie R, et al. Front Med (Lausanne) 2026;13:1870320 (Figure 2). CC BY 4.0・PMC13693528
図:造影CTで急性反応のあった62人で、症状が出た臓器の割合(重複あり)。めまいなどの神経系の症状が最も多く、じんましんなどの皮膚症状、呼吸器の症状は少数でした。
検査前の不安・絶食との関係
不安
ACR Manualは、不安の強い人では造影剤の反応が起こりやすいという報告があるとし、注射の前に不安な人を落ち着かせることで、軽い反応の可能性を下げられるかもしれないとしています(ACR 2026)。血液検査の採血を受けた3,315人の調査では、針に関連して強い不安を示した人は少数で、迷走神経反射や失神はごくまれでした。一方、痛み・嫌悪感・失神への恐怖を感じやすい人は、針への強い不安と関連していました(Deacon 2006)。針が苦手な人は、検査の前にスタッフへ伝えておくと、配慮を相談しやすくなります。
絶食
造影CTの前に食事を控える施設は多いですが、現在の非イオン性造影剤では、絶食の必要性を支持する証拠は乏しいとされています。ACR Manualは、ふつうの血管内造影剤の投与で絶食は必須ではないとし、糖尿病のある人での低血糖や不快感など、絶食の不利益もあげています(ACR 2026)。造影CTを受けた入院患者2,091人を絶食群と自由に飲食する群に分けた無作為化試験でも、誤嚥性肺炎は両群で認めず、吐き気は6.6%と7.6%、嘔吐は2.6%と3.0%で差はありませんでした(Neeman 2021)。
ただし、これらの評価項目は誤嚥や吐き気・嘔吐で、迷走神経反射との関係を直接調べたものではありません。迷走神経反射と絶食の関係を直接調べた報告は、確認できた範囲にはありません。食事・水分・糖尿病の薬などの指示は施設によって違うので、案内された内容に従ってください。なお、心臓の専門病院の前向き研究では、検査直前の血糖値は急性のアレルギー様反応と関連しませんでした(Xie 2026)。造影CTの食事・水分制限は造影CT(ヨード造影剤)の前に食事・水分制限は必要?で説明しています。
次回の検査はどう考えるか
次回の造影検査の考え方は、「どの反応だったか」で変わります。そのため、反応が出たときの脈拍・血圧・皮膚や呼吸の症状、起こった時期(針を刺した時、注入中、注入後)、行った対応と経過の記録が重要です。ESURも、標準化された詳細な記録が、のちの検査のリスク管理に役立つと述べています(van der Molen 2025、Part 1)。
| 前回の反応 | 考え方(ACR 2026、ESUR 2025) |
|---|---|
| 軽い迷走神経反射(脈が遅く、皮膚症状なし) | 生理学的反応の既往は、ステロイド前投薬の理由にはならない。前投薬は生理学的反応を防がない。不安や針への恐怖への配慮は、検査施設と相談する |
| アレルギー様反応(じんましん・喘鳴など) | 前回と同じ造影剤での再検査では、前投薬を考えることがある。中等度〜重度の即時型反応では、アレルギー専門医の評価を勧める。評価に基づいて別の造影剤を選ぶほうが、前投薬より安全で有効とされる |
| 重度の反応 | 同じ系統の造影剤の使用は相対的禁忌とされる。代替の検査、別の系統の造影剤、前投薬などを、放射線科・依頼した医師・患者で話し合う |
ESURのPart 2は、中等度から重度の即時型反応では、症状から1〜4時間以内に血液のトリプターゼを測ることと、アレルギー専門医の評価を勧めています(van der Molen 2025、Part 2)。迷走神経反射かアナフィラキシーか判断しにくかったときは、こうした情報が次回の方針の手がかりになります。
ACRは、貝類・喘息・花粉症などの病歴だけを理由に、ルーチンで前投薬をしたり造影剤を避けたりすることは勧めていません(ACR 2026)。問診の項目は、CT造影剤(ヨード)使用前に問診することは?も参考になります。
受診・相談の目安
造影剤の検査を受ける場面で、次のようなことがあれば、その場ですぐにスタッフに伝えてください。
- 気分が悪い、冷や汗、ふらつき、目の前が暗くなる(迷走神経反射のことがある)
- 息苦しさ、ゼーゼー、のどがつまる、声がかすれる
- 体や顔のかゆみ、じんましん、唇や顔の腫れ
- 強い吐き気、腹痛、動悸
検査室から帰宅したあとに、息苦しさ、のどや顔の腫れ、ぐったりして意識がぼんやりする、といった症状が出たときは、救急の受診を考えてください。発疹・かゆみは、翌日から1週間ほどのあいだに出ることもあります(ACR 2026)。造影CT(ヨード造影剤)の副作用は翌日も出る?で説明しています。気になる症状があれば、医療機関に相談してください。
反応があった人は、いつ・どのような症状が出たか、脈や血圧はどうだったか、どんな対応を受けたかを、次の検査の前に医師や検査施設へ伝えられるようメモしておくと役立ちます。次の検査を受けるかどうかは、主治医・放射線科医と相談して決めます。
よくある疑問(Q&A)
Q. 気分が悪くなって血圧が下がりました。造影剤アレルギーですか?
A. 血圧が下がる原因には、迷走神経反射とアナフィラキシーがあります。脈がゆっくりで、じんましんや息苦しさがなければ、迷走神経反射(生理学的反応)が考えられます。脈が速く、皮膚や気道の症状を伴えば、アナフィラキシーを疑います。実際の判断は、検査室のスタッフが、その時の状態を総合してします(ACR 2026)。
Q. 迷走神経反射を起こしました。次の造影検査は受けられませんか?
A. 迷走神経反射は生理学的反応で、前回の既往だけでステロイドの前投薬が必要になるわけではありません(ACR 2026)。ただし、反応の内容がはっきりしないときは、前回の記録をもとに放射線科で確認します。不安や針への恐怖が強い人は、事前に伝えておきましょう。
Q. 空腹だったから気分が悪くなったのでしょうか?
A. 絶食と迷走神経反射の関係を直接調べた報告は、確認できた範囲にはありません。造影CTで絶食をしても、誤嚥や吐き気・嘔吐を防ぐ効果は示されていません(Neeman 2021、ACR 2026)。食事の指示は、検査施設の案内に従ってください。
Q. 針を刺すのが怖くて、毎回気分が悪くなります。
A. 不安が強いと、造影剤の軽い反応が起こりやすいとされ、注射の前に落ち着いてもらうことが軽い反応を減らす可能性があります(ACR 2026)。針が苦手なことを事前に検査室へ伝え、できる配慮を相談してください。
あわせて読みたい:造影剤アレルギー(ヨード造影剤の副作用)の症状と対応まとめ
参考文献
- American College of Radiology Committee on Drugs and Contrast Media. ACR Manual on Contrast Media 2026 (Chapter 8: Allergic-Like and Physiologic Reactions to Intravascular Iodinated Contrast Media; Table 1, Table 3; Fasting Prior to Intravascular Contrast Media Administration; Patient Selection and Preparation Strategies). ACR
- van der Molen AJ, van de Ven AAJM, Vega F, et al. Hypersensitivity reactions to contrast media: Part 1. Management of immediate and non-immediate hypersensitivity reactions in adults. Updated guidelines by the ESUR Contrast Media Safety Committee. Eur Radiol. 2025;35(11):6798-6810. PubMed
- van der Molen AJ, van de Ven AAJM, Vega F, et al. Hypersensitivity reactions to contrast media: Part 2. Prevention of recurrent hypersensitivity reactions in adults. Updated guidelines by the ESUR Contrast Media Safety Committee. Eur Radiol. 2025;35(11):6811-6825. PubMed
- Poulsen J, Rasmussen F, Georgsen J. Hypotensive shock associated with bradycardia after intravenous injection of contrast medium. Radiology. 1987;164(1):275-276. PubMed
- Xie R, Zhang H, Sun J, et al. Prospective evaluation of risk factors for acute adverse reactions to iodinated contrast media in contrast-enhanced CT. Front Med (Lausanne). 2026;13:1870320. PubMed
- Zeng W, Tang J, Xu X, et al. Safety of non-ionic contrast media in CT examinations for out-patients: retrospective multicenter analysis of 473,482 patients. Eur Radiol. 2024;34(9):5570-5577. PubMed
- Neeman Z, Abu Ata M, Touma E, et al. Is fasting still necessary prior to contrast-enhanced computed tomography? A randomized clinical study. Eur Radiol. 2021;31(3):1451-1459. PubMed
- Deacon B, Abramowitz J. Fear of needles and vasovagal reactions among phlebotomy patients. J Anxiety Disord. 2006;20(7):946-960. PubMed
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