心臓CTの正常解剖 前は右室・後ろは左房で見分ける

心臓のCTを見ても、どこが右心房でどこが左心室なのか、すぐにわからなくなります。見分けるコツはありますか?
コツは「位置関係」と「壁の形」です。横断CTでは、右室がいちばん前、左房がいちばん後ろ、右房は右側、左室は左後ろにあります。さらに、心耳・弁・冠静脈洞・心膜洞の場所を知っておくと、正常構造を病変と間違えにくくなります。X線の心陰影の縁を作る部屋から順に整理します。

先に結論:心臓は「前に右室、後ろに左房」。右心耳は幅広い三角形、左心耳は細長い指状。正常構造が病変に見える場所を覚える

部屋・構造 横断CTでの位置 見分けるポイント
右室 最も前方。胸骨のすぐ後ろ 壁が薄く、肉柱が粗い。心室中隔の右側
右房 心臓の右側。上・下大静脈が入る 右心耳は幅広い三角形
左房 最も後方。食道と下行大動脈の前 肺静脈が4本入る。左心耳は細長い
左室 左後方。壁が厚く内腔は丸い 内側は滑らかで、僧帽弁を介して左房とつながる
冠静脈洞 左房の後ろ下、左房室溝を通り右房へ入る 拡張していると左上大静脈遺残などを考える

胸部X線で心陰影の縁を作る部屋

心臓CTの前に、胸部X線の心陰影(心臓の影)の縁を作る部屋を整理しておくと、全体像がつかみやすくなります。正面像で縁になる構造は、およそ次のとおりです(教科書的な解剖です)。

位置 縁を作る構造 メモ
右側の上方 上大静脈 縦隔の右縁の上のほう
右側の下方 右房 右第2弓。右房の拡大で右へ張り出す
左側の最上方 大動脈弓(大動脈結節) 左第1弓
左側の上方 肺動脈幹 左第2弓
左側の中央 左心耳 左第3弓。正常では目立たず、拡大すると張り出す
左側の下方 左室 左第4弓。左室の拡大で左下へ広がる

右室は正面像では縁になりません。心臓のいちばん前にあるため、正面像では他の部屋と重なります。側面像では胸骨の後ろの心臓の前縁に右室が並びます。左房も、正常では縁になりませんが、拡大すると心臓の中央に二重の輪郭(double density)をつくったり、気管分岐部を押し広げたりします。側面像の見方は胸部レントゲン側面像の見方の記事で整理しています。

なお、ポータブルの前後像では心臓が大きく写りやすいため、心臓の大きさを判断するときは撮影条件を確認します。

横断CTで4つの部屋を見つける

心電図同期の造影CTでは、心房と心室がそれぞれ特徴的な形で描出され、前後・左右・上下の位置関係もわかります(Boxt 2005)。心臓の解剖を把握することが、異常を見つける土台になります(Boxt 2005)。次の順に探します。

手順1:大動脈基部を探す

まず、真ん中にある丸い大動脈基部(大動脈弁のある根元)を見つけます。ここが心臓の「真ん中の目印」です。大動脈基部の前方に右室の流出路(肺動脈へ向かう道)、右側に右房、後ろに左房があります。

手順2:前から後ろへ並べる

前から後ろの順 構造
いちばん前(胸骨の直後) 右室、右室流出路
その後ろ・中央 大動脈基部(弁がある)
いちばん後ろ 左房。さらに後ろに食道、下行大動脈、胸椎

手順3:左右を決める

見るところ 右の部屋(右房・右室) 左の部屋(左房・左室)
壁の厚さ 薄い 左室の壁が厚い
内側の形 肉柱が粗く、中隔と自由壁をつなぐ筋の束(調節帯)がある 内側は比較的滑らか
つながる血管 右房に上・下大静脈、冠静脈洞が入る。右室から肺動脈が出る 左房に肺静脈が入る。左室から大動脈が出る
房室弁 三尖弁(右房と右室の間) 僧帽弁(左房と左室の間)
心耳 幅広い三角形 細長く、先が曲がる指状

CTの造影では、造影剤が最初に通る右心系と、そのあとの左心系で濃さが異なります。撮影のタイミングによって、右心系が濃く左心系が淡い、または逆の画像になります。濃さだけで左右を判断せず、形と血管のつながりで決めます。

症例 50歳代男性 正常の冠動脈CT

正常の冠動脈CT 造影CT 四腔像に近い軸位断像
引用:Radiopaedia(CT coronary angiogram (normal))

四腔像に近い断面です。症例ページでは、冠動脈CT血管造影で冠動脈の狭窄がなく、CAD-RADS 0に分類された症例と記載されています。この画像では、造影剤が濃い左室・左房に対し、右房・右室は淡く写っています。いちばん前に右室、後ろに左房があります。

心耳・弁・冠静脈洞・心膜洞の見つけ方

心耳

心耳は、心房から飛び出した耳のような袋です。右心耳は幅広い三角形で、上行大動脈の右前にあります。左心耳は細長い指状で、肺動脈幹の左側を通り、左上肺静脈のすぐ前にあります。

弁

弁 場所 CTで探すコツ
大動脈弁 大動脈基部の中央 3つの弁尖が「Y字」のように見える。冠動脈の起始部が目印
肺動脈弁 大動脈弁の前・左・やや上 右室流出路の先
僧帽弁 左房と左室の間 左房と左室の間の入口
三尖弁 右房と右室の間 右側で前にある房室の入口

弁は心拍で動くため、心電図同期なしのCTでは細部が見えません。弁の評価には、心電図同期の撮影が必要です。

冠静脈洞

冠静脈洞は、心臓の静脈血を集めて右房へ戻す太い静脈で、左房の後ろ下、左房室溝(左房と左室の間のみぞ)を通って右房に入ります。ペースメーカーのリード、不整脈の治療、手術での心筋保護など、冠静脈洞を使う処置があり、正常の解剖や変異・先天異常を理解することが大切です(Shah 2012)。冠静脈洞が太く見えるときは、左上大静脈遺残などを考えます。左房と肺静脈のCTでの見方は肺静脈狭窄の記事も参考になります。

心膜洞・心膜陥凹

心臓を包む心膜の袋には、くぼみ(心膜洞・心膜陥凹)があり、少量の液体がたまるとCTで水の濃度の構造として見えます。心膜洞・心膜陥凹の評価では、心電図同期の電子ビームCTで100例を調べた報告があります。心膜洞や陥凹が少なくとも1つは全例で見え、横断洞は95例、斜洞は89例、左肺動脈陥凹は81例、下大動脈陥凹(inferior aortic recess)は80例に見られました(Groell 1999)。心膜の構造の位置を知っておくと、リンパ節や心嚢液との区別に役立ちます(Groell 1999)。心膜の層は心膜腔の記事、リンパ節との区別は心膜洞(心膜陥凹)の記事で解説しています。

症例 50歳代男性 大動脈基部のレベル

正常の冠動脈CT 造影CT 大動脈基部のレベル 軸位断像
引用:Radiopaedia(CT coronary angiogram (normal))

同じ症例の、大動脈基部のレベルの断面です。症例ページでは冠動脈に狭窄がない正常の症例と記載されています。この画像では、中央に大動脈基部があり、その前に右室流出路、右に右房、後ろに左房が見えます。

正常構造が病変に見えるピットフォール

心臓の内部には、帯状・稜状の正常構造がたくさんあり、腫瘤や血栓に似て見えることがあります。心臓内のバンド状の構造は、正常構造・正常変異、異常構造、病的なものに分けられ、正常構造には分界稜(crista terminalis)・taenia sagittalis・Chiari網・coumadin ridge・調節帯・乳頭筋・腱索が含まれます(Rajiah 2019)。これらの中には、症状のない偶然の所見が多い一方で、心臓の腫瘍などに見間違えるものもあります(Rajiah 2019)。

正常構造 場所 病変に見える理由・見分け方
分界稜(crista terminalis) 右房の上壁から外側壁 右房の腫瘤に見えることがある(Rajiah 2019)。右房の滑らかな壁と、肉柱のある壁の境にある
Chiari網・Eustachian弁 右房の下大静脈の入口付近 Chiari網は人口の約2%にあり、Eustachian弁から右房のいろいろな部位へ向かう網目状の線維で、多くは臨床的に問題とならず、画像検査で偶然見つかる(Loukas 2010)
Coumadin ridge(左房の稜) 左房の左上肺静脈と左心耳の入口の間 血栓と間違えられやすい。剖検200心臓の検討では59.5%に見られた(Piątek-Koziej 2020)
左心耳の造影欠損 左心耳の中 心房細動では、造影剤が十分に混ざらず血栓のように見える(偽血栓)
心房中隔の脂肪腫様肥大 心房中隔 脂肪の濃度で、卵円窩を避けるダンベル型(Meaney 1997)
心膜の陥凹 上行大動脈の周囲など リンパ節や大動脈解離に見間違えられる(関連記事参照)
調節帯・肉柱 右室 右室の中の筋の束。血栓や腫瘤ではない

左心耳の「偽血栓」と遅延相

心房細動の患者さんの冠動脈CT血管造影では、左心耳の造影欠損が血栓のように見えることがあります。7例の心房細動のうち5例に左心耳の造影欠損があり、経食道心エコー・MR血管撮影・遅延相CTでは血栓がありませんでした。心房細動のない250例には、造影欠損は見られませんでした。心房細動の患者さんでは左心耳の容積が大きく、収縮による容積の変化が小さいと報告されています(Saremi 2008)。造影欠損があっても、遅延相や別の検査で確認するまで、血栓と決めないことが大切です。

Coumadin ridge

左房の稜は、左側の肺静脈の入口と左心耳の入口の間にある構造で、血栓と間違えられやすいため「coumadin ridge(warfarin ridge)」とも呼ばれます。200の剖検心臓の検討では、59.5%に見られ、残りの40.5%には見られませんでした(Piątek-Koziej 2020)。人によって有無が違う変異です。

心房中隔の脂肪腫様肥大

12例のCTの検討では、脂肪の濃度の塊が冠静脈洞から大動脈基部のすぐ上まで伸び、卵円窩を避けて「ダンベル型」の形になりました。造影されず、境界は滑らかで均一でした。この特徴から、心臓の他の腫瘤と区別できます(Meaney 1997)。

読み方のチェックリスト

  1. 撮影は心電図同期か、造影のタイミングはどこか(動脈相か、遅延相か)
  2. 大動脈基部を探し、前に右室、後ろに左房を確認する
  3. 左右は形・壁の厚さ・血管のつながりで決める(造影の濃さだけで決めない)
  4. 心耳の形(右は三角形、左は指状)と、内部の造影欠損の有無
  5. 弁・冠静脈洞・心膜洞・心膜陥凹の場所を確認する
  6. 「腫瘤」を見たら、分界稜・Chiari網・coumadin ridge・脂肪腫様肥大・心膜陥凹を思い出す

よくある疑問(Q&A)

Q1. 右室と左室は、CTでどう見分けますか?

位置(右室は前、左室は左後方)、壁の厚さ(左室が厚い)、内側の形(右室は肉柱が粗く調節帯がある)で見分けます。つながる血管(右室から肺動脈、左室から大動脈)も手がかりになります。

Q2. 左心耳の中の欠けは、すべて血栓ですか?

いいえ。心房細動の患者さんでは、造影剤の混ざりが悪く、血栓のように見える偽血栓が起こります(Saremi 2008)。遅延相のCT、経食道心エコー、MR血管撮影などで確認します。

Q3. 健診のCTで「心臓に異常」と書かれたら、どうすればよいですか?

書かれた内容が正常変異か、病的な所見かは、画像の種類と症状で変わります。気になる症状があれば医療機関へ相談し、結果の意味は循環器内科や放射線科の医師に確認してください。

Q4. 冠動脈CTと、心臓の部屋を見るCTは同じですか?

心電図同期の造影CTは、冠動脈の評価にも心臓の部屋・弁の評価にも使われます。冠動脈の見方は冠動脈CTの見方の記事で整理しています。

参考文献

  1. Boxt LM. CT anatomy of the heart. Int J Cardiovasc Imaging. 2005;21(1):13-27. PubMed
  2. Rajiah P, MacNamara J, Chaturvedi A, et al. Bands in the Heart: Multimodality Imaging Review. Radiographics. 2019;39(5):1238-1263. PubMed
  3. Loukas M, Sullivan A, Tubbs RS, et al. Chiari’s network: review of the literature. Surg Radiol Anat. 2010;32(10):895-901. PubMed
  4. Saremi F, Channual S, Gurudevan SV, et al. Prevalence of left atrial appendage pseudothrombus filling defects in patients with atrial fibrillation undergoing coronary computed tomography angiography. J Cardiovasc Comput Tomogr. 2008;2(3):164-71. PubMed
  5. Groell R, Schaffler GJ, Rienmueller R. Pericardial sinuses and recesses: findings at electrocardiographically triggered electron-beam CT. Radiology. 1999;212(1):69-73. PubMed
  6. Shah SS, Teague SD, Lu JC, et al. Imaging of the coronary sinus: normal anatomy and congenital abnormalities. Radiographics. 2012;32(4):991-1008. PubMed
  7. Meaney JF, Kazerooni EA, Jamadar DA, et al. CT appearance of lipomatous hypertrophy of the interatrial septum. AJR Am J Roentgenol. 1997;168(4):1081-4. PubMed
  8. Piątek-Koziej K, Hołda J, Tyrak K, et al. Anatomy of the left atrial ridge (coumadin ridge) and possible clinical implications for cardiovascular imaging and invasive procedures. J Cardiovasc Electrophysiol. 2020;31(1):220-226. PubMed

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