誤嚥性肺炎とは文字どおり、主に高齢者の誤嚥により起こる肺炎であり、異物が下気道に入ることによって起こります。実は誤嚥性肺炎にはよくあるタイプのものだけではなく、
- びまん性誤嚥性細気管支炎
- Mendelson症候群(メンデルソン症候群)
- 人工呼吸器関連肺炎
と言ったものも含まれます。
今回は、誤嚥性肺炎について原因から症状、画像診断、治療までまとめました。
先に結論:誤嚥性肺炎のCT
- 誤嚥性肺炎は、飲み込む力やせきの力が弱った高齢者などで、口の中の細菌や食べ物・胃の内容物が気管に入って起こる肺炎です。むせがはっきりしない(不顕性誤嚥)ことも多いです
- CTでは重力のかかる場所、つまり寝ていることが多い人では下葉の背側(S6・S10)や上葉の後ろ側(S2)に、浸潤影・小葉中心性の粒状影が出やすいのが特徴です
- 治療は抗菌薬に加え、口の中を清潔にする(口腔ケア)・飲み込みの評価と訓練・食事の姿勢や形態の工夫による再発予防が大切です
- メンデルソン(Mendelson)症候群は、胃酸を含む胃の内容物を一度に誤嚥して起こる化学的な肺の障害で、細菌感染が主体の通常の誤嚥性肺炎とは区別されます。誤嚥から数時間以内に急に息苦しくなるのが特徴です
※高齢の方で、発熱・せき・息苦しさ・元気がないなどの変化があるときは、早めに受診してください。
誤嚥性肺炎の原因菌(起因菌)は?

高齢者における誤嚥性肺炎の原因菌(起因菌)は以下の通りです。
- 腸内細菌:クレブシエラ(肺炎桿菌)、プロテウス、セラチア、大腸菌
- 黄色ブドウ球菌
- 肺炎球菌
- 嫌気性菌
- インフルエンザ菌 など
誤嚥性肺炎の種類は?
大きく、3種類の病態があります。
- 口腔咽頭の微生物や内容物が肺に入って感染が起こる。
- 誤嚥性肺炎(通常型)
- びまん性誤嚥性細気管支炎
- 胃内容物が肺に入って炎症が起こる(Mendelson症候群)。
- 人工呼吸器が関連する肺炎(人工呼吸器関連肺炎)
びまん性誤嚥性細気管支炎(慢性嚥下性細気管支炎)とは?
口腔咽頭の微生物や内容物を誤嚥する一般的な誤嚥性肺炎の他に、慢性の神経疾患などで長期寝たきりの場合、比較的少量の口腔内容物を持続的に誤嚥する結果、肺にびまん性に粒状影を認めることがあります。
この病態をびまん性誤嚥性細気管支炎(慢性嚥下性細気管支炎)と呼びます。
びまん性誤嚥性細気管支炎(慢性嚥下性細気管支炎)の診断のポイント
- 病歴が重要:嚥下障害・寝たきり・神経疾患・認知症(Matsuse 1996)や、胃食道逆流症・食道の病気(Hu 2015)など誤嚥の背景がある。誤嚥のエピソードがはっきりしないことも多い。
- 荷重部(背側)優位の分布が多い(Pereira-Silva 2014)。
- 両側の小葉中心性の粒状影・分枝状影(tree-in-bud)(Hu 2015)
Mendelson症候群(メンデルソン症候群)とは?
Mendelson症候群(メンデルソン症候群)とは、pHの低い胃酸の誤嚥によって引き起こされる化学的肺炎であり、重症化することがあります。
急性肺障害(ALI)/急性呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)が主体となり、画像上もこれらに類似する強い所見となります。
名前は、1946年に産科の全身麻酔中に胃内容物を誤嚥した妊婦を報告したMendelsonに由来します。約44,000件の分娩のうち誤嚥は66例(0.15%)で、誤嚥から2時間以内に呼吸困難とチアノーゼが出現し、胸部X線では片側または両側の下葉に浸潤影がみられました。液体を誤嚥した64例は抗菌薬なしで回復しています(Mendelson 1946、Salik 2023)。
メンデルソン症候群(誤嚥性肺臓炎)と誤嚥性肺炎の違い
| メンデルソン症候群(誤嚥性肺臓炎) | 誤嚥性肺炎(通常型) | |
|---|---|---|
| 誤嚥するもの | 胃酸を含む胃の内容物 | 口の中・のどの細菌を含む唾液や食べ物 |
| 主な病態 | 酸による化学的な肺の障害 | 細菌感染 |
| 経過 | 誤嚥から数時間以内に急に発症 | 数日かけて発熱・せき・痰が出ることが多い |
| CT | 両側に広がる浸潤影〜すりガラス影(ARDSに似る) | 荷重部の気管支に沿った浸潤影・小葉中心性粒状影 |
人工呼吸器関連肺炎(VAP:ventilator-associated pneumonia)とは?
気管挿管・人工呼吸開始から48時間以降に新たに発生した肺炎を人工呼吸器関連肺炎と呼びます。装置のチューブに沿って口腔咽頭の菌が肺へ侵入することで起こると考えられています。
誤嚥性肺炎の症状は?
誤嚥性肺炎の症状は、誤嚥した内容物によっても異なります。
特に胃酸の誤嚥の場合は、化学的肺炎を起こして非常に重症化することがあり、人工呼吸器が必要になることがあります。
高齢者の嚥下困難、食事の誤嚥、夜間の不顕性誤嚥などによる気道刺激の結果、症状としては
- 咳
が多いとされています。

その他、
- 頻呼吸
- 喀痰
- 発熱
などが挙げられます。
どんな人が誤嚥性肺炎を起こしやすいか?
誤嚥性肺炎を起こしやすい人を以下に列挙します。
誤嚥のリスクがある人は、
- 長期臥床
- アルコールや覚せい剤などの薬物中毒
- 麻酔後
- 頭部外傷後
- 精神遅滞・認知障害
- パーキンソン病
- けいれん性疾患
- 脳血管障害
- 気管切開後
- 経鼻胃管挿入
- 胃食道疾患:胃食道接合部の弛緩がある場合、胃内圧や容積の上昇がある場合。
- 神経筋疾患があり声門の閉鎖ができない場合。
誤嚥性肺炎の好発部位は?

臥位で最も影響を受けやすいとされる
- 上葉背側
- 下葉の上区域
- 肺底部の背側
といった肺の荷重部位(dependent portion)に起こりやすいのが特徴です。
しばしば両側に起こりますが、片側に起こることもあります。片側の場合は右に多いとされています。
嚥下障害が確認された誤嚥性肺炎53例のCTでは、背側優位が92%にみられ、上下方向では下肺優位が47%、上下に広がるびまん性分布が53%でした(Komiya 2013)。つまり上葉にも病変が出ることは珍しくありませんが、背側に分布するのが基本で、前側や上葉だけに限られる肺炎は嚥下障害による誤嚥性肺炎らしくないとされています(Komiya 2013)。
誤嚥性肺炎の画像所見は?
胸部X線(レントゲン)の特徴
胸部X線では下肺野(特に右)の浸潤影として見えることが多いです。ただし背側や心臓の後ろの病変は見えにくく、X線ではっきりしなくてもCTで背側に浸潤影が見つかることがあります。
CTの特徴
CTでは上記の好発部位に背側に優位に気管支を中心とした浸潤影(肺胞性陰影)を認めるのが特徴です。この荷重部位に起こる点で、通常の細菌性肺炎と鑑別できることがあります。65歳以上の市中肺炎で胸部CTを撮影した348例の検討では、意識障害とADL低下(Barthel指数低値)が下葉優位の分布と、男性と意識障害が背側優位の分布と関連し、意識障害が誤嚥性肺炎を最もよく示唆する因子と考えられました。一方、荷重部優位の分布そのものは院内死亡とは関連しませんでした(Komiya 2022)。
CTのパターンとしては、上記53例で気管支肺炎型が68%と最も多く、細気管支炎型(小葉中心性の粒状影が主体)が17%、大葉性肺炎型が15%でした(Komiya 2013)。
症例 80歳代男性

両下葉に浸潤影あり。右上葉には小葉中心性の粒状影あり。
誤嚥性肺炎を疑う所見。診断:誤嚥性肺炎。
症例 70歳代 男性

CT所見:右上下葉に広範な浸潤影あり。
気管支には上葉及び下葉ともに残渣あり。
診断:誤嚥性肺炎。
ただし、特殊なタイプである2つは以下の分布を示します。
- びまん性誤嚥性細気管支炎:小葉中心性の粒状影(びまん性汎細気管支炎(DPB:diffuse panbronchiolitis))に類似する)
- Mendelson症候群:ALI/ARDSに類似した広範な浸潤影〜すりガラス影
症例 70歳代男性

CT所見:胃がんの癌性腹膜炎治療中。胃液の誤嚥あり。
両下葉及び中葉舌区に広範な浸潤影あり。
Mendelson症候群と診断された。
誤嚥性肺炎の治療は?
誤嚥性肺炎の治療では、抗菌薬投与が推奨されます。口の中の菌やグラム陰性桿菌を考えて抗菌薬が選ばれます。なお米国胸部学会・感染症学会の市中肺炎ガイドライン(2019年)では、誤嚥性肺炎が疑われても、肺膿瘍や膿胸を疑う場合を除き嫌気性菌カバーをルーチンに追加しないことが提案されています(弱い推奨)。
胃液の誤嚥であるMendelson症候群の場合最も大事なのは吸引することです。予防的に抗生物質やステロイドが用いられることがありますが、推奨されないとされています。
誤嚥性肺炎でよくある疑問(Q&A)
Q. メンデルソン症候群は普通の誤嚥性肺炎と何が違うのですか?
A. メンデルソン症候群は胃酸による化学的な障害で数時間以内に急に悪くなり、通常の誤嚥性肺炎は細菌感染で数日かけて症状が出ることが多いです(上の表を参照)。
Q. 誤嚥性肺炎が上葉に出ることはありますか?
A. あります。寝た姿勢で誤嚥すると上葉の後ろ側(S2)にも流れ込みます。大事なのは背側に分布しているかで、前側や上葉だけに限られる場合は他の肺炎も考えます。
最後に
今回は誤嚥性肺炎についてまとめました。
誤嚥性肺炎は高齢者に多い疾患であり、中でもリスクのある人には注意が必要です。
嘔吐や食事中の咳など誤嚥の可能性を示唆するエピソードを一緒にいた家族が目撃していた場合はより診断に近づきます。
つまり、そのようなエピソードがなくてもこの病気を疑うことが診断の第一歩なのです。
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参考文献
- Marik PE. Aspiration pneumonitis and aspiration pneumonia. N Engl J Med. 2001;344(9):665-71. PubMed
- Mandell LA, Niederman MS. Aspiration Pneumonia. N Engl J Med. 2019;380(7):651-663. PubMed
- Metlay JP, Waterer GW, Long AC, et al. Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America. Am J Respir Crit Care Med. 2019;200(7):e45-e67. PubMed
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- Kalil AC, Metersky ML, Klompas M, et al. Management of Adults With Hospital-acquired and Ventilator-associated Pneumonia: 2016 Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America and the American Thoracic Society. Clin Infect Dis. 2016;63(5):e61-e111. PubMed
- Komiya K, Ishii H, Umeki K, et al. Computed tomography findings of aspiration pneumonia in 53 patients. Geriatr Gerontol Int. 2013;13(3):580-585. PubMed
- Mendelson CL. The aspiration of stomach contents into the lungs during obstetric anesthesia. Am J Obstet Gynecol. 1946;52:191-205. PubMed
- Salik I, Doherty TM. Mendelson Syndrome. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023. PubMed
- Matsuse T, Oka T, Kida K, et al. Importance of diffuse aspiration bronchiolitis caused by chronic occult aspiration in the elderly. Chest. 1996;110(5):1289-1293. PubMed
- Hu X, Yi ES, Ryu JH. Diffuse aspiration bronchiolitis: analysis of 20 consecutive patients. J Bras Pneumol. 2015;41(2):161-166. PubMed
- Pereira-Silva JL, Silva CI, Araújo Neto CA, et al. Chronic pulmonary microaspiration: high-resolution computed tomographic findings in 13 patients. J Thorac Imaging. 2014;29(5):298-303. PubMed
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