先に結論:PID(骨盤内炎症性疾患)とは

  • PID(pelvic inflammatory disease)は、子宮・卵管・卵巣など骨盤内の臓器や腹膜に起こる炎症の総称で、骨盤内感染症とも呼ばれます
  • 原因の多くは腟・子宮頸管からの上行性感染(クラミジア・淋菌や一般細菌など)です
  • 炎症は、子宮頸管炎・子宮内膜炎 → 卵管炎 → 卵管留膿腫・卵管卵巣膿瘍 → 骨盤腹膜炎と広がります
  • CTでは骨盤内の脂肪織濃度上昇・骨盤内の液体貯留・腹膜の肥厚がよくみられ、卵管卵巣膿瘍があれば壁の厚い多房性の嚢胞性病変として描出されます
  • 卵管卵巣膿瘍は虫垂炎・卵巣茎捻転・異所性妊娠と症状が似ます。腫れた卵巣と正常な虫垂の確認、卵巣の血流、妊娠反応を合わせて見分けます(下の表)
  • 以下で、それぞれのCT・MRIでの画像所見を解説します

骨盤内感染症・骨盤内炎症性疾患(PID:pelvic inflammatory disease)とは?

  • 小骨盤を占める腹膜の炎症を総称するが、広義には子宮・付属器・小腸・直腸など骨盤内臓器、あるいはそれらを覆う臓側腹膜や壁側腹膜の炎症をいう。
  • 婦人科領域では、卵管炎、卵巣周囲炎、卵管・卵巣膿瘍を含む非特異的感染症。
  • 婦人科領域での感染症としては、他に外陰・膣部への感染症があり、性器ヘルペス感染症、尖圭コンジローマなどがあるが、画像診断が必要になることはない。
  • 原因は子宮を介しての上行性感染(主に性行為感染症)がほとんどであり、淋菌、クラミジア、大腸菌や膣・頸管の常在菌群の感染が原因となる。
  • 多くは複合感染。結核性は血行性。
  • 危険因子は若年者、複数の性行為パートナー、経膣的医療行為(人工授精など)、子宮内膜細胞診、子宮内避妊器具(intrauterine contraceptive device:IUD)。
  • IUDなどの異物をきっかけに放線菌感染(actinomycosis)が起こることがある。腹膜や靱帯などの臓器境界を越えて進展することがあり、悪性腫瘍との鑑別が問題になる(Shibuki 2024)。
  • PIDの後は卵管性不妊や子宮外妊娠が増える。腹腔鏡でPIDと確認された女性の追跡では、卵管性不妊が10.8%(腹腔鏡で異常のなかった女性では0%)、その後の最初の妊娠が子宮外妊娠となった割合は9.1%(同1.4%)で、卵管性不妊はPIDの回数・重症度とともに増えていた(Weström 1992)。また癒着性子宮後転症も合併しやすい。
  • 発熱、下腹部痛、内診による付属器領域の圧痛、帯下の増量などを症状とするが、無症状のことも少なくなく、特にクラミジア感染は無症状のことが多いと言われている。
  • またクラミジアは卵管に炎症が波及しても、他の菌と比べて激烈な症状に乏しく、下腹部痛のみで、白血球増加や発熱などの炎症所見を認めないこともある。結果、パートナーとの間で感染を反復、慢性化し、卵管狭窄をきたし、不妊症の原因となる。画像で診断されるのはかなり進行してから(クラミジアが卵管におよび拡張をきたしてから)。
  • クラミジアの診断は、子宮頸管擦過検体からの病原体の同定、抗原検査が第一選択だが、コストなどの理由で血清抗体検査(IgA,IgG)がスクリーニングで用いられることが多い。
  • 治療は抗生剤投与。骨盤腹膜炎は、重症感染症へ移行することが多いため、外科的処置を念頭に治療をする必要がある。卵管卵巣膿瘍と診断したら入院とし、細菌検体を採取したうえで抗菌薬治療と膿瘍のドレナージを組み合わせる。フランスのガイドライン(2019年)では、汎発性腹膜炎や敗血症性ショックなど重症例は手術(腹腔鏡・開腹)とし、それ以外では経腟超音波ガイド下穿刺が手術より侵襲の少ない選択肢で治癒率も高いとされている。
  • 適切な治療が施されずに慢性化すると、慢性骨盤部疼痛、子宮外妊娠、不妊症などの後遺症を生じることがある。
  • 鑑別診断は、子宮外妊娠、卵巣出血、卵巣腫瘍茎捻転、虫垂炎、憩室炎、結核性腹膜炎など。

 骨盤内感染症の診断基準

必須診断基準:

  • 下腹痛
  • 子宮付属器周辺の圧痛

付加診断基準:

  • 発熱
  • WBC,CRPの上昇

特異的診断基準:

  • 経腟超音波やMRIにおける膿瘍像の確認
  • 腹腔鏡による炎症の確認

(産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来診療編2017)

※画像は必須ではない。なので難しい。なお米国CDCの性感染症治療ガイドライン(2021年)では、骨盤痛のある性的に活動的な若年女性で、子宮・付属器の圧痛または子宮頸部の可動痛のいずれかを認め、他の疾患が考えにくければ、PIDとして経験的に抗菌薬治療を始めることが推奨されています。

超音波(エコー)でわかること

経腟超音波は婦人科で最初に行われることの多い検査です。

  • 急性の卵管炎では、卵管壁の肥厚と、卵管を輪切りにしたときに歯車のように見えるcogwheel signが急性期を示す所見とされています(Timor-Tritsch 1998)。
  • 同じ報告では、卵管壁の不完全な隔壁(incomplete septum)が急性・慢性を問わず卵管の炎症の最もよい指標で、全体の92%にみられました(Timor-Tritsch 1998)。
  • 臨床的に卵管炎が疑われた52例の前向き研究では、両側の付属器腫瘤は卵管炎の82%にみられ、他の診断では17%でした(Romosan 2013)。
  • ただし文献をまとめたレビューでは、経腟超音波だけでPIDを診断する力には限りがあるとされています(Romosan 2014)。超音波で異常がなくてもPIDは否定できません。

※PID疑いとのことですが、膿瘍はありません。程度しか言えない。

骨盤内感染症・骨盤内炎症性疾患(PID)の画像所見

子宮頸管炎・子宮内膜炎

子宮頸管がSTDにおいて初期に感染する部位である。

MRI画像所見としては、

  • 子宮頸部の腫大
  • T2強調像での頸部の信号上昇

などを認める。

卵管炎、卵管留膿腫、卵管卵巣膿瘍

卵管は骨盤内臓器で最も炎症が起こりやすい部位であり、子宮から上行性に付属器に炎症が及ぶと卵管炎となる。

卵管炎

MRI画像所見としては、

  • 卵管壁の浮腫・肥厚・造影効果

を認める。

周囲への炎症波及を反映し

  • 骨盤内脂肪織濃度上昇
  • 仙骨子宮靱帯に沿った濃度上昇・造影効果増強

を認める。

卵管炎が遷延すると、慢性卵管炎となり、線維化・癒着を認める。

これにより卵管采が閉鎖すると、炎症が治まっても漿液性の液体貯留が残って、卵管水腫(hydrosalpinx)となる。

卵管留膿腫

卵管に膿が溜まると、卵管留膿腫となる。

MRI画像所見としては、

  • 水よりもやや信号強度の高い内溶液を含む壁の厚い、C型あるいはS型の管状(ソーセージ状)の嚢胞性腫瘤として認められる。
  • 卵管壁は厚く、造影効果を認める。
  • なお卵管内には線状の粘膜ヒダが認められる。
  • 膿瘍成分を反映して、拡散強調像で高信号、ADC信号低下を認める。

卵管卵巣膿瘍

卵巣に炎症が及ぶと、卵巣にも膿瘍形成を来たし、卵管卵巣膿瘍となる。

MRI画像所見としては、

  • 壁の厚く、多数の隔壁で境された多房性嚢胞性病変として認められる。
  • 仙骨子宮靱帯に沿った濃度上昇・造影効果増強がさらに明瞭化
  • 膿瘍壁の内層がT1強調像で高信号となることが多く、鑑別に有用な所見である。(壁内層の微小出血を混在した肉芽組織を反映)。

卵管卵巣膿瘍の画像所見のまとめ

検査 主な所見
経腟超音波 付属器領域の壁の厚い多房性腫瘤、内部の濁った液体(エコー)、卵巣と卵管の境界が不明瞭
CT 壁が厚く造影される多房性の嚢胞性腫瘤、周囲の脂肪織濃度上昇、骨盤内の液体貯留、直腸・S状結腸の壁肥厚
MRI 多房性嚢胞性病変、内容液は拡散強調像で高信号・ADC低下、壁の造影効果、壁内層のT1強調像高信号

卵巣が膿瘍に巻き込まれて正常な形がわからなくなるのが、卵管留膿腫(卵管だけの膿瘍)との違いです(Revzin 2016)。

骨盤腹膜炎

さらに炎症が広がると、小骨盤腔に到達し、骨盤腹膜炎となる。

Douglas窩などに腹腔内膿瘍を形成したり、腹腔内に炎症が波及することにより麻痺性イレウスを起こすことがある。

画像所見としては、

  • 腹膜の肥厚・造影効果増強
  • Douglas窩膿瘍形成の場合、MRIの拡散強調像で高信号、ADC信号低下

などを示すようになる。

骨盤腹膜炎の症状

骨盤腹膜炎では、下腹部痛が強くなり、発熱や吐き気・嘔吐を伴うことがあります。卵管卵巣膿瘍の患者では、半数ほどに発熱・吐き気・嘔吐などの全身症状がみられるとされています(Bridwell 2022)。

下腹部痛や発熱、おりものの異常など気になる症状があれば、早めに医療機関(婦人科)を受診してください。

PID・卵管卵巣膿瘍のCT画像所見

救急外来では、腹痛の原因を調べるためにまずCTが撮られ、そこで初めてPIDが見つかることも少なくありません。

クラミジア・淋菌が確認され救急外来でCTを撮影された44例の検討では、

  • PIDに合う所見があったのは77.3%
  • 多かった所見は骨盤内脂肪織濃度上昇(86.4%)、骨盤内の液体貯留(79.5%)、腹膜の肥厚(72.7%)
  • 卵管卵巣膿瘍は36.4%にみられ、すべて正しく指摘されていた
  • 一方で、淡い腹膜の肥厚は見落とされやすい所見だった

と報告されています(Meller 2026)。

卵管卵巣膿瘍は、CTでは子宮の横(付属器領域)に壁が厚く造影される多房性の嚢胞性腫瘤として見え、周囲の脂肪織濃度上昇を伴います。

卵管卵巣膿瘍の診断には経腟超音波とCTが使われますが、CTのほうが感度が高く、虫垂炎・憩室炎など消化管の病気との区別にも役立つとされています(Bridwell 2022)。

腫瘍と間違えやすい骨盤部の感染症

骨盤の感染症は、卵巣癌や婦人科の腫瘍に似た画像になることがあります。次の3つは特に注意が必要です。

病気 腫瘍に似る理由 見分けの手がかり
卵管卵巣膿瘍 造影される充実部分(偽腫瘍様の部分)と嚢胞が混在し、卵巣癌に見える 拡散強調像でADC値が低い、拡張した卵管がある、発熱・炎症反応などの臨床像
骨盤の放線菌症 強く造影される充実性の腫瘤が周囲へ浸潤し、骨盤内が固まったように見える(frozen pelvis) 腫瘤の中の小さな膿瘍と、リング状の造影効果。子宮内避妊器具(IUD)の使用歴
結核(女性生殖器・腹膜) 腹水・両側卵巣の腫大・腹膜の肥厚・CA125上昇が、進行した卵巣癌に似る 肺など他の部位の結核を示す所見、壊死を伴う骨盤内リンパ節。最終的には組織や菌の検査で診断
  • 卵管卵巣膿瘍と卵巣悪性腫瘍:両者を比べた69例のMRIの検討では、嚢胞成分の平均ADC値は膿瘍で1.04×10-3 mm2/s、悪性腫瘍で2.42×10-3 mm2/sと、膿瘍のほうが有意に低い値でした。ADC値と拡張した卵管の所見を合わせると、AUCは0.996でした(Wang 2016)。通常のMRIだけでは判断が難しいことがあり、拡散強調像が役に立ちます。
  • 骨盤の放線菌症:IUDなどの異物をきっかけに起こり、造影CT・MRIでは強く造影される充実性の腫瘤とその中のリング状に造影される小さな膿瘍が手がかりです。線維化のため充実部分と周囲の索状影はT2強調像で中間〜低信号になります。漿膜や靱帯を越えて膀胱・直腸・腹壁などへ広がり、骨盤内腫瘍や子宮内膜症に似た像になることがあります(Shibuki 2024)。
  • 結核:女性生殖器に結核が起こるのは結核全体の約1%で、症状がはっきりせずCA125が上がるため、画像・臨床像の両方で卵巣癌に似ることがあります(Shibuki 2024)。腹水、両側の卵巣の腫大、腹膜・腸間膜・大網の索状影があった腹膜結核の報告があり、卵管・卵巣・腹膜を丁寧に見ることが診断の助けになるとされています(Chien 2016)。

間違えやすいポイント:膿瘍でも発熱がはっきりしないことがあります。造影される壁や充実部分があるだけで癌と判断せず、拡散強調像、IUDの使用歴、他部位の結核を示す所見、血液検査を合わせて考えます。

卵管卵巣膿瘍と虫垂炎・卵巣茎捻転・異所性妊娠の見分け方

卵管卵巣膿瘍は、若い女性の下腹部痛という点で、虫垂炎・卵巣茎捻転・異所性妊娠と症状がよく似ています。画像では次の点を確認します(Iraha 2017)。

疾患 見分けるポイント
卵管卵巣膿瘍 腫れた卵巣・卵管が一塊の多房性腫瘤となり壁が厚く造影される。周囲(特に卵巣の周り)の脂肪織濃度上昇。両側のこともある。虫垂は正常
急性虫垂炎 虫垂の腫大・壁肥厚・糞石、虫垂周囲の脂肪織濃度上昇や膿瘍。卵巣は正常のことが多い
卵巣茎捻転 腫大した卵巣(腫瘍や嚢胞を伴うことが多い)、捻じれた茎(渦巻き状)、卵巣の造影不良。壁の厚い膿瘍の形はとらない
異所性妊娠 妊娠反応(hCG)陽性、子宮内に胎嚢がない、付属器の腫瘤と血性の腹水(CTで高吸収の液体)

右側の卵管卵巣膿瘍48例と急性虫垂炎80例のCTを比べた検討では、読影医は92%を正しく分類できました。卵管卵巣膿瘍では卵巣の異常(87.5%)、卵巣周囲の脂肪織濃度上昇(58.3%)、直腸・S状結腸の壁肥厚(37.5%)が多く、虫垂の異常は2%だけでした。一方、虫垂炎では虫垂の拡張(80%)が多くみられました。また、虫垂が見つからなかったのは卵管卵巣膿瘍の45.8%、虫垂炎の15%で、虫垂が見えないこと自体は区別の決め手になりませんでした(Eshed 2011)。

妊娠の可能性がある年齢では、まず妊娠反応を確認し、異所性妊娠を除外することが大切です。

PID・骨盤内膿瘍でよくある疑問(Q&A)

Q1. 卵巣膿瘍(卵管卵巣膿瘍)とは?原因は?

卵管の炎症が卵巣まで広がり、卵管と卵巣が一塊になって膿がたまった状態です。多くはPIDに続いて起こりますが、子宮内避妊器具(IUD)、子宮の処置、複数の性交渉の相手、糖尿病、免疫が低下した状態も関連し、消化管の病気が原因になることもあります(Bridwell 2022)。

Q2. 骨盤膿瘍は婦人科の病気だけで起こりますか?

いいえ。骨盤内の膿瘍は、PID・卵管卵巣膿瘍のほか、虫垂炎や大腸憩室炎の穿孔、手術後などでも起こります。CTでは膿瘍がどの臓器とつながっているかを追い、原因を考えることが大切です。

Q3. 卵管炎はエコーでわかりますか?

卵管壁の肥厚やcogwheel signなどがあれば強く疑えますが、軽い卵管炎では異常が出ないこともあります(Romosan 2014)。そのため診断は症状と診察(下腹部痛・付属器の圧痛など)が中心で、画像は膿瘍の有無や他の病気の除外に使われます。

Q4. PIDの診断基準は?画像検査は必要ですか?

米国CDCのガイドラインでは、骨盤痛のある性的に活動的な若年女性で、子宮・付属器の圧痛または子宮頸部の可動痛があり、他の病気が考えにくければPIDとして治療を始めるとされています(Workowski 2021)。画像は診断に必須ではありませんが、卵管卵巣膿瘍の有無や、虫垂炎・異所性妊娠など他の病気の除外に役立ちます。

Q5. 骨盤内の感染症が卵巣癌と間違えられることはありますか?

あります。卵管卵巣膿瘍、骨盤の放線菌症、腹膜や女性生殖器の結核などが、画像や腫瘍マーカーの上で卵巣癌に似ることが報告されています(Wang 2016、Shibuki 2024、Chien 2016)。見分けには拡散強調像のほか、発熱などの症状、IUDの使用歴、他の臓器の所見を合わせます。

Q6. IUDを入れていると放線菌症になりやすいのですか?

骨盤の放線菌症は、IUDなどの異物をきっかけに起こることがあるとされています(Shibuki 2024)。ただし、まれな病気です。IUDを使っていて、下腹部痛・発熱・不正出血などが続く場合は婦人科で相談してください。

まとめ

参考:臨床画像 vol.34 No.4 2018 P412-416

 

参考文献

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