股関節周囲には複数の滑液包が存在しますが、画像診断で特に重要なのは大転子部滑液包群、腸腰筋滑液包/腸恥滑液包、坐骨滑液包です。
加えて内閉鎖筋滑液包や外閉鎖筋滑液包も鑑別上重要となります。
股関節周囲の主な滑液包
- 大転子部滑液包群(trochanteric / peritrochanteric bursae)
- 腸腰筋滑液包/腸恥滑液包(iliopsoas bursa / iliopectineal bursa)
- 坐骨滑液包(ischiogluteal bursa, ischial bursa)
- 内閉鎖筋滑液包(obturator internus bursa)
- 外閉鎖筋滑液包(obturator externus bursa)
1. 大転子部滑液包群
- 大転子周囲には単一の「trochanteric bursa」があるわけではなく、複数の滑液包からなる複合体として理解するのが適切。
- 代表的には subgluteus maximus bursa、subgluteus medius bursa、subgluteus minimus bursa が挙げられる。
- 大転子部痛症候群(greater trochanteric pain syndrome: GTPS)は外側股関節痛の代表的原因であるが、その実体は滑液包炎単独ではなく、中殿筋・小殿筋腱症、部分断裂、腱付着部障害などを含む広い概念である。したがって、画像では滑液包だけでなく外転筋腱を必ず併せて評価すべき。
CT、MRI所見
- 大転子外側または後外側に沿う低吸収の液体貯留、壁肥厚、周囲脂肪織濃度上昇として認識される。
- 慢性例では壁肥厚のみで目立たないこともあり、CT単独では中殿筋・小殿筋腱障害の評価が不十分となることがある。骨棘、石灰化、変形性変化の評価には有利である。
- MRIでは、T2強調像や脂肪抑制T2/STIRで大転子周囲の高信号液体貯留を認める。重要なのは、滑液包液体貯留のみで症候性とは限らず、中殿筋・小殿筋腱の腱症、部分断裂、付着部周囲浮腫の合併を評価することである。
症例 40歳代女性 3週間前の転倒後から、腫脹と左股関節痛

引用:radiopedia
左大転子部(殿筋下)滑液包に、壁肥厚と液体貯留を認めています。
大転子部滑液包炎を疑う所見です。
2. 腸腰筋滑液包/腸恥滑液包(iliopsoas bursa / iliopectineal bursa)
- 腸腰筋滑液包(腸恥滑液包)は股関節前方に位置し、腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)腱と前方関節包の間に存在する。人体で最大の滑液包とされ、健常者でもおよそ10〜15%で股関節と交通するとされる。
- 股関節炎、変形性股関節症、関節リウマチ、人工股関節関連病変などに続発して拡張しうる。
- この部位は解剖学的には腸腰筋腱、恥骨筋、前方関節包の近傍にまたがって存在し、文献上も iliopsoas bursa と iliopectineal bursa が同義的に記載されることが多い。さらに、画像上問題となる前方滑液包性病変の多くがこの滑液包の拡張として説明可能であり、しかも股関節との交通のために「股関節病変の前方への逃げ場」として振る舞う。そのため放射線科レポートでは、厳密な局所解剖の差を細かく分けるよりも、前方の代表的滑液包拡張であることを示す目的で「腸恥滑液包」と総称する方が実務的である。
- 前方股関節痛、鼠径部腫瘤、股関節伸展時痛、スナッピング感の原因となる。高度に拡張すると大腿神経や血管系の圧迫を来すこともある。腸腰筋滑液包炎は比較的稀で見逃されやすいが、背景に股関節疾患が隠れていることが多い。
CT、MRI所見
- 股関節前方から腸腰筋の走行に沿う境界明瞭な低吸収の嚢胞性病変として描出される。
- 薄い壁を有する単房性のことも、多房性・分葉状のこともある。
- 背景に関節液貯留、変形性股関節症、骨頭壊死、人工関節周囲変化を伴う場合は、股関節由来の二次性変化を疑う。
- 出血や感染を合併すると内部濃度上昇、壁肥厚、周囲炎症を伴いうる。
症例 70歳代男性

左の大腰筋および腸骨筋(あわせて腸腰筋)内に涙滴状の低吸収域を認め、滑液包を疑う所見です。
場所から、腸腰筋滑液包/腸恥滑液包(iliopsoas bursa / iliopectineal bursa)への液貯留であると診断することができます。
症例 60歳代男性

同様に右の大腰筋および腸骨筋(あわせて腸腰筋)内に涙滴状の低吸収域を認め、滑液包を疑う所見です。
場所から、腸腰筋滑液包/腸恥滑液包(iliopsoas bursa / iliopectineal bursa)への液貯留であると診断することができます。

特に症状はなく1年後のフォローのCTでは滑液包の液貯留は消失しています。
3. 坐骨滑液包(ischiogluteal bursa)
- 坐骨滑液包は坐骨結節と大殿筋下縁/周囲軟部組織の間に位置する。
- 長時間座位や反復圧迫と関連し、古典的には “weaver’s bottom” として知られる。近位ハムストリング起始部病変との位置関係が近いため、画像上の鑑別が重要である。
CT、MRI所見
- 坐骨結節の後下方に位置する境界明瞭な嚢胞性病変として描出される。
- 慢性例や反復刺激例では壁肥厚を伴い、時に腫瘤様にみえる。感染、出血、結晶沈着、石灰化が加わると内部の均一性が失われる。
症例 30歳代女性 左股関節痛。手術歴あり。

引用:radiopedia
左坐骨結節と大殿筋の間、左ハムストリング腱に近接して、浮腫および軽度の液体貯留を認めています。
骨髄浮腫を示す所見は認めていません。
坐骨滑液包炎(ischiogluteal bursitis)に合致し、左股関節痛の原因である可能性が高いと考えられます。
4. 内閉鎖筋滑液包(obturator internus bursa)
- 内閉鎖筋滑液包は比較的稀であるが、殿部痛や鼠径部痛、深殿部痛の原因となる。
- MRIでは内閉鎖筋腱と坐骨の溝状面との間に位置し、特徴的な形態をとるため、知っていれば診断しやすい。代表的所見は、内閉鎖筋腱と坐骨後面溝との間にみられるブーメラン状の液体貯留である。T2強調像で高信号、T1で低信号を示し、炎症が強いと壁の造影増強や周囲筋浮腫を伴う。
5. 外閉鎖筋滑液包(obturator externus bursa)
- 外閉鎖筋滑液包は股関節後下方の潜在的な滑液包であり、股関節包の後下方交通路として理解される。
- 股関節病変の波及経路になりうる点が重要である。
- MRIでは、外閉鎖筋腱と関節包後下方の間に細長い液体貯留として認識される。股関節との交通を示す例があり、滑液包拡張をみた場合は単独病変というより股関節内病変や関節液増加の反映として読む必要がある。
症例 70歳代男性

両側股関節後下方に外閉鎖筋滑液包に相当する(股関節の後内側〜後下方、外閉鎖筋の上、関節包の近く)軽度液体貯留を認めます。
症例 70歳代男性

右股関節に関節液貯留を認め、後下方で外閉鎖筋上方へ連続する液体貯留を伴っています。
外閉鎖筋滑液包拡張を示唆する所見です。
参考文献:
- Corvino A, Silvestre M, Corvino F, et al. Iliopsoas bursitis: The role of diagnostic imaging in detection, differential diagnosis, and treatment. Radiol Case Rep. 2020.
- Hirji Z, Hunjun JS, Choudur HN. Imaging of the bursae. J Clin Imaging Sci. 2011.
- Kong A, Van der Vliet A, Zadow S. MRI and US of gluteal tendinopathy in greater trochanteric pain syndrome. Eur Radiol. 2007.
- Cho KH, Lee SM, Lee YH, Suh KJ. Non-infectious ischiogluteal bursitis: MRI findings. Korean J Radiol. 2004.
- Wunderbaldinger P, et al. Imaging features of iliopsoas bursitis. Eur Radiol. 2002.
- Peters A, et al. Bursa iliopectinea—size and morphology. 1988.
- Van Mieghem IM, et al. Ischiogluteal bursitis: an uncommon type of bursitis. 2004.
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