先に結論:乳癌術後の局所の変化
- 乳癌術後は液体貯留(漿液腫)・浮腫・皮膚肥厚が早期に、瘢痕・脂肪壊死・石灰化が後から見られ、多くは時間とともに落ち着きます
- 一度安定した後に大きくなる・新しく出てくる病変は再発を疑うサインです
- CTで乳癌は造影される腫瘤として写り、胸部CTで偶然見つかった乳房の病変は乳腺の精査(マンモグラフィ・超音波)につなげます
- インプラント再建後は破損(MRIが最適)や、まれなBIA-ALCL(遅れて出てくる大量の液体貯留)にも注意します
術後に見られる局所的変化
- 形態変化/構築の乱れ・瘢痕・線維化:切除・縫縮に伴う体積減少や瘢痕性収縮が生じる。時間経過で安定化するが、増大や新規出現は再発の赤旗である。
- 浮腫・皮膚肥厚:急性期に顕著。多くは経時的に改善する。
- 石灰化:脂肪壊死や治療性変化に伴う変性石灰化は治療後しばらくして出現しうる。
- 液体貯留(漿液腫・血腫):術後早期に高頻度。通常は縮小する。
- SBI/TE関連所見:被膜内外破損、被膜拘縮、周囲炎症、稀にBIA‑ALCL を念頭に置く。CTは胸部撮像の機会が多く、偶発所見として検出される。
時相ごとのポイント
- 急性期(術直後〜数か月):液体貯留、浮腫、皮膚肥厚が主体。時間とともに減弱する。
- 亜急性〜晩期:瘢痕・線維化や脂肪壊死、治療性石灰化が前景化。安定化した後の増大・新規出現は再発を疑う。
漿液腫(seroma)
- 術腔や腋窩リンパ節郭清部に浸出液が嚢胞状に貯留した状態。
- CTでは低吸収の境界明瞭な液体貯留として描出される。
- 一般に縮小傾向を示し、多くは約1〜2年で消失する(1年以内に消退する報告と、平均24か月で消失した報告がある)。増大傾向は再発の可能性に留意する。
- 放射線治療は漿液腫の縮小を遅らせうる。経時的体積変化の評価が有用。
症例 50歳代女性

右乳癌に対して部分切除が施行された。術後に液貯留を認め漿液腫(seroma)を疑う所見を認めている。
症例 60歳代女性

左乳癌術後に液貯留を認め漿液腫(seroma)を疑う所見を認めていたがフォローで消失している。
乳癌のCT所見:再発と偶然見つかる乳房病変
- 乳癌は造影CTで造影される軟部濃度の腫瘤として写り、不整形・境界不明瞭なものほど悪性を疑います。ただし胸部造影CTで写っていた乳癌84例の検討では約半数が境界明瞭で、形だけでは良悪性を決められません(Park 2023)。
- 同じ検討では、乳癌の64.3%がCTの読影で指摘されておらず、9mm未満の小さい病変や造影の弱い病変ほど見落とされやすいとされました(Park 2023)。胸部CTでは乳房も読影範囲として確認します。
- 乳癌の病期診断以外の胸部CTで乳房の異常を指摘され、乳房の画像検査で経過を追えた75例では、13例(17.3%)が悪性でした(Healey 2018)。
- 術後の乳房では、瘢痕は時間とともに縮むか変わらないのに対し、再発は増大する造影結節や皮膚・胸壁へ広がる軟部影として現れます。術前や過去のCTと並べて比べることが大切です。
- 皮膚肥厚は術後・放射線治療後によく見られますが、手術や放射線治療と関係なく広い範囲の皮膚肥厚や浮腫がある場合は、炎症性乳癌や皮膚への浸潤も鑑別に挙げます。
乳房シリコンインプラント(SBI:Silicone Breast Implant)/組織拡張器,ティッシュエキスパンダー(TE:Tissue Expander)の評価
- 人工物(TE・SBI)による乳房再建が普及し、胸部CTで偶然写る機会も増えている。
- 破損リスクは経年で上昇する。
- FDAは術後5〜6年で初回の超音波またはMRI、その後2〜3年毎の定期検査を推奨している(無症状例のサーベイランス)。
乳房インプラントの破損
- インプラントの破損には、周囲の線維性被膜が保たれている被膜内破損と、線維性被膜も破損しシリコンが周囲へ漏出する被膜外破損がある。
- 被膜内破損:線維性被膜は保たれ、シリコンは被膜内に限局。検出能はMRIが優れる。CTでは内折れやシェル虚脱を示唆する所見をとらえ得るが感度は低い。
- 被膜外破損:被膜も破綻し遊離シリコンが周囲へ漏出。CTではインプラント外の高吸収シリコンやシェル断裂を描出しやすい。
稀な晩期合併症:乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA‑ALCL)
- 乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA‑ALCL:Breast Implant–Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma)は、主としてテクスチャードタイプのインプラントに関連し、発症までの中央値は約8〜10年とされる。
- 初発は遅発性の周囲液貯留(遅発性セローマ)が最多である。
- CTでは遅発性の大量皮下/被膜周囲液体貯留、被膜肥厚・小結節、腋窩リンパ節腫大などに注意する。疑った場合はUS下穿刺で液体を採取し、細胞診・CD30免疫染色等で評価する。初期評価は超音波が適切である。BIA-ALCLはCD30陽性・ALK陰性の腫瘍細胞を特徴とし、液体貯留のみの病型は一般に緩徐な経過で手術により治癒が期待できる一方、腫瘤形成型はより侵攻性で全身治療が考慮される。
乳癌術後の漿液腫でよくある疑問(Q&A)
Q. 術後の漿液腫(セローマ)は再発のサインですか?
A. 漿液腫は術後によく見られる液体のたまりで、多くは時間とともに小さくなります。一度小さくなった後に増える場合や、中に造影される結節がある場合は、再発や感染などを考えて詳しく調べます。
Q. 漿液腫は抜く必要がありますか?
A. 小さく症状がなければ経過をみることが多く、張って痛い、感染が疑われるなどの場合に穿刺して抜くことがあります。術後の乳房のはれや痛み、赤みなど気になる症状があれば、手術を受けた医療機関に相談してください。
参考
- Imaging of the treated breast post breast-conserving therapy:術後の時相変化・赤旗所見の整理。
- Krishnamurthy et al., Radiographics:術後液体貯留は多くが1年内に縮小・消退。
- Computed Tomographic Findings of Postoperative Seroma:CTでの漿液腫の経時変化(平均24か月で消失)。
- ACR Appropriateness Criteria(2023)/MRIレビュー:インプラント整合性評価はUS/MRIが基本、CTは特に被膜外破損で有用。
- Breast implants on CT—pictorial review:CTでの被膜内/外破損や被膜石灰化の描出。
参考文献
- Krishnamurthy R, Whitman GJ, Stelling CB, et al. Mammographic findings after breast conservation therapy. Radiographics. 1999;19 Spec No:S53-62. PubMed
- Sharma B, Jurgensen-Rauch A, Pace E, et al. Breast Implant-associated Anaplastic Large Cell Lymphoma: Review and Multiparametric Imaging Paradigms. Radiographics. 2020;40(3):609-628. PubMed
- Samreen N, Glazebrook KN, Bhatt A, et al. Imaging findings of mammary and systemic silicone deposition secondary to breast implants. Br J Radiol. 2018;91(1089):20180098. PubMed
- Clemens MW, Jacobsen ED, Horwitz SM. 2019 NCCN Consensus Guidelines on the Diagnosis and Treatment of Breast Implant-Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma (BIA-ALCL). Aesthet Surg J. 2019;39(Suppl_1):S3-S13. PubMed
- Thai JN, Sodagari F, Colwell AS, et al. Multimodality Imaging of Postmastectomy Breast Reconstruction Techniques, Complications, and Tumor Recurrence. Radiographics. 2024;44(5):e230070. PubMed
- Park J, Kim C, Cha YK, et al. Missed and Detected Incidental Breast Cancers on Contrast Enhanced Chest CT: Detection Rates and CT Features. Diagnostics (Basel). 2023;13(9):1522. PubMed
- Healey TT, Agarwal S, Patel R, et al. Cancer Yield of Incidental Breast Lesions Detected on Chest Computed Tomography. J Comput Assist Tomogr. 2018;42(3):453-456. PubMed
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