先に結論:単純CTで貧血に気づくポイント

  • 造影剤を使わない胸部CTで、心臓の中や大動脈の中の血液が、心筋(心室の壁)より黒っぽく見えるときは、貧血(ヘモグロビンの低下)を示唆します。血液のCT値はヘモグロビン濃度と相関するためです
  • 重い貧血では心拡大・胸水を伴うことがあり、出血源・腫瘍・髄外造血など貧血の原因の手がかりがCTで見つかることもあります
  • CTの所見はあくまで目安で、診断は血液検査(ヘモグロビン値)で行います。思いがけず見つけたら、主治医に知らせることが大切です

胸部CTで貧血があることを示唆する所見は?

貧血は多くの病態と関連するため、その診断や評価において胸部CTが役立つ場合がある。

胸部CTで貧血を示唆する所見について以下にまとめます。

1. 大動脈・心臓(心腔内)の低吸収(low attenuation)(CT値の低下)

  • 単純CTで胸腹部大動脈や心腔内のCT値が低下している場合、血液の希釈を反映している可能性がある。特に、心腔内のCT値の低下は相対的に心室壁の心筋が心腔内よりも高吸収に見えることで視覚的にも判断することができる。大動脈壁が内腔の血液より白く見える「aortic ring sign」は感度が高く(82〜84%)、心室中隔が心腔より白く見える「septal sign」は特異度が高い(99〜100%)と報告されています。大動脈内の血液のCT値35HU以下を貧血の目安とすると感度84%・特異度94%でした。造影CTでは血液のCT値をそのまま使えませんが、スペクトラル(デュアルエナジー)CTで作る仮想単純画像(VNC)なら評価できます。522例の検討では、VNCの血液のCT値で男性39.2HU・女性37.6HUを境に健常と貧血を区別でき、CT値とヘモグロビン値には直線的な関係がみられました。
  • 特に急性出血性貧血や大量輸液後に観察されることがある。

症例 90歳代男性 高度貧血あり。

心筋と比較すると心腔内および大動脈内の低吸収が目立ち、貧血を示唆する所見です。

2. 心臓の拡大

  • 貧血では酸素不足を補うために心拍出量が増え、長く続くと心臓の拡大や左室肥大につながります。高度の貧血ではうっ血性心不全を起こすことがあります(Metivier 2000)。

3. 心腔の拡大・肺高血圧(遺伝性の貧血)

  • 鎌状赤血球症などの遺伝性の貧血では、心腔の拡大や肺高血圧がみられやすいと報告されています(Lopes 2022)。

4. 骨髄増生の兆候

  • 慢性の溶血性貧血(サラセミアなど)では、胸椎の両わきに髄外造血による軟部腫瘤がみられることがあります。髄外造血は傍脊椎領域に最も多いとされます(Orphanidou-Vlachou 2014)。

5. 胸水や心嚢液貯留

  • 重度の貧血による高拍出性心不全や、貧血の原因となる病気(腎不全・低栄養・悪性腫瘍など)に伴って、胸水や心嚢液が貯留することがあります。

6. 間接的な貧血の原因の評価

  • 貧血を引き起こす基礎疾患がCTで確認できる場合があります。
    • 出血の徴候:胸腔内や肺内の出血影。
    • 腫瘍:造血器腫瘍や転移性腫瘍による骨髄抑制。
    • 炎症性疾患:慢性疾患に伴う二次性貧血(例:感染症や膠原病)。

CTで貧血を疑う所見と目安の一覧

所見・計測 報告された目安・診断能
aortic ring sign(大動脈壁が内腔より白い) 感度84%・特異度92%(Kamel 2008)
septal sign(心室中隔が心腔より白い) 感度72%・特異度100%(Kamel 2008)
大動脈内の血液のCT値35HU以下 感度84%・特異度94%(Kamel 2008)
心室中隔と左室内腔のCT値の差 13.5HUを超えると高度貧血の感度・特異度が良好(Zhou 2018)

貧血と胸部CTでよくある疑問(Q&A)

Q. 貧血だと心臓はどう見えますか?
A. 心臓の中の血液が心筋より黒っぽく見え、長く続くと心臓が大きくなることもあります。

Q. CTで貧血を指摘されたらどうすればよいですか?
A. CTの所見は目安で、診断は血液検査で行います。息切れ・動悸・ふらつきなど気になる症状があれば、早めに医療機関を受診してください。

まとめ

胸部CTは、貧血の直接的・間接的な所見を視覚的に捉えることができる有用な検査です。特に非造影CTにおいては、心腔内や大動脈内の血液のCT値とヘモグロビン濃度の相関が研究で示されており、臨床判断の一助となります。

引用文献:

参考文献

  1. Abbasi B, Seyed Hosseini M, Moodi Ghalibaf A, et al. Evaluating anemia on non-contrast thoracic computed tomography. Sci Rep. 2022;12(1):21380. PubMed
  2. Kamel EM, Rizzo E, Duchosal MA, et al. Radiological profile of anemia on unenhanced MDCT of the thorax. Eur Radiol. 2008;18(9):1863-8. PubMed
  3. Jung C, Groth M, Bley TA, et al. Assessment of anemia during CT pulmonary angiography. Eur J Radiol. 2012;81(12):4196-202. PubMed
  4. Zhou QQ, Yu YS, Chen YC, et al. Optimal threshold for the diagnosis of anemia severity on unenhanced thoracic CT: A preliminary study. Eur J Radiol. 2018;108:236-241. PubMed
  5. Zopfs D, Rinneburger M, Pinto Dos Santos D, et al. Evaluating anemia using contrast-enhanced spectral detector CT of the chest in a large cohort of 522 patients. Eur Radiol. 2021;31(6):4350-4357. PubMed
  6. Metivier F, Marchais SJ, Guerin AP, et al. Pathophysiology of anaemia: focus on the heart and blood vessels. Nephrol Dial Transplant. 2000;15 Suppl 3:14-18. PubMed
  7. Lopes A, Dantas MT, Ladeia AMT. Prevalence of Cardiovascular Complications in Individuals with Sickle Cell Anemia and Other Hemoglobinopathies: A Systematic Review. Arq Bras Cardiol. 2022;119(6):893-899. PubMed
  8. Orphanidou-Vlachou E, Tziakouri-Shiakalli C, Georgiades CS. Extramedullary hemopoiesis. Semin Ultrasound CT MR. 2014;35(3):255-262. PubMed

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