膵癌術後再発・転移様式、術後の経過観察期間
- 膵癌早期の再発・転移チェックでは特に肝転移、複数領域への転移例が多く、1年以上経過して再発した症例では、肺もしくは局所での再発が多かったと報告されている。
- 切除可能境界例や術直前のCA19-9が高い症例では早期再発が多いとも報告されている。
- 「膵癌診療ガイドライン 2016年版,第4版」によると、膵癌の術後再発は大半が手術後2年以内に見られることから、手術後最初の2年間は3〜6ヶ月毎、その後は6〜12ヶ月毎に少なくとも5年間のフォローアップを推奨している。
- また、「2019年版,第5版」では、術後の長期生存が見込まれる患者が増加しており、手術後5年以上経過した患者の定期的なフォローアップの重要性が提案されている。この提案は、「2022年版,第6版」においても継続されている。
膵癌術後の総肝動脈・上腸間膜動脈周囲軟部腫瘤
- 膵頭十二指腸切除術後、しばしば総肝動脈や上腸間膜動脈周囲に軟部腫瘤(perivascular soft tissue: PVST)を認め、局所再発との鑑別に苦慮することがある
- 悪性病変に対して膵頭十二指腸切除術後→全例、慢性膵炎など良性病変に対して膵頭十二指腸切除術後→57%に同所見を認めたと報告されている。
- また、悪性病変に対して膵頭十二指腸切除術を施行した症例のうち約30%は、大部分が2年以内に増大を認める再発が疑われたと報告されている。
- リンパ節転移を有する症例の方が、優位に本所見を有することが多かったと報告している。
- 従って、同所見は、リンパ管に沿って進展した腫瘍やリンパ節郭清に伴うリンパのうっ滞などをみている可能性があり、少なくとも2年間は厳重に観察する必要があることを示唆される。
症例 60歳代 膵頭部癌にてPD後
引用:World J Gastroenterol . 2011 Mar 7;17(9):1126-34
術後3ヶ月でははっきりしていませんが、11ヶ月では上腸間膜動脈(SMA)周囲にわずかな軟部影を認め、22ヶ月のCTでは上腸間膜動脈(SMA)の根部および遠位周囲に軟部影が増大しており、再発と診断されました。
膵癌術後の腸間膜リンパ節腫大
- 腸間膜リンパ節腫大は悪性病変に対して膵頭十二指腸切除術後→70.5%、慢性膵炎、膵管内乳頭粘膜性腫瘍など良性病変に対して膵頭十二指腸切除術後→52.4%に認めたと報告されている。
- また、悪性病変に対して膵頭十二指腸切除術を施行した症例のうち19.4%は、経過中の増大を認めたが、同時に腸間膜根部に再発を伴っていたと報告されている。
- この点から、膵頭十二指腸切除術後の腸間膜リンパ節腫大単独であれば(腸間膜根部には認めていなければ)、一般的に悪性を疑うリンパ節腫大形態(短径10mmを超える、短径/直径比が1に近い)であっても、強く再発を疑わせる所見ではないと考えられる。
膵癌の遠隔転移の画像診断のポイント
- 膵癌の肝転移は、初期では動静脈シャント様濃染のみを呈することがあるため、注意が必要。
- EOB(ethoxybenzyl)造影MRIによる肝転移の検出能は高いため、臨床的に再発が疑われるにもかかわらず超音波検査やCTにて肝転移が見られない場合には、EOB造影MRIによる評価は有用。
- 肺転移では特に個数が少ない、オリゴ転移では手術適応となることがあるため、その指摘は重要であるが、膵癌の肺転移は約2割においてhalo signを伴う結節、気管支拡張を伴う結節、浸潤影+すりガラス影、すりガラス影などの非典型的な形態を呈することがあるため、注意が必要。
オリゴ転移とは??
遠隔転移を来した病巣の数が数個のみの状態をオリゴ転移という。転移があってもオリゴ転移であれば局所治療を行うことによって長期生存、場合によっては根治に導けることがあることが知られるようになった。
症例 60歳代女性 膵体部癌
膵体部にSMAなど血管を巻き込む乏血性腫瘤を認めており、既知の膵体部癌とわかります。
肝には多数の低吸収域を認め多発肝転移が疑われます。
両側肺野にすりガラス影を主体とする多発結節を認めており、多発肺転移(lepidic metastasis)が疑われます。
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参考文献:画像診断 Vol.43 No.11増刊号 2023 P98-107