上腸間膜動脈症候群(superior mesenteric artery syndrome:SMA症候群)は、十二指腸水平脚が上腸間膜動脈と大動脈の間で圧迫され、通過障害を来す疾患です。
CTでは、十二指腸の圧迫部位と、その口側の胃・十二指腸拡張を確認します。大動脈とSMAの角度・距離も診断の参考になりますが、数値が小さいという理由だけでSMA症候群とは診断できません。症状と実際の通過障害を合わせて判断することが重要です。[1–4]
上腸間膜動脈症候群とは?症状と発症の背景
十二指腸水平脚(第3部)は、大動脈の腹側、SMAの背側を横切ります。この部位で十二指腸がSMAを含む腸間膜根部と大動脈との間に挟まれ、部分的あるいは高度の閉塞を生じます。Wilkie症候群とも呼ばれます。[1,2]
代表的な症状は、食後の上腹部痛・膨満感、早期満腹感、悪心、嘔吐です。食事摂取量が減り、体重減少が進むこともあります。症状が慢性的・間欠的に続く場合と、急激な胃・十二指腸拡張で発症する場合があります。[1]
若年者や痩身の女性で知られていますが、男性や高齢者にも発症します。年齢や性別だけで除外せず、体重の変化、基礎疾患、手術歴を確認します。
体重減少と解剖学的な条件が関係します
急激な体重減少によって、大動脈とSMAの間の脂肪組織が減ると、十二指腸が圧迫されやすくなります。もともとの血管走行や十二指腸の固定位置も関係します。[1,2]
- 体重減少・低栄養:神経性やせ症、悪性腫瘍、吸収不良、重症疾患などが背景になります。
- 成長や脊椎の変化:思春期の急速な身長増加、脊柱側弯症の矯正手術などが誘因となります。
- 長期臥床・術後:栄養状態や腸間膜の位置関係の変化が関与することがあります。
- 解剖学的要因:SMAの低位起始、Treitz靱帯の高位付着などが挙げられます。
通過障害によって食べられなくなり、さらに体重が減るという悪循環にも注意が必要です。
上腸間膜動脈症候群のCT画像所見
まず十二指腸の狭窄部と口側拡張を確認します
胃の拡張だけでは原因はわかりません。胃から十二指腸を連続して追い、SMAと大動脈の間で十二指腸水平脚が急に狭くなるかを確認します。典型例では、狭窄部より口側の十二指腸と胃が拡張します。[2]
- 十二指腸水平脚の、SMAと大動脈の間での圧迫・扁平化
- 狭窄部に向かう急峻な口径変化
- 口側の十二指腸拡張と胃拡張、液体や食物残渣の貯留
- 大動脈とSMAの間の脂肪組織の減少
単純CTでも拡張や狭窄の手がかりを得られますが、造影CTは血管との位置関係、周囲の腫瘍・炎症、消化管壁の造影状態の評価に有用です。横断像に加え、矢状断・斜位MPRを用いると圧迫部位を把握しやすくなります。[1,2]
大動脈-SMA角度と距離の測定方法
| 評価項目 | 測定する部位 | 参考となる所見 |
|---|---|---|
| 大動脈-SMA角度 | SMA起始部を通る矢状断・斜位MPRで、大動脈とSMA近位部のなす角度を測定します。 | 22°未満がよく引用される目安です。 |
| 大動脈-SMA距離 | 十二指腸水平脚が通過する高さで、大動脈前面とSMA後面の間隔を測定します。 | 8mm未満がよく引用される目安です。 |
これらは診断を支持する参考値であり、単独で用いる確定診断基準ではありません。基準値は研究や測定法で異なります。よく引用されるÜnalらの報告も小規模な検討で、角度は超音波で測定されています。そこで得られた診断性能を、そのまま一般のCT検査に当てはめることはできません。[2,3]
無症状者333人を調べた研究では、十二指腸圧迫を伴わずに小さな角度・距離を示す例がありました。また、角度は呼吸相でも変化します。数値が境界域の場合ほど、圧迫部位、口側拡張、臨床症状を優先して評価します。[4,5]
距離は十二指腸が通過する高さで測定します。左腎静脈が通過する高さの間隔と混同しないようにします。
症例:腹痛を認めた女性

提示画像では胃と十二指腸が拡張し、十二指腸水平脚がSMAの背側で圧迫されています。拡大像では、圧迫部に向かって十二指腸が嘴状に細くなる様子を確認できます。十二指腸水平脚の圧迫と口側拡張の組み合わせから、SMA症候群を疑う所見です。
この提示画像には角度・距離の実測値は含まれていないため、数値の評価には元のCTデータが必要です。
同じ症例で左腎静脈の圧迫も認めます

左腎静脈もSMAと大動脈の間で圧迫され、狭くなっています。ナットクラッカー現象を示唆する所見です。
元記事では、手術によりSMA症候群とナットクラッカー現象が確認されたと記載されています。ただし、提示された症例情報には血尿などの記載がなく、左腎静脈圧迫による症状の有無は判断できません。
画像出典:Radiopaedia「SMA syndrome and nutcracker phenomenon」。元記事掲載の注釈付き画像を使用しています。
ナットクラッカー現象・症候群との違い
SMA症候群では十二指腸が、前方型のナットクラッカー現象では左腎静脈が、大動脈とSMAの間で圧迫されます。共通する解剖学的背景があるため、両者は併存することがあります。[2,6]
| 名称 | 圧迫される構造 | 診断上のポイント |
|---|---|---|
| SMA症候群 | 十二指腸水平脚 | 通過障害と、それに対応する腹部症状を評価します。 |
| ナットクラッカー現象 | 左腎静脈 | 画像上の圧迫所見を指し、無症状の場合もあります。 |
| ナットクラッカー症候群 | 左腎静脈 | 圧迫に起因する血尿、蛋白尿、左側腹部痛などを伴います。他の原因の除外も必要です。 |
したがって、左腎静脈が細いだけで「ナットクラッカー症候群」とは記載しません。関連症状や尿所見を確認し、必要に応じてドプラ超音波などで評価します。[6]
胃・十二指腸拡張を来す疾患との鑑別
鑑別では、狭窄の位置と原因がSMAによる圧迫に一致するかを確認します。代表的な疾患と着眼点は以下のとおりです。[1,2]
| 鑑別疾患 | 鑑別の着眼点 |
|---|---|
| 胃出口部閉塞 | 胃拡張を認めますが、狭窄の中心は幽門部・十二指腸球部です。腫瘍や潰瘍性狭窄を確認します。 |
| 十二指腸・膵の腫瘍、周囲リンパ節腫大 | 限局性壁肥厚や腫瘤、周囲からの圧排を探します。血管間の角度が小さくても、別の閉塞原因を見落とさないことが重要です。 |
| 輪状膵などの解剖学的異常 | 輪状膵では主に十二指腸下行脚を取り囲む膵組織を確認します。狭窄の高さがSMA症候群とは異なります。 |
| 腹部大動脈瘤による十二指腸圧迫 | 十二指腸水平脚の閉塞を来しますが、拡張した大動脈瘤による圧迫が中心です。 |
| 胃不全麻痺・慢性偽性腸閉塞 | 明確な機械的閉塞を確認できない場合に考えます。糖尿病、薬剤、全身性疾患などの背景と、消化管運動の評価を組み合わせます。 |
CT所見と症状が一致しないとき
必要に応じて上部消化管造影で、十二指腸の通過遅延や体位による変化を確認します。超音波では血管間の距離・角度や十二指腸の状態を動的に観察でき、内視鏡は腫瘍や潰瘍など他の原因の評価に役立ちます。検査は、何を確認したいかに応じて選択します。[1]
上腸間膜動脈症候群の治療
合併症や全身状態を評価したうえで、通常は減圧と栄養状態の改善を中心とする保存的治療を検討します。[1,7]
- 胃・十二指腸の減圧:嘔吐や著明な拡張がある場合は、必要に応じて胃管で減圧します。
- 補液・電解質補正:脱水や嘔吐に伴う異常を補正します。
- 栄養療法:経口摂取が可能であれば少量頻回食などを用います。困難な場合は、狭窄部より肛門側への経腸栄養や静脈栄養を検討します。
- 体位調整:左側臥位などで症状が軽減することがあります。効果には個人差があります。
- 背景疾患への対応:体重減少の原因を治療し、摂食障害を伴う場合は心理・精神面の支援も組み合わせます。
少量頻回食や体位調整は、症状軽減や栄養摂取を助ける方法です。これらだけで発症や再発を確実に防げるわけではありません。
2025年のシステマティックレビューでも、栄養状態の改善と症状軽減の関連が示されています。ただし、基礎となる報告の多くにバイアスや記載不足があり、全例に共通する体重増加の目標値や治療期間は定まっていません。[7]
十分な保存的治療でも通過障害や低栄養が改善しない場合は、十二指腸空腸吻合術などの外科的治療を検討します。角度や距離の数値だけで手術適応を決めず、症状、栄養状態、治療反応から判断します。[1,2]
読影時の注意点:高度拡張と合併症
著明な胃拡張では、胃壁の障害や誤嚥などを伴うことがあります。壁内ガス、門脈ガス、壁の造影不良、腹腔内遊離ガスを認める場合は、虚血・穿孔などの合併症を評価し、速やかに臨床側へ伝えます。壁内ガスや門脈ガスだけで壊死と断定せず、他の画像所見と全身状態を合わせて判断します。[1]
また、減圧後や間欠的な通過障害では、検査時の拡張が目立たない場合があります。撮影時の症状と、胃管による減圧などの処置歴も確認します。
まとめ:SMA症候群のCTで確認するポイント
- 上腸間膜動脈症候群のCT診断では、十二指腸水平脚の圧迫と口側の胃・十二指腸拡張を対応させます。
- 大動脈-SMA角度・距離は補助所見です。小さな数値だけで診断せず、症状や体重変化を確認します。
- 腫瘍、輪状膵、大動脈瘤など、別の閉塞原因を検索します。
- 左腎静脈圧迫を伴う場合は、ナットクラッカー現象と症候群を区別します。
- 高度拡張では合併症を評価し、減圧・栄養管理につながる情報を臨床側へ伝えます。
参考文献
- Oka A, Awoniyi M, Hasegawa N, et al. Superior mesenteric artery syndrome: Diagnosis and management. World J Clin Cases. 2023;11(15):3369–3384. DOI: 10.12998/wjcc.v11.i15.3369. PMID: 37383896.
- Gozzo C, Giambelluca D, Cannella R, et al. CT imaging findings of abdominopelvic vascular compression syndromes: what the radiologist needs to know. Insights Imaging. 2020;11(1):48. DOI: 10.1186/s13244-020-00852-z.
- Ünal B, Aktaş A, Kemal G, et al. Superior mesenteric artery syndrome: CT and ultrasonography findings. Diagn Interv Radiol. 2005;11(2):90–95. PMID: 15957095.
- Hadi SS, Kareem TF, Kamal AM. Normal values of angle and distance between the superior mesenteric artery and aorta in Iraqi population: A single centre study. J Med Radiat Sci. 2022;69(2):191–197. DOI: 10.1002/jmrs.561.
- Sekino H, Ishii S, Saito Y, et al. Aortomesenteric angle: A contrast-enhanced computed tomography analysis of respiratory phase and visceral fat impact. J Clin Imaging Sci. 2025;15:2. DOI: 10.25259/JCIS_65_2024.
- Kolber MK, Cui Z, Chen CK, et al. Nutcracker syndrome: diagnosis and therapy. Cardiovasc Diagn Ther. 2021;11(5):1140–1149. DOI: 10.21037/cdt-20-160.
- Gibson D, Plotkin M, Foster M, Mehler PS. Predictors of Successful Weight Restoration in the Treatment of Superior Mesenteric Artery Syndrome: A Systematic Review. Nutrients. 2025;17(18):2998. DOI: 10.3390/nu17182998.
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