乳酸アシドーシス(にゅうさんアシドーシス)という体の血液の状態が酸性に傾く病態があります。

ちょっと難しい用語ですが、どんなことが原因で起こり、どんな症状が出ることがあるのでしょうか?

糖尿病の人や、糖尿病のメトホルミンという種類の薬を飲んでいる場合はとくに注意が必要とされます。

今回は、そんな乳酸アシドーシス(英語でLactic acidosis)について、

  • そもそも乳酸アシドーシスとは
  • 原因
  • 症状
  • 診断
  • 治療

といった点についてわかりやすくまとめました。

乳酸アシドーシスとは?

乳酸アシドーシスとは、血中の乳酸の値が上昇し、(非ケトン性)アシドーシスとなり、意識障害から昏睡などに至る疾患です。

上のように、酸素が足りない嫌気的条件のもとでピルビン酸は乳酸脱水素酵素(LDH)により乳酸が産生されます。

そしてこの乳酸からATPが作られエネルギーに変えることができます。

この乳酸の産生と代謝のバランスが崩れ、乳酸の産生が代謝を上回ると乳酸アシドーシスを生じます。

ではどのようなときに、このバランスが崩れるのでしょうか?

 

その原因を次に見ていきましょう。

乳酸アシドーシスの原因は?

乳酸アシドーシスの原因は敗血症、出血、心疾患が多く、糖尿病患者の場合は、アルコール乱用ビグアナイド系経口血糖降下薬に注意を払う必要があります。

さらに細かく見ると、Cohen&Woodsによると、乳酸アシドーシスの原因は大きく

  • 低酸素症があるもの(TypeA)
  • 低酸素症がないもの(TypeB)

に分けられます。

 

それぞれ分けて原因を見ていきましょう。

低酸素症がある場合の乳酸アシドーシスの原因

低酸素症がある場合の原因は以下のものがあります。

  • 低血圧(脱水、出血、心原性ショック、敗血症性ショック)
  • 低酸素血症
  • 重症貧血
  • 一酸化炭素中毒
  • 硫化水素中毒・シアン化物中毒
  • 腸管虚血
  • 四肢壊疽
  • 酸素消費の増大(運動、痙攣発作、ふるえ)

低酸素症がない場合の乳酸アシドーシスの原因

低酸素症がない場合の原因は以下のものがあります。

  • 糖尿病
  • 肝不全
  • 腎不全
  • 敗血症
  • 痙攣
  • 褐色細胞腫
  • 悪性腫瘍
  • SIRS(systemic infallmatory response syndrome)
  • チアミン(ビタミンB1)欠乏
  • 感染症(HIV、マラリアなど)
  • 先天性代謝異常(グルコース-6-ホスファターゼ欠損、MELASなど)
  • D-乳酸アシドーシス
  • 低血糖
  • 薬物・中毒

この中でも一番下の乳酸アシドーシスを起こしうる薬物としては

  • ビグアナイド系経口血糖降下薬(ブフォルミン、メトホルミン)
  • フルクトース
  • ソルビトール
  • キシリトール
  • サリチル酸
  • イソジアニド
  • メタノール
  • エタノール
  • エピネフリン
  • シアン化合物
  • 一酸化炭素
  • β2アドレナリン受容体刺激薬
  • エピネフリン
  • イソニアジド
  • 抗ウイルス薬(抗HIV薬)
  • リトドリン(子宮収縮抑制薬)
  • ナリジクス酸(抗生剤)
  • リネゾリド(抗生剤、バンコマイシン耐性菌)
  • テオフィリン
  • ナイアシン
  • プロポフォール

などが挙げられます1)2)

ビグアナイド系経口血糖降下薬で乳酸アシドーシスが生じることがあることは有名です。

ビグアナイド系経口血糖降下薬にはメトホルミン(メデット®︎など)、ブホルミン(シベトスB®︎)などがあります。

ビグアナイドはCTのヨード造影剤と併用注意

また、これらのビグアナイド系経口血糖降下薬を内服中の人に、CTの造影剤であるヨード造影剤を用いることで、乳酸アシドーシスが起こることがあることが報告されており、「併用注意」となっています。

ビグアナイドは肝臓での乳酸からの糖新生を抑制する作用があります。

とくに腎機能に低下がある場合は、ヨード造影剤により腎機能がさらに低下し、ビグアナイド系経口血糖降下薬の腎臓からの排泄が低下をすることで、乳酸値が増加すると言われています。

そのため、腎機能が悪い人(eGFRが60以下の人)は検査前後48時間はビグアナイド系経口血糖降下薬の内服を中止することが多いです。

乳酸アシドーシスの症状は?

乳酸アシドーシスの症状としては

  • 傾眠から昏睡に至る意識障害
  • 嘔吐・腹痛などの消化器症状
  • 過呼吸

などを示し、しばしばショック状態となります。

 

乳酸アシドーシスの診断は?

乳酸アシドーシスの診断は採血により

  • 代謝性アシドーシス(pH<7.35、アニオンギャップが高値(>20mEq/l))
  • 血中の乳酸値が高値(>5.0mmol/lとなることが多い)
  • 血中乳酸:ピルビン酸比の上昇(>10)

という検査値になることから代謝性アシドーシスがあり、その原因が乳酸であることを診断します。

ただし日常診療の採血では乳酸の値を測定しないことが多いため、ショック状態などから乳酸アシドーシスの可能性を考える必要があります。

代謝性アシドーシスの有無は動脈採血をします(血液ガス分析を行います)。

乳酸アシドーシスの治療は?

乳酸アシドーシスの治療は以下のようになります。

  • 原因への治療
  • 酸素化
  • 輸液・輸血
  • 昇圧剤
  • アルカリ化
  • 透析療法

原因への対処

乳酸アシドーシスの治療は、まず乳酸アシドーシスを起こしている原因への対処が重要です。

原因となっている疾患や状態を治療して、乳酸アシドーシスを起こさないようにします。

酸素化

また低酸素症を認めている場合は、酸素療法を行い、場合によっては人工呼吸器を用いることで酸素化を行います。

輸液・輸血

また循環血漿量の不足を補うために十分な輸液を行い、貧血などがある場合は輸血を行います。

昇圧剤

心拍出量の低下がある場合は、昇圧剤を用いることもあります。

アルカリ化

乳酸アシドーシスでは重篤なアシデミアの状態が、上に挙げたような様々な症状を引き起こしますので、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)(メイロン®︎)を用いることで血液のアルカリ化をはかります。

投与する量は、

  • 重炭酸不足量(mEq)=0.6×体重(kg)×(15-[HCO3]測定値)

の半分を静脈内投与して、再度pHを評価します2)

透析療法

透析により過剰な水分やナトリウムを除去したり、アシドーシスの補正、さらには乳酸を除去することができます。

最後に

乳酸アシドーシスについてまとめました。

乳酸アシドーシスはしばしば重篤になりますので、あらかじめリスクや原因を知った上で、この病態疑う必要があります。

また糖尿病の人でビグアナイドという薬を内服している人は造影CT検査を受ける際には、乳酸アシドーシスのリスクがあるため注意が必要で、腎機能が悪い人の場合は、検査の前後で休薬の必要があることも重要です。

参考になれば幸いです( ^ω^ )

参考文献)
1)総合臨床 今すぐに役立つ輸液ガイドブック P165-169

2)ICU実践ハンドブックP133-136

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