胸水(きょうすい、英語ではPleural effusion)は、医師による診察、胸部レントゲンや、胸部のCTによって診断されます。

では、この胸水を認めた場合、どのような原因や病気が考えられるのでしょうか?

胸部なので、肺の病気が思い浮かびますが、胸水を起こす最も頻度の多い病気は心不全です。

他にも様々な病気が胸水を起こす原因となります。

今回はそんな胸水について、

  • そもそも胸水とは?
  • 胸水の組成・性状による違い
  • 胸水による症状
  • 胸水の原因
  • 胸水の診断

について、図やイラストを交えながら、まとめました。

胸水とは?

胸水とは、胸部の胸膜腔(きょうまくくう)や胸腔(きょうくう)とも呼ばれる臓側胸膜と壁側胸膜の間の空間に貯留する液体のことです。

実はここには正常でも両側で20ml以内のわずかな液体が貯留しています。
これを胸膜液と言います。

この胸膜液は胸壁と肺の協調運動を潤滑にするのに必要であると言われています。

しかし、これが正常範囲を超えて存在する場合は病的であり、胸水と呼ばれます。

なぜ胸水が溜まる?原因は?

正常ならば溜まらない胸水が溜まる原因は何でしょうか?

正常の場合、胸膜液は壁側胸膜で作られて、ほぼ壁側胸膜(一部臓側胸膜)で吸収されます。

産生と吸収のバランスは保たれており、これにより正常よりも多く溜まることはありません。

ところが、

  1. 静脈圧の上昇
  2. 膠質浸透圧の低下
  3. 毛細管透過性の亢進
  4. 胸膜リンパ系通過障害

といったことが原因となり、胸水がたまります。

1,2については、浸透圧の問題で、胸水が漏れてきます。
これを漏出性胸水(ろうしゅつせい)と呼ばれます。
最も多い心不全はこの漏出性で下の図のように1の静脈圧の上昇が原因となります。

一方で、3,4については、滲出性胸水(しんしゅつせい)と呼ばれます。

ほとんどの胸水はこの

  • 漏出性胸水(ろうしゅつせい)
  • 滲出性胸水(しんしゅつせい)

に分けることができます。

同じ胸水であっても、漏出性と滲出性とでその組成、性状が異なります。

漏出性胸水と滲出性胸水の組成・性状の違いは?

漏出性と滲出性とでその組成、性状には以下のような違いがあります。

漏出性 滲出性
見た目 黄褐色透明 多くは混濁、ときに血性、膿性
比重 1.015以下 1.015以上
Rivalta反応 陰性 陽性
蛋白 3.0g/dl以下 3.0g/dl以上
フィブリン 微量 多量
LDH 低値 高値

 

また古典的に用いられるLightの基準1)が知られており、

  • 胸水TP/血清TP  > 0.5
  • 胸水LDH/血清LDH > 0.6
  • 胸水LDHが血清LDH上限値の2/3以上

この3項目で評価をします。

  • この3項目のうち1つでも満たす→滲出性
  • この3項目をいずれも満たさない→漏出性

とされています。

(ただし、心不全に対して利尿薬を使用している場合は、濃縮されるため漏出性であっても滲出性の基準を満たすことがあるので注意が必要です。この場合も血清総蛋白ー胸水総蛋白>3.1となっていれば漏出性であり、利尿薬の影響であることがわかります。)

 

特殊検査では、滲出性胸水の場合、以下のような特徴があります。

赤血球

10,000/μl以上となります。

さらに100,000/μl以上の場合は、

  • 悪性腫瘍
  • 肺梗塞
  • 外傷

が疑われます。

白血球

1.000/μl以上となります。

このうちリンパ球が50%以上を占める場合

  • 結核
  • 悪性腫瘍

を疑います。

一方で、多核白血球が50%以上を占める場合は、

  • 胸膜炎などの急性炎症

を疑います。

pH

7.3以下となります。

基準値よりも低値となる場合は、感染症を示唆します。

ADA値(アデノシンアミラーゼ)

基準値よりも高値となる場合は、結核性胸水を疑います。

腫瘍マーカー

基準値よりも高値の場合は、悪性腫瘍を疑います。

アミラーゼ

基準値よりも高値の場合は、急性膵炎を疑います。
ときに、悪性腫瘍でも高くなることがあります。

その他

リウマチ因子やANA、細胞診が陽性の場合、悪性腫瘍を、培養検査により、細菌感染や結核感染が診断されます。

 

胸水の症状は?

  • 息がきれる
  • 呼吸が苦しい
  • 胸痛
  • 発熱
  • 倦怠感

といった症状を起こします。

さらに、

  • 呼吸をするときに、十分に息を吸えない

という症状が起こり、これは胸膜に病変が及んでいることを示唆する胸水の重要な症状となります。

ただし無症状であることも多くあります。

ちなみに、胸痛(疼痛)は胸腔内で疼痛を感じる神経が分布しているのは壁側胸膜のみですので、胸痛があれば、壁側胸膜に病変があると考えることができます。

壁側胸膜の神経の中でも、肋間神経に病変が及ぶとその病変部位に一致した疼痛が起こりますが、横隔神経に病変が及ぶと同側の肩の放散痛が起こることが知られています。

胸水を起こす原因となっている病気による症状は?

その他、胸水を起こす原因となっている病気による症状が起こります。

多いものですと、心臓や腎臓の病気の場合、

  • 足のむくみ
  • 動悸

肺炎などの感染症の場合は、

  • 咳や痰が出る。

また、肺がんなどの悪性腫瘍の場合は、

  • 血痰が出る。
  • 胸が痛む
  • 食欲低下・体重減少

などの症状が起こります。

 

胸水の原因の病気・鑑別疾患は?

最初に述べたように、胸水は様々な原因で起こります。

その中でも頻度が高いものは

  • 心不全 (漏出性)
  • 感染症 (滲出性)
  • 悪性腫瘍 (滲出性)

です。

中でも心不全は漏出性胸水の大多数を占める原因となります。

一方で、感染症と悪性腫瘍は、滲出性の原因となり、これらで滲出性胸水の半数以上を占めます。

つまり胸水を見たら、この3つを外せないということです。

その他、

  • 肺の病気(肺動脈血栓塞栓症など)
  • 消化器の病気(肝硬変、膵炎など)
  • 自己免疫疾患

といったものが胸水の原因となります。

 

さらに詳しく、漏出性胸水、滲出性胸水を引き起こす原因となる具体的な疾患をまとめると次のようになります。

漏出性胸水の原因・鑑別

  • うっ血性心不全(最多)
  • 肝硬変
  • ネフローゼ症候群
  • 腹膜透析
  • 糸球体腎炎
  • Meigs症候群
  • 収縮性心膜炎
  • 輸液過多
  • 低アルブミン血症
  • 甲状腺機能低下症
  • 卵巣過剰刺激症候群

など

滲出性胸水の原因・鑑別

  • 感染症
    一般細菌性(細菌性肺炎の30-40%で見られる。肺炎随伴性胸水と呼ぶ。)
    結核性
    真菌性
    ウイルス性
    寄生虫
  • 悪性腫瘍
    肺がん
    転移性肺腫瘍:乳がん、胃がんなど
    悪性胸膜中皮腫
    白血病
    リンパ腫
  • 肺塞栓症(原因不明の胸水で考慮の必要がある)
  • 消化器疾患
    膵炎
    膵仮性嚢胞
    肝膿瘍
    脾膿瘍
  • 尿路病変
  • 婦人科病変
    Meigs症候群
    子宮内膜症
  • 自己免疫性疾患
    関節リウマチ(RA)
    全身性エリテマトーデス(SLE)
  • 薬剤性
  • その他
    アスベスト関連良性胸水
    サルコイドーシス
    尿毒症
    血胸
    乳び胸
    臓器移植後
    腹膜透析
    など

このように様々な病気や状態が胸水の原因となることがわかります。

滲出性の原因は局所(胸膜)の問題(特に炎症)であることが多く、漏出性の場合は全身性の影響が胸水の原因として考えられます。

胸水の診断は?

そんな胸水ですが、どうやって「胸水がある」ということを診断するのでしょうか?

まずは医師による身体診察がなされます。

身体診察

身体診察では、視診、触診、聴診、打診といったことが行われます。

胸水が存在することを直接診断するのは、聴診、打診によります。

聴診器で行う聴診では、胸水があるところの呼吸の音は弱くなっているか消えています。

また胸部を指先で叩く打診では、胸水がある部位でその音が濁音に変わります。

ただし、聴診や打診によって診断できる胸水は少なくとも500ml以上あるときとされており、少量の場合は身体診察で胸水の存在はわからないこともあります。

画像検査

そのため、身体診察に加えて、必要に応じてスクリーニング検査を行う必要があります。

これには

  • 胸部X線検査

が有用です。

胸部X線検査では、肋骨横隔膜角(CP-angle)の鈍化として胸水を捉えることができます。

ただし、この所見が見えるのはある程度胸水が溜まった状態であり、胸部単純X線の正面像で胸水を認識しうるのは200ml以上、側面像では50-75ml必要と言われています。

CTの方がより胸水の診断能は高く、レントゲンよりも少量の胸水であっても検出可能です。

片側性胸水か両側性胸水か

また胸水を両側性に認めた場合は、漏出性の胸水の可能性が高いとされますが、滲出性である転移やリンパ腫、肺塞栓、膠原病(SLEやRA)でも見られるので注意が必要です。

一般的に両側に見られうる漏出性の胸水でも左右に見られやすさがあります。

  • 心不全の場合:両側(70%)>右側のみ(20%)>左側のみ(10%)
  • 肝硬変の場合:右側>左側・両側(横隔膜の発達不全(欠損部位)が右側で生じやすいためと考えられている)

となります。

では実際の画像を見ていきましょう。

症例 70歳代女性 心不全

胸部レントゲンでは、葉間胸水に加えて、右のCP-angleが鈍です。

心不全に伴う両側の胸水を疑う所見です。

症例 60歳代 女性 呼吸苦

胸部レントゲン(非提示)で左胸水を認めており、胸部CTで精査となりました。

CTにおいても左側に大量の胸水を認めています。

胸膜は背側において不整な肥厚を認めています。

癌性胸膜炎・胸腔内播種や感染に伴う胸膜炎の可能性を示唆する所見です。

肺野条件では、左下葉に腫瘤を認めています。

胸水ドレナージにて胸水を精査したところ、肺腺癌による悪性胸水と診断されました。

滲出性胸水と漏出性胸水はCTで鑑別できるのか?

CT値の中央値(範囲)として

  • 漏出性 5HU(2-15HU)
  • 滲出性 12.5HU(4-33)

であり、CT値が15HUよりも大きい場合は滲出性胸水を示唆すると報告3)されています。

また滲出性胸水のCT所見として、

  • 胸膜肥厚
  • 胸膜の結節
  • 被包化胸水
  • 胸膜外脂肪織の濃度上昇

が知られています。

このような所見を認めた場合は漏出性よりも滲出性を疑います。

関連記事:【CT画像あり】胸膜炎とは?原因・症状・診断・治療の徹底まとめ!

膿胸と胸水の違いは?

胸膜腔に水が溜まった状態が胸水ですが、水ではなく膿が溜まった状態を膿胸(のうきょう)と言います。

膿胸の原因としては、

  • 細菌性胸膜炎
  • 外科的手術
  • 外傷
  • 食道穿孔

などがあります。

また、膿胸の診断には、胸水穿刺による肉眼的に膿性胸水であることに加えて、

  • 胸水のグラム染色あるいは培養で微生物が検出される
  • 胸水のpH < 7.2

などの検査結果で診断します2)

参考文献)
1)Light RW:Pleural disease,6th ed.Lippincott Williams and Wikins,Philadelphia,2013
2)JAID/JSC感染症治療ガイドライン-呼吸器感染症. 日化療会誌62:1-109,2014
3)Diagn Interv Radiol 2014;20:116-120

最後に

今回は胸水についてまとめました。

  • 胸水とは臓側胸膜と壁側胸膜の間の空間に貯留する液体のこと。
  • 産生と吸収のバランスが崩れた時に胸水は貯留する。
  • 貯留する胸水は組成・性状により分類される
  • 胸水の原因は心不全が最多であるが、それ以外もたくさんの原因・鑑別がある。
  • 胸水の診断は、医師による身体診察に加えて胸部レントゲンなどの画像検査が有効である。

 

胸水が出ると、呼吸苦などの症状を起こすため、胸水を抜く胸水穿刺が行われることがあります。

これにより、症状の緩和が認めるだけでなく、抜いた胸水を調べることにより、原因の究明につながることがあります。

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