人間ドックなどで受けた腹部のCT検査において、Chilaiditi症候群(読み方は「キライディティ」症候群)と診断されることがあります。
日本語では、結腸嵌入症(けっちょうかんにゅうしょう)とも呼ばれるこのChilaiditi症候群とは一体どのような症候群なのでしょうか。
今回は、Chilaiditi症候群について、
- そもそもChilaiditi症候群とは何なのか?
- 原因
- 症状
- 画像
- 治療
について実際の胸部X線や腹部CT画像を交えてまとめました。
Chilaiditi症候群とは?
Chilaiditi症候群とは、右横隔膜と肝臓との間のスペース(perihepatic spaceと呼ばれます)に腸管(主に結腸)が入り込んだ病態です。
肝臓の前に結腸が入り込んだ様子をCTでは捉えることができます。
一過性の場合もありますし、恒常性の場合もあります。
レントゲン画像でこの病態を報告したオーストリアの医師であるChilaiditiにちなんで名前が付けられています。
症候群というよりは「サイン」という方がしっくりくると思います。
頻度は0.025-0.28%に見られ、加齢によりその頻度は増加します。(Clin Radiol 27:113-116,1976、RadioGraphics 27:129-143,2007)
Chilaiditi症候群の原因は?
右横隔膜と肝臓との間のスペースが広い場合、すなわち肝臓の右葉の低形成が先天的に見られたり、肝硬変などで萎縮している場合に認められます。
また精神障害者では頻度が高いと言われています。
Chilaiditi症候群の症状は?
無症状のことが多く、健診などのレントゲンや胸部CT、腹部CTで指摘されることが多いものです。
ただし、
- 腹部膨満感
- 便通異常
- 呼吸障害
- 動悸
といった症状が出ることがあります。
Chilaiditi症候群の画像の特徴は?
胸部レントゲン写真で右の横隔膜の挙上及び、その直下に結腸の入り込みを示唆する空気を認めるのが特徴です。
ここでの注意点としては、胸部レントゲンで横隔膜下に空気を認めたときに消化管穿孔も鑑別に上がりますが、この場合は横隔膜に沿って空気を認めるため、通常は鑑別が可能です。
CT検査では、横隔膜と肝臓の間に結腸を認めることで診断することができます。
参考)右横隔膜下のガスを呈する疾患
- 腸管穿孔(胃、十二指腸潰瘍穿孔)
- Chilaiditi症候群
- 横隔膜下膿瘍(ガス産生菌による)
症例 70歳代男性 健診の胸部レントゲンで異常を指摘され来院
胸部レントゲン写真において、右の横隔膜の挙上とその下に空気を認めます。
これは右横隔膜と肝臓の間に入り込んだ結腸(肝臓の前に結腸が見えます)のガスを示唆し、Chilaiditi症候群と診断されます。
CT検査の横断像では、肝臓と右の横隔膜の間に結腸が実際に入り込んでいる様子がわかります。
またこれが原因で右の横隔膜は挙上し、肺底部において受動性無気肺を一部で形成していました。
造影CTの冠状断像ではレントゲンと同じく前から見た様子をより細かく見ることができます。
右の横隔膜の挙上の様子及び、右横隔膜と肝臓の間に実際に結腸が入り込んでいる様子がわかります。
Chilaiditi症候群の治療は?
通常、症状がなければ治療は必要ありません。
また、日常診療においてよく見かける病態であり、わざわざChilaiditi症候群と記載されないこともしばしばあります。
ただし、結腸が嵌り込むことで症状がある場合は、外科的手術の対象となります。
最後に
日常診療で割と見かけて、臨床上問題とならないことが多いChilaiditi症候群についてまとめました。
Chilaiditi症候群と診断されることで、「何か悪い病気じゃないか」と思われるかもしれませんが、ほとんどは無症状で治療の必要もありません。
参考文献)わかる! 役立つ! 消化管の画像診断 P256-257