関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)は、滑膜炎を主体とする慢性炎症性疾患であり、早期からの関節破壊予防が治療目標となる疾患である。MRIは滑膜炎・骨髄浮腫・骨びらんを高感度に描出でき、早期診断と予後予測において極めて重要なモダリティである1,2

1. RAにおけるMRIの役割

1-1. 単純X線・超音波との比較

  • 単純X線:骨びらんや関節裂隙狭小化などの不可逆的変化を評価するが、変化が出るまでに時間を要する。
  • 超音波:表在関節の滑膜肥厚・血流シグナル・骨表面のびらんに優れるが、骨髄内変化や深部関節の評価には限界がある。
  • MRI:造影T1強調像や脂肪抑制T2/STIRにより、滑膜炎・骨髄浮腫・骨びらんを同時に評価でき、早期RAの診断感度は非常に高いとされる1,3

欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインでも、MRIは早期RAの炎症・構造損傷の検出および予後予測に有用であると推奨されている4,5

1-2. いつMRIを使うか

  • 関節痛・腫脹があるが、X線で明らかな構造変化がない症例
  • 血清学的マーカー(RF、抗CCP抗体など)は陽性だが、身体所見が乏しく早期診断に迷う症例
  • 治療中で、臨床的寛解と画像上の炎症残存の乖離が疑われる症例
  • 手関節・中手指節関節(MCP)など、細かい関節の炎症活動性や骨破壊の程度をより精密に評価したい場合

2. MRI撮像プロトコルの基本

RA評価に用いられる関節MRIでは、以下のシーケンスが標準的である1,2

  • T1強調像(T1WI):骨髄の脂肪成分、骨びらん、解剖学的構造評価に有用。
  • T2強調像またはPD強調像+脂肪抑制(T2FS/PDFS/STIR):滑膜炎、関節液貯留、骨髄浮腫、軟部組織炎症の描出に必須。
  • 造影T1強調像+脂肪抑制(Gd-T1FS):滑膜炎・パンヌスの造影増強を評価し、関節液との鑑別に有用。

評価関節は、手関節+MCP関節がもっとも頻用され、RA MRIスコア(RAMRIS)もこの部位に基づいている6

3. RAで評価すべき主要MRI所見

3-1. 滑膜炎(synovitis)

定義:増生した滑膜が造影で増強し、関節液とは異なる性状を示す状態である。RAMRISでは滑膜肥厚と造影効果に基づきスコア化される6,7

  • 造影前T1WI:関節内に等〜やや低信号の軟部陰影として滑膜肥厚を認めることがある。
  • T2FS/STIR:滑膜と関節液はいずれも高信号となるため、滑膜肥厚と単純関節液の区別は困難なことが多い。
  • 造影T1FS:滑膜が濃く均一に増強し、非造影の関節液とのコントラストが明瞭になる。活動性の炎症性滑膜は小血管増生を伴って血流が豊富であり、造影MRI(特に脂肪抑制法併用) は炎症性滑膜の描出に適している。腱鞘滑膜炎、滑液包炎などの軟部組織病変の描出にも優れている。

診断のポイント:

  • 滑膜肥厚の程度と造影効果の強さ・範囲を評価する。
  • 手関節では橈側リセス・尺側リセス・中央リセスなどRAMRISに準拠した部位ごとの評価が有用である6
  • 治療前後で滑膜炎スコアを比較することで、薬物療法への反応性を客観的に評価できる2,8

3-2. 骨髄浮腫(bone marrow edema / osteitis)

定義:RAにおける骨髄浮腫は、骨髄内の炎症(osteitis)を反映する病理学的所見とされ、将来の骨びらん進行を強く予測する重要なマーカーである9–11。臨床的な活動の指標( CRP、DASなど)と相関する。

  • T1WI:正常の黄色骨髄に比べて低信号を示す。
  • T2FS/STIR:骨髄内に不整形で辺縁不明瞭な高信号域として描出される。
  • 造影T1FSで軽度〜中等度の増強を示すことがあるが、必須ではない。

臨床的意義:

  • 早期RA患者において、骨髄浮腫の存在は将来のX線上の骨びらん進行の独立した予測因子であると報告されている9,10
  • 骨髄浮腫が高度な症例では、早期からの生物学的製剤やJAK阻害薬など、より積極的な治療導入を検討すべきと考えられる。

ピットフォール:骨折、感染、骨腫瘍、変形性関節症などでも骨髄浮腫様変化をきたしうる。臨床経過・分布・他のRA所見(滑膜炎・びらん)との整合性が重要である。

3-3. 骨びらん(bone erosion)

定義:RAMRISでは、2平面で確認される皮質欠損とその内側の骨梁欠損を「びらん」と定義する6,7。早期関節リウマチではMRIにより単純X線と比べて多くの骨びらんが検出される。

  • T1WI:骨皮質の連続性断裂および、その内側の低信号域として認められる。
  • T2FS/STIR:びらん内に骨髄浮腫や滑膜組織が存在する場合は高信号成分を伴う。
  • 造影T1FS:びらん内の肉芽組織・滑膜組織が増強されることがある。

診断のポイント:

  • びらんは、通常関節辺縁の骨端部・骨頭部に多く、関節裂隙と連続する。
  • 変形性関節症の骨棘や陥凹と鑑別する際には、関節面と垂直方向の皮質欠損+内部の骨梁欠損を意識する。
  • びらんの数と大きさは、長期予後や機能障害と相関することが報告されている1,2

3-4. 腱鞘炎・腱炎(tenosynovitis / tendinitis)

  • RAでは、屈筋腱・伸筋腱周囲の滑膜炎も頻繁に認められる。
  • T2FS/STIR:腱鞘内に高信号の液体貯留、腱周囲の高信号を示す。
  • 造影T1FS:腱鞘滑膜の環状増強を呈する。

腱鞘炎は、握力低下やばね指、伸筋腱断裂などの機能障害の原因となりうるため、MRIでの評価が重要である1,11

3-5. 軟骨・関節裂隙(cartilage loss / joint space narrowing)

  • T1WI・T2WI:関節軟骨の菲薄化や欠損を評価する。
  • MRIでは、単純X線より早期に軟骨損失を捉えうるが、日常臨床ではスコアリングの簡便性からX線評価が中心である。

研究レベルでは、RAMRISの拡張として軟骨や関節裂隙狭小化(joint space narrowing)をスコア化する試みも報告されている6,8

3-6. その他の所見

  • 関節液貯留:T2FS/STIRで高信号、造影効果は基本的にない。滑膜炎との鑑別には造影T1FSが有用。
  • 滑液包炎・粘液嚢胞:特に膝・肩など大関節で問題となる。RAでは多発性・対称性の滑液包炎を認めることがある。
  • 骨壊死・変形性変化の併存:ステロイド使用や高齢RA患者では、骨壊死や変形性関節症が併存するため、RA由来の変化との鑑別が必要である。

症例 30歳代 女性  膝の痛みと浮腫

引用:radiopedia

滑膜の肥厚および関節液貯留を認めています。

また滑膜は造影T1WIで著明に造影されていることがわかります。滑膜炎を疑う所見です。

滑膜は肥厚し脛骨内果では骨びらんを認めています。

関節リウマチに伴う滑膜炎、骨びらん、関節液貯留と診断することができます。

4. RAMRISによる定量評価

Outcome Measures in Rheumatology(OMERACT)により提唱されたRA MRIスコア(RAMRIS)は、RA関節病変を標準化して定量化するための国際的に広く用いられているスコアリングシステムである6,7,12

4-1. RAMRISの基本構成

  • 滑膜炎(synovitis)スコア:0〜3の4段階で各関節リセスの滑膜肥厚・造影程度を評価。
  • 骨髄浮腫(bone marrow edema)スコア:0〜3の4段階で各骨の骨髄浮腫の体積を評価。
  • 骨びらん(bone erosion)スコア:0〜10などのスケールで骨体積に対するびらん体積の割合を評価。

RAMRISは、高い再現性と感度を有し、疾患活動性の変化を鋭敏に捉えうることが示されている12

4-2. 臨床応用のポイント

  • 臨床試験:DMARDsや生物学的製剤の効果判定におけるアウトカム指標として頻用される。
  • 日常診療:すべての症例で厳密なRAMRISスコアを算出する必要はないが、「滑膜炎・骨髄浮腫・びらんの3本柱」で系統的に関節を読む習慣をつけると、診断とフォローアップが安定する。

5. 早期診断と予後予測におけるMRIの意義

5-1. 早期RAの診断

RAでは、臨床症状出現から早期(数ヶ月〜1年以内)に滑膜炎・骨髄浮腫・微小びらんが出現しうる。MRIはこれらの早期変化を高感度に描出し、2010年ACR/EULAR分類基準ではカバーしきれない症例の診断補助として有用とされる3,9,13

  • 「関節痛+軽度の腫脹」しかなくX線正常な症例で、MRI上の滑膜炎・骨髄浮腫が診断の決め手となることがある。
  • 骨髄浮腫を分類基準に組み込むことで、早期RAの診断精度が向上することを示す報告も存在する13

5-2. 骨破壊進行の予測

複数の前向き研究において、MRI骨髄浮腫と高度滑膜炎は、将来のX線上の骨びらん進行を予測する独立した因子であることが示されている9–11

  • 特に手関節・MCP関節の骨髄浮腫スコアが高い症例は、6〜12か月後のX線評価で骨びらんが進行しやすい。
  • 「臨床的寛解」に見えても、MRI上骨髄浮腫が残存する場合は、構造的進行が続くリスクがある。

したがって、MRIは単なる「現在の炎症のスナップショット」ではなく、将来の構造的損傷リスクを推定するツールとして位置づけられる。

6. 実臨床での読み方・レポートのコツ

6-1. 系統的なチェックリスト

RAが疑われる関節MRIを読む際には、以下の順序で系統的に確認すると漏れが少ない。

  1. 撮像範囲・シーケンスの確認(手関節〜MCP、T1/T2FS/造影T1FSの有無)
  2. 滑膜炎:造影T1FSでの滑膜肥厚と増強範囲(リセスごとに)
  3. 骨髄浮腫:T2FS/STIRでの骨髄内高信号の分布と程度
  4. 骨びらん:T1WIでの皮質欠損と骨梁欠損(関節辺縁を重点的に)
  5. 腱鞘炎・腱炎:屈筋腱・伸筋腱周囲の滑膜炎と液体貯留
  6. 軟骨・関節裂隙:高度菲薄化や欠損の有無
  7. その他:骨壊死、変形性変化、他疾患を示唆する所見の有無

6-2. レポートに盛り込むべき要素

  • RAに典型的な所見の有無(対称性滑膜炎、骨髄浮腫、びらんなど)
  • 炎症活動性の程度(軽度・中等度・高度など半定量的な表現)
  • 構造的損傷(びらん・軟骨損失)の程度
  • 予後リスクの示唆(高度骨髄浮腫や多発びらんがある場合には、構造的進行リスクが高いとコメント)
  • RA以外が疑われる所見があれば、その鑑別診断(結晶性関節炎、感染、変形性関節症、骨壊死など)

7. まとめ

  • MRIは、関節リウマチにおける滑膜炎・骨髄浮腫・骨びらんを高感度に描出できるモダリティであり、早期診断と予後予測に重要な役割を果たす。
  • 骨髄浮腫は、将来の骨びらん進行を予測する最重要画像マーカーの一つであり、治療強度決定の参考となる。
  • RAMRISに代表されるMRIスコアリングにより、炎症と構造損傷を定量的に評価できる。
  • 日常診療では、滑膜炎・骨髄浮腫・骨びらんを意識した系統的読影により、より精度の高いRA診断および治療モニタリングが可能となる。

参考文献

  1. McQueen FM. Bone marrow edema and osteitis in rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis. 2012;71(Suppl 2):i143–i145.9
  2. Narváez J, et al. MR Imaging of Early Rheumatoid Arthritis. RadioGraphics. 2010;30(1):143–165.1,11
  3. Haavardsholm EA, et al. Bone marrow oedema predicts erosive progression in early rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis. 2008;67(6):794–800.9
  4. Colebatch AN, et al. EULAR recommendations for the use of imaging of the joints in the clinical management of rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis. 2013;72(6):804–814.4,5
  5. Østergaard M, et al. The OMERACT Rheumatoid Arthritis Magnetic Resonance Imaging (MRI) Scoring System: Updated Recommendations. J Rheumatol. 2017;44(11):1706–1712.6,7,12
  6. Buchbender C, et al. Synovitis and bone inflammation in early rheumatoid arthritis: high-resolution MRI. Diagn Interv Radiol. 2013;19(1):20–29.2,10
  7. Mandl P, et al. 2023 EULAR recommendations on imaging in diagnosis and management of inflammatory arthritis. Ann Rheum Dis. 2024;83(6):752–765.5
  8. Nakahara R, et al. MRI of Rheumatoid Arthritis. Acta Med Okayama. 2015;69(1):29–35.8
  9. Boyesen P, et al. MRI synovitis and bone marrow oedema in early RA precede radiographic progression. Ann Rheum Dis. 2011;70(3):428–433.10,11
  10. Takatania A, et al. Combination of MRI-detected bone marrow oedema with 2010 RA classification criteria improves diagnostic probability of early RA. Mod Rheumatol. 2022;32(4):708–717.13

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