脾腫(ひしゅ)とは、脾臓が腫(は)れた状態を意味します。
巨大な脾臓ということで巨脾(きょひ)と呼ばれることもあります。
しかし、どのような原因で起こるのか、気になることも多いですよね。
そこで今回は、脾腫(英語でsplenomegaly)について
- 原因
- 鑑別
- 症状
- 診断
- 治療法
などを、図(イラスト)や実際のエコーやCTの画像を交えつつ解説していきたいと思います。
脾腫とは?
上で述べたように脾腫とは、文字通り正常よりも脾臓が腫(は)れた状態です。
脾腫は主に腹部の触診で疑われ、その後の腹部超音波検査(エコー検査)やCT検査といった画像検査で診断されます。
脾腫があることを判定する基準として複数のspleen index(脾臓指数)が知られていますが、もっとも良く用いられているのは、以下のように最大径とそれと直行する短径を掛け算したものです。
この場合、spleen index=a×b >40c㎡を脾腫と定義します。
それ以外にもより簡便な方法として、最大径が10cm以上ならば脾腫と定義することもあります。
日本人間ドック学会の腹部超音波検診判定マニュアルによると、10cm以上でもさらに
- 最大径が10cm以上15cm未満→(軽度〜中等度)脾腫(判定区分B)
- 最大径が15cm以上→(高度)脾腫(判定区分D2)
1)を引用改変
としています。
以上の基準は、超音波検査でのものになりますが、CTでも同様です。
脾臓の最大径の大きさを測定するのが簡単でわかりやすいですね。
脾腫の原因・鑑別は?
脾臓は血液のリンパ節とも言われ、以下の原因で脾腫を起こすことがあります。
- 慢性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変・特発性門脈圧亢進症(Banti症候群))
- 血液疾患(急性白血病・慢性骨髄性白血病(CML)・慢性リンパ性白血病・骨髄線維症・溶血性貧血・悪性貧血・真性多血症・サラセミア)
- 感染症(伝染性単核症・敗血症・マラリア・梅毒・結核・腸チフス)
- 代謝異常(アミロイドーシス・Gaucher病・Niemann-pick病)
- 心不全
などです2)。
ですので、脾腫を見た場合は、これらの疾患を鑑別に挙げながら、なぜ脾腫が起こっているのかその原因を突き止めて行く必要があります。
中でも慢性の経過をたどる場合は、慢性肝疾患、とくに肝硬変に伴う脾腫が日常的にはよく見られます。
腹部の触診で脾腫と鑑別するべき疾患は?
上で、脾腫はまずお腹の触診で疑い、画像検査で診断するのが一般的だと述べましたが、お腹の触診で脾腫を疑った場合、以下の疾患・状態と鑑別が問題となることがあります。
- 腎臓の腫瘤
- 腎周囲膿瘍
- 結腸の腫瘤
- 糞塊
- 後腹膜腫瘤
- 肝左葉の腫瘤
- 胃腫瘤
- 膵臓腫瘤
- 大網腫瘤
- 腸間膜嚢腫
などです2)。
触診で脾腫と思っていたら、これらの疾患だったということもありますので注意が必要です。
脾腫の症状は?
通常は無症状です。
しかし、肝硬変などの門脈圧が亢進することにより起こる脾腫では、脾臓の機能亢進が起こり、汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)が起こることがあります。
汎血球減少症とは、血液中の赤血球・白血球・
赤血球が低下すると貧血を起こしますし、白血球が減少すると感染を起こしやすくなり、発熱などを引き起こすことがあります。
また血小板には血液を固める役割がありますので、血小板減少は、出血傾向をきたします。
したがって、脾腫を起こしている場合は、その原因にもよりますが以下の症状が起こることがあります。
- 貧血
- 黄疸
- 発熱
- 痛み
- 出血傾向(眼底出血・鼻出血・歯肉出血・出血斑)
- 顔面潮紅
- 発疹
- リンパ腺腫大
- 心雑音
- 血管塞栓症状
- クモ状血管腫
- 手掌紅斑
- 浮腫
- 腹水
- 肝腫大
- 甲状腺腫
- 発育障害
- 性腺機能低下・・・など2)
脾腫の画像所見は?
脾腫超音波検査(エコー検査)やCT検査では、実際に脾臓が腫大していることを確認します。
また、その脾腫を起こしている原因として、背景に肝硬変などの慢性肝疾患などがないかを同時に確認します。
では、いくつか症例を紹介します。
症例 80歳代女性 肝硬変
腹部造影CTの横断像(輪切り)です。
脾臓は最大径13cmと脾腫を認めています。
背景に肝硬変があり、肝硬変に伴う脾腫と診断されます。
症例 50歳代男性 アルコール性肝硬変
腹部造影CTの横断像(輪切り)です。
こちらは最大径16cm大と高度脾腫を認めています。
同じスライスに凹凸不整な肝臓を認めており、肝硬変があることを確認できます。
こちらも肝硬変に伴う高度脾腫と診断できます。
(肝臓の間にある胆嚢は漿膜下浮腫をきたしています。これも慢性肝障害による変化と考えられます。ちなみに胆石もあります。)
この症例の腹部エコー画像です。
画面いっぱいに脾臓が写っています。
高度な脾腫があることがわかります。
症例 70歳代女性 悪性リンパ腫
腹部単純CTの横断像(輪切り)です。
こちらは最大径14cm大と脾腫を認めています。
脾臓の背側には腹水貯留を認めています。
悪性リンパ腫が背景にあり、それに伴う脾腫と診断されました。
症例 60歳代男性 白血病
腹部単純CTの横断像です。
著明な脾腫を認めており、その内部に楔状の周囲脾実質よりも低吸収域を認めています。
この症例では、脾腫に加えて、脾梗塞を伴っていました。
白血病が背景にあり、血液疾患が原因となり脾腫及び脾梗塞が起こったことがわかります。
脾腫の治療は?
通常は無症状なことも多いため、特別な治療を必要としません。
しかし脾臓が大きくて症状がある場合は、脾臓を栄養する脾動脈の分枝を詰めて(塞栓して)、脾臓の一部をあえて壊死に陥らせることにより、脾臓の機能を落とす部分的脾動脈塞栓術(PSE:Partial splenic embolization)が行われることもあります。
また、外科的シャント術の際に、必要に応じて脾摘出術を行うこともあります。
しかし、脾摘出には注意も必要です。
シャント術をせずに脾摘出術だけを行う場合、門脈圧が上昇し、それにより門脈血栓症が起こる場合もあり、基本的に肝移植の適応患者では避ける必要があります。
症例 80歳代女性
脾腫による脾機能亢進の症状があったため、部分的脾動脈塞栓術(PSE:Partial splenic embolization)が施行されました。
その後のCTでは脾臓のサイズがかなり小さくなっていることが確認されます。
脾機能亢進の症状も消失しました。
参考)Gamma-Gandy結節とは?
肝硬変などに伴う門脈圧亢進症の場合、脾臓の腫大とともに、濾胞内の脾柱に沿った出血によるヘモジデリン沈着や石灰化を示すことがあります。
これをMRIの画像検査ではT1強調像及びT2強調像で多発する低信号結節として把握できることがあり、Gamma-Gandy結節呼びます。
肝硬変の9%に認めたという報告3)があります。
参考文献:
超音波診断入門P38
ハリソン内科学第2版2-1P1917
消化器疾患ビジュアルブック P45
参考サイト:
1)腹部超音波検診判定マニュアル
2)脾腫の診断内科より 藤井高明
3)Radiology 172 (3), 681-684.
最後に
脾腫について、ポイントをまとめます。
- 脾臓が腫れた状態を脾腫という
- spleen index=a×b >40c㎡を脾腫あるいは最大径が10cm以上ならば脾腫という定義がある
- 慢性肝疾患や血液性疾患、感染症や代謝異常、心不全などが原因となって起こる
- 考えられる原因が多いため、触診のみだけでなく、病歴や症状から原因を探ることが重要
- 通常は無症状だが、場合によっては、貧血・黄疸・発熱・痛みといった多彩な症状が現れる
- エコー(超音波)やCT検査を行い、脾腫を確認する
- 無症状ならば特別な治療はないが、脾腫が大きく症状を有する場合には、部分的脾動脈塞栓術が検討される
脾腫は、原因を突き止めることが重要ですが、原因となる疾患が当てはまらず無症状で大きすぎることもなければ、経過観察となることもあります。