
心膜腔とは、心臓の表面をおおう臓側心膜(心外膜)と、外側の壁側心膜とのあいだにある狭いすき間で、ふだんは少量の心膜液が入っています。心内膜・心外膜・壁側心膜・心膜下脂肪と「心」と「膜」の付く名前が続いて混乱しやすいところを、研修医のハジメくんと一緒に内側から外側へ1枚ずつ整理し、正常の心膜と心嚢液・心膜肥厚のCTまで見ていきます。
先に結論
- 心膜腔(心嚢腔)とは、臓側心膜(心外膜)と壁側心膜のあいだのすき間。ふだんは15〜50mLほどの心膜液が入り、増えたものが心嚢液貯留。
- 内側から心内膜→心筋→心膜下脂肪→臓側心膜(心外膜)→心膜腔→壁側心膜→線維性心膜→心膜外脂肪。脂肪は心膜の内と外の2か所にある。
- CTの正常心膜は、2つの脂肪にはさまれた厚さ2mm未満の細い線。厚く・石灰化していれば肥厚、心外膜側の脂肪の外に水があれば心嚢液。
目的から読む: 心膜腔(心嚢)とは / 心内膜・心外膜・壁側心膜の層 / 漿膜性心膜と線維性心膜 / 心膜下脂肪と心膜外脂肪 / 正常心膜の厚さ(CT) / 心嚢液・心膜肥厚のCT
心膜腔(心嚢)とは? 心臓を包む袋のすき間
心膜腔は、心臓を包む2枚の膜(臓側心膜と壁側心膜)のあいだのすき間です。中の少量の液が潤滑油になり、拍動する心臓がまわりとこすれずに動けます。

臓側心膜(心外膜)は大血管の根もとで折り返して壁側心膜につながり、2枚のあいだに心膜腔をつくります。心膜腔には、心臓が拍動に合わせて摩擦なく動けるように15〜50mLの心膜液が入っています(Ünal 2019)。
この量が正常の範囲を超えてたまったものを心嚢液貯留(pericardial effusion)と呼びます。心嚢穿刺(心膜穿刺)では、この心膜腔に針を進めて、たまった液体を抜きます。
漿膜(しょうまく)とは、胸膜・腹膜・心膜のように体の中の空間(体腔)と臓器をおおう、なめらかで薄い膜のことです。心膜では、臓側(心臓側)と壁側の2枚の漿膜のあいだが心膜腔になります。

胸膜も、臓側胸膜と壁側胸膜のあいだに胸膜腔があり、ごく少量の生理的な胸膜液が入っています。正常の範囲を超えてたまったものが胸水(pleural effusion)です。

心内膜・心外膜・壁側心膜の層: 心臓の壁から外へ
内側から順に、心内膜→心筋→心膜下脂肪→臓側心膜(心外膜)→心膜腔→壁側心膜→線維性心膜と重なります。「心内膜」は心臓の内腔に面した膜で、心膜(外側の袋)とは別のものです。

心臓の壁と心膜の層(内側→外側)
| 層 | 説明 |
|---|---|
| 心内膜 | 心臓の内腔(心房・心室)に面した膜 |
| 心筋 | 心臓を動かす筋肉の層 |
| 心膜下脂肪 | 心筋と臓側心膜のあいだの脂肪。冠動脈・冠静脈が走る |
| 心外膜(臓側心膜) | 心筋の表面(心膜下脂肪の外)をおおう漿膜 |
| 心膜腔(心嚢腔) | 臓側心膜と壁側心膜のすき間。少量の心膜液があり、心臓がなめらかに動ける。液が増えたものが心嚢液貯留 |
| 壁側心膜(漿膜性心膜の壁側板)+線維性心膜 | 心臓全体を袋のように包むいちばん外側の膜。2枚はくっついていて、ふつうは1枚の膜として扱う |
今回の内容は動画でもまとめています。先に動画で全体の流れをつかんでから読むと、層の順番が頭に入りやすくなります。
心腔・心内膜・心筋の解剖

上のイラストのように、心臓には心筋があり、心腔(心房・心室の内腔)とのあいだの膜を心内膜といいます。イラストでは、大動脈弁から大動脈が出ていく様子を示しています。左心系(左心房・左心室)・右心系(右心房・右心室)など心臓の中の解剖は、ここでは省きます。
心膜腔・臓側心膜・壁側心膜の解剖

心膜下脂肪の外側を臓側心膜(心外膜)がおおいます。臓側心膜は大血管の根もとで折り返して外側の膜になり、これを壁側心膜といいます。2枚のあいだが心膜腔です。
漿膜性心膜と線維性心膜: 心膜の構造
心膜は、薄くなめらかな漿膜性心膜(臓側心膜と壁側心膜)と、その外の丈夫な線維性心膜の2つからできています。

線維性心膜(心嚢)の解剖

漿膜性心膜は臓側心膜(心外膜)と壁側心膜の2枚からなり、そのあいだのすき間が心膜腔です。その外側を、丈夫な線維性心膜(心嚢)がおおいます。
- 漿膜性心膜
- 線維性心膜(心嚢)
この2つを合わせて心膜といいます。心膜をつくるものをまとめると、次のとおりです。

この図では心膜腔も漿膜性心膜の欄に並べていますが、心膜腔は膜ではなく、臓側心膜と壁側心膜のあいだのすき間です(Ünal 2019)。
心膜下脂肪と心膜外脂肪の違い
心臓のまわりの脂肪は2か所にあります。心膜の内側で心筋に接するのが心膜下脂肪(epicardial fat、心外膜脂肪とも)、心膜の外側の縦隔にあるのが心膜外脂肪(paracardial fat)です。冠動脈が走るのは心膜下脂肪のほうです。

心膜下脂肪の解剖

心筋のまわりを脂肪の層がおおいます。これを心膜下脂肪(epicardial fat)といい、心筋と臓側心膜(心外膜)のあいだにあります。
心膜下脂肪には、心臓を栄養する冠動脈のほか、冠静脈・冠静脈洞も走ります(上のイラストには冠静脈は描いていません)。
心膜下脂肪は、発生のうえでは腹部の内臓脂肪(腸間膜・大網の脂肪)と同じ由来とされ、心筋や冠動脈にすぐ接しているため臨床的な関心を集めています(Iacobellis 2015)。心臓CTで心膜下脂肪の体積を測ると、体積が大きいほど冠動脈硬化や心血管イベントと関連すると報告されています。ただし、現時点ではリスク評価の推奨されている手順には含まれていません(Marwan 2013)。
心膜下脂肪の中を走る冠動脈の解剖・番号は→冠動脈の解剖・番号は?覚え方のコツを図で解説!で、枝ごとの番号と支配領域まで確認できます。
心膜外脂肪の解剖

心膜の外側にも脂肪があります。これを心膜外脂肪(paracardial fat)といい、縦隔胸膜と心膜のあいだの縦隔にたまった脂肪です。胸部X線写真でも、左右の心臓横隔膜角に縦隔の脂肪による淡い陰影として見えることがあります。
心膜下脂肪と心膜外脂肪を合わせて、心臓周囲脂肪(pericardial fat)と呼びます。
- 心膜下脂肪(epicardial fat):心膜の内側。冠動脈が走り、臨床的な意義が大きい。
- 心膜外脂肪(paracardial fat):心膜の外側の縦隔の脂肪。
を合わせたもの。ただし論文によっては pericardial fat を心膜外脂肪だけの意味で使うことがあり、用語がそろっていません(Iacobellis 2015)。読むときは、どこを測った脂肪かを確かめます。
正常心膜はCTでどう見える? 厚さ2mm未満の線
CTでは、心膜(漿膜性心膜+線維性心膜)は1本の細い線に見え、厚さは2mm未満が正常です(Ünal 2019)。内側の心膜下脂肪と外側の心膜外脂肪にはさまれた所で、いちばん追いやすくなります。

症例 60歳代 女性

冠動脈CTで撮影した造影CTです。
- 心膜下脂肪と、その中を走る冠動脈
- 心膜
- 心膜外脂肪
の位置関係がよくわかります。心膜は見やすいように、実際より太めに縁取っています。
心嚢液・心膜肥厚・石灰化のCT画像
心嚢液は、心膜下脂肪の外側(心膜腔)に水の濃さの帯として見えます。心膜肥厚は、心膜の線が2mmを超えて厚くなった状態で、石灰化を伴えば収縮性心膜炎を考えます。

心膜が2mmより厚ければ心膜の肥厚を疑います。ただし、手術で確かめた収縮性心膜炎のうち18%は心膜の厚さが2mm以下で、厚さが正常でも収縮性心膜炎は否定できません(Talreja 2003)。
心膜の石灰化をとらえるのはCTがいちばん得意です。MRIは心膜の形に加えて、組織の性状や心臓の動きへの影響まで評価できます。心膜の病気を疑うときは心エコーを最初に行い、目的に応じてCTとMRIを使い分けます(Bogaert 2013)。
症例 80歳代 男性

心膜の肥厚と石灰化があります。収縮性心膜炎の所見です。
症例 80歳代 女性

心膜下脂肪のまわりに水がたまっています。心嚢液貯留の所見です。心膜の肥厚はありません。

症例 60歳代 男性

右側の心膜に不整な肥厚と造影効果があります。上咽頭がんの心膜転移の所見です。
症例 60歳代 男性 原発不明がん

心膜の肥厚と、その内側の心嚢液貯留があります。ほかにも多発転移があり(画像は非提示)、癌性心膜炎を疑う所見です。
心嚢液の量の見積もりや、液の濃さから考える原因は、心嚢液(心嚢水)貯留のCT画像診断で症例と合わせて見られます。
よくある勘違い
Q. 心内膜も心膜の一部?
いいえ。心内膜は心房・心室の内腔に面した膜で、心膜(心臓を外から包む袋)には入りません。心外膜は臓側心膜の別名で、こちらは心膜の一部です。
Q. 心臓のまわりの脂肪は、すべて心膜の外?
いいえ。冠動脈が走る心膜下脂肪は心膜の内側(心筋と臓側心膜のあいだ)にあります。心膜の外の縦隔にあるのは心膜外脂肪です。
Q. 心膜の厚さが2mm未満なら、収縮性心膜炎は否定できる?
できません。手術で確かめた収縮性心膜炎のうち18%は、心膜の厚さが2mm以下でした(Talreja 2003)。
今日のまとめ
- 心膜腔は臓側心膜(心外膜)と壁側心膜のすき間。心嚢液がたまるのも、心嚢穿刺で針を止めるのもここ。
- 心内膜は心膜ではない。脂肪は心膜の内(心膜下脂肪)と外(心膜外脂肪)の2か所。
- CTの正常心膜は2つの脂肪にはさまれた2mm未満の線。ただし厚さが正常でも収縮性心膜炎は否定できない。
あわせて読みたい:心嚢液(心嚢水)貯留のCT画像診断
あわせて読みたい:心臓CTの正常解剖
参考文献
- Wang ZJ, Reddy GP, Gotway MB, et al. CT and MR imaging of pericardial disease. Radiographics. 2003;23 Spec No:S167-80. PubMed
- Iacobellis G. Local and systemic effects of the multifaceted epicardial adipose tissue depot. Nat Rev Endocrinol. 2015;11(6):363-71. PubMed
- Bogaert J, Francone M. Pericardial disease: value of CT and MR imaging. Radiology. 2013;267(2):340-56. PubMed
- Klein AL, Abbara S, Agler DA, et al. American Society of Echocardiography clinical recommendations for multimodality cardiovascular imaging of patients with pericardial disease: endorsed by the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance and Society of Cardiovascular Computed Tomography. J Am Soc Echocardiogr. 2013;26(9):965-1012.e15. PubMed
- Marwan M, Achenbach S. Quantification of epicardial fat by computed tomography: why, when and how? J Cardiovasc Comput Tomogr. 2013;7(1):3-10. PubMed
- Ünal E, Karcaaltincaba M, Akpinar E, et al. The imaging appearances of various pericardial disorders. Insights Imaging. 2019;10(1):42. PubMed
- Talreja DR, Edwards WD, Danielson GK, et al. Constrictive pericarditis in 26 patients with histologically normal pericardial thickness. Circulation. 2003;108(15):1852-1857. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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よくわかりました。とても勉強になりました。わかりやすい図をありがとうございました。
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