脳梗塞が疑われる場合に、MRI検査を行なった場合、複数の撮像方法(シークエンス)で画像を撮影しますが、中でも拡散強調像(DWI)が重要です。
いわゆる、DWIは、diffusion-weighted imageの略で、いわゆるディヒュージョンと呼ばれる撮像方法ですね。
その際に、拡散強彫像(DWI)で高信号だったから、脳梗塞だ!と思いがちですが・・・
実は、落とし穴があります。
それが、「T2 shine throughの影響」により、異常信号を示す場合です。
このT2 shine throughは脳梗塞を語る上では重要で、そこを理解していると、脳梗塞の診断について、もっとわかりやすくなります。
そこで今回は、このT2 shine through(読み方は「ティーツーシャインスルー」)について、意味や脳梗塞との鑑別について、わかりやすく説明したいと思います。
T2 shine throughとは?意味は?
T2強調像で高信号部位があると、拡散強調像(DWI)で高信号になってしまうことがあり、これをT2 shine throughの影響と言います。
拡散強調像(DWI)がT2強調像の影響を受けてしまうということです。
ですので、頭のMRIを撮影したときに、拡散強調像(DWI)で高信号になっている=急性期(新しい)脳梗塞!と飛びついてしまうと危険だということです。
とくに頭のMRIでは古い梗塞部位はT2強調像で高信号となりますので、新しい脳梗塞!だと思ったら、実は古い脳梗塞の影響だったということがあるのです。
またこの、T2 shine throughは頭部のMRIだけでなく、どこの部位でも起こりうることです。
T2 shine throughと脳梗塞の鑑別は?
T2 shine throughと脳梗塞の鑑別には、拡散強調像(DWI)と一緒に撮影される、ADC mapを参考にします。
- 拡散強調像(DWI)高信号かつADC map 低信号=脳梗塞(など拡散制限)の可能性あり
- 拡散強調像(DWI)高信号かつADC map 高信号〜等信号=脳梗塞(などの拡散制限)はなし
と判断します。
では実際のT2 shine throughの症例を見てみましょう。
症例 80歳代男性
右の前頭葉の皮質〜皮質下に拡散強調像(DWI)で高信号を認めています。
急性期(新しい)脳梗塞か!と判断しそうですが、ADC mapをみてみると信号低下ははっきりしません。
T2強調像を見てみると高信号(白い)であり、古い梗塞を見ており、それによるT2 shine throughの影響で拡散強調像(DWI)で高信号になっていると判断できます。
上で述べたようにこのT2 shine throughは頭部(脳)だけで見られる現象ではありません。
拡散強調像(DWI)で高信号を認めることは、頭部(脳)の場合は、主に脳梗塞が問題となりますが、それ以外の部位ですと、悪性腫瘍や膿瘍などとの鑑別が重要となります。
頭部(脳)以外のT2 shine throughの症例を見てみましょう。
症例 70歳代 女性
骨盤MRIの画像です。
拡散強調像(DWI)で骨盤内左側(向かって右側)に2房性の高信号を認めています。
卵巣癌か!と判断してしまいそうですが、ADC mapをみてみますと、明瞭な高信号を示しています。
またT2強調像を見てみるとこちらも明瞭な高信号であり、のう胞を疑う所見です。
T2強調像で高信号だからその影響で、拡散強調像(DWI)も高信号になったT2 shine throughの影響と判断できます。
左の卵巣囊腫と診断されました。
症例 70歳代 男性
左(向かって右)の大腰筋内に拡散強調像(DWI)で異常な高信号を認めています。
大腰筋内の腫瘍?膿瘍?などと判断してしまいそうですが、ADC mapをみてみますと、明瞭な高信号を示しています。
またT2強調像を見てみるとこちらも明瞭な高信号であり、のう胞を疑う所見です。
T2強調像で高信号だからその影響で、拡散強調像(DWI)も高信号になったT2 shine throughの影響と判断できます。
大腰筋内ののう胞としてフォローされています。
参考文献:
画像診断2000年11月 MRにおける拡散のすべて P1222〜1268
よくわかる脳MRI(第3版) P260〜661
臨床画像 Vol 22 No 04 0604 P450(102)〜453(105)
画像診断1998年4月 超高速MRIをどう使うか P394〜396
最後に
今回の記事をまとめます。
- 拡散強調像(DWI)で高信号でも脳梗塞でない場合がある
- 古い脳梗塞があると、新しい脳梗塞がないのに、拡散強調像(DWI)で高信号になることをT2 shine throughという
- 脳梗塞であるかどうかを鑑別するには、ADC mapを参考にする
- ADC mapで低信号になると、脳梗塞の可能性がある
- 頭部以外では、拡散強調像が高信号になる悪性腫瘍や膿瘍などのと鑑別が問題になることがある。
- その場合でも、ADC mapやT2強調像を参考にして信号パターンから判断する。
ご理解頂けましたでしょうか?
あくまでも拡散強調像(DWI)で高信号でなっても、診断を早まることなく、鑑別をしっかり行うことが重要です。