副腎腺腫(副腎皮質腺腫)は、副腎偶発腫として発見されることが多い良性腫瘍です。
画像診断では、まず単純CTでの吸収値(HU)、次にchemical-shift MRIでの信号低下、必要に応じてwashout CTを用いて評価します。
特に重要なのは、副腎腺腫に含まれる細胞内脂肪を画像で捉えることです。脂質豊富腺腫では、単純CTで低吸収を示し、MRIではopposed-phaseで信号低下を認めます。
この記事のポイント
- 均一な副腎腫瘤で単純CT 10 HU以下なら、副腎腺腫を強く示唆します。
- chemical-shift MRIでopposed-phaseの信号低下を認めれば、細胞内脂肪を反映し、副腎腺腫に典型的です。
- HUが10を超える場合でも、脂質乏しい副腎腺腫の可能性があります。
- 不均一、壊死・出血、石灰化、大型病変、既知悪性腫瘍の既往がある場合は、転移や副腎皮質癌なども鑑別します。
副腎腺腫(副腎皮質腺腫)とは?
副腎腺腫は、副腎皮質由来の良性腫瘍です。臨床的には、腹部CTやMRIで偶然発見されることが多く、このような副腎病変を副腎偶発腫(adrenal incidentaloma)と呼びます。
副腎偶発腫の多くは良性で、非機能性の副腎皮質腺腫が代表的です。一方で、まれに副腎皮質癌、褐色細胞腫、転移性副腎腫瘍、ホルモン産生腺腫などが含まれるため、画像所見だけでなく、臨床情報や内分泌学的評価を合わせて判断することが重要です。[1]
副腎偶発腫診断の流れ
副腎偶発腫を認めた場合、画像診断では以下の順に評価すると整理しやすいです。
- 単純CTがあるかを確認する
- 病変が均一か、不均一かを確認する
- 単純CTでの吸収値(HU)を測定する
- 10 HU以下なら脂質豊富腺腫を強く疑う
- 10 HUを超える場合は、chemical-shift MRIやwashout CTで追加評価する
- 大型、不均一、壊死・出血、石灰化、増大傾向、悪性腫瘍の既往があれば非腺腫性病変を鑑別する
2023年のEuropean Society of Endocrinology(ESE)ガイドラインでは、均一な副腎腫瘤で単純CTのHUが10以下であれば、良性病変として追加画像検査は不要とされています。[1]
一方、単純CTでHUが11〜20程度の均一な病変や、HUが20を超える病変、不均一な病変、大きな病変では、臨床状況に応じて追加画像検査や専門チームでの検討が必要になります。[1]

副腎腺腫の画像所見
1. 境界明瞭な結節性病変
副腎腺腫は、典型的には境界明瞭で比較的均一な結節性病変として認められます。
小型で、内部が均一で、明らかな壊死や出血を伴わない場合は良性腫瘍を考えやすくなります。ただし、サイズだけで良悪性を決めることはできません。
2. 単純CTで10 HU以下なら脂質豊富腺腫を強く示唆
副腎腺腫の診断で最も基本となるのが、単純CTでの吸収値測定です。
脂質豊富な副腎腺腫では、細胞内脂肪を反映して低吸収を示します。均一な副腎腫瘤で、単純CTの平均吸収値が10 HU以下であれば、脂質豊富腺腫を強く示唆します。[1][2][4]
ポイント
単純CTで10 HU以下という所見は、脂質豊富腺腫を示す非常に重要な手がかりです。
ただし、単純CTのHUが10を超えるからといって、副腎腺腫を否定することはできません。副腎腺腫の中には、脂肪含有量が少ない脂質乏しい腺腫(lipid-poor adenoma)があり、この場合は10 HUを超えることがあります。
3. Chemical-shift MRIでopposed-phaseの信号低下
MRIでは、chemical-shift imagingが副腎腺腫の評価に有用です。
副腎腺腫は細胞内脂肪を含むことが多いため、T1強調像のin-phaseとopposed-phaseを比較すると、opposed-phaseで信号低下を認めることがあります。
この信号低下は、脂肪と水の信号が打ち消し合うことによるもので、脂質豊富腺腫を示唆する所見です。過去の検討でも、chemical-shift MRIは副腎腺腫と転移の鑑別に有用とされていますが、完全な鑑別法ではない点には注意が必要です。[5][6]
MRIで見るべきポイント
in-phaseからopposed-phaseにかけて病変の信号が低下していれば、細胞内脂肪の存在を示唆し、副腎腺腫を考えやすくなります。
読影時には、同じスライスで病変そのものの信号を比較することが重要です。背景肝や筋肉、脾臓との相対的な比較も参考になります。
症例:70歳代男性

副腎結節に対してMRIを撮影したところ、T1WI in-phaseからopposed-phaseにかけて明らかな信号低下を認めました。
この所見は、病変内の細胞内脂肪を反映していると考えられ、副腎腺腫を疑う所見です。
4. Washout CTでの評価
単純CTで10 HUを超える副腎腫瘤では、脂質乏しい腺腫と転移などの非腺腫性病変の鑑別が問題になります。
その場合、造影早期相と遅延相を用いたwashout CTが参考になります。副腎腺腫では造影剤の洗い出しが比較的速く、非腺腫性病変よりも高いwashoutを示す傾向があります。
一般的には、以下の指標が用いられます。
- Absolute percentage washout(APW)
APW = (造影早期相HU − 遅延相HU) / (造影早期相HU − 単純CT HU) × 100 - Relative percentage washout(RPW)
RPW = (造影早期相HU − 遅延相HU) / 造影早期相HU × 100
従来は、APW 60%以上、RPW 40%以上が副腎腺腫を示唆する目安として用いられてきました。特にHUが10を超える高吸収の副腎腫瘤では、遅延相CTがchemical-shift MRIで診断困難な病変を評価する助けになることがあります。[6]
ただし、washout CTのカットオフや撮影タイミングには文献差・施設差があり、近年のガイドラインでは「均一性」「単純CT HU」「サイズ」「臨床背景」を重視して判断する流れになっています。[1][2]
副腎腺腫と転移との鑑別
副腎腺腫と鑑別すべき代表的な病変が、転移性副腎腫瘍です。
副腎は血流が豊富で、肺癌、腎細胞癌、乳癌、悪性黒色腫、消化管癌などの転移を認めることがあります。既知悪性腫瘍の既往がある場合は、単純に「副腎腺腫」と決めつけず、慎重に評価する必要があります。
転移を疑う所見
- 単純CTで10 HUを超える
- 内部が不均一
- 壊死・出血を伴う
- 明らかな増大傾向がある
- 大型病変である
- 両側性病変である
- 既知悪性腫瘍の既往がある
- FDG-PET/CTで強い集積を示す
ただし、担癌患者に見つかった副腎腫瘤がすべて転移というわけではありません。副腎腺腫も頻度の高い病変であるため、過去画像との比較、単純CTのHU、MRIでの信号低下、washout、PET/CT、臨床情報を組み合わせて判断します。
脂肪を含む転移にも注意
副腎腺腫では細胞内脂肪が重要な所見ですが、脂肪を含む所見があれば必ず腺腫というわけではありません。
腎細胞癌や肝細胞癌の副腎転移では、病変内に脂肪成分やclear cell成分を反映する所見を示すことがあり、chemical-shift MRIで信号低下を示す場合があります。また、一部の褐色細胞腫でも紛らわしい所見を呈することがあります。
そのため、画像所見だけでなく、既往歴、腫瘍マーカー、ホルモン異常、症状、他部位病変の有無も含めて総合的に判断することが重要です。
その他、診断のヒントとなる副腎腫瘤
副腎腺腫以外にも、画像所見から診断の手がかりが得られる副腎腫瘤があります。
- 骨髄脂肪腫
CTで明らかな粗大脂肪を含む場合に考えます。副腎腺腫の細胞内脂肪とは異なり、肉眼的脂肪を反映します。 - 陳旧性出血・感染後変化
粗大石灰化を伴う副腎病変では、陳旧性出血や感染後変化を考えます。 - 副腎皮質癌
大型、不均一、壊死、出血、浸潤傾向、増大傾向を伴う場合に鑑別します。 - 褐色細胞腫
造影効果が強い病変やT2強調像で高信号を示す病変で鑑別に挙がります。生検を検討する場合でも、事前に褐色細胞腫を除外することが重要です。
まとめ
- 副腎腺腫の画像診断では、まず単純CTでのHU測定が重要です。
- 均一な副腎腫瘤で10 HU以下なら、脂質豊富腺腫を強く示唆します。
- chemical-shift MRIでopposed-phaseの信号低下を認めれば、細胞内脂肪を反映し、副腎腺腫に典型的です。
- HUが10を超える場合でも、脂質乏しい副腎腺腫はありえます。
- その場合は、病変が均一であればchemical-shift MRIやwashout CTで追加評価します。
- 不均一、壊死・出血、石灰化、大型病変、明らかな増大、既知悪性腫瘍の既往がある場合は、転移・副腎皮質癌・褐色細胞腫などを慎重に鑑別します。
- 最終判断は画像所見だけでなく、臨床情報と内分泌評価も合わせて行います。
Take home message
副腎腺腫では、「単純CTで10 HU以下」または「opposed-phaseで信号低下」が重要な手がかりです。
ただし、非典型例や担癌患者では、転移や副腎皮質癌、褐色細胞腫などを含めて総合的に判断する必要があります。
出典:
- Fassnacht M, Tsagarakis S, Terzolo M, et al.
European Society of Endocrinology clinical practice guidelines on the management of adrenal incidentalomas, in collaboration with the European Network for the Study of Adrenal Tumors.
European Journal of Endocrinology. 2023;189(1):G1-G42. - American College of Radiology.
ACR Appropriateness Criteria: Adrenal Mass Evaluation. 2021. - Mayo-Smith WW, Song JH, Boland GL, et al.
Management of Incidental Adrenal Masses: A White Paper of the ACR Incidental Findings Committee.
Journal of the American College of Radiology. 2017;14(8):1038-1044. - Boland GW, Lee MJ, Gazelle GS, Halpern EF, McNicholas MM, Mueller PR.
Characterization of adrenal masses using unenhanced CT: an analysis of the CT literature.
AJR Am J Roentgenol. 1998;171(1):201-204. - Mayo-Smith WW, Lee MJ, McNicholas MM, Hahn PF, Boland GW, Saini S.
Characterization of adrenal masses (<5 cm) by use of chemical shift MR imaging: observer performance versus quantitative measures.
AJR Am J Roentgenol. 1995;165(1):91-95. - Park BK, Kim CK, Kim B, Lee JH.
Comparison of delayed enhanced CT and chemical shift MR for evaluating hyperattenuating incidental adrenal masses.
Radiology. 2007;243(3):760-765. - Adam SZ, Nikolaidis P, Horowitz JM, et al.
Chemical Shift MR Imaging of the Adrenal Gland.
Radiographics. 2016;36(2):414-432.
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いつもお世話になっております。
副腎偶発腫瘍診断の流れのフローチャートの10HU未満で塊状の脂肪なし皮質腺腫とは、副腎皮質腺腫の事ではないという事で、正しいでしょうか?
副腎皮質腺腫は副腎腺腫とは言うが、皮質腺腫とは言わないという理解で大丈夫でしょうか?
用語が混乱するので質問させていただきました。
副腎皮質腺腫=副腎腺腫=皮質腺腫です。
失礼いたします。
ケミカルシフトイメージングというのは、T1強調画像かと思いますが、これは通常の単純MRIで含まれるのでしょうか。それとも特別に追加が必要なものでしょうか。
MRIにおけるASII(信号低下率)というのも、このケミカルシフトイメージングのin→outでの低下率を指すのでしょうか。だとしたら、そのカットオフ値もありますでしょうか。
また、PEWは通常の造影CTで算出できるのでしょうか。それともダイナミックCTを行う必要があるでしょうか。
いろいろすみませんが、教えていただけると幸いです。
コメントありがとうございます。
>T1強調画像かと思いますが、これは通常の単純MRIで含まれるのでしょうか。それとも特別に追加が必要なものでしょうか。
副腎を撮影する場合はルーチンで含まれていると思いますが、施設のルーチンをご確認ください。
>そのカットオフ値もありますでしょうか。
視覚的に判断し、カットオフ値はありません。
>PEWは通常の造影CTで算出できるのでしょうか。それともダイナミックCTを行う必要があるでしょうか。
ダイナミックCTを行う必要があります。
どうもありがとうございます。
副腎/脾臓比(ASR)という値もありますか?
それは何でしょうか?
出典はわかりますか?
初めまして。いつもこちらのサイトには大変お世話になっております。
inとoutの信号比較について教えていただきたくコメントいたしました。
inでは全体的に低信号を示し、outではinより高信号を示す副腎結節の中に一部淡く低信号部分(この部分もinの方が低信号)が見られる場合はどう判断したらよいのでしょうか。
①inよりoutの方がいずれの部分でも信号が高いため、脂肪を含まない
②inは均一な信号だが、outだけで見ると一部信号が落ちているので、脂肪を含む
参考書ではinの方が高信号なので判断しやすいのですが、inで全体的に低信号の場合、outでの信号低下の有無をどう判断したらよいのか悩んでおります。
お忙しいところ恐縮ですが、お教えいただけますと幸いです。よろしくお願い申し上げます。
コメントありがとうございます。
outよりもinが全体的に低信号の場合は脂肪は含有しないと考えます。
また、out→inで信号が低下している場合はヘモジデリン沈着や石灰化、金属沈着、線維性成分の混在などを示唆します。
CTとも合わせて判断したいですね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/6598
早々にお返事頂き、また関連する内容についてのリンクまでありがとうございます!
chemical shift imagingではin→outでの信号低下しか気にしていませんでしたが、逆パターンの信号低下もよく見てみることにいたします。
初期研修で放射線科を1ヶ月選択したのですが、とても面白く、これからも画像を勉強していきたいと思いました。
このようにたくさんの内容が勉強できるサイトを開設してくださり、本当にありがとうございます!