緊急手術を必要とする頻度も多い急性腹症の1つでもある急性虫垂炎(きゅうせいちゅうすいえん)

一般的にはしばしば盲腸(もうちょう)と呼ばれます。
※厳密には虫垂と盲腸は異なります。盲腸の先端から出る小さな管腔が虫垂です。

右下腹部の痛みとくれば、この急性虫垂炎もその原因の一つとして考えなければなりません。

10〜20歳代の若い世代に多く起こりますが、乳幼児や妊婦、高齢者に起こることもあります。

今回はこの急性虫垂炎(英語表記で「acute appendicitis(読み方はアキュート・アペンディサイティス)」)について

  • 原因
  • 症状
  • 診断
  • ガイドライン
  • 治療
  • 看護

などをそれぞれ分かりやすくご説明したいと思います。

急性虫垂炎とは?

「急性虫垂炎とは何なのか?」

を説明する前に、そもそも虫垂とは何なのかについて説明します。

そもそも虫垂(ちゅうすい)とは?

虫垂(ちゅうすい)は、下のイラストのように小腸(回腸)から大腸に移行する部位の近くの盲腸下部から出る細い管状の小突起です。

急性虫垂炎とは?

そして、急性虫垂炎とは、簡単に言うと、この虫垂に感染が起こった状態です。

虫垂は、通常、空気を含んでいる空洞の管腔です。

この虫垂が何らかの原因でふさがり、中の圧力が上昇することによって循環障害が生じ、二次的に感染が加わることで発症するのが急性虫垂炎です。

つまり、

  • 虫垂内腔閉塞→内圧上昇→循環障害→急性虫垂炎を発症

という機序で虫垂炎が起こります。

急性虫垂炎の原因は?

では、虫垂炎を引き起こす虫垂がふさがる原因にはどのようなものがあるのでしょうか?

これには

  • 糞石
  • リンパ組織の腫大
  • 腫瘍など

が原因となり、虫垂の内腔が閉塞します。

細菌ウイルスによる感染症ストレス食生活との関連性も考えられていますが、詳しいことは解明されていません。

最も多く発症するのは10〜20歳代ですが、乳幼児期の子供から大人(妊婦・高齢者)にも起こります。

糞石とは?

糞石(Fecalith)とは、消化管の内容物である食べ物・老廃消化管細胞・消化液が消化管の中で固まって虫垂内(主に虫垂根部)に停留したものを言います。

胃のバリウム検査や大腸のバリウム検査のバリウムがこの虫垂に残ってしまい糞石を作ることもあります。

糞石を伴った急性虫垂炎は、抗生剤で一時的に症状を抑えることができても、糞石自体は無くならないので、再発する頻度が多いと言われます。

そのため糞石がある虫垂炎は、手術適応があると言われます。

 

急性虫垂炎の症状は?

  • 初期には臍の周りを中心とした痛み→ひどくなると右下腹部の激痛

という風に、初期と、進行した後で痛みの場所が移動するのが虫垂炎の特徴です。
(ただしこのような典型的な痛みの移動を起こさないこともあります。)

初期症状

初期症状として

  • 悪心
  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 心窩部痛

などがあらわれます。

この時の症状は、虫垂内圧の上昇にともなう内臓痛が主で、右下腹部の圧痛はまだありません。

また、腹痛の前に、下痢や便秘症状が認められることもあります。

進行すると

症状が進行すると(初期の腹痛から数時間経過)

  • 右腹部の腹痛(体性痛や圧痛)
  • 反跳痛(腹部を押して離した瞬間に響くような痛み「Blumberg徴候」)
  • 発熱(37〜38度)

などがあらわれます。

また、上記以外にもある特徴的な痛みをご説明します。

  • Rovsing徴候(ロプシング)・・・仰向けで、下行結腸を下から上に押し上げるように圧迫すると、右下腹部痛が増強
  • Rosenstein徴候(ローゼンシュタイン)・・・左側を下にして横になると仰向けよりも圧痛が増す
  • 腸腰筋徴候・・・左側を下にして横になり、右足を曲げた状態から伸ばしながら背側に上げると、右下腹部に痛みが生じる

乳幼児の場合は、腹痛をうまく訴えられず、泣き止まないと行った症状もありますが、初期から発熱・嘔吐・脱水が見られます。

急性虫垂炎の診断は?

身体診察・採血検査・超音波検査・CT検査などをおこない診断します。

身体診察

限局性(病気による影響が局所に限定されている状態)を認める部位圧痛点といいます。

虫垂炎では特徴的な圧痛点があります。

特徴的圧痛点を、それぞれご説明します。

McBurney点

右上前腸骨棘とおへそを結ぶ外側3分の1の点(虫垂の付着部)。

Lanz点

左右上前腸骨棘を結ぶ線の右外側の3分の1の点(虫垂の先端)。

採血検査

  • WBC(白血球)の上昇
  • CRP(炎症や感染症の指標)の上昇

が確認できます。

超音波検査

肥大した虫垂や糞石が超音波検査で確認できます。

重症例では、腹水や虫垂壁断裂なども見られます。

CT検査

肥大した虫垂や糞石、周囲への炎症の波及が確認できます。

また、虫垂結石がある場合には、高い確率で穿孔をともないます

穿孔とは?

穴が開いた状態を穿孔といいます。

穿孔をともなう場合には、壁外遊離ガス・イレウスの合併・周囲膿瘍が確認できます。

 

CT検査は、合併症の有無や他の疾患との鑑別にも有用です。

穿孔することにより、様々な合併症を引き起こします。

 

以下のような合併症があります。

  • 横隔膜下膿瘍
  • 汎発性腹膜炎
  • 多発性腹腔内膿瘍
  • 盲腸周囲膿瘍
  • ダグラス窩膿瘍

急性虫垂炎の鑑別診断は?

また、鑑別疾患としては以下のものがあります。

  • 急性胆嚢炎
  • 急性胆管炎
  • 腎盂腎炎
  • 尿管結石
  • クローン病
  • Meckel憩室炎
  • 右側大腸憩室炎
  • 移動盲腸
  • 胃潰瘍
  • 十二指腸潰瘍
  • 急性膵炎
  • イレウス
  • 急性腸炎
  • 異所性妊娠
  • 急性卵管炎
  • 卵巣出血
  • 卵巣茎捻転

 

急性虫垂炎のガイドラインは?

急性虫垂炎のガイドラインはありません。

日本プライマリ・ケア連合学会の急性腹症ガイドライン案では、いくつかの項で虫垂炎について触れられています。

以下に要点を抜粋します。詳細は、急性腹症ガイドライン案を参照ください。

  • 急性虫垂炎は急性腹症で頻度が高い疾患に含まれており、急性腹症の4.3%~9.2%を占める。
  • 20歳未満>20-39歳で急性腹症の中で虫垂炎の占める割合が他の年齢層よりも高い。
  • 急性虫垂炎は、緊急手術を要することが多い疾患に含まれる。
  • 急性虫垂炎は臍周囲の腹痛の原因となる。
  • 急性虫垂炎では痛みが上腹部から右下腹部へ移動する。疼痛部位の移動は診断に有用。
  • 急性虫垂炎は嘔吐の症状を伴うことがある疾患である。
  • 急性虫垂炎の診断に広く受け入れられているものにAlvaradoスコアがある。
  • 小児の虫垂炎ではPediatric Appendicitis score(PAS)による8項目を評価し、2点以下では73%が虫垂炎ではなく、逆に7点以上では61%が虫垂炎であったので有用。
  • プロカルシトニンは急性虫垂炎の診断において、CRP や WBC とほぼ同等に有用。
  • 急性虫垂炎の診断にはCRP 、WBCを測定されることが多いが、WBCだけを測定した場合は約40%で偽陰性となるので注意。なので、WBC正常は虫垂炎除外の根拠にならない。
  • 急性虫垂炎は単純レントゲンで石灰化を認めることがある。それが虫垂結石=糞石。急性虫垂炎の人の10%に認める。穿孔している人の50%に認める。
  • これから虫垂結石の存在は、急性虫垂炎が疑わしい場合、虫垂炎の穿孔の可能性を上げる。
  • 急性虫垂炎の診断に腹部超音波検査は有用である。感度 75-90% 特異度 95-100% 正診率: 90-95%。
  • 急性虫垂炎の診断にCTは有用である。CT が感度 90-100% 特異度 91-99% 正診率:94-98%。
  • 特に造影CTで診断能が高く、穿孔性虫垂炎では造影CTによる診断能が特に高い。
  • ただし、CTで異常なくても虫垂炎を完全に否定できるものではない。
  • 被曝の問題があるので、小児や妊婦、閉経前の女性(虫垂炎に似た症状を起こすことがある婦人科系疾患の頻度の高いため)にはまずCTよりも超音波検査を行う。
  • 急性虫垂炎は、腹膜炎へと進展することがある。基礎疾患があって腹膜炎を起こすものの37%を占める。
  • 妊婦の急性腹症では超音波検査で診断が得られない場合は、単純MRIが推奨されており、急性虫垂炎の診断にも有用である。
  • 学童期の急性腹症で、緊急手術になる頻度が最も高い疾患が虫垂炎である。
  • 12歳以下の急性虫垂炎は28%‐57%で最初の診断で見逃されている。
  • 小児においては、鈍的腹部外傷が虫垂炎の原因となることがある。
  • 腸間膜リンパ節は右下腹部に通常存在するため虫垂炎と間違えやすい。
参考 30歳代 男性

レントゲンにて虫垂結石を認めています。

(ちなみに急性虫垂炎はありませんでした。)

Alvaradoスコアとは?

  • 痛みの移動:1点
  • 食欲不振あるいはケトン尿:1点
  • 嘔気、嘔吐:1点
  • 右下腹部の圧痛:2点
  • 反跳痛:1点
  • 体温上昇(口腔温が37.3度以上):1点
  • 白血球が10000/μL以上:2点
  • 白血球の左方移動(好中球>75%):1点

これらの合計が7点以上を虫垂炎陽性とした場合

感度81%、特異度74%であった。というもの。

 

急性虫垂炎の治療は?

内科的治療外科的治療があります。

抗生剤(内科的治療)

炎症が軽度の場合には、入院管理のもと安静にし、絶食とし、輸液をおこないます。

治療薬としては抗菌薬を第一選択とし、起因菌の頻度を考え、セフェム系抗菌薬が選択されることが多くあります。

また、解熱・鎮痛・制吐薬が症状に合わせて投与されます。

手術(外科的治療)

内科的治療によって回復しない場合や、穿孔による合併症をともなえば緊急手術となります。

手術方法として以下のようなものがあります。

  • 交差切開・・・マックバーニー点で皮膚割線に沿って5cmほど斜めに切開する方法
  • 右傍腹直筋切開・・・腹直筋の縁に沿って、マックバーニー点の高さを中心に、その上下4〜6cmを切開する方法
  • 下腹部正中切開・・・臍の下でまっすぐ切開する方法
  • 腹腔鏡・・・下腹部に3箇所穴を開けておこなう

参考文献:
病気がみえる vol.1:消化器 P184〜189
消化器疾患ビジュアルブック P126〜130
新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P140・141
内科診断学 第2版 P856・857

最後に

  • 虫垂の内腔が閉塞し、中の圧力が上昇することによって循環障害が生じ、二次的に感染が加わることで虫垂炎を発症
  • 糞石・リンパ組織の腫大・腫瘍などが原因で虫垂が閉塞して起こる
  • 初期には臍の周りを中心とした痛み→ひどくなると右下腹部の激痛
  • 虫垂炎では特徴的な圧痛点がある
  • 虫垂結石がある場合には、高い確率で穿孔をともな
  • 穿孔により合併症をともなう
  • 内科的治療と外科的治療がある

 

早期診断が早期回復にもつながるため、初期症状を見逃さないようにすることが大切です。

また、特に子供の場合は訴えが不明瞭なこともあるため、心配な症状を見逃さず、早期受診が重症化を防ぐポイントになります。

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