耳硬化症(otosclerosis/otospongiosis)とは?
- 耳硬化症は耳嚢(内耳構造を囲む軟骨嚢)に限局し、軟骨内性骨を侵す骨異形成病変。この部位が血流豊富な海綿状新生骨によって置換される。
- 両側性のことが多く(80-85%)、男女比は1:2。
- 思春期頃より発病し、妊娠、授乳後に増悪することから遺伝的、内分泌的関与が疑われている。
- 遺伝的要因が考えられているが不明な部分が多い。孤発的も多い。
- 白人に多く、アジア系人種には少ない。
- 両側進行性の伝音性難聴で発症する場合がほとんどで、進行すると混合性難聴となる。その他、めまい、耳鳴りなどを伴う。耳鳴りをまず訴えることもあり。
- 日本人では難聴自覚年齢は30歳代、診断確定年齢は40歳代が多い。
- 病変の局在により窓型(fenestral type:85%)と蝸牛型(retrofenestral type:15%)に分類される。
- 本症の伝音性難聴は気導聴力が悪く、骨導値は正常か2000Hz付近での低下(Carhartの凹み)が認められる。
- 治療はアブミ骨手術が一般的。アブミ骨の一部もしくは全部を切除し、テフロンワイヤーピストンや脂肪鋼線などをキヌタ骨長脚に連結して伝音性難聴を回復する。
- 感音性難聴を来した進行例では人工内耳が考慮される。
(1)窓型 fenestral type
- 卵円窓前部辺縁を中心とした病変が多く、アブミ骨底部の固着による伝音性難聴を来す。蝸牛岬角や顔面神経管が侵される場合もある。
- CTでは卵円窓前部辺縁(fissula antefenestrum)の脱灰様所見(低吸収域)あるいは骨新生を特徴とする。進行すると硬化性変化が加わり、アブミ骨前脚、底板に進展するとアブミ骨の肥厚や卵円窓の狭小化を来す。
- ただし、アブミ骨底板の肥厚を指摘できる進行例は5%程度。
- 我が国においては微細な病変が多く、1mm未満のスライスによる観察が有用。
卵円窓の解剖
- 内耳は鼓室のさらに奥に存在し、鼓室とは2つの窓で通じている。それが、卵円窓と正円窓。
CT所見(正常例)
症例 70歳代女性 聞こえにくい
両側の卵円窓前部辺縁(fissula antefenestrum)の脱灰様所見(低吸収域)を認めています。
両側の窓側の耳硬化症を疑う所見です。
症例 50歳代 女性 右耳の閉塞感、めまい
右側の卵円窓前部辺縁(fissula antefenestrum)の脱灰様所見(低吸収域)を認めています。
右側の窓側の耳硬化症を疑う所見です。
(2)蝸牛型 retrofenestral(cochlear) type
・蝸牛周囲の耳嚢が障害され、感音性or混合性難聴を来す。窓型の耳硬化症を伴うことが多い。
・CTでは、蝸牛周囲の透亮像(低吸収域)が認められる。進行して石灰化が起こってくると、診断は難しくなる。
・造影MRIで、蝸牛周囲が増強されることがある。
参考)蝸牛の内部構造
・蝸牛の中には内リンパ液を容れた膜迷路があるが、これを蝸牛管ductus cohelearisと呼ぶ。卵円窓(前庭窓)から入った音波は前庭階を進行し、頂上で鼓室階に移行して、蝸牛窓から出て行く。
・内耳は蝸牛、前庭、半規管の3つの部分に分かれるが、内部では互いに交通している。内耳は下の図の様に比較的厚い骨に包まれ、骨迷路bony labyrinthと呼ばれる。
参考文献)頭頸部の画像診断