外傷により起こる顔面骨の骨折は、骨折が顔面の真ん中(正中)に起こるのか、顔面の外側に起こるのかで大きく分けることができます。
そして、さらにそれぞれ複数の骨折の種類があり、結構複雑です。
「顔面骨骨折をわかりやすく解説しているサイトはないのか?」
といろいろ探したのですが、見つかりませんでした。
そこで、今回は顔面骨骨折について、
- 種類
- 症状
- 診断方法(実際のCT画像を見ながら)
- 治療法
まで、徹底的にまとめてみました。
顔面骨折の種類・分類は?
顔面骨の骨折は、上に述べたようにまず、顔面骨の中心部の骨折なのか、外側の骨折なのかに分けることができます。
さらに、その上で次のように分類することができます。
顔面骨の中心部の骨折(顔面中央部中心部骨折)
顔面骨の中心部の骨折は上のように、以下の3つに分けることができます。
- Le Fort骨折
- 鼻骨骨折
- 鼻眼窩篩骨(NOE)骨折
に分類されます。
それぞれについて解説します。
Le Fort骨折
顔面中央部では垂直方向により強固な支柱があるため、水平方向骨折が生じやすいとされています。
LeFort骨折(読み方は「ルフォー」)は以下のようにⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型に分類されます。
- Le FortⅠ型骨折:上顎骨下部の横断骨折。
- Le FortⅡ型骨折:上顎骨と鼻骨の錐体状(逆V字状)の骨折
- Le FortⅢ型骨折:頭蓋骨と顔面骨が分離する。
の3つです。
ただし、純粋なLe Fort骨折は稀で、片側性であったり他の骨折を合併することが多いと言われており、いずれのタイプも翼状突起の骨折を含みます。
そして、外力の強さも重篤性もⅢ>Ⅱ>Ⅰの順に大きいとされています。
症例 40歳代 男性 交通事故
顔面骨CTの冠状断像にて、両側上顎骨に水平骨折を認めています。
さらに、両側の眼窩下壁にも骨折線あり。
この症例のCTを3D再構成すると、以下のようになります。
両側上顎骨に水平骨折を認めており、右側はLe FortⅠ型骨折、左側はⅡ型相当であることが診断できます。
鼻骨骨折
鼻骨骨折は、最も頻度の多い顔面骨の骨折です。
詳しくはこちらでまとめています。→鼻骨骨折は何科を受診すればいい?治療は?画像所見は?
鼻眼窩篩骨(NOE)骨折
NOEとは、Naso-orbital-ethmoidの略。
Naso(鼻)-orbital(眼窩)-ethmoid(篩骨洞)です。
つまり鼻骨・前頭骨・上顎骨・篩骨・涙骨・蝶形骨からなる複合体であり、ここに起こる骨折を鼻眼窩篩骨(NOE)骨折と言います。
顔面の中央部の骨折で起こる症状は?
骨折が起こる部位にもよりますが、以下のような症状が現れます。
- 鼻血
- 頭痛
- 眼球陥没
- 視野障害
- 視力障害
- 皮下出血
- 腫脹による顔貌の変容
- 骨折部位の圧痛
- 開口障害
- 噛み合わせのズレ(咬合不全)
- 血管損傷
また、細かい骨折の部位によっても現れる症状は異なります。
骨折により、神経にまで衝撃が及ぶと、様々な神経症状が現れることもあります。
顔面骨骨折や頭蓋底骨折・頭蓋骨骨折・頚椎損傷などに伴う血管損傷
また、外傷により血管損傷を伴う場合があります。
血管損傷により、血管が破れたり、詰まったり、仮性動脈瘤を作る場合があります。
これらの評価には近年、造影剤を用いたCTであるCTAによるスクリーニングが有効とされます。
ただし、CTAによる血管損傷は、感度70%・特異度97%と報告されており、
- CTAでスクリーニングを行なって解離や仮性動脈瘤などの所見がある場合
- CTAで異常所見を認めないが、神経学的異常を認める場合
には、血管造影が行われることもあります。
顔面骨の外側の骨折(顔面中央部外側骨折)
もう一度、顔面骨骨折の分類を見てみましょう。
上にあるように、顔面の外側の骨折は、
- 眼窩骨折
- 頬骨骨折
- 上顎骨骨折
に分けることができます。
これらは単独で起こることもありますが、複合することが多く、これらが複合して起こったものを
- 頬骨上顎複合(ZMC)骨折
と言います。
※ZMC:Zygomatico(頬骨)maxillary(上顎) complexの略
頬骨上顎複合(ZMC)骨折
頬骨上顎複合(ZMC)骨折では、頬骨が接する4つの骨(前頭骨・上顎骨・蝶形骨・側頭骨)から分離します。
骨折部位としては、
- 眼窩外側
- 上顎洞前壁(眼窩下孔)
- 上顎洞外壁
- 上顎洞後壁
- 頬骨弓
に認められることになります。
これをイラストで描いてみると、次のようになります。
頬骨上顎複合(ZMC)骨折の中でも三脚骨折といって、
- 眼窩下縁
- 眼窩外側壁
- 頬骨弓
に骨折を認めるものが代表的です。
症例 30歳代男性 交通事故 頭部CT
蝶頬骨縫合に、骨折線を認めています。
- 上顎洞前壁及び後壁に骨折線
- 眼窩内側壁に骨折線
- 頬骨側頭骨縫合において頬骨弓に骨折線
を認めており、さらに右上顎洞に血腫貯留を認めています。
これを冠状断像で見てみると、
- 前頭骨頬骨縫合に骨折線
- 上顎洞前壁(眼窩下孔)に骨折線
- 上顎洞側壁に骨折線
を認めており、上顎洞に粘膜肥厚及び一部血腫貯留を疑う軟部陰影を合併しています。
顔面骨CTを3D構成すると次のようになり、
- 前頭骨頬骨縫合に骨折線
- 頬骨弓に骨折線
- 眼窩下部に骨折線
が一目瞭然であり、頬骨上顎複合(ZMC)骨折と診断できます。
顔面骨の骨折の評価には、3D再構成が非常に有効ですね。
症例 60歳代 男性 交通事故 頭部CT
右蝶頬骨縫合に骨折線を認めています。
- 頬骨側頭骨縫合において頬骨弓に骨折線
- 上顎洞前壁及び後壁に骨折線
を認めています。
冠状断像では、眼窩底骨折および眼窩内容物の逸脱を認めています。
顔面骨CTを3D構成すると次のようになり、
頬骨上顎複合(ZMC)骨折と診断できます。
顔面骨の外側を骨折(頬骨上顎複合(ZMC)骨折)した場合、合併症や症状は?
以下のような合併症が起こることもあります。
- 眼窩吹き抜け骨折
- 頬骨弓の内側へ凹状骨折
- 眼窩下溝骨折
- 鉤状突起骨折
- 眼球破裂
- 頭蓋内合併症
頬骨弓の内側へ凹状骨折
咬筋が圧排を受けることで、開口障害を生じることがあります。
眼窩下溝骨折
眼窩下溝を走る三叉神経2枝の損傷による、感覚障害が起こることもあります。
鉤状突起骨折
外傷性の副鼻腔炎を生じることがあります。
頭蓋内合併症
といった出血性変化が生じることもあります。
顔面骨折の治療法は?
治療法は、骨折の細かい部位により、形成外科だけでなく、脳外科・眼科・耳鼻咽喉科など、各方面からの治療を必要とする場合もあります。
また、軽度の場合には、経過観察をし、自然治癒を待ちます。
ズレを、正しい位置に戻すことが大切です。
骨折部位や骨折の状態などによって、外科的手術により骨折部を整復し(正しい位置に戻し)、プレート(チタンプレートや吸収性プレート)で固定したり、他の部位から骨を移植する方法が行われます。
ですが、骨折により神経や筋肉までが影響を受けている場合は緊急手術を要します。
参考文献:骨折の画像診断P31〜39
最後に
顔面骨骨折について徹底的にまとめてみました。
大きな要点は以下の通りです。(細かい点は上の記事をご覧ください。)
- 顔面骨の骨折は大きく分けて、顔面中央部中心部骨折と顔面中央部外側骨折に分けられる
- 顔面中央部中心部骨折は、Le Fort骨折・鼻骨骨折・鼻眼窩篩骨(NOE骨折)に分類される
- 更に、LeFort骨折はⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型に分類される
- レントゲンやCT検査で骨折部位を確認し、診断される
- 外科的手術が行われる
骨折の度合いによっても症状や治療法が異なりますが、激しい損傷を伴う骨折の場合、治癒しても顔面が変形してしまうことも中にはあります。
そのため、自然治癒を望む場合でも、整復し固定することが大切です。