副鼻腔の画像検査で、上顎洞内に丸い嚢胞状病変を認めることがあります。
その代表が副鼻腔貯留嚢胞(Paranasal sinus retention cyst)です。特に上顎洞に多く、頭部CTや頭部MRIで偶然見つかることも少なくありません。
貯留嚢胞は多くの場合、良性で無症状です。ただし画像上は、粘膜肥厚、粘液貯留、副鼻腔炎、鼻茸、粘液嚢胞などと紛らわしいことがあります。
本記事では、副鼻腔でよく見られる貯留嚢胞のCT、MRI画像所見のポイントについて、画像診断の観点から整理します。
先に結論:副鼻腔の貯留嚢胞は多くが心配のない所見
- 貯留嚢胞は、副鼻腔の粘膜の小さな腺の出口がつまって粘液がたまった小さな袋で、上顎洞の底にドーム状(半球状)に見えるのが典型です。頭部CT・MRIや歯科の画像で偶然よく見つかり、多くは無症状で治療は不要です
- 見分けのポイントは、境界がはっきりした半球状で、骨の破壊や洞の拡大がないことです(MRIではT2強調像で白い)
- 洞全体を満たして骨を押し広げるなら粘液嚢胞(mucocele)、骨の破壊や造影される充実部分があれば腫瘍を考えます
- 無症状なら経過観察が基本で、長期の経過では自然に消えたり大きさが変わらなかったりすることが多いと報告されています
副鼻腔貯留嚢胞(Paranasal sinus retention cyst)とは?
副鼻腔貯留嚢胞は、粘膜内の腺管が閉塞し、粘液が貯留することで形成される嚢胞性病変です。副鼻腔の中では上顎洞に多く認められます。
画像では、上顎洞底部や洞壁から内腔側へ突出する半球状・ドーム状の病変として見えることが典型的です。多くは無症状で、頭部MRIや頭部CT、歯科領域の画像検査で偶然発見されます。無症状の一般集団を対象とした系統的レビュー(33研究・約1万7千人)では、画像上の粘液貯留嚢胞は約13%に認められたと報告されています。
文献的にも、副鼻腔貯留嚢胞は無症状例が多く、積極的治療を要しないことが多いとされています。一方で、サイズが大きい場合や、顔面痛、鼻閉、反復する副鼻腔炎症状などを伴う場合には、耳鼻科的評価が必要になることがあります。
CT画像所見のポイント
CTでは、貯留嚢胞は副鼻腔内に見られる境界明瞭な軟部濃度の隆起性病変として描出されます。典型例では、上顎洞底部から内腔へ向かって盛り上がるような形を示します。
1. 上顎洞底部に多いドーム状病変
貯留嚢胞の最も重要な形態的特徴は、洞壁から立ち上がるドーム状・半球状の形です。特に上顎洞底部に接して認められることが多く、画像上は「丸く盛り上がった粘液を含む嚢胞」として見えます。
単なる粘膜肥厚は洞壁に沿って帯状に広がるため、貯留嚢胞のような半球状の隆起とは形が異なります。なお、頭部MRIで偶然見られる副鼻腔の粘膜肥厚は、3mm程度までなら無症状の人にもよくみられて臨床的意義に乏しく、症状のある群との差がはっきりするのは4mm以上の肥厚だったと報告されています。
2. 内部は均一な軟部濃度
CTでは、内部はおおむね均一な軟部濃度を示します。石灰化や脂肪濃度を示す病変ではありません。内容物の性状によって多少の濃度差はありますが、通常は副鼻腔内の空気と明瞭なコントラストを示します。
3. 骨破壊や洞拡大を伴わない
貯留嚢胞では、通常骨破壊、骨浸潤、明らかな洞拡大は認めません。ここは非常に重要です。
一方、粘液嚢胞では、副鼻腔の排泄路閉塞により洞内圧が上昇し、洞の拡大、骨菲薄化、骨欠損を伴うことがあります。そのため、画像上で副鼻腔の拡張や骨破壊を伴う場合は、単純な貯留嚢胞ではなく、粘液嚢胞や腫瘍性病変を考える必要があります。
症例 50歳代男性

右上顎洞に洞壁から立ち上がる球状の低吸収結節を認めます。
貯留嚢胞を疑う所見です。
症例 60歳代女性

右上顎洞に洞壁から立ち上がる半球状の低吸収結節を認めます。
貯留嚢胞を疑う所見です。
症例 年齢不詳
引用:Radiopaedia(Sinus mucous retention cyst)
右上顎洞の底部に、上に向かって丸く盛り上がるドーム状の軟部濃度の病変があります。洞の壁の骨破壊や洞の拡大はありません。右上顎洞の粘液貯留嚢胞と診断されています。
MRI画像所見のポイント
MRIでは、貯留嚢胞の内容液の性状を反映して、T1強調像・T2強調像で信号が変化します。典型的には、嚢胞性病変としてT2強調像で高信号を示します。
1. T2強調像で高信号
貯留嚢胞は粘液を含む嚢胞性病変であるため、T2強調像では高信号を示すことが多いです。上顎洞内に、境界明瞭なドーム状のT2高信号域として見えます。
ただし、内容物の蛋白濃度が高い場合や粘稠度が高い場合には、T2信号がやや低下したり、不均一に見えたりすることがあります。したがって、信号だけで判断するのではなく、形態と位置を合わせて評価することが大切です。
2. T1強調像では低〜中等度信号が多い
T1強調像では、一般的には低信号から中等度信号を示します。ただし、粘液の蛋白濃度が高い場合はT1信号が高くなることがあります。
そのため、T1高信号だから貯留嚢胞ではない、とは言い切れません。副鼻腔内の粘液性病変は、内容物の濃縮や蛋白濃度によって信号が変化するためです。
3. 造影MRIでは内部増強を認めない
造影MRIでは、貯留嚢胞の内部は基本的に増強されません。嚢胞壁や周囲の粘膜が薄く増強されることはありますが、充実性腫瘍のように内部が不均一に増強される所見は通常認めません。
造影MRIで内部に明らかな充実性増強効果を認める場合は、貯留嚢胞ではなく、腫瘍性病変や炎症性ポリープなど、別の病変を考える必要があります。
貯留嚢胞と粘膜肥厚の違い
日常診療で最もよく迷うのが、貯留嚢胞と粘膜肥厚の違いです。
| 所見 | 貯留嚢胞 | 粘膜肥厚 |
|---|---|---|
| 形 | 半球状・ドーム状 | 洞壁に沿った帯状・びまん性肥厚 |
| 境界 | 比較的明瞭 | 壁に沿って連続する |
| 好発部位 | 上顎洞底部 | 副鼻腔壁全体、自然口周囲など |
| 造影効果 | 内部は増強なし | 肥厚粘膜が増強する |
| 読影のコツ | ぷくっと盛り上がる | べたっと壁に沿う |
貯留嚢胞は「壁から内腔へ丸く突出する病変」です。一方、粘膜肥厚は「副鼻腔壁に沿って厚くなった粘膜」です。つまり、丸く盛り上がるか、壁に沿って広がるかが大きな違いです。
貯留嚢胞と粘液貯留・液面の違い
副鼻腔内に液体や粘液がたまると、CTやMRIで貯留嚢胞のように見えることがあります。しかし、粘液貯留ではしばしば重力依存性の分布を示し、液面を形成することがあります。
貯留嚢胞は洞壁に付着したドーム状病変であり、通常は明らかな水平液面を作りません。一方で、急性副鼻腔炎などに伴う液体貯留では、air-fluid levelを認めることがあります。
| 所見 | 貯留嚢胞 | 粘液・液体貯留 |
|---|---|---|
| 形 | ドーム状 | 重力依存性、層状 |
| 液面 | 通常なし | 認めることがある |
| 位置 | 洞底・洞壁に付着 | 洞内に貯留 |
| 造影 | 内部増強なし | 内容物自体は増強なし |
貯留嚢胞と粘液嚢胞の違い
名前が似ているため混同されやすいですが、貯留嚢胞と粘液嚢胞は画像診断上、区別すべき病変です。
貯留嚢胞は、副鼻腔粘膜内の小嚢胞性病変であり、多くは副鼻腔の形を変えません。一方、粘液嚢胞は副鼻腔の排泄路閉塞により洞内に粘液が貯留し、慢性的に拡張する病変です。
そのため、粘液嚢胞では以下のような所見が問題になります。
- 副鼻腔の拡大
- 骨菲薄化
- 骨欠損
- 眼窩内や頭蓋内への圧排
- 周囲構造への影響
これらの所見を伴う場合は、単純な貯留嚢胞として扱わず、粘液嚢胞や腫瘍性病変を含めて慎重に評価する必要があります。
上顎洞にできる嚢胞の種類と見分け方
「上顎洞の嚢胞」と言っても、貯留嚢胞のほかにいくつかの種類があります。手術歴や歯の状態と合わせて見るのがコツです。
| 病変 | どこに・どんな形 | 見分けるヒント |
|---|---|---|
| 貯留嚢胞 | 上顎洞の底や壁からドーム状に盛り上がる | 骨の変化なし。多くは偶然見つかる |
| 粘液嚢胞(ムコセル) | 洞全体を満たして膨らむ | 洞の拡大・骨の菲薄化や欠損 |
| 術後性上顎嚢胞 | 以前に手術した上顎洞の中や周り | 上顎洞の手術歴(何十年も前のことがある)。頬の痛み・腫れで見つかる |
| 歯根嚢胞などの歯原性嚢胞 | 歯の根の先から上顎洞の底を押し上げる | 原因の歯と連続し、嚢胞と洞の間に薄い骨の縁が見えることがある |
| 鼻前庭嚢胞 | 上顎洞の中ではなく、小鼻のわきの皮下(上顎骨の前) | 上顎洞の外の軟部組織にある嚢胞 |
- 術後性上顎嚢胞は、文献をまとめた284例の検討で、原因となった手術から平均22年後に診断されており、症状は痛み(腫れを伴うことも)が多くみられました(Niederquell 2016)。
- 鼻前庭嚢胞(鼻唇嚢胞)は、21病変の検討ですべて鼻唇溝と上顎骨の間の軟部組織にありました(Liu 2023)。
臨床的にはどう扱う?
典型的な副鼻腔貯留嚢胞で、無症状かつ骨破壊や洞拡大を伴わない場合、多くは臨床的意義が乏しく、積極的な治療を必要としません。
ただし、以下のような場合は耳鼻科的評価を考慮します。
- 顔面痛、鼻閉、後鼻漏などの症状がある
- 反復する副鼻腔炎を伴う
- 病変が大きく、自然口周囲に影響している可能性がある
- 骨破壊、洞拡大、不整な造影効果を伴う
- 腫瘍性病変との鑑別が問題になる
- 歯科インプラントや上顎洞底挙上術など、歯科処置前の評価で問題になる
上顎洞の貯留嚢胞を平均60か月追跡できた17例では、7例が消失、2例が縮小、4例が不変、5例が増大しており、合併症がなければ経過観察でよいと考えられています(Wang 2007)。気になる症状がある場合は耳鼻咽喉科で相談してください。
上顎洞貯留嚢胞でよくある疑問(Q&A)
Q. 上顎洞貯留嚢胞とは、どのくらいよくあるものですか?
A. 症状のない人のCT・MRIでもよく見つかります。症状のない人を対象にした系統的レビューでは約13%(Razi 2022)、歯科用コーンビームCT 1,113例では10.1%に貯留嚢胞がみられました(Rege 2012)。
Q. 「上顎洞の液体貯留」と貯留嚢胞は同じですか?
A. 違います。液体貯留は副鼻腔炎などで洞の中に液体がたまった状態で、重力で下にたまり液面を作ることがあります。貯留嚢胞は壁にくっついた丸い袋です(上の表を参照)。
関連記事:上顎洞の血瘤腫(器質化血腫)のCT・MRI画像所見|悪性腫瘍との鑑別
関連記事:副鼻腔の粘液嚢胞(粘液瘤・ムコセル)とは?原因・症状とCT・MRI画像所見
参考文献
- Bal M, Berkiten G, Uyanık E. Mucous retention cysts of the paranasal sinuses. Hippokratia. 2014.
- Hansen AG, Helvik AS, Nordgård S, et al. Incidental findings in MRI of the paranasal sinuses in adults. BMC Ear Nose Throat Disord. 2014.
- Ali AHA, et al. Incidental detection of paranasal sinuses abnormalities on CT imaging of the head in Saudi adult population. 2022.
- Razi B, Perkovic A, Alvarado R, et al. Sinus radiological findings in general asymptomatic populations: a systematic review of incidental mucosal changes. Otolaryngol Head Neck Surg. 2022;167(1):16-24. PubMed
- Radiopaedia. Paranasal sinus retention cyst.
- Rak KM, Newell JD 2nd, Yakes WF, et al. Paranasal sinuses on MR images of the brain: significance of mucosal thickening. AJR Am J Roentgenol. 1991;156(2):381-384. PubMed
- Aghaee F, Moudi E, Vahdani N, et al. Evaluation of anatomical variations of the maxillary sinus in patients with and without mucous retention cyst. Ear Nose Throat J. 105(5):NP425-NP430 (online 2023). PubMed
- Wang JH, Jang YJ, Lee BJ. Natural course of retention cysts of the maxillary sinus: long-term follow-up results. Laryngoscope. 2007;117(2):341-4. PubMed
- Rege IC, Sousa TO, Leles CR, et al. Occurrence of maxillary sinus abnormalities detected by cone beam CT in asymptomatic patients. BMC Oral Health. 2012;12:30. PubMed
- Niederquell BM, Brennan PA, Dau M, et al. Bilateral Postoperative Cyst after Maxillary Sinus Surgery: Report of a Case and Systematic Review of the Literature. Case Rep Dent. 2016;2016:6263248. PubMed
- Liu S, Hao D, Yu L, et al. Comparative analysis of three common imaging modalities for nasolabial cysts. J Int Med Res. 2023;51(1):3000605221147201. PubMed
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