脳ヘルニア
- 脳実質が本来のコンパートメントから他のコンパートメントに移動すること。
- 外傷においては脳の腫脹や血腫などによる圧迫が原因になる。
- 脳幹や脳神経の圧迫で、動眼神経麻痺などの脳神経の麻痺や意識障害、呼吸障害、舌根沈下、除脳硬直などを来す。
- 脳幹を圧迫する鉤ヘルニア(中脳を圧迫)、小脳扁桃ヘルニア(延髄を圧迫)が重要。
- 分類:
- ①大脳鎌下ヘルニア(帯状回ヘルニア)
- ②鉤ヘルニア(下行性テント切痕ヘルニア)
- ③下行性ヘルニア(中心性テント切痕ヘルニア)
- ④小脳扁桃ヘルニア(大後頭孔ヘルニア、大孔ヘルニア)
- ⑤上行性ヘルニア(上行性テント切痕ヘルニア)
- ⑥外ヘルニア
こちらにも詳しくまとめました
大脳鎌下ヘルニア(subfalcine herniation)
- 大脳鎌下を介して脳実質(帯状回)が逸脱した状態。
- Monro孔の圧迫による対側脳室拡大。特に側脳室下角が早期に開大。
- 感情障害(不穏など)が出現することがあるが、無症状のことも多い。
- 必ず鉤ヘルニアに先んじて生じるため、臨床的に重要。
- 合併症:前大脳動脈遠位部の圧迫による梗塞。
症例 80歳代女性 自宅で倒れているところ発見
鉤ヘルニア(下行性テント切痕ヘルニア transtentorial herniation)
- テント上腔の圧が高くなると、テント切痕部が迂回槽内へ、側頭葉内側部(鉤回、海馬回)が陥、脳幹部(特に中脳)が下方、側方に圧排される。
- CTで同側の鞍上槽が消失し、中脳や橋が側頭葉内側部により圧排される。
- 陥入が進行すると、脳幹部の対側下方への圧排により、下部脳底槽が開大する。
- さらに進行すると脳底槽全体が消失する。陥入した側頭葉内側部鬱血、浮腫により 膨大し、脳幹の圧排が増悪し、致死的となる。
- 中脳圧迫による意識障害や動眼神経麻痺などを来す。
- Kernohan’s notch(Kernohan切痕)は偏位した側頭葉により脳へルニアと反対側の大脳脚がテント縁に押しつけられて損傷を来すこと。
- この場合、同側の麻痺を来す。そのため原因疾患による片麻痺と合わせて四肢麻痺の状態となり、両側錐体路徴候を生じる。
- また脳底部血管の穿通枝に牽引裂傷が生じて、中脳に出血を生じたものをDuret出血という。
- 後大脳動脈が逸脱した脳と小脳テント切痕に挟まれると、梗塞を来すことがある。
症例 80歳代女性 自宅で倒れているところ発見
動画で学ぶ脳ヘルニア
小脳扁桃ヘルニア(大孔ヘルニア)
- 脊椎管内圧に対して、テント下腔の圧が高くなり小脳下部(特に小脳扁桃)が大孔内に陥入する。
- 水頭症を合併することがある。
- 大後頭孔部で延髄が小脳扁桃により後方から圧排、損傷され、呼吸麻痺など延髄圧迫症状により死亡することもある。
- 小脳が大後頭孔下5mmよりも下方に認められた場合、異常と判定する。3mmまでは正常。
- ただし、計測よりは大孔部でのCSF spaceの消失、下位脳幹部の前方への偏位の有無を参考にした形態での判断のほうが有用なことが多い。
- 下垂した小脳篇桃により後下小脳動脈が圧迫され、小脳梗塞を生じることがある。
上行性ヘルニア(上行性テント切痕ヘルニア)
- テント下腔の圧が高くなると尾側から頭側に向けてテント切痕(四丘体槽)内に小脳の一部(小脳虫部)が陥入した状態。
- 高度の場合、中脳水道が圧排され閉塞性水頭症を来す。
- 画像所見としては、上小脳槽の消失、上小脳槽部への小脳の陥入、小脳の変形、橋が斜台に押し付けられた状態などがある。
まとめ
- テント上病変:大脳鎌下ヘルニア、鉤ヘルニア(下行性テント切痕ヘルニア)をきたす。
- テント下病変:上行性テント切痕ヘルニア、小脳扁桃ヘルニア(大孔ヘルニア)をきたす。
危険な脳ヘルニア、切迫脳ヘルニアとは?
脳ヘルニアはどこまでレポートに記載するのかが難しいですよね。
大事なのは治療に直結する所見つまり、緊急減圧が必要な、「切迫脳ヘルニア」の状態なのかどうかということです。
つまり、テント切痕ヘルニアと小脳扁桃ヘルニア(大孔ヘルニア)を見落とさない事。
- テント切痕ヘルニアの初期像では、5角形をした鞍上槽の外側が鈎回の内側偏位で欠けた状態です。
- 小脳扁桃ヘルニア(大孔ヘルニア)では、小脳扁桃が大孔に陥入した状態です。
- さらに小脳扁桃ヘルニア(大孔ヘルニア)では、上行性テントヘルニアを起こす可能性もあり、四丘槽の後部が圧迫され非対称になったり平坦化した状態です。
これらを見たときに、「○○ヘルニアの状態であり、切迫脳へルニア状態と考えます。 」と記載しましょう。
参考)
・臨床放射線48:685-694,2003 脳ヘルニア 北里大学 菅信一先生
・臨床画像2011年10月 研修医が知らなくてはならない救急疾患のCT・MRI
・脳卒中ビジュアルテキスト
硬膜下血腫による脳ヘルニア、その原因は? この硬膜下血腫は、低吸収(慢性硬膜下血腫)の中に高吸収な塊(凝血塊)がごろごろしています。この凝血塊は新鮮で、新たに硬膜下に出血を生じたことによる脳ヘルニアですか? それとも、この凝血塊も古いもので、炎症により硬膜下の水が徐々に増えたことで脳ヘルニアに至ったのでしょうか。
コメントありがとうございます。
>この凝血塊は新鮮で、新たに硬膜下に出血を生じたことによる脳ヘルニアですか?それとも、この凝血塊も古いもので、炎症により硬膜下の水が徐々に増えたことで脳ヘルニアに至ったのでしょうか。
高吸収に混ざって低吸収部位もありますので、すべてが新しいものではなくもともと慢性硬膜下血腫があり、それが増悪したと考えられます。