症例29 解答編

症例29

【症例】10歳代男性
【主訴】バイク事故で全身打撲

所見が少ない症例ですが、その所見を見落とさないようにしましょう。

まずは単純CTです。

左の腎周囲筋膜(Gerota筋膜)の肥厚を認めています。

これくらいならば生理的にも認めることがありますが、

  • 左右差がある点
  • 年齢が若い点(生理的に見られるのは通常高齢者)

から、異常所見です。

また左腎周囲には脂肪織濃度上昇を認めています。

以前あったように、腎盂腎炎でしょうか?
主訴や臨床像が全然違いますね。考えるべきは臓器損傷です。

その目で見ると、腸管との境界がわかりにくいですが、左腎の表面に高吸収域を認めており、血腫を疑う所見です。
腎損傷がうたがれます。

続いて造影CTです。

これも微細な所見ですが(thin sliceがあればもっとわかりやすいのかもしれませんが)、左腎に楔状の造影不領域を認めています。

また、単純CTと合わせるとこの腎の表面に血腫がありそうです。

冠状断で見てみましょう。

冠状断では左腎の腹側(前方)に楔状の造影不領域を認めており、その範囲はわずかです。

日本外傷学会の腎損傷分類2008によると腎損傷はⅠ型からⅢ型と3つのグレードに分けられます。

  • Ⅰ型 被膜下損傷(Ⅰa型:被膜下血腫、Ⅰb型:実質内血腫)
  • Ⅱ型 表在性損傷
  • Ⅲ型 深在性損傷(Ⅲa型:単純深在性損傷、Ⅲb型:複雑深在性損傷)

の3つです。

今回は腎外への出血があり、被膜の損傷はあるが、皮質に止まる損傷と判断し、

上の、Ⅱ型の表在性損傷と診断されました。

また、脾臓にも実質内に単純CTで高吸収→造影CTで淡く抜ける部位があります。

Ⅰ型 被膜下損傷であり、実質内に血腫を認めていますので、Ⅰb型となります。

診断:左腎損傷(Ⅱ型)+脾損傷(Ⅰb型)

※保存的に加療されました。

3日後の造影CTです。

来院時と比べると造影不領域が増大し、明瞭化しています。(ちなみに脾損傷もやや明瞭化しています)

この状態ですと診断は容易ですね。

関連:腎損傷とは?分類・症状・治療の徹底まとめ!

その他所見:とくになし。

症例29の動画解説

腎損傷について

症例29のQ&A
脾損傷もあるよう見えましたがいかがでしょうか。
さきほど、全ての症例の副所見を記載していたところ、脾損傷もありますね。
追記しました。ありがとうございます。
単純でも造影でも所見が全くわかりませんでした。外傷なので、腎臓も脾臓も見たつもりだったのですが…。小さな所見ですが、解説を読んでから見るとよくわかります。次からは、今回のような所見がないかという目で気をつけて見ます。
若い方で脂肪も少なくちょっと見にくい症例でしたね。
脾損傷わかりましたが、腎損傷も見る様に、気を付けます。
ちょっと見えにくい症例でした。
腎臓の所見は苦手なようで気づくことができませんでした。難しかったです。
ちょっと見えにくい症例でした。
難しかったです、脾損傷(Ⅰb型)はわかったのですが、腎損傷は見たことがなかったこともあり左腎周囲筋膜の肥厚や表面の高吸収域、楔状の造影欠損に気づきませんでした
優位な所見が一つあると他の所見を見落としやすくなるので気をつけようと思います
全体的にちょっと見えにくい症例でしたね。
「Gerota筋膜の肥厚」自体も何度も耳にし、所見も見た記憶がありますが、
まだ定着していなかったようです(-_-;)脾臓もノーマークでした(・・;)
ただ、脾臓の血種の変化は理論とよく合致して面白いですね。
よく覚えておきます(^▽^)/膀胱背側にゆらゆら~、もやもや~っとしたものが見えて、
どうしても出血に見えてしまうのですが、これはどうなっているのでしょう?(・・;)
ご教示いただけますと幸いです
>「Gerota筋膜の肥厚」自体も何度も耳にし、所見も見た記憶がありますが、
まだ定着していなかったようです(-_-;)前腎筋膜とか後腎筋膜とかいろいろ言い方もあるので混同しやすいですね。>膀胱背側にゆらゆら~、もやもや~っとしたものが見えて、
どうしても出血に見えてしまうのですが、これはどうなっているのでしょう?(・・;)
ご教示いただけますと幸いですこれですね。尿管から造影剤が膀胱に出ている様子ですね。よく見られる所見です。
腎損傷を見逃して膀胱と腹水がつながっているように見えたので膀胱損傷と思ってしまいました.
膀胱内の高吸収は造影剤ですね。
前回の症例での脾臓損傷が頭にあり、脾損傷がわかったのですが、腎の指摘ができませんでした。
またもや、初めに感じた所見ばかりに気を取られてしまい、見逃しです。反省です。
私も一つ見つけて安心することがよくあるので反省です。
脾臓に低吸収の所見があるけど、気のせいかな…と完全にスルーしてしまいました。腎臓についてもしかりです。今後もたくさん画像を見て慣れていきたいです。
今回はそれが所見ですね。
腎損傷には気付けましたが、脾損傷を見逃してしまいました。
私もよくやります(;゚ロ゚)
外傷について、いままで外傷が運び込まれる病院で働いたことがなく、病歴から臓器損傷の可能性を考えはしたものの、どういう所見を見つけに行くかがわからなかったので、大変勉強になりました。
うちも外傷はあまり多くないので作りながら私も学びが多いです(^o^)

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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