
症例37
【症例】70歳代男性
【主訴】(内科入院中で抗生剤が投与されている)不明熱、腹痛、下痢
(【データ】かなり古い症例で紙カルテ時代で、カルテを取り寄せたのですが掲載がありませんでした。)
画像はこちら
ほぼ全結腸に及ぶ広範で著明な壁肥厚を認めています。
また周囲脂肪織濃度上昇もあり、その程度もよく見る結腸炎よりも強い印象です。
粘膜のひだひだ構造のひだひだ具合、クネクネ具合は、いつもよりも目立ちます。
そう、そのひだひだ具合は、
だと思いませんか?
実は隠していたデータがありました。
この方、CDトキシンが陽性でした。
そう、Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)による偽膜性腸炎です。
※医師国家試験では、偽膜形成の評価ができる内視鏡所見がよく出ていましたね。
Clostridium difficileによる偽膜性腸炎の画像所見としては、浮腫性壁肥厚や腹水など非特異的なものですが、
- 炎症の程度が強く通常の結腸炎よりも壁肥厚が強い。
- アコーディオンのようなひだひだを呈することがある。(そのため、accordion signと呼ばれます。)
のが特徴です。(もちろん画像だけで診断できるものではありませんし、比較的軽症例ではCTで異常を来しません。)
偽膜性腸炎の機序は、
高齢者や基礎疾患を有する患者に抗生剤を投与
→土壌や水中に普遍的に存在するClostridium difficileが菌交代現象として増殖し、毒素を産生。
→広範な結腸炎を起こす。
というものです。
ですので、今回は、入院中の患者さんに抗生剤を投与しているというのが少しヒントとなります。
画像診断的には、広範な結腸炎があり、炎症所見が強い!と記載できれば十分です。
今回のように、腸管壁の肥厚が強い傾向にある疾患1)としては、
- 偽膜性腸炎
- O-157による出血性大腸炎
- 白血球減少性腸炎
- Crohn病
などがあります。とくに前者2つは有名です(生肉が禁止されて、O-157は減っていると考えられますが)。
また今回、結構な量の腹水貯留を認めていますが、腹水貯留を伴いやすい腸炎としては、
- 偽膜性腸炎
- O-157による出血性大腸炎
- 好酸球性腸炎
などが知られています。
壁肥厚がいつもよりかなり目立ち、腹水貯留を伴う場合は、病歴にもよりますが偽膜性腸炎やO-157による出血性大腸炎も思い出せばよいということですね。
診断:偽膜性腸炎
その他所見:
- 胸水あり。
- 心嚢水あり。
- 腎嚢胞あり。
- 肝内胆管拡張軽度あり。
- 動脈硬化がやや目立ちます。
参考文献:
1)画像診断 vol.21 No.6 2001 P632
症例37の動画解説
偽膜性腸炎について
関連動画:腸管の壁肥厚部位と鑑別疾患
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
本日もありがとうございます。
結腸のヒダが目立つこと、壁肥厚、浮腫には気づけました。(低レベルですみません)
偽膜性腸炎は言葉は知っていましたが、発生機序までは知らなかったため勉強になりました。
さすがに専門的になってきましたね。くじけずがんばりたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>結腸のヒダが目立つこと、壁肥厚、浮腫には気づけました。(低レベルですみません)
いえいえ、今回はこれがメインですので、これに気づけるかが重要です。
>さすがに専門的になってきましたね。くじけずがんばりたいと思います。
今回はちょっと診断名までは難しいですが、所見を拾えれば大丈夫です。
引き続きよろしくお願いします。
胸部の下行大動脈の造影されていない部分を動脈硬化と仰っていましたが、プラークということでしょうか。CTで見える動脈硬化の所見は石灰化(だけ)とばかり考えていました。腹部大動脈の下の方にある黒いところもプラークということでしょうか。ここが解離しているのかと考えてしまいました。
アウトプットありがとうございます。
>プラークということでしょうか。CTで見える動脈硬化の所見は石灰化(だけ)とばかり考えていました。腹部大動脈の下の方にある黒いところもプラークということでしょうか。
おっしゃるとおり、プラークです。
今日もありがとうございます。
機序まで示していただき勉強になりました。
ちなみにこの方はもともと何で入院された方なんでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
この方はパーキンソン病かなにかで入院中の方だったと思います。
かなり古い症例で紙カルテ時代ですのでちょっとデータなどが見つかりませんでした。
アコーディオンサイン、覚えておきます。
尿道に石灰化と自分の解答に書きましたが、動脈硬化をみていたのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>尿道に石灰化と自分の解答に書きましたが、動脈硬化をみていたのでしょうか?
尿管でしょうか?尿管の高吸収は造影剤によるものです。前立腺には小さな石灰化がありますね。
動脈硬化はその名の通り、動脈に起こるものです。
偽膜性腸炎の画像所見はあまり経験がなかったので勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。私にとっても貴重な症例です!
病歴と画像所見から偽膜性腸炎は想起できたのですがO-157腸炎が鑑別に挙がることを知らなかったので勉強になりました
本症例で結腸の内S状結腸だけ内部にガスが多いのは何か理由があるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>本症例で結腸の内S状結腸だけ内部にガスが多いのは何か理由があるのでしょうか?
いえ、この点はとくに意味はないと思いますよ。
偽膜性腸炎・・・初めて知りました。また機序についての解説も勉強になりました。
普段見ている腸の炎症症状より重いものであるという認識でしたが、今回の症例は緊急性の高いものという認識で良いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>今回の症例は緊急性の高いものという認識で良いのでしょうか?
手術などの適応ではなく、抗生剤の中止、バンコマイシンやメトロニダゾールにより加療されます。
基礎疾患にもよりますが、死亡率は10~20%と高いという報告もあるので、楽観視は決してできないです。
最近のマイブームみたいですが(;’∀’)、
所見の名前を覚えることはやっぱり有意義ですね(^▽^)/
機序がとりあえず頭の中から全抜けしたとしても、
それが「アコーディオンサイン」であることさえ分かれば、
機序を調べなおしたり、鑑別を勉強しなおしたり、いくらでもできますからね(*´▽`*)
今回はさらに、アコーディオンサインとGoogle検索すると、
トップに先生のサイトがでてきて、
偽膜性腸炎の症例が、「70歳代男性」ってなっていて、あれw(*´▽`*)、って感じで、
若干チートティックに所見を記載できました(*´▽`*)
「アコーディオンサイン」のGoogle検索トップ、おめでとうございます(*´▽`*)!!
アウトプットありがとうございます。
いやまあ、アコーディオンサインと検索している時点で正解ですね。
>「アコーディオンサイン」のGoogle検索トップ、おめでとうございます(*´▽`*)!!
もっとメジャーなワードでトップになりたいところですが、昨今のGoogleは厳しくなっていますね(;゚ロ゚)
この腸管は3層構造は保ててるといってよいのでしょうか。造影した場合の3層構造がわからなくて。
アウトプットありがとうございます。
保たれています!
粘膜下層の肥厚が目立ちます。
また粘膜のひだひだ構造が目立ちますね。
大変勉強になりました.とても興味深いCT像ですね.
3層構造がわかりにくかったですが,ひだが目立つということは第一層の粘膜層部分が目立っているということでしょうか.これは偽膜が影響しているのでしょうか.
また70/125の下行結腸断面は低吸収の第2層,高吸収の薄い第3層が見えていると判断してもよいでしょうか.
アウトプットありがとうございます。
>ひだが目立つということは第一層の粘膜層部分が目立っているということでしょうか.
詳細な機序はわかりませんが、粘膜部分のヒダヒダが目立ちますね。
>また70/125の下行結腸断面は低吸収の第2層,高吸収の薄い第3層が見えていると判断してもよいでしょうか
おっしゃるとおりですが、このスライスに限らず3層構造は目立ちますね。
画像所見から潰瘍性大腸炎としましたが、年齢やエピソードを考えるとおかしいと気付くべきでした。
また、肝内胆管拡張をperiportal collarとし、心嚢水貯留などから右心不全もあるのかと考えました。
異常はわかっても正確な所見をとるのは難しいですね。
アウトプットありがとうございます。
>肝内胆管拡張をperiportal collarとし、心嚢水貯留などから右心不全もあるのかと考えました。
異常はわかっても正確な所見をとるのは難しいですね。
一つ一つ所見を取ってそれが有意なのか、症状と関係あるのかを判断するのかはなかなか難しいですね。
でも、所見自体は全く的外れというわけではないですし、まずは所見を取ることが重要です。
何回見ても勉強になります!
もう一周ぐらい過去の問題を同じ形式で
毎朝、メールで送って頂きたいです。
追加料金支払いますので!
いえいえ(^_^;
とりあえずゴールまで行きましょう!まだ先は長いです。
強い腸炎で右にも左にもあったので、偽膜性腸炎よりも薬剤性かと考えてしまいました。
こういう所見がアコーディオンサインなのですね。
典型像を1スライスでみるのとは違い、判断が難しいですが、
日常臨床に役立てることができそうです。いや、できるように精進します。
本当に、毎回勉強になります。有難うございます。
アウトプットありがとうございます。
偽膜性腸炎も薬剤性腸炎の一つですね。
画像だけで偽膜性腸炎とは言えませんが、所見が派手なので鑑別に挙げることはできると思います。
高度な結腸炎をきたすと、こんな風になるのですね! 臨床であまり出会った覚えのない画像でした。
偽膜性腸炎やO-157などでこのタイプの炎症が生じるということも、覚えておこうと思います。
長年CTを見てきたつもりが、読めていなかったり、誤って解釈していた所見がたくさんあったことに気づかされる毎日です。回答を大外ししていると、ちょっと恥ずかしい。切実に、勉強しなきゃなという気持ちが湧いてきました。まずは、このシリーズを通して知識をアップデートし、身につけていきたいと思います!
アウトプットありがとうございます。
>偽膜性腸炎やO-157などでこのタイプの炎症が生じるということも、覚えておこうと思います。
そうですね。この2つはかなり炎症所見が強いことで知られています。
>回答を大外ししていると、ちょっと恥ずかしい。切実に、勉強しなきゃなという気持ちが湧いてきました。まずは、このシリーズを通して知識をアップデートし、身につけていきたいと思います!
恥ずかしい思いや痛い経験をしてこそ、身につきます。
明日の症例は私も痛い思いをした症例です。
いつもありがとうございます。
腸管がまるでじゃばら状で、まるでアコーディオンみたいだなぁ!と思っていたら、本当にアコーディオンサインというネーミングなのですね!なんとなく変だとは思ったのですが、確信が持てなかったので記載できませんでした…。
上腸間膜動静脈の先の分枝がずいぶんと腹側にあるなぁ…と思い、もしや内ヘルニアを起こしているのでは?と考えてしまい、とんちんかんな回答をしてしまいました。
明日もよろしくおねがいたします!
アウトプットありがとうございます。
>腸管がまるでじゃばら状で、まるでアコーディオンみたいだなぁ!と思っていたら、本当にアコーディオンサインというネーミングなのですね!
時代が時代なら名前をつける方でしたね。
特徴的な所見ですので、この機会に覚えておいてください。
明日もよろしくお願いします!
かなり派手な所見なので,見たことがなければかなりびっくりしてしまいそうですね.O-157の時のものも見てみたいですね.
そうなんです。派手だ!と気づけることがまずは重要です。
O-157ですよね。症例を探しているのですが、なかなか見つかりません(;゚ロ゚)
血栓閉鎖型解離と動脈硬化の所見の違いがいまいち分からないのですがご教授いただけないでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
基本的に解離の場合は、中膜部分に血腫が入り込みますので内膜の石灰化が内腔部分に認められます。
今回は石灰化はいずれも大動脈の外径部分にあってその内側に低吸収域があり動脈硬化だと考えられます。
偽膜性腸炎はよく診断・治療することが多いですが、ここまで腸管の壁肥厚しているのは初めて拝見しました。
アコーディオンサイン、周囲の脂肪織濃度上昇、腹水も合わせて覚えておきます!
アウトプットありがとうございます。
>偽膜性腸炎はよく診断・治療することが多い
そうなんですね!私はあまり見たことがなく貴重な症例です。
>アコーディオンサイン、周囲の脂肪織濃度上昇、腹水も合わせて覚えておきます!
そうですね。通常の腸炎よりも炎症所見が強く、腹水も認める点もポイントですね。
結腸を直腸から追いましたが上行結腸のところでなんじゃこりゃとなりました。虫垂炎や膿瘍があるのかなと探したりしましたが・・?でした。アコーディオンサイン目に焼き付けました。明日も頑張ります。
アウトプットありがとうございます。
今回かなり所見が派手でしたね。
通常見られるような、虚血性腸炎や感染性腸炎、憩室炎での壁肥厚の様子とは少し異なったものでした。
明日もよろしくお願いします。
画像所見からよりも、抗生剤使用中というヒントから診断した感じでした。便検査をしたうえで内視鏡を見てしまうことが多いのでCT画像は勉強になりました。
https://www.kansensho.or.jp/ref/d16.html
最近はClostridiumからClostridioidesと属が変わったようです
アウトプットありがとうございます。
>画像所見からよりも、抗生剤使用中というヒントから診断した感じでした。
病歴が大事な疾患ですね。
>最近はClostridiumからClostridioidesと属が変わったようです
そうなんですね。知りませんでした。補足いただきありがとうございます。
読み方は「クロストリジオイデス」ですね。
偽腔閉鎖型の大動脈解離と動脈硬化(プラーク)は内膜の石灰化の位置で判別すること理解しました。もう一つ、壁在血栓というのは偽腔閉鎖型の大動脈解離の偽腔内を充満しているもののことでしょうか?それとも全然違うものなのでしょうか?また違う場合は読影の上でどのように区別すればよろしいでしょうか?
よく本症例のように本題とは関係ない大動脈内の少し分厚い造影不良域をみた際におそらく問題ないだろうというのはなんとなくわかるのですが、それが一体何であるのか自信をもって読影することができません。翌日読影レポートをみると’壁在血栓’とかかれていることが多い気がします。お手数ですがご教授ください。
アウトプットありがとうございます。
>壁在血栓というのは偽腔閉鎖型の大動脈解離の偽腔内を充満しているもののことでしょうか?それとも全然違うものなのでしょうか?また違う場合は読影の上でどのように区別すればよろしいでしょうか?
壁在血栓という用語をどういう意図で使っているか、人によって違いもあるかもしれません。
というのも壁内血腫(IMH:intramural hematoma)という用語も原義を理解しないまま使う人が多くて混乱を招くので、日本では使うべきではないと学会でも言われていました。
壁在血栓で検索してみると、
http://www.radtech-miyagi.or.jp/wp-content/uploads/2014/06/7558968eabd4eea62cd77e4230c8eb7d1.pdf
こちらの17/27では、偽腔の血腫を壁在血栓と表現しています。
しかし、
http://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jjc/pdf/J082-9.pdf
https://www.yodosha.co.jp/rnote/gazou_qa/9784758105224_1a.html
などでは、解離を伴わなっておらず、動脈硬化による変化のことを壁在血栓と呼んでいるようです。
私も後者でこの用語を使います。
>よく本症例のように本題とは関係ない大動脈内の少し分厚い造影不良域をみた際におそらく問題ないだろうというのはなんとなくわかるのですが、それが一体何であるのか自信をもって読影することができません。翌日読影レポートをみると’壁在血栓’とかかれていることが多い気がします。
ですので、今回のような所見を見た場合、「動脈硬化が強く壁在血栓が目立つ」というような表現を私はします。
アコーディオンサインという名前はイメージしやすく、忘れにくく、いいネーミングと思われます。
さて、他の先生も質問されていますが、大動脈内の欠損部を動脈硬化との説明ですが、67-68/125あたりは大動脈解離では?と思いましたが、どうでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>大動脈内の欠損部を動脈硬化との説明ですが、67-68/125あたりは大動脈解離では?と思いましたが、どうでしょうか。
67 / 125ではわかりやすいですが、石灰化の外側にも石灰化を認めており、解離ならば外側の石灰化は通常認めないのではないかと考えます。
ただし、この部分は限局的な陳旧性解離が絶対ないとは言えないですね。