
【頭部】症例18
【症例】50歳代女性
【主訴】頭痛
【現病歴】6日前に近所で立ち話をしている際に頭痛・冷汗を自覚。帰宅して横になっていた。翌日近医受診し頭痛を訴えるも感染性腸炎として痛み止めと便秘薬で経過を見られていたが、頭痛おさまらず嘔吐も出現したため当院受診。
【身体所見】意識清明 E4V5M6、BP 145/89mmHg、BP 36.9℃、PR 73bpm、SpO2 100%(RA)、眼球運動障害なし、呂律困難なし。頭痛あり、嘔気なし、麻痺なし。
画像はこちら
脳幹腹側、脳幹右側、鞍上槽右側優位に高吸収な血腫を認めています。
また前大脳縦裂や右大脳谷槽にも軽度出血あり。
くも膜下出血を疑う所見です。
ただし、これまで見てきたくも膜下出血と異なる点は、血腫の局在が非常に限局的であるということです。
もし動脈瘤の破裂によるくも膜下出血とすると血腫の分布から考えて、
- 右内頸動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤
- 右内頸動脈動脈瘤
の破裂が疑われます。
脳血管カテーテル検査が施行されましたが、動脈瘤や原因となる異常所見は認めませんでした。
その後入院中に再度脳血管カテーテル検査が施行されましたがやはり動脈瘤などは見つかりませんでした。
※ちなみに、くも膜下出血患者における初回の脳血管造影での出血源同定率は60-80%とされています。そのため、初回の脳血管造影で出血源を見つけられなかった場合は、再度脳血管造影検査を行い原因の有無を確認することが必須とされています。繰り返しの脳血管造影で新たに1-12.5%の同定が可能とされています。(脳卒中治療ガイドライン2015(追補2017対応)P191)
くも膜下出血の原因
さて、くも膜下出血の原因ですが、実は動脈瘤の破裂だけではありません。
くも膜下出血の原因は以下のように分けられます。
動脈瘤破裂が85%と最多ですが、それ以外の原因が15%あると報告されています。
中でも多いのが中脳周囲くも膜下出血(中脳周囲非動脈瘤性くも膜下出血)です。
中脳周囲くも膜下出出血(perimesencephalic SAH)とは?
中脳周囲くも膜下出血には以下の様な特徴があります。
- 出血源として脳動脈瘤を同定できないくも膜下出血。
- 脳幹周囲の静脈の破綻が原因と推定されており、再出血はしない。
- SAH全体の10%を占める。
- 脳幹腹側に限局することが多い。
- 予後良好(なことが多い)のSAH。経過観察でよい。
今回、脳幹腹側にほぼ限局しており、原因動脈瘤を同定できなかったことから、この中脳周囲くも膜下出血(疑い)と診断されました。
保存的に加療され、2ヶ月後のCTです。
脳幹腹側を中心に認めたくも膜下出血は綺麗に消失しています。
また初回のCTで50歳代とするとやや側脳室下角が開いているとも取れなくはないのですが、2ヶ月後のCTでもサイズは変わらず有意ではなかったことがわかります。
このまま保存的に加療となっています。
診断:くも膜下出血(中脳周囲くも膜下出血疑い)
なお、くも膜下出血のその他の原因には以下のものがあります。
- 外傷
- 脳血管奇形(脳動静脈奇形、血管腫、硬膜動静脈瘻)
- 脳動脈解離
- 脳出血穿破
- 感染性動脈瘤、腫瘍性動脈瘤
- 脳腫瘍(下垂体卒中など)
- 静脈梗塞
- もやもや病
- 脳アミロイドアンギオパチー
- 脊髄病変(脊髄動静脈奇形、脊髄腫瘍)
- 凝固異常
- コカイン中毒
- 原因不明
関連:特殊なSAHとは?中脳周囲くも膜下出血、外傷性くも膜下出血など
【頭部】症例18の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
中脳周囲くも膜下出血疑いという言葉を初めて知りました。動脈瘤がないパターンとして認識していました。ありがとうございました 。
アウトプットありがとうございます。
>動脈瘤がないパターンとして認識していました
その認識で大丈夫ですよ。
たまに見るパターンですので覚えておいてください。
静脈が原因の中脳周囲クモ膜下出血を知りませんでした。知らないとCTAで動脈瘤が見つからなかったときに焦ってしまいそうです。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。動脈瘤が見つからないときや、分布からこの可能性を考えるようにしてください。
出血の範囲が、限定されていて
ちょっと特殊な感じかな?
と思っていたら、やはり
全然知らなかったものでした。
中脳周囲非動脈瘤性くも膜下出血
は初めて知りました。
勉強になります。
ありがとうこざいました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。特殊タイプですね。
特殊ですが極めて稀というわけではありませんので、覚えておいてください。
CT画像から、まずは「右内頸動脈付近の瘤」を疑う → 動脈瘤の精査 → 動脈瘤が見つからない場合に「中脳周囲くも膜下出血」を考える、という診断の流れがよくわかりました。
アウトプットありがとうございます。
>「右内頸動脈付近の瘤」を疑う → 動脈瘤の精査 → 動脈瘤が見つからない場合に「中脳周囲くも膜下出血」を考える
そうですね。
左右差が若干ありますので右内頸動脈付近の動脈瘤破裂をまず除外したいところですね。
中脳周囲くも膜下出血の存在を初めて知りました。
静脈からの原因もあるんですね。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
くも膜下出血=動脈瘤の破裂とは限らないということを覚えておいてください。
まだ出くわしたことのないタイプです.
一度ここで経験できてよかったです.
それはよかったです!!
動脈瘤以外にもあるということを覚えておいてください。
中脳周囲くも膜下出血というものの存在を知らないという理由で動脈瘤疑いとしてしまいましたが、
「動脈瘤を否定」することが重要とあって、結果オーライかな、と思いますw
特徴的な分布を覚えておきます。
>特徴的な分布
ですね。特徴的です。
血腫が限局しているなとは思いつつ・・・小脳動脈瘤でもあるのか?なんて妄想したあげく、filling defect signの幻覚までみえてしまいました。中脳周囲くも膜下出血・・・覚えます。いつか遭遇する日のために(^^)b
>filling defect signの幻覚
(^o^)
>いつか遭遇する日のために(^^)b
そんなにレアなケースではないので、MRIにも回ってくることがありそうです。
こんにちは、いつもお世話になっております。今週もよろしくお願いいたします!
ざっくりとくも膜下出血と述べることしかできませんでした。中濃周囲くも膜下出血、覚えておきます!
ひとつ質問なのですが横断像で脳幹部が低吸収であるように感じたのですが、正常所見として大丈夫でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>横断像で脳幹部が低吸収であるように感じたのですが、正常所見として大丈夫でしょうか?
骨によるアーチファクトでやや低吸収に見えていると考えられます。
脳幹部のCTでの低吸収の評価はしばしば難しいことがありますね。
こんにちは。
今回の症例とは関係ないのですが、画像上慢性硬膜下血腫と急性硬膜下血腫はどう見分ければいいのか教えていただけないでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
画像のみでは、どちらぽいくらいまでしか鑑別できません。
・急性硬膜下血腫は外傷を受けてから時間が間もないため高吸収の血腫。
そのため外傷性SAHや脳挫傷などを合併することがしばしばある。
・慢性硬膜下血腫は1ヶ月など時間が経過しているため高吸収〜等吸収(ときに低吸収)を示す。
・また慢性硬膜下血腫の方がサイズが大きくなることがある(急性でもありますが頻度として)。
くらいの差はあります。
急性硬膜下血腫が慢性硬膜下血腫となることもありますが、基本的には、
両者は成因も性状も全く異なるものです。
やはりエピソードが重要ですね。
「中脳周囲くも膜下出血」という言葉初耳でした。。。
業務中、夜間on call帯に時々SAHは来ますが数例ほどですが今回の様なaneurysmが発見できない症例を見たとことがありましたが
診断ではBA-topのaneurysm破裂によるSAHとかいてしまいました。。。
まだまだ、勉強不足と感じています( ;∀;)
アウトプットありがとうございます。
>今回の様なaneurysmが発見できない症例を見たとことがありました
もしかしたら今回と同じ状態かもしれませんね。
あくまで複数回の脳血管造影などで動脈瘤など出血源がないことを確認した上での診断となりますが。
結局原因がわからなかったSAHはunknown SAHとされますが、
そのうち結構この疾患が含まれていると思われます。
中脳周囲くも膜下出出血、初めて知りました。予後良好なことが多いのですね…出血源同定できないSAHの比率やその場合には再検査することについても、勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>出血源同定できないSAHの比率やその場合には再検査する
そうですね。とにかく動脈瘤破裂の場合は早期治療が必要となりますので、それを否定する為の検査の追加、さらにはCTでのフォローが重要となります。
お恥ずかしながら、下垂体あたりか?と思って下垂体卒中にしてしまいましま
アウトプットありがとうございます。
確かに場所が近いです。鞍上槽と呼ばれる脳幹腹側に認めています。下垂体はこの直下に存在しますので。
それにしては右の大脳黒槽や脳幹腹側に認めていることに違和感を持っていただけたら幸いです。
横断像10/25で右基底核あたりに高吸収の点があると思ったのですが、有意な所見ではありませんか?
アウトプットありがとうございます。
淡蒼球の生理的石灰化ですね。有意ではありません。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/16802
中脳周囲くも膜下出血、初めて聞きました。
ICやIC-PCの動脈瘤破裂なのかな?と思いました。
クモ膜下出血にもいろいろと原因がありますね、勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>ICやIC-PCの動脈瘤破裂なのかな?と思いました。
確かに動脈瘤破裂だとするとこの辺りを考えなければならないということになりますね。
文献上は10%程度ある(実際の臨床ではそこまでない気がしますが)ようなので、覚えておきましょう。
中脳周囲くも膜下出血、全く知りませんでした。ありがとうございます。
今回のケースは、橋周囲に血腫のボリュームが目立つかなと思ったのですが、名称としては脳幹周囲であれば、どこでも「中脳」周囲くも膜下出血、ということになるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>橋周囲に血腫のボリュームが目立つかなと思ったのですが、名称としては脳幹周囲であれば、どこでも「中脳」周囲くも膜下出血、ということになるのでしょうか?
確かに橋の周囲の方が今回目立ちますね。
名称は中脳に多いためこのように言われていますが、橋周囲くも膜下出血でも良いと思います。
大事なのは、動脈瘤以外の可能性を考えられるかですね。