先に結論:肝細胞腺腫(肝腺腫)とは

  • 肝細胞腺腫は、肝硬変のない肝臓にできるまれな良性腫瘍で、経口避妊薬を使う若い〜中年女性に多く、蛋白同化ステロイド・糖原病・肥満も関係します
  • 問題は出血(破裂)と悪性化(肝細胞がん)で、5cmを超えるもの、男性、β-カテニン活性型では特に注意が必要です。遺伝子・病理によりHNF1α不活化型(脂肪が多い)・炎症型・β-カテニン活性型などに分けられ、MRIの見え方が異なります
  • 造影で動脈相に強く染まり、MRIで脂肪や出血を含むことが多いのが特徴で、FNH(限局性結節性過形成)や肝細胞がんとの区別にはEOB-MRIなどを用います。EOB-MRIの肝細胞相では多くが低信号ですが、β-カテニン活性型は約6割が等〜高信号でFNHと紛らわしくなります(Kim 2023)
  • 男性は特に注意が必要です。切除例の検討では、腺腫の中に肝細胞がんを伴っていた割合は女性4%、男性47%でした(Farges 2011)。出血は大きさだけでなく、亜型や飲酒も関係します(Julien 2021)
  • FNHとの区別は、中心瘢痕・脂肪や出血の有無・MRIの信号の均一さ・EOB肝細胞相で行いますが、肝細胞相の高信号だけではFNHと決められません(下の比較表)

※経口避妊薬を使っていて肝臓の腫瘤を指摘されたときは、消化器内科で相談してください。

肝細胞腺腫/肝腺腫(HCA:hepatocellular adenoma,hepatic adenoma)

  • 非硬変肝に発生する良性腫瘍。
  • 20-40歳台の女性に好発。
  • リスク因子として、糖原病、蛋白同化ステロイド(アンドロゲン)使用、経口避妊薬服用、肥満・メタボリック症候群がある。
  • サイズが大きいものは出血・悪性化(特に5cmを超えるもの)のリスクあり。
  • 血管性の肝疾患(肝内の血流異常)との関連が、炎症型で報告されている(Poetter-Lang 2024)。
  • 多発した場合は、肝細胞腺腫症(adenomatosis)と言われる。
  • 画像上は肝細胞癌との鑑別が難しい。
  • 遺伝子的、病理学的、臨床的に4つのsubtypeに大きく分類される(2017年以降はさらに8つの亜群に細分類されている)(Nault 2017)。

肝腺腫のサブタイプ

  1. HNF 1α inactivated HCA(約30〜35%):びまん性の脂肪化。
  2. inflammatory HCA(β-カテニン変異との混合型を含め約40〜50%で最多):SAA(Serum amyloid A)・CRPの発現、肥満、飲酒、腫瘤周囲にT2WIで高信号の被膜様構造(atoll sign)。
  3. Beta-catenin activated HCA(純粋型は最大10%程度):男性に多く、悪性化(肝細胞癌)のリスクが高い。画像上、境界不明瞭な瘢痕(scar)を伴うことが多い(van Aalten 2011)。EOB-MRIの肝細胞相で等〜高信号になる割合が他の亜型より高い(59%)(Kim 2023)。
  4. 分類不能(なお2017年以降、出血しやすいsonic hedgehog型HCA(約4%)が新たに分けられている(Nault 2017))

肝腺腫の合併症

合併症としては、

  • 腫瘍内出血(5cmを超えるものでリスクが上昇。症状のある出血は患者の14%(Nault 2017))
  • 肝細胞癌への悪性転化(系統的レビューでは約4%と報告されている)

の2つが重要。男性例はサイズにかかわらず、また5cmを超えるものは切除が勧められている(EASL 2016、Poetter-Lang 2024)。

肝細胞癌への悪性転化のリスクは、男性例、β-カテニン(exon 3)変異型、5cmを超える大きさで高いとされる(Poetter-Lang 2024)。1635病変をまとめた系統的レビューでは悪性転化の頻度は4.2%で、5cm未満の腫瘍での悪性転化は3例(悪性転化例の4.4%)のみであった。5cmという目安は、EASLガイドラインの切除考慮の基準とも一致する。

肝腺腫の出血・悪性化の危険因子(大きさ以外)

5cmという目安に加えて、次の点も報告されています。

  • 男性:切除した肝細胞腺腫218人(女性184人、男性34人)の検討では、腺腫の中に肝細胞がんを伴う割合は女性4%、男性47%でした。男性ではメタボリックシンドロームとの関連が増えていました(Farges 2011)。男性で悪性転化した5例には5cm未満も2例ありました(An 2015)。
  • 出血の危険因子:腺腫261人の検討では、大きさのほかに、sonic hedgehog型(オッズ比21.02)、β-カテニン変異(exon 7/8、同6.47)、長期の飲酒(同9.16)が、症状のある出血と独立して関連しました(Julien 2021)。
  • 多発(腺腫症)では小さくても出血する:米国の167人では、1.8cm未満の腺腫に出血はありませんでした。複数の腺腫があり出血した人では、半数が5cm未満の腺腫からの出血でした(McDermott 2022)。
  • 糖原病Ia型:糖原病Ia型164人のうち50人(30.5%)に腺腫があり、年齢とともに増え、発症の平均は16.5歳でした。小さく安定している腺腫は、一時的に消えることもあると報告されています(Xu 2025)。

肝腺腫の8亜型と、出血・悪性化のリスクはどう違う?

2017年のBordeaux分類(Nault 2017)では、肝細胞腺腫は遺伝子と病理の特徴から8つの亜型に分けられています。HNF1α変異型、β-カテニン変異型(exon 3とexon 7/8)、どちらの変異もない群(炎症細胞の有無で分ける)などで、悪性化や出血のリスクが高い亜型が含まれるため、組織の確認なしに「良性だから様子を見る」とは言い切れなくなりました(Poetter-Lang 2024)。

注意すべきこと 該当する亜型
悪性化(肝細胞がん) β-カテニンexon 3変異型(純粋型、炎症型との混合型)
出血 sonic hedgehog型、β-カテニンexon 7/8変異型(純粋型、炎症型との混合型)
  • 切除の目安:男性の腺腫は大きさによらず、5cmを超える腺腫は、待機的な手術が勧められています(Poetter-Lang 2024、EASL 2016)。
  • 経口避妊薬を使っている人で5cmを超える腺腫は、月経中や妊娠中に破裂することがあり、血圧が下がる重い出血では命にかかわることがあります(Poetter-Lang 2024)。
  • MRIで亜型を分類できるのは最大8割程度とされ、所見がはっきりしないときは生検が亜型診断の基準です(Poetter-Lang 2024)。

肝腺腫の画像所見

CT,MRI所見

  • dynamic studyでは動脈相で強く造影(多血性)され、門脈相以降は亜型により造影が持続(炎症型)または低下(HNF1α型)する(Poetter-Lang 2024)。
  • MRIでの信号強度はむしろ不均一(FNHと違う)。
  • 出血や脂肪によりT1WIで病変の一部がしばしば高信号を呈する。
  • 被膜はあるときもないときもある。
  • EOBの肝細胞相での取り込みもあるときもないときもある(多くは低信号、β-カテニン型は等〜高信号が多い)。

サブタイプ別のMRI所見の比較

サブタイプ 特徴的なMRI所見
HNF1α不活化型 T1WI opposed-phaseでびまん性・均一な信号低下(脂肪)。肝細胞相は低信号
炎症型(炎症性肝細胞腺腫) T2WIで高信号、辺縁の帯状の高信号(atoll sign)、造影効果が門脈相以降も持続
β-カテニン活性型 境界不明瞭な瘢痕。肝細胞相で等〜高信号のことがある

(van Aalten 2011、Poetter-Lang 2024)。MRIで決められないときは生検で亜型を確かめます。
症例 60歳代女性 USで偶発的に肝腫瘤が見つかる。

背景肝は正常肝(非肝硬変)。

肝S8に早期濃染され、平衡相でwashoutを認めている腫瘤を認めています。

T1WI in-phase→opposed-phaseで肝S8に信号低下を認め脂肪の存在が示唆されます。

引用:Radiopaedia

肝細胞腺腫/肝腺腫(HCA:hepatocellular adenoma,hepatic adenoma)と診断されました。

肝細胞腺腫とFNHの見分け方

肝腺腫とFNHはどちらも若い〜中年の女性に多く、動脈相で強く染まるため、紛らわしい腫瘤です。

FNH 肝細胞腺腫
どんな病変か 腫瘍ではない過形成。治療は不要 良性腫瘍。出血・悪性化に注意
中心瘢痕 あることが多い(EOB-MRIの検討で61%、Suh 2015)。T2で高信号 通常はなし。β-カテニン活性型は境界不明瞭な瘢痕
脂肪・出血・信号 まれ。信号は均一 脂肪や出血を含むことが多く(T1で高信号)、信号は不均一
EOB肝細胞相 高〜等信号が93%(Suh 2015) 多くは低信号。β-カテニン活性型の59%、炎症型の14%は等〜高信号(Kim 2023)

間違えやすいポイント

  • 肝細胞相の高信号=FNH、ではありません:腺腫の中にも等〜高信号の亜型があります(Kim 2023)。高度な脂肪肝があると、腺腫が等信号になった例もあります(Grazioli 2012)。
  • FNHなのに肝細胞相で低信号になることもあります。低信号だった6病変のうち、4つは大きな中心瘢痕、1つは脂肪、1つは放射状の線維性隔壁がありました(Grazioli 2012)。

肝細胞腺腫でよくある疑問(Q&A)

Q. 炎症性肝細胞腺腫とは?
A. 肝細胞腺腫で最も多い亜型で、腫瘍がSAAやCRPなど炎症の蛋白を作ります。肥満や飲酒と関連し、MRIのatoll signが手がかりです(van Aalten 2011)。

Q. エコー(超音波)ではどう見えますか?
A. HNF1α型は均一な高エコーに見えることが多いですが、超音波だけではFNHや肝細胞癌との区別は難しく、造影超音波やMRIを組み合わせます(Poetter-Lang 2024)。

Q. 肝細胞腺腫は切除したほうがよいのですか?
A. 男性の腺腫や5cmを超える腺腫では、待機的な手術が勧められています(Poetter-Lang 2024)。それ以外でも、亜型や出血の危険因子を含めて、肝臓の専門医が判断します。腹痛や急な貧血があるときは、出血の可能性があるため早めに受診してください。

Q. 画像で亜型はどこまでわかりますか?
A. MRIで最大8割の腺腫を分類できるとされますが、特徴が重なるため、画像だけで確定できない場合は生検で亜型を調べます(Poetter-Lang 2024)。

参考文献

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