先に結論:精巣腫瘍の分類と病期
- 症状がなく超音波で偶然見つかった小さな(2cm以下)精巣病変は良性のことも多く、5mm未満では86.6%が良性だったとする系統的レビューがあります。触れるしこりは悪性の可能性が高いので、早めに泌尿器科を受診してください
- 精巣腫瘍は15〜40歳に多く、9割以上が胚細胞腫瘍(セミノーマ・非セミノーマ)です。高齢者では悪性リンパ腫が多くなります
- 治療は高位精巣摘除のあと、病期(I・IS・II・III期)とIGCCCGリスク分類で経過観察・化学療法・放射線・後腹膜リンパ節郭清を選びます
- 化学療法後の残存腫瘍は、セミノーマでは3cm超ならFDG-PETで評価し、非セミノーマでは1cm以上なら切除が原則です(PETは奇形腫を見分けられない)。マーカー正常なのに増大する腫瘍はgrowing teratoma syndromeを考えます
精巣腫瘍の基礎知識
- 精巣腫瘍は15~40歳位の比較的若年男性に多く、約90~95%が悪性の胚細胞由来の腫瘍。
- 間質を起源とする腫瘍には, Leydig cell tumor, Sertoli cell tumor,granulosa cell tumorがある。
- 特殊型で稀な腫瘍としては,胚細胞と間質両者を起源とする混合型のgonadoblastomaがある。
- その他、悪性リンパ腫などのリンパ組織や白血病など造血組織由来の腫瘍、転移性腫瘍がある。
- 転移性腫瘍として、原発部位は前立腺、肺、腎臓、悪性黒色腫などが見られる。
精巣腫瘍が良性である確率は?
触れるしこりとして見つかる精巣内の腫瘍は多くが悪性の胚細胞腫瘍ですが、症状がなく超音波で偶然見つかった小さな病変は事情が違います。腫瘍マーカーが陰性で2cm以下の偶発病変をまとめた系統的レビュー(個別に追えた408病変)では、良性腫瘍44.6%、悪性腫瘍27.2%、腫瘍以外の病変20.8%でした。3mm未満はほぼすべて、5mm未満は86.6%が良性で、10mmを超えると良性の確率は38.14%に下がり、高エコーの病変は良性が多いとされています(Bertolotto 2023)。
各国のガイドラインでは、超音波で判断が難しい小さな病変で腫瘍マーカーが陰性の場合、とくに片側しか精巣がない人や両側に腫瘍がある人で、精巣を残す手術(精巣温存手術)が共通の選択肢に挙げられています(Tozzi 2026)。精巣の腫れやしこりに気づいたら、自己判断せず泌尿器科を受診してください。
精巣腫瘍の画像診断(超音波・CT)
- 超音波:精巣腫瘍の診断の第一選択。セミノーマは均一な低エコー腫瘤、非セミノーマは嚢胞や石灰化を含む不均一な腫瘤が典型。
- CT:精巣そのものではなく、病期診断(後腹膜リンパ節・肺などの転移)に用いる。精巣のリンパは精巣静脈に沿って腎門の高さの後腹膜へ流れるため、左は左腎静脈付近の傍大動脈リンパ節、右は大動脈と下大静脈の間のリンパ節がまず腫れやすい。
精巣腫瘍の分類(詳細に)
- 胚細胞腫瘍:セミノーマ、胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫
- 性索/間質腫瘍:Leydig細胞腫、Sertoli細胞腫、顆粒膜細胞腫
- 胚細胞/性索成分:性腺芽腫
- リンパ/造血組織:悪性リンパ腫、白血病
- その他の腫瘍:カルチノイド、類表皮嚢腫
- 転移性腫瘍

悪性精巣腫瘍のstaging
TNMステージング
T因子が重要。
- T1 :精巣(精巣網を含む)に限局し、脈管侵襲なし
- T2 :脈管侵襲を伴う、または精巣門部軟部組織・精巣上体に浸潤、あるいは白膜を覆う精巣鞘膜臓側板を貫通
- T3 :精索に浸潤
- T4 :陰嚢壁に浸潤
治療方針決定のための病期分類
上の病期分類を、臨床的なイメージがつくように言い換えると次のようになる。
● I期
-
後腹膜リンパ節や遠隔臓器への転移なし
-
腫瘍マーカーも術後に正常化
→ サーベイランス、補助化学療法、RPLND(非セミノーマの一部)などを個別に選択
● IS期
-
画像上は転移なし
-
しかし高位精巣摘除後も腫瘍マーカーが高値のまま
→ すでに「どこかに微小転移がある」と考え、基本は全身化学療法
● II期
-
後腹膜リンパ節のみに転移あり
-
最大径と個数で IIA / IIB / IIC に分ける(例:2cm以下、2〜5cm、5cm超など)
● III期
-
遠隔転移あり(肺、縦隔、脳、肝など)
-
もしくは強いマーカー高値(S2以上)
こうした病期に、IGCCCGリスク分類(good / intermediate / poor)を組み合わせて、治療レジメンや回数を決めるのが現在の標準。非セミノーマのIGCCCG分類は2021年に更新され(1990〜2013年に治療された9,728例)、予後不良群の5年全生存率は48%から67%に改善していました。あわせてLDHの基準値2.5倍超、高年齢、肺転移が新たな予後不良因子として示されています。
化学療法後残存腫瘍:セミノーマ vs 非セミノーマ
セミノーマの残存腫瘍
セミノーマは化学療法や放射線感受性が高く、残存腫瘍の多くは壊死/線維化。
NCCNなど主要なガイドラインでは次のように扱われている。
-
化学療法後、CTで3cm以下の残存腫瘍
-
原則 経過観察(定期的なCTとマーカーフォロー)
-
-
3cmを超える残存腫瘍
-
FDG-PET/CTを施行(完了後少なくとも6週以降)
-
PET陰性 → 高い確率で壊死/線維化 → 経過観察
-
PET陽性 → 偽陽性も多いため、外科切除や再生検を慎重に検討化学療法終了後6週未満に撮影したPETでは陽性的中率が25%と低く、6週以降では69%まで改善したと報告されており、撮影時期が重要です。
-
FDG-PETはセミノーマ残存腫瘍で特に有用とされ、とくに陰性的中率が高い(化学療法終了後6週以降の検査で陰性的中率95%、陽性的中率69%)と報告されている。
3-2. 非セミノーマの残存腫瘍
一方、非セミノーマの化学療法後残存腫瘍は事情がまったく違う。
初回化学療法後に後腹膜リンパ節郭清を受けた1,027例の報告では、切除された残存腫瘍の組織は
-
壊死/線維化:残りの大部分
-
奇形腫:45%
-
奇形腫以外のviableな胚細胞腫瘍:4%
であった(Matulewicz 2025)。
1cm未満の小さな残存腫瘍であっても、約2割に成熟奇形腫が含まれる(同じ報告で、1cm未満では奇形腫約20%・viableな胚細胞腫瘍約2%)とされており、サイズだけで「大丈夫」とは言い切れない。
したがって、
-
腫瘍マーカーが正常化している非セミノーマで、後腹膜に1cm以上の残存腫瘍がある場合
→ 原則として後腹膜リンパ節郭清(PC-RPLND)による切除が標準。 -
残存腫瘍が 1cm未満 の場合
→ 施設・患者背景によって、-
積極的に切除する
-
画像とマーカーで厳重フォロー(短い間隔でCT)
のいずれかを選択。近年はリスクモデルを用いたサーベイランス戦略も検討されている。
-
非セミノーマではFDG-PETはあまり役に立たない
非セミノーマの残存腫瘍に対するFDG-PETの感度・特異度は十分とは言えず、
-
壊死組織なのに集積する
-
成熟奇形腫ではあまり集積しない
などの問題点が指摘されている。
そのためNCCN・EAUともに非セミノーマ残存腫瘍に対するFDG-PETの routine 使用は推奨していない。
「非セミノーマ=PETは基本出番なし」と覚えておくと整理しやすい。
Growing teratoma syndrome(GTS)とは?
定義
代表的な定義をまとめると、GTSとは次の3条件を満たす状態。
-
非セミノーマに対して化学療法を行ったあと
-
腫瘍マーカーは正常化しているにもかかわらず、
-
画像上、既存の腫瘍が増大/新たな腫瘍が出現し、
-
切除標本は成熟奇形腫だけ(悪性成分なし)
発生頻度は報告により異なり、系統的レビューでは2.8〜7.6%と報告されている(Costa Silva 2026)。
なぜ起こる?
機序は完全には解明されていませんが、
-
化学療法に感受性の高い悪性成分だけが消失し、耐性のある成熟奇形腫成分が残存・増大する
-
化学療法が未熟成分から成熟奇形腫への成熟分化を促す
といった仮説がある。
どこにできる? どう見える?
-
好発部位:後腹膜リンパ節、縦隔、肺、頸部など
-
画像:
-
多房性嚢胞と軟部陰影が混在
-
石灰化を伴うことも多い
-
化学療法前よりゆっくり、しかし確実に増大していく
-
腫瘍マーカーが陰性化しているため「治っているはず」と油断しがちですが、CTでじわじわ大きくなる腫瘍を見たらGTSを必ず鑑別に入れる必要がある。
治療は?
化学療法抵抗性であり、根治には完全切除が必須。
-
不完全切除だと再増大しやすい
-
長期的には肉腫や腺癌などへの悪性転化の報告もあり、
「良性だから放置でOK」という訳にはいかない。
あわせて読みたい:精巣腫瘍のリンパ節転移の特徴と転移先は?画像診断のポイント
参考文献
- De Santis M, Becherer A, Bokemeyer C, et al. 2-18fluoro-deoxy-D-glucose positron emission tomography is a reliable predictor for viable tumor in postchemotherapy seminoma: an update of the prospective multicentric SEMPET trial. J Clin Oncol. 2004;22(6):1034-9. PubMed
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- Matulewicz RS, Baky F, Liso N, et al. Oncologic outcomes of retroperitoneal lymph node dissection following first-line chemotherapy for metastatic non-seminomatous germ-cell tumors. Ann Oncol. 2025;36(6):693-703. PubMed
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- Bertolotto M, Campo I, Pavan N, et al. What Is the Malignant Potential of Small (<2 cm), Nonpalpable Testicular Incidentalomas in Adults? A Systematic Review. Eur Urol Focus. 2023;9(2):361-370. PubMed
- Tozzi M, Fallara G, Ferro M, et al. Guideline of guidelines: management of small testicular masses. BJU Int. 2026;137(3):444-453. PubMed
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