FDG集積の分類

アーチファクト

・実際には集積なし。

真の集積

・悪性腫瘍への集積
・悪性腫瘍以外への集積:良性腫瘍、活動性炎症、正常臓器への生理的集積

アーチファクト

・アーチファクトは、物理的アーチファクトと、生理的集積(生理的アーチファクト)に分けられる。

物理的アーチファクト

・CTは秒単位、PETは分単位で撮影するため、それぞれの画像の位置がずれることがある。呼吸により肺底部での孤状の偽集積や、肝の病変が肺内にあるように見えることがある。

・他、部分容積効果、体内金属による過補正など。

生理的集積

・生理的集積を正しく診断するには、生理的集積を示すパターンを知っておく必要がある。

・それと同時に受診者の状態(G-CSF投与DMはないかなど)をカルテや問診により把握する。

・強い生理的集積の内部・周辺は注意深く読影する。

生理的集積

・ほぼ常時:脳、腎、膀胱、肝臓
※脳は常時集積あるので、脳腫瘍があってもマスクされる。

・ばらつきあり:扁桃、唾液腺、声門、心筋、乳腺、消化管、精巣、子宮、卵巣、骨格筋

・まれに集積:褐色細胞、胸腺(小児、若年者)

ほぼ常時集積

FDG PET normal

ばらつきあり

FDG PET1 FDG PET2

ほぼ常時生理的集積を認める部位を動画でチェックする①

ほぼ常時生理的集積を認める部位を動画でチェックする②

各部位への集積の特徴

・頭頚部の生理的集積:左右対称が多い。

・胃の生理的集積:びまん性、もしくは穹隆部〜体部に強いことが多い。幽門のみ目立てばひっかける。

・腸管の生理的集積:頻度、部位は一定しない。出る人はいつでも出るという訳ではない。

・子宮、卵巣の生理的集積:排卵期-月経期に目立つことが多い。

褐色脂肪細胞の生理的集積:寒冷、やせ型、女性、若年者鎖骨上窩、傍椎体、心臓周囲、横隔膜周囲、後腹膜などにも見られる。寒冷刺激により反応し熱生産を行なう結果、FDGが集積するとされる。

※褐色脂肪細胞に集積を認めたことを確認してから体を温めても遅延像で消えるわけではない。従って、褐色脂肪細胞の刺激中枢である首や肩、掌に寒冷刺激を与えないようにすることが重要。つまり、冬期には該当する女性患者に、十分な保温をし、来院するよう指導が必要。

頸部のばらつきのある部位への生理的集積を動画でチェック

ばらつきのある部位への生理的集積を動画でチェックする。

その他

高血糖およびインスリンにより影響を受ける。:脳では集積低下(GLUT1を持つためFDGと脳が競合する)、筋肉では集積亢進悪性腫瘍ではわずかに集積が低下する。

甲状腺機能亢進症により影響を受ける。:骨格筋の集積亢進を起こる(骨格筋のGLUT4が甲状腺ホルモンにより増加するため)。

・筋活動により影響を受ける。:筋活動により骨格筋のGLUT4が活性化され、筋へのFDG集積が増加する。四肢のみではなく、咳嗽などによる肋間筋や歯ぎしりによる翼突筋への集積を認めることがあるので注意。

・反回神経麻痺あれば逆側の声門に集積。

・心臓付近の評価には長時間(15時間くらい)の絶食が必要。

・G−CSF投与により骨髄の生理的集積上昇。

化学療法による骨髄機能亢進やG−CSF製剤を使用した場合にびまん性の骨髄集積亢進を認める。他、G−CSF産生腫瘍や骨髄異形成症候群でも骨髄集積亢進がみられる。

真の腫瘍への集積(各論)

頭頸部癌

・PETは頭頚部癌の診断に有用。PET CTは更に有用。ただし、サイズ計測では、診察やMRIには及ばないことが多い。

・他部位原発の腫瘍が頭頸部に転移を来すことも多い。

・つまり、PETは頭頸部において原発巣にも転移巣にも使える。

リンパ節転移、遠隔転移の検出、治療効果判定や予後の評価に有用。

・特に外側咽頭後リンパ節(ルビエルリンパ節)の評価ではPETで容易に検出できる場合がある。

・しかし、炎症巣や肉芽腫、感染や炎症に対する反応性のリンパ節にも集積し、偽陽性が少なくない点にも注意。また、内部壊死を伴うリンパ節転移は集積が乏しく偽陰性となることがある点にも注意。

・また扁桃、唾液腺、外眼筋、甲状腺、褐色脂肪腫(頸部・鎖骨上部)といった生理的集積(左右対称なことが多い。左右非対称な場合には指摘する)にも注意。ただし、放射線治療後では照射側の生理的集積が低下して左右差を認めるため注意。

・発声による喉頭へ生理的集積を認めることがある。左右差がある場合は反対側の半壊神経麻痺が示唆される。

・良性腫瘍であっても唾液腺腫瘍(ワルチン腫瘍、多形腺腫)や、甲状腺腺腫、慢性甲状腺炎には集積が見られる。また神経鞘腫、傍神経節腫にも集積を認める。特に集積が高い場合は、malignant peripheral nerve sheath tumorなどを考慮するべきである。

・他領域のがんの場合と同様に、治療効果の判定や再発診断に有用で、再発診断の感度は90%程度、特異度も70-90%と高い。(特に感度が高い)。

・ただし、化学放射線療法後早期に行なうと照射後の炎症による偽陽性が頻発するため、照射後2-3ヶ月程度空けることが望ましい。

・全身の撮影を行なうため、重複がんの診断に役立つ。頭頸部癌では重複癌が多い。特に、危険因子が共通する他の頭頸部癌、食道癌、肺癌が多い。臓器を選ばない(尿路系などは不可)。予想外の原発巣や重複癌が発見されたり、原発不明がんの原発巣の検出にも有用である。

乳癌

・原発巣の診断にはマンモグラフィ、エコーおよびMRIなどで行なう。

・正常乳腺には、軽度の集積を認め、乳頭部では乳腺よりも高い集積を示すことが多い。

・びまん性集積を認めた場合、高頻度に正常でも認められる線維嚢胞性変化がバックグラウンドの乳腺に起こっている場合が多い。この場合は、病変があってもマスクされることがあるので注意。また若い女性では、生理的集積も考慮しなくてはならない。(このようなバックグラウンドの影響を抑えるには、FDG以外の薬剤でPETを行なう必要がある。コリンが用いられることがある。)

・FDG-PETは転移巣(骨転移、腋窩リンパ節転移など)や術後の再発の検索、治療効果判定に有用である。
PETは溶骨性の骨転移の診断により有用。骨シンチよりも特異度が高い(骨シンチは偽陽性が多い)
※タモキシフェンやハーセプチンによる治療では、経過中に一過性に集積亢進をきたすことがある(フレア現象と呼ばれこれが見られると治療によく反応することが知られている)。

FDG-PETは腋窩リンパ節転移の評価に有用で、PETで陰性ならば、腋窩リンパ節転移の可能性は低い。ただし、PETで陰性であってもリンパ節郭清を省略できるというエビデンスはない。逆に、PETで腋窩リンパ節に集積があればセンチネルリンパ節の結果に関わらずリンパ節郭清をするべき。

・原発巣の検出においては、検出感度は癌の大きさ(2cm以上)、組織型(浸潤性小葉癌65%、浸潤性乳管癌23%)に依存する。小葉癌や非浸潤性乳管癌は描出されにくい。糖代謝活性が低い乳癌は高分化で、エストロゲン受容体陽性であることが多い。

・また、乳腺症や乳腺炎などの良性疾患や線維腺腫や良性管状血管筋上皮腫など良性腫瘍においても集積することがある(偽陽性)。また副乳に淡い集積を伴うことがある(この場合はC’の病変との鑑別は困難。)

・臨床病理学的指標と関連(ホルモンレセプター(ER,PgP),HER2,Ki-67)があり、ER,triple negative,p53はPETで集積されやすい。

・術前化学療法の効果判定は、予後の予測に有用であり、感度で1コース後 61%から2コース後89%となるため、2コース後くらいに評価するのが良い。(J Clin Oncol 24;5366,2006)

・インプラント挿入例では集積欠損となる。シリコンの場合は集積亢進をきたす場合があるので、CTでの確認が必要。

・検診では、限局性集積、左右差のある集積、領域リンパ節集積の合併は悪性を示唆する所見。

・男性例による乳腺への集積では、乳癌のこともあるが、薬剤の副作用、前立腺ホルモン療法の影響、肝硬変に伴う女性化乳房への集積がほとんど。

肺癌

・肺野は生理的集積が非常に弱いため病変とのコントラストが得やすく、ある程度ならば軽微な集積でも検出しやすいため、原発巣の検索に有用である。

・ただし、ここでもPETは万能ではなく落とし穴が多数存在する。

・まず、サイズの小さなもの(1cm以下)のものは検出困難なことが多い。5mm以下は検出不可能。

・偽陽性が存在する。:肺炎、結核、非定型抗酸菌症、サルコイドーシス、膿瘍、塵肺症、炎症性・肉芽腫性病変。また、過誤腫硬化性血管腫などの良性腫瘍、心臓、筋組織や褐色脂肪細胞などの生理的集積、さらには呼吸性移動、心拍動の影響を受けやすく、特に下肺野で受けやすい。

・偽陰性が存在する。:気管支肺胞上皮癌(BAC)、高分化腺癌など集積の弱い組織型が存在する。また硬化性骨転移、嚢胞状腫瘍、変性や出血などで細胞密度が低い腫瘍では集積が低くなる。すりガラス部位が多い腫瘍ほど検出しにくい。(より高分化で低集積、また扁平上皮癌や未分化癌よりも腺癌でより低集積)

・また、空間分解能はCTに比べて明らかに劣るため、局所の浸潤の程度はCTに劣り、CTで検出可能な悪性結節のPET/CTによる検出感度は70%程度しかない。したがって、PET/CTは原発巣探し(肺癌検診)目的よりは、肺癌の質的診断の補助として行なうよう薦められている。

・これらからわかるように、病変へのFDGの集積程度だけで正確な鑑別診断は不可能である。多の検査や経時的変化、臨床経過などを併せて考える必要がある。

・PETがこの領域で強いのは、遠隔転移の検出。リンパ節転移はCTより優れているとする報告が多く、特に小細胞癌の骨転移など、CTで検出されない病変を指摘できることもある。

・ただし、所属リンパ節転移でも、5mm以下の小さな転移リンパ節、リンパ組織の中でも悪性細胞の占める割合の少ない転移巣、ブドウ糖代謝の低い転移巣は偽陰性となり、逆に、塵肺症やサルコイドーシスのような炎症性リンパ節や炎症による非特異的な反応性変化において偽陽性となるので注意が必要。

・特に、肺線維症では、反応性リンパ節腫大を示し、FDGの集積を見ることが多いので、そこに肺癌を合併しても安易に転移と取ってはいけない。

・また、正常脳へ集積を認めるFDG PETでは、脳転移の検出は困難であり、造影MRIでの検索が必要である。

・骨転移では、肺癌の骨転移は、溶骨性、混合性の場合が多いため、診断能は高い(FDG-PETは溶骨性に強く、骨シンチは造骨性に強い)。しかし、時に見られる造骨性の骨転移には感度が低いので注意。

・また、治療効果判定・再発診断についても高い有用性がある。化学療法や放射線治療後の腫瘍のviabilityの評価にも有用。FDGは壊死や瘢痕、線維化には集積しないので、治療後に線維化、瘢痕組織のみが残存するような例ではCT等に比して特に有用である。

・ただし化学療法後は、壊死巣周辺に誘導された活性化マクロファージがFDGを強く取り込むため、正確な治療効果判定ができないことがあること、放射線治療後は、腫瘍と関係のない肺野に生じた炎症や、放射線肺臓炎の修飾を受けることは知っておく必要がある。

・FDG集積の程度と、予後に相関関係があることが明らかになっている。一概にSUVの値で予後は決定できないが、一般に集積が強い場合は治療後の予後が不良である傾向にある。

 縦隔腫瘍・胸膜腫

縦隔腫瘍

胸腺腫 、胸腺過形成、胸腺癌でFDG集積の程度に有意な差異が見られ、胸腺癌では強い集積を呈する。(A KUMAR,et al.Ann Nucl Med 23:569-577,2009)

・胸腺癌、悪性リンパ腫、浸潤性胸腺腫、サルコイドーシスが高集積、骨髄腫、非浸潤性胸腺腫、神経鞘腫が中等度の集積、奇形腫や他良性嚢胞が低〜無集積であると報告あり。(Kubota K,et al. Br J Cancer,73:882-886.1996)

・ただし胸腺腫が浸潤性であるか非浸潤性であるかはFDG-PETでは評価困難であり、造影CTやMRIの撮影が必要。

・また、良性の縦隔腫瘍でも陽性集積をきたすことがあるので注意。

胸膜腫瘍

・FDG-PETは胸膜腫瘍の鑑別診断、病期分類、治療効果判定で有用。質的診断として、CT、MRI、PETを組み合わせて用いることが薦められる。

胸膜癌および胸膜播種にて有用。陳旧性胸膜炎と播種の鑑別にも有用。

・悪性胸水では、悪性細胞の密度が低いので集積しにくいが、びまん性に高集積をきたすこともある。

・悪性中皮腫にて高いSUV値を示す悪性中皮腫は予後が悪いとする報告あり(日本肺癌学会)。

肝腫瘍

・肝臓には不均一な生理的集積があり、呼吸性移動の影響も受ける。

・肝細胞癌への集積は形態と分化度で異なり、10mm以上の塊状の形態を示したり、低分化な腫瘍には高集積を示す一方、びまん型であったり、高分化な腫瘍では、脱リン酸化酵素活性が高く集積しにくい(偽陰性となる)。

・このように、原発巣には有用とは言えないが、遠隔転移や再発診断には有用性がある。

転移性肝腫瘍の検出にも有用であり、肝転移が疑われた場合の担癌患者の診断精度は、造影CTにおいて感度88%、特異度25%であるのに対して、PET/CT 感度96%、特異度75%であった。(Chua SC et al,Eur J Nucl.2007 Dec;34(12))。ただし、肝細胞癌同様に、小さなものの検出は造影CTやMRIには及ばない。また、FDG投与1時間後の画像では、十分なコントラストが得られず認識できない病変があり、遅延像を撮影すると認識できることがある。

・肝原発の血管肉腫は高集積を示す。

・肝血管腫は肝実質と同程度の集積を示し、異常集積として同定できないことが多い。

・FNHや肝腺腫は正常肝よりも高集積を示したとする報告あり。

・肝膿瘍は高集積を呈しうる。微小膿瘍にも集積しうるが、転移と誤診しないように注意が必要である。

胆道系腫瘍

胆嚢癌や胆管癌にはFDGは比較的よく集積し、原発巣の検出に有用

・ただし、胆管癌では腫瘤を形成する腫瘤形成型や、管内乳頭型には集積しやすい一方で、腫瘤を形成しない浸潤性胆管癌などは偽陰性となりやすい。

・胆嚢炎(特に黄色肉芽腫性胆嚢炎)や胆管炎などの炎症性疾患にも集積するので注意が必要。その鑑別方法として、遅延画像を取ると、炎症部位の集積は低下(腫瘍の集積は残存)するため、有効と報告ある。しかし、実際はしばしば困難。

・また胆管癌などで、胆管狭窄軽減目的でステント挿入をした場合、炎症を示唆してステント留置部位に一致したFDG集積が認められる点には注意をする。

再発診断にも有用。

膵腫瘍

・膵癌の9割を占める浸潤性膵管癌では中等度の集積を示し、原発巣の検出に有用と言える。ただしそれ以外の組織では低集積なものもある。

・膵癌の大きさとSUVの値にはある程度、相関関係あり。

・膵癌で集積低下になる原因は2cm以下、耐糖能障害を伴っている場合とされる。

膵癌と腫瘤形成性膵炎の鑑別診断は保険適応になっていたが、炎症にも集積をし、鑑別は困難であると結論付けられ、保険適用から外れた。現在では、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP:endoscopic retrograde cholangio-pancreatography)や超音波内市況下穿刺吸引生検法(EUS-FNA:endoscopic ultrasound guided fine needle aspiration)などによって細胞を採取して鑑別されるしかない。

・慢性期膵炎には集積しないため、膵癌との鑑別はできる。(急性期膵炎は上記のように膵癌とは鑑別できない。)

遠隔転移(リンパ節や肝転移を中心)や再発診断に有用である。ただし、リンパ節転移は25%にしか集積しないという報告もあり。

・胆管狭窄軽減目的でステント挿入をした場合、炎症を示唆してステント留置部位に一致したFDG集積が認められる点は、胆管癌と同様。

IPMNは細胞成分が少なく悪性の場合でも集積が弱いとされる。壁在結節に強い集積を認めることがあり、悪性を示唆する。SUV max=2.5を閾値として良悪性を鑑別するという報告あり(Tomimaru Y et al,Oncol Rep 2010 Sep;24(3):613-20)。SUVが経時的に上昇してくるようだと、癌 (IPMC)を疑う。

自己免疫性膵炎、IgG関連疾患にも集積を認める。膵にびまん性に集積を認めた場合は膵癌との鑑別は可能であるが、局所的な集積の場合は鑑別は困難。他のIgG関連疾患の起こりやすい部位への集積を参考にする。(膵外病変にも集積するという点でもPETは有用といえる)

膵内分泌腫瘍へのFDGは低〜高集積までさまざま。まれに膵癌よりも極めて高い集積(SUV max=15-30)を呈することがある。ただしGradeとSUVは相関しないといわれる。転移巣には有用であり、肝転移のある症例には、原発のFDGの集積よりも強い集積を認めたという報告あり。ただし、肝転移には集積しないこともある(下記参照)。

神経内分泌腫瘍はソマトスタチン受容体を発現していることが多く、これに親和性のあるオクトレオタイドを111Inあるいは68Gaで標識して、シンチグラフィを得る診断がヨーロッパを中心に行なわれている。集積があれば、標識する核種を90Yあるいは177Lu(β線を放出する)に変更して投与することで治療することができるようになる。従って肝腫瘍を指摘されて、FDG-PETで集積しない場合、
・血管腫などの良性腫瘍
・高分化型のHCC
・神経内分泌腫瘍の転移など を念頭に置く必要がある。

・G−CSF産生の膵癌ならば、赤色髄化をし、FDG−PETで骨髄に集積を認める。

症例 60歳代男性 膵癌

PK FDG-PET

造影CTにて膵体部に淡い低吸収腫瘤あり。ダイナミックMRIでは著明なhypovascular tumorとして認め、FDG PETでは著明な集積あり。膵癌を疑う所見。

脾腫瘍

・脾臓の悪性リンパ腫では、組織型により集積程度は異なるが、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫では、高集積となることが多い。

・また、脾臓へのリンパ腫のびまん性浸潤においても高集積となることがある。

・血球貪食症候群で見られる肝脾腫では、腫瘍ではないが脾腫に高集積を伴う。

胃癌

胃の生理的集積はびまん性、もしくは穹隆部〜体部に強いことが多く(各領域においてはU>M>Lの順に生理的集積をする)、胃癌の原発巣の検出には有用ではない。幽門のみ目立てばひっかける

・びまん性集積>限局的集積>胃壁への異常集積がない、という順番でピロリ菌感染率が増加すると報告あり(Takahashi H,et al.Ann Nucl Med,23:391-397,2009)

・早期胃癌は癌で唯一保険対象外であり、進行癌でも60%程度の検出率しかない。中でもnon-intestinal typeの低分化型腺癌(びまん型や非充実型)、粘液癌、印環細胞癌、硬癌への集積は低い。逆にintestinal typeの乳頭腺癌、管状腺癌、低分化腺癌(充実型)では高い集積を呈する。

・さらに、結節状の生理的集積もときに認められる。

・リンパ節転移の検出ではPET/CT検査は低感度、高特異度である。原発巣と同様にnon-intensitinal typeではリンパ節転移も検出率は低い。

・術後の再発診断、特に肝転移、腹膜播種の検出に優れており有用である。胃癌初回術後の再発診断は、CTにおいて感度62%、特異度 10%なのに対して、PET/CT 感度96%、特異度100%CTと優れている(Billici A et al. Eur Nucl Med.2010 Sep14)。

・ただし、腹膜播種には2つのタイプがあり、1つは腹腔内や骨盤腔にびまん性に広がるパターン。もう1つは、局所的に集積するパターンである。前者の場合は、腸管や、肝、脾の臓器の輪郭が不明瞭になるのが特徴。播種病巣は基本的に小さいことが多く、また、播種を来しやすい組織はnon-intestinal typeが多いため、PETでの感度は低い。

・再発診断では、吻合部など手術により修飾を受けているときや、術後の体重減少により腹腔内脂肪が現象している場合で、CTなどでは評価が難しいときなどに有用である。

・以上のように、胃癌の場合は、原発巣、リンパ節、転移巣や再発であっても、intensitinal typeでなければ、集積は見込めず評価は困難となるため、FDG-PETで評価する際には、必ず胃癌の組織を把握しておくことが必要である。

消化管間質腫瘍(GIST : gastrointestinal stromal tumor)

・PETの検出率は80%程度。

・FDGの集積程度がGISTの悪性度と相関関係にある。

遠隔転移、腹膜播種再発診断および分子標的薬剤イマチニブの治療効果判定にも利用。なぜならば治療後必ずしも腫瘍径の縮小が見られず(タイムラグがあったり、壊死部に嚢胞が生じるため)、CTで内部低濃度として描出される。FDG-PETでは、病巣の活動性の判定に有用である。

結腸癌・直腸癌

原発巣の検出率は95%以上と有用性は高い。

・さらに、リンパ節転移の特異度が高く、肝転移・術後再発にも有用である。術後再発については、手術による吻合部は修飾を受けておりCTでの再発評価が困難なことがあるが、FDG-PETでは胃癌と同様に、腸管術後線維性瘢痕と再発腫瘤の鑑別となる腫瘍のviabilityの評価に有用性がある。

・生理的集積と腫瘍の鑑別に迷う場合は、遅延像を撮影することもある。

・より良性らしい所見は、連続性があり細長く腸管の走行に一致すること、遅延像で移動したり経時的な変化があることである。

・一方、悪性らしい所見は、限局性に集積を認めており、それがCTでの壁肥厚像に一致すること、遅延像でも変わらず集積を認めることである。

・いずれにせよ、質的評価はFDG-PETでは困難であり、確定診断は内視鏡により生検をして評価することが必要だる。

・ビグアナイド系経口糖尿病治療薬(メトホルミン)は腸管粘膜のブドウ糖利用を促進する作用があり、腸管へのFDG集積増加して、偽陽性となることがあり、判別が困難になるため、検査前に薬剤を中止する。

・また、検査前後で下剤が使用されていた場合(生理的集積が増強)、内視鏡的切除や生検が行なわれていた場合(局所の偽陽性を呈する)、注腸透視が行なわれていた場合(バリウム残存部はアーチファクトが生じる)などには、それらの影響を受ける。

子宮癌

・頸癌では細胞診を比較的容易にでき、体癌ではさまざまな修飾があるため、原発巣の検出は困難なことが多い。エコーやMRIがより有用であり、優先される。

・閉経前の生殖可能女性では、子宮内膜へは排卵前後と月経期に軽度の生理的集積を認める。生理的集積を避けるには、月経後数日以内もしくは月経前1週間以内の検査が望ましい。

・また、上皮内癌、早期癌はPETによる描出は困難である。

・偽陽性:月経出血、炎症、子宮筋腫、子宮腺筋症
・偽陰性:高分化型、境界病変

・子宮筋腫への集積は軽度であり、肉腫や悪性リンパ腫は高集積となることが多いので鑑別の一助となるが、子宮筋腫の一部には強い集積を示すものもあるので注意が必要である。(閉経前、増殖期、変性筋腫ほど高集積になりやすい)

・ただし、術前リンパ節診断、遠隔診断、再発腫瘍の診断に有用。

卵巣癌

・原発巣の検出精度はあまり高くなく有用とは言えない。その理由として、嚢胞性腫瘤を形成する事がある点、排卵時期から黄体形成期の正常卵巣に生理的集積が認められる点が挙げられる。生理的集積を避けるには、月経後数日以内もしくは月経前1週間以内の検査が望ましい。

SUVmaxでは、悪性>良性、境界悪性と有意な差が報告されているが、良性と悪性にもオーバーラップがあることもあり、これだけで良悪性の診断はできない。

再発診断、特に腹膜播種の検出に有用。腫瘍マーカーが高値にも関わらず、CT検査にて異常が見られない場合、FDG-PETは有用といえる。

・腹膜播種にて注意すべき好発部位としてダグラス窩、小腸間膜、回盲部、左右傍結腸溝、モリソン窩、横隔膜下、臍部皮下、大網が挙げられる。

・ただし、腸管・尿路への生理的集積や、術後炎症巣への集積を播種としないよう注意が必要である。

・また播種ならば何でも有用というわけではなく、小さなものはもちろん、粘液産生性卵巣癌や明細胞癌が原発の場合は播種巣を検出しにくい。

副腎腫瘍

・正常副腎(50%)、周囲の褐色脂肪にも集積を認める事がある。

副腎転移と腺腫の鑑別では、CTやMRに内部濃度(脂肪成分の有無)の情報に加え、FDGの集積程度による鑑別が可能と報告されている。SUV max=3.1-3.5を閾値として、良悪鑑別に有用との報告あり。

・偽陽性を示す良性腫瘍として腺腫、褐色脂肪腫、血腫などが挙げられる。

・副腎悪性腫瘍の代表である、皮質癌と悪性褐色細胞腫には高い集積を示す。

腎腫瘍

・FDGが尿中に排泄されるため、生理的な集積と判別が難しく、腎癌、尿管癌、膀胱癌など尿路系悪性腫瘍の検出は困難なことが多い。

・さらに腎細胞癌への集積は乏しく、PETは使えないと考える。

・一方で腎盂癌や腎転移では高集積を呈する事が多いとされる。

・腎癌は対側腎への転移や晩期再発が比較的多く、それらの診断にはFDG-PETは有用である。

膀胱癌

・膀胱内に貯留したFDGの影響により、原発巣の検出は困難。

・遅延像や膀胱内の尿を減少させることで検出が可能になることもある。

・転移巣や病期診断には有用。

精巣腫瘍

原発腫瘍への集積も高く、病期診断・再発診断にもFDG PETは非常に有用。

・ただし、精巣には生理的な集積があり、特に若年者で高い傾向があるが、左右差に注目し、左右差があれば指摘する。

・他の腫瘍と同様に、病期診断や再発診断に有用。

前立腺癌

・膀胱の背側に位置していることもあり、原発巣の検出は困難。

・また前立腺癌は低集積を示す腫瘍である。

・また骨転移の検出能も骨シンチの方が高く、前立腺癌についてはPETは有用とは言えない。ただし、特異度はFDG-PETの方が高い。

・前立腺肥大症などの良性疾患にも集積されることがある。

リンパ節転移検索には有用である。

・またホルモン療法や放射線療法などによる治療効果判定に対する有用性が示唆されている。

悪性リンパ腫

・FDG-PETの有用性が早期に確立した疾患であり、リンパ腫はFDGが高率に集積することが知られている。特に通常の癌では見られないような高集積(SUVmax>20)を取る場合がある。

・特に悪性リンパ腫では、全身の至る所に出現しうるため、全身を見れるPETは有用である。また、リンパ腫の骨浸潤では骨破壊を生じないことが多いが、CTでは指摘できない病変が高集積となることが多くFDG-PETは有用である。その他、癌が腎皮質に転移をきたすことは少なく腎皮質への異常集積は悪性リンパ腫を強く示唆する所見である。

病巣検出感度は90%であり、CTに比べて10〜15%程度高い。上記のようにCTでは指摘困難な骨病変や骨髄や脾臓内病変を指摘できるため。

PETを追加することにより、20〜40%は病期が変更になり、10〜20%は治療方針が変更となる。それほど有用だと言える。例えば、Hodgkinリンパ腫では病期により治療方針が異なるため有用であるし、DLBCLなどでも追加放射線治療の照射範囲の決定などに有用。

・よく集積するリンパ腫=Hodgkinリンパ腫(中でも結節硬化型) , B細胞系リンパ腫ではDLBCL , Burkittリンパ腫、T細胞性リンパ腫ではALCL(anaplastic large cell lymphoma)、CTCL(cutaneous T cell lymphoma)など。
・偽陰性あり=indolent NHL , MALTリンパ腫 , SLL(small lymphocytic lymphoma)、LPL(lymphoplasmacytic lymphoma)

・2007年に改訂されたIWC(international working group response criteria)の効果判定にてFDG-PETが採用された(加えられた)。

・改訂されたIWC+PETでは治療後PETによる集積を認めなければ、サイズによらずにCRとなる。逆に、どんなにサイズが縮小しても治療後PETで集積を認めればCRとならない。

治療効果判定への利用の実際

化学療法後は撮影までに最低3週間(できたら6〜8週間後)空ける。
放射線治療後は撮影までに8〜12週間空ける。
・評価方法は視覚評価。SUVではない。
※視覚評価では長径2cm(肺、肝、脾の病変では1.5cm)より大きい病変では縦隔血液プールよりも高集積の場合に、2cm以下の場合は周囲背景よりも高集積の場合にそれぞれ陽性と判断する。

pitfall

治療に伴う反応性の変化の偽陽性。
・化学療法→反応性造血→骨髄や脾臓に集積亢進(特にG−CSFを使った場合)
・化学療法CR後→胸腺の腫大(thymic rebound,benign thymic hyperplasia):胸腺のサイズがベースラインの50%以上増大した良性の腫大。悪性リンパ腫以外にも見られ、化学療法後1年以内が多い。

・血球貪食症候群: 脾臓に高度のびまん性集積を認めた場合リンパ腫の脾臓浸潤を疑うが、脾臓のみで、他のデータからもリンパ腫の浸潤が考えにくい場合に鑑別に挙げる。

中間評価と予後予測への利用

化学療法2サイクル後にFDG-PETを撮影することにより予後が予測できる。2サイクル後に陰性ならばCRになりやすい=予後がよいと予測できる。ただし、2サイクル後というのにはevidenceは十分とはまだ言えない。

・濾胞性リンパ腫の一部は再発の経過でより悪性度の高いDLBCLに形質転換をすることがある。

原発不明癌

・原発不明癌が疑われる場合、全身CTを撮影する(Grade A)

・頸部リンパ節発症の原発不明癌の場合は、頭頚部CTとともに頭頚部MRIも推奨される(Grade A)

CTやMRで原発が検索困難な場合にはFDG-PETを施行することが望ましい(Grade B)

・原発不明癌のPETによる検出率は37%。(PETやってわかるのは1/3)

・PETやって見つかりやすいのは肺癌、中咽頭癌。逆にPETでは見つかりにくいものは乳癌が最多。

炎症、その他

・FDG-PETは炎症性病変にも集積を認め、有用であるが、保険適用は認められていない。

・緊急性の高い状況としては、骨髄炎、人工血管感染、播種性感染

・慢性的な状態や活動性の評価としては、不明熱の熱源検索、慢性関節リウマチ、血管炎(側頭動脈炎、大動脈炎症候群)、サルコイドーシス、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)などが挙げられる。
※心サルコイドーシスは保険適応。

不明熱(fever of unknown origin)

・病悩期間が3週間以上。
・38.3℃以上の発熱が繰り返し出現。
・3日間の入院あるいは3回の外来検査で原因不明。が定義。

・その原因として、20-50%が非感染性炎症(膠原病、血管炎、サルコイドーシスなど、20%が感染症、10%がリンパ腫などの悪性腫瘍、10-20%がその他(薬剤性、詐病、他)、20-50%が不明とされる。

・FDG-PETによる不明熱の原因確定は50-90%。不明熱の30-70%は診断確定にPETが寄与している。ただし、血沈、CRP正常である症例には有用ではない。

慢性関節リウマチ

・FDG-PETは、早期診断(症状が出るよりも早期に診断ができる)、活動性の評価(特に滑膜炎)、治療開始時期の決定、治療効果のモニタリング、進行速度や関節破壊からみた患者の層別化に有用とされる。

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