胸部のCT検査ならば、肺炎や肺がんの有無が主にわかるということでわかりやすいですね。
では、腹部のCT検査ではどんなことがわかるのでしょうか?
「腹部にはたくさんの臓器があるけど、腹部CT検査で一体どんな病名がわかるんだ???」
「腹部CTよりもMRIの方がいいの?」
そのように疑問に思われている方もおられるでしょう。
そこで今回は、腹部CT検査でわかることを徹底的にまとめました。
腹部CTは造影剤を用いた方がよい?
まず腹部CTで何がわかるのかということを述べる前に、「造影剤」について見てみましょう。
CTの造影剤は「ヨード造影剤」と呼ばれ、CT画像を撮影する前に静脈から注射をします。
結論を申し上げると、腹部のCTにおいては、造影剤を用いた方が病変部と正常部のコントラストがつきやすいため、「造影剤を用いた場合、得られる情報が多い。」と言えます。
つまり、
- 造影CTの方がよい!
- 造影CTの方がより病変を描出しやすい!
ということです。
ただし、造影剤を用いる場合は、腎機能の問題、アレルギーの問題などがあります。
また、必ずしも造影CTの方が優れているわけではない場合もあるので注意が必要です。
造影CTが逆に仇になることもある。
とくに
- 尿管結石
- 胆嚢結石
- 総胆管結石
といった単純CTで高吸収(白く)になるものは、造影剤を用いることにより相対的に目立たなくなり、わかりにくくなってしまうことがあるからです。
またイレウスを疑う場合にも、絞扼性イレウスがあり、壁内に出血をきたしている状態は造影CTだけではわかりません。
造影剤を用いていない単純CTなのに高吸収(白い!)であるというのが有用な所見であるからです。
ですので、こういった疾患が前もって疑われる場合には、
まずは単純CTを撮影する。
→必要に応じて造影剤を用いた造影CTを撮影する
のが得策といえます。
これらを踏まえた上で腹部CTでわかることをみていきましょう。
腹部CTでわかること
腹部CTを撮影して、観察できる臓器は以下の通りです。
- 肝臓
- 胆嚢・胆管
- 膵臓
- 脾臓
- 副腎
- 腎臓
- 尿管・膀胱
- 消化管(食道の一部、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、虫垂、結腸、直腸、肛門)
- 男性生殖器(精巣、陰茎、前立腺、精嚢)
- 女性生殖器(子宮、卵巣、膣)
- 撮影範囲内の腹部の筋肉
- 撮影範囲内の腹部の骨
- 腸間膜・大網
- リンパ節腫大の有無
- 腹水の有無
ざっとこのような臓器を観察することができます。
ただし、観察できることと、そこに病気があればそれを所見として拾えるか(異常として認識できるか)はまた別問題です。
全ての検査には、強いところと弱いところがあります。
- CT検査に強い部位・弱い部位
- MRI検査に強い部位・弱い部位
- エコー検査に強い部位・弱い部位
とそれぞれ強い部位・弱い部位(得意分野・不得意分野)があるからです。
では、腹部CTを撮影して各臓器でわかることを見ていきましょう。
肝臓でわかること
肝臓でわかることの代表としては、
- 肝臓の形(辺縁は整なのか不整なのか・凹凸は整なのか不整なのか)→慢性肝障害、肝硬変の有無を予測できる。
- 脂肪肝(ただし、造影CTのみではわからない)
- 肝嚢胞
- 肝血管腫(造影CT、中でもダイナミックCTを撮影しないとわからないこともある。)
- 肝膿瘍(造影CT、中でもダイナミックCTを撮影しないとわからないこともある。)
- 肝転移(造影CTを撮影しないとわからないこともある。)
- 肝細胞癌(造影CT、中でもダイナミックCTを撮影しないとわからない)
- 肝内胆管細胞癌(造影CT、中でもダイナミックCTを撮影しないとわからない)
といったことが挙げられます。
見ていただけるとわかるように、肝臓の形、脂肪肝、肝嚢胞くらいは造影剤を用いない単純CTでも診断することができます。
しかし、それ以外のものは、単純CTだけではわからず造影剤を用いてかつダイナミック撮影という3相に分けて撮影して造影されるパターンから病気を推測していかないと診断は難しいのが現実です。
さらに、ダイナミックCTでも判断に悩ましい場合には、より精密検査と言えるEOBプリモビスト造影剤を用いた造影(ダイナミック)MRIを行うことがあります。
肝腫瘍の診断の流れ
ですので、肝腫瘍の診断の流れとしては、
- step1 腹部エコー検査もしくは腹部単純CTで肝に腫瘤を認める。
- step2 ダイナミックCTで造影パターンをチェックして診断を試みる。(場合によってはstep2を経ずにstep3へ。)
- step3 EOBプリモビスト造影剤を用いたダイナミックMRIで診断を試みる。
という流れです。
下へ行くほど、より精密検査ということになります。
それでも鑑別を絞りきれない場合は、最終的に肝臓の腫瘤を生検することで確定診断をします。
胆嚢・胆管でわかること
胆嚢はCTが弱い臓器の一つと言えます。
というのは、胆嚢ポリープや胆石があっても小さなものや、構成する成分によっては、CTで映らないことがしばしばあるためです。
一方で、腹部エコー検査や腹部MRI検査(中でもMRCP)は胆嚢の病変の描出に優れています。
逆に言えば、腹部CTで胆嚢に異常所見を認めないから、胆嚢には何も病変はないとは言えないわけです。
このような前提ありきになりますが、
- 急性胆嚢炎
- 胆嚢ポリープ
- 胆嚢がん
- 胆嚢結石
- 総胆管結石
といった病気を指摘できることがあります。
この中でも急性胆嚢炎は、胆嚢が腫大したり、壁が厚くなったり、周囲に脂肪織濃度上昇を伴うことがあり、CTでも診断可能な病態です。
膵臓でわかること
膵臓でわかることの代表としては、
- 急性膵炎(単純CTでもわかる。ただし膵壊死は造影CTでないとわからない)
- 慢性膵炎
- 膵嚢胞性病変(IPMN、仮性嚢胞など)(小さな嚢胞はCTではわからないこともある)
- 膵癌(小さな膵癌は単純CTではわからないこともある。典型的には造影剤を用いたダイナミックCTで乏血性の造影パターンを示す)
が挙げられます。
急激な腹痛で発症する、急性膵炎は単純CTであっても多くの場合、炎症所見を拾うことはできる病態です。
(ただし造影CTでより明瞭になる=わかりやすくなるのも事実。)
急性膵炎にはCT grade分類があり、
- 炎症が及ぶ範囲
- 膵壊死の有無及び範囲
の2点を評価しますが膵の壊死の有無については、造影剤を用いた検査でないとわからないのが一般的です。
膵嚢胞性病変も膵癌も小さなものは造影剤を用いたCTであっても指摘が困難なことがあります。
単純CTでの指摘はさらに困難です。
膵癌を疑う腫瘍マーカーが上がっているのに、CTでは膵癌を認めない場合などには、造影剤を用いたダイナミックMRIがより精密検査として撮影されることがあります。
脾臓でわかること
脾臓に病変があるのは、稀ですが、その中でも頻度が高いものとしては
- 脾腫
- 脾嚢胞
- 脾リンパ管腫
- 脾血管腫
といった良性病変が挙げられます。
これらは単純CTであっても指摘できることが多いです。
副腎でわかること
副腎でわかることの代表としては、
- 副腎過形成
- 副腎結節(中でも副腎腺腫)
- 副腎転移
が挙げられます。
中でも副腎腺腫はしばしば他の病気と鑑別が問題となり、頻度が高いものです。
結節内に脂肪を含有することを証明することが診断に有用であり、単純CTのみであっても診断可能なことがあります。
腎臓でわかること
腎臓でわかることの代表としては、
- 腎嚢胞
- 腎結石
- 水腎症
- 腎盂腎炎
- 腎膿瘍
- 腎細胞癌
が挙げられます。
頻度の高い、腎嚢胞や腎結石、さらには水腎症については単純CTでも指摘することが可能です。
腎盂腎炎については、造影CTであっても異常所見を認めないことがあります。
(ただし、炎症所見が強い場合は単純CTであっても指摘可能なことあり)
尿管・膀胱でわかること
尿管でわかることの代表は
- 尿管結石
となります。
尿管結石が疑われるときは、造影CTは撮影せずに単純CTを撮影することが重要です。
尿管結石以外に、上部尿管や水腎症を認めているときには、尿路腫瘍の可能性もあります。
また膀胱では、
- サイズの大きな膀胱腫瘍
- 膀胱内血腫
- 膀胱炎
といったことがわかります。
膀胱腫瘍の場合は、造影CTの方が腫瘍が造影され明瞭になる一方で、膀胱内血腫の場合は、単純CTで水濃度でない(ときに高吸収)となっている点がポイントです。
消化管でわかること
消化管といえば、胃がんや大腸がんが思い浮かびますが、基本的に消化管の腫瘍はかなり進行しないとCTではわからないことが多いです。
CTでわかるケースで多いのは、リンパ節転移や肝転移、肺転移などがCTであり、そこから原発を探して内視鏡などで胃がんや大腸がんがわかるケースです。
また腹痛の原因となる腸炎、虫垂炎、憩室炎なども炎症所見が軽い場合は、CTでわからないこともあります。
これらを踏まえて上で、消化管でわかることの代表としては、
- 進行した胃がん・大腸がん・直腸がん
- 腸炎(結腸炎、虚血性腸炎、小腸炎、急性胃炎など)
- 腸閉塞(≒イレウス)
- 虫垂炎
- 憩室炎
が挙げられます。
男性生殖器でわかること
男性生殖器もCT検査の弱い分野です。
前立腺、精嚢、精巣といった生殖器をCTで同定することは容易なケースが多いのですが、男性生殖器の病気がCTでわかるケースは少ないといえます。
- 前立腺腫大
ならば単純CTでも診断可能です。
他には、
- 進行した精巣腫瘍
- 進行した前立腺癌
ならばわかることがあり、その場合も単純CTよりも造影CTが描出に優れています。
精巣も前立腺もCTよりもMRI検査の方が病変の描出に優れています。
女性生殖器でわかること
女性生殖器もCT検査の弱い分野です。
子宮、卵巣など付属器のといった生殖器をCTで同定することは容易なケースが多いのですが、女性生殖器の病気がCTでわかるケースは少ないといえます。
- とくに石灰化を伴う子宮筋腫
は単純CTでもわかりますが、
- 石灰化を伴わない子宮筋腫
- 子宮腺筋症
- 大きな卵巣嚢腫
- 大きな卵巣腫瘍
- 大きな子宮がん
ならばわかることがあります。
男性も女性も生殖器に関しては、CTよりもMRI検査の方が病変の描出に優れているのが特徴です。
腹部の筋肉・骨でわかること
撮影範囲に入っている腹部〜臀部の筋肉や骨の状態がわかり、
- 軟部腫瘍
- 筋肉内血腫
- 筋肉内膿瘍(腸腰筋膿瘍など)
- 骨腫瘍(原発性骨腫瘍・転移性骨腫瘍)
- 骨折(椎体の圧迫骨折含む)
- 側弯症
といったことがわかることがあります。
腸間膜・大網でわかること
腸間膜や大網でわかることとしては、
- 炎症所見(脂肪織濃度上昇)
- 腹腔内播種(大網ケーキを形成ことがある)
といったことがわかることがあります。
また、おへそのラインで横断像を撮影することにより、内臓脂肪を測定することができ、メタボリックシンドロームの診断に有用です。
リンパ節でわかること
リンパ節でわかることとしては、
- リンパ節腫大(反応性腫大、リンパ節転移、悪性リンパ腫など)
の有無をCTで確認することができますが、血管とのコントラストを明瞭にするためにも、単純CTよりも造影CTの方がその描出に優れています。
またリンパ節内部に壊死などを伴う場合も造影CTの方が優れているのです。
腹膜腔でわかること
ここまで挙げた以外の腹膜腔でわかることとしては、
- 腹膜腔の液体貯留(腹水、膿瘍形成、出血など)
- 腹膜ネズミ
がわかります。
とくに頻度が高いのは、腹水であり、最も溜まりやすい部位が、腹膜腔の最低位であるダグラス窩です。
膿瘍形成の有無については、造影CTで周囲にリング状の造影効果を認めることでより指摘が可能となるため、造影CTが優れています。
血性の腹水や出血については、単純CTで指摘可能です。
腹膜ネズミとは、結腸ひも沿ってある腹膜垂が遊離して石灰化したものです。
腹腔内をネズミ(鼠)のように動くためこのように呼ばれます。
今回用いた画像は腹部CTの正常解剖を見ることができるツールを用いました。
腹部CTで何が見えるのかを学べますので、ぜひご活用ください。
最後に
腹部CTでわかることを徹底的にまとめてみました。
たくさんの臓器があり、たくさんのことがわかりますが、単純CTと造影CTさらには造影MRIと合わせて鑑別診断できる病気もありましたね。
あくまで代表的なものを列挙したまでであり、これ以上にたくさんのことがわかります。
エコー検査やMRI検査と異なり被曝の問題がありますので、とくに若い人が症状もないのに毎年受けるのはどうかと思いますが、人間ドックのオプションなどで腹部CTを選ぶ際に参考にしていただければ幸いです。
ちなみにPET-CT検査においてもCT検査を行いますので、CTの読影もしてもらえます。