食道癌になると、治療法として、内視鏡的治療・外科的治療・化学放射線療法という3つの選択肢があります。
その中で外科的治療というと、癌を取り除くために食道を大きく切除しますが、そのままでは元のように食事をすることができないため、食道切除と同時に食道再建も必要になります。
では、その食道再建とはどのようなものなのでしょうか?
今回は、食道再建について
- そもそも食堂再建術とは
- 再建術の経路
- 合併症
- 術後の食事
- 看護
などをイラストや実際のCT画像を見ながらご説明したいと思います。
食道再建術とは?
食道再建術は、食道癌の治療として行われる外科的療法で、食道切除・3領域リンパ節郭清・食道再建とセットでおこなわれます。
まず、治療として癌を含む食道を切除する必要がありますが、そのままでは失われた食道は途中が寸断された状態となります。
そこで今までのように食事ができるよう、食べ物の通り道を作り直すのが、食道再建術です。
この外科的療法は、食道癌のステージでⅠ期〜Ⅲ期までが適応となります。
食道癌の再建術の経路・方法は?
食道癌の手術に用いられる再建術は、縫合が一カ所で済む胃管を用いる方法が多くおこなわれますが、稀に胃管が使えない場合には大腸(結腸)や小腸を用いることもあります。
食道再建術には、再建する経路により、胸腔内(後縦隔)・胸骨後・胸壁前という3つの方法・術式があります。
それぞれについて、メリットを含めご説明します。
胸腔内(後縦隔)
切除した食道と同じ場所に消化管を挙上する方法(術式)です。
後縦隔経路(posterior mediastinal route)とも呼ばれます。
メリットとして・・・経路が短くて済み、吻合部の緊張が少なく、生理的経路であるため、燕下障害も起こりにくいものになります。
症例 60歳代男性 食道癌術後
胸骨後
最もポピュラーな方法で、胸骨の裏側を剥離して消化管を挙上する方法(術式)です。
そのため胸骨後経路(retrosternal route)と呼ばれます。
メリットとして・・・縫合不全を生じたとしても、吻合部が頸部なため頸部に膿瘍ができるくらいで治療が可能です。
また、胸骨の裏側にあたるため、再発や術後放射線療法の影響を受けにくくなります。
症例 70歳代男性 食道癌術後
胸壁前
皮膚と胸骨の間を剥離して消化管を挙上する方法(術式)です。
そのため胸壁前経路(ante-thoracic route)と呼ばれます。
メリットとして・・・縫合不全を生じても、ドレナージ(体内の余分な水分・血液などを体外に抜き取る処置)が他の臓器に影響を与えることなく容易かつ安全におこなえます。
ただ、見た目的に盛り上がって見え、食べ物の通過が分かるため、避ける方も多くいます。
症例 70歳代男性 食道癌術後
次に再建に用いる臓器は通常、胃管が使われますが、胃以外にも大腸や小腸を用いて行うことがあります。
胃管・大腸(結腸)・小腸それぞれ腸管臓器を用いて再建した場合のメリット、デメリットをそれぞれ解説します。
大腸(結腸)を用いて再建した場合
大腸(結腸)を用いると、十分な長さがあるため、逆流が少ないというメリットがあります。
しかし、吻合個所が多いため縫合不全や腸管壊死を起こしやすいというデメリットもあります。
小腸を用いて再建した場合
蠕動運動があり、また食道と口径が近いというメリットはありますが、吻合個所が多く、挙上性が不良で血管吻合も必要になるというデメリットもあります。
胃管を用いて再建した場合
胃管を用いると、吻合部が一カ所で済み、手術操作も他の部位に比べて容易です。
ただ、逆流が多い・胃の貯留量が少ないというデメリットはあります。
しかし、それらを総合しても、胃管を用いた方がデメリットが少ない(軽い)ため極力胃管を用いることが多くなっているのです。
食道再建術後の合併症は?
食道再建術は食道切除や3領域リンパ節郭清とセットでおこなわれるため、
- 肺合併症(呼吸器合併症)
- 反回神経麻痺
- 縫合不全
などが起こる可能性がありますが、食道再建術だけでいえば・・・
- 胸腔内で・・・縫合不全・縦膜炎・膿胸
- 胸骨後・・・吻合部の血流低下・心臓圧迫
- 胸壁前・・・経路が屈曲
といったことが心配になります。
食道再建術後の食事は?
上記でご説明したような合併症もあるため、術後の食事許可がおりても、今まで通りではいけません。
- ゆっくり食べる
- よく噛んで食べる
- 食べ過ぎない
- 水分を多くとる
- 刺激物は避ける(アルコールを含む)
- 消化の良いものを食べる
ということに注意しましょう。
また、食後すぐに横になることも逆流につながりますので、避けましょう。
手術後の看護は?
多くの場合、術中におこなった人工呼吸管理を、術後の様子を見て外すことになります。
その際、バイタルサインによる監視や水分バランスのチェック、ドレーンチューブの処置、痰の吸引など、適切な管理を心がけましょう。
また、合併症も多いため、ちょっとした変化を見逃さないことが重要です。
参考文献:病気がみえる vol.1:消化器 P64〜74
参考文献:内科診断学 第2版 P840・841
参考文献:消化器疾患ビジュアルブック P26
参考文献:新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P49
参考文献:見てわかる消化器ケア―看護手順と疾患ガイド P177
参考文献:パッと引けてしっかり使える 消化器看護ポケット事典[第2版] P224・225
最後に
- 食道切除術後、食べ物の通り道を作り直すのが、食道再建術
- 胃管を用いるのがほとんどだが、使えない場合には大腸(結腸)や小腸を使う
- 食道再建術には、胸腔内・胸骨後・胸壁前という3つの方法がある
- 縫合不全・縦膜炎・膿胸・吻合部の血流低下・心臓圧迫・経路が屈曲することがある
- 今まで通りの食事とはいかず、食生活を見直すことが重要
胃酸は大変強い刺激となり、再建した食道粘膜をも傷つけてしまい合併症を引き起こしてしまうことにつながります。
そのため、術後の食生活は大変重要となります。
退院前に医師に十分な説明を受けるようにしましょう。