胃切除手術をした後に、腹痛や嘔吐・下痢といった症状があらわれる原因の1つに、輸入脚症候群というものがあります。
悪い部分を切除して、問題がなくなったはずなのに、症状に苦しめられるなんて・・・
そう思われる方も多いと思います。
今回は、この輸入脚症候群(英語表記で「afferent loop syndorome」)について
- 原因
- 症状
- 治療法
- 看護
を、図とともに分かりやすく説明したいと思います。
輸入脚症候群とは?
胃の手術をした際に、術式によっては下のように輸入脚と呼ばれる十二指腸の端が行き止まりとなった盲管という部分を作ります。
輸入脚症候群とは、その盲管(輸入脚)に、狭窄が生じたために通過障害をきたす病態です。
通過障害になると、輸入脚に胆汁や膵液がたまり、細菌が増殖してしまいます。
輸入脚症候群の原因は?
輸入脚とは、胃切除の際の再建方法、Billroth Ⅱ法(ビルロートⅡ)・Roux-en Y法(ルーワイ)によって形成されます。
そして、輸入脚症候群は、この輸入脚に癒着、吻合部狭窄、胃癌再発などによる輸入脚遠位部の狭窄が原因となって起こります。
胃の手術後の合併症(胃切除症候群)としては、他にも
- ダンピング症候群
- blind loop症候群(盲管症候群)
- 吻合部潰瘍
- 貧血など
様々ありますが、それらを含め手術をした約25〜40%に発生するといわれています。
輸入脚症候群の症状は?
この輸入脚症候群には、急性の症状と慢性の症状に分けられます。
急性の症状は完全閉塞のために生じるもので、慢性の症状は不完全閉塞のために生じるものです。
急性と慢性に分け、症状を説明します。
急性輸入脚症候群
- 上腹部痛
- 嘔吐
- 腹部腫瘤
- 無胆汁性嘔吐
- 黄疸
- 高アミラーゼ血症など
など急性腹症として突然起こります。
嘔吐は無胆汁性のものです。
これを輸入脚閉塞症とも呼びます。
慢性輸入脚症候群
- 嘔吐
食後1時間以内の大量の胆汁性嘔吐が特徴です。
blind loop(盲管症候群)もこれに含まれますが、輸入脚逆流症とも呼ばれます。
慢性の場合、症状の悪化と軽快を繰り返し、手術後数週〜数年経過して起こります。
blind loop(盲管症候群)とは?
輸入脚に限らず、端側吻合(たんそくふんごう)や、側側吻合(そくそくふんごう)といった盲管に、感染が起こった状態(細菌が増殖)です。
輸入脚症候群の診断は?
臨床症状に加えて、腹部X線や腹部CT検査で診断します。
輸入脚症候群のCT画像所見は?
輸入脚は径4〜8cmと拡張し、液体が充満した所見として認めます。
脚にかかる圧力が均一であるために、拡張した径がほぼ均一であるのが特徴的であると言われています。
胆道系の拡張や膵管拡張が観察される場合もあります。
症例 70歳代 男性 胃癌術後(Billroth Ⅱ法にて再建)
十二指腸は著明に拡張して、内部に液体及び残渣が充満しています。
癒着性イレウスによる輸入脚症候群と診断されました。
輸入脚症候群の治療は?
急性と慢性で治療法も異なるので、分けて説明します。
急性輸入脚症候群の治療
輸入脚の壊死(えし)や穿孔(読みは「せんこう」意味は「穴が開いたこと」)、腹膜炎をともなうこともあるため、確認できれば、緊急手術となります。
慢性輸入脚症候群の治療
保存療法が第一選択となります。
方法としては、食事療法や抗菌薬の投与がおこなわれます。
ですが、この方法で症状が改善しない場合には、再手術をおこなうこともあります。
輸入脚症候群の看護で注意すべき点は?
食事の管理が大変重要になります。
- 脂肪やたんぱく質を多く摂りすぎない
- ゆっくりよく噛んで食べる
- 満腹にならないように1回の食事量を少なめにする
本人はもちろんのこと、看護する側もこのことに注意し、日頃から患者の食生活に目を配りましょう。
参考文献:
内科診断学 第2版 P 855
病気がみえる vol.1:消化器 P130
新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P94・95
最後に
- 盲管(輸入脚)に、癒着・屈曲・捻転・吻合部の狭窄が生じたために通過障害をきたす病態
- 輸入脚症候群には、急性と慢性がある
- 急性輸入脚症候群の場合、壊死や穿孔、腹膜炎をともなえば緊急手術となる
- 慢性輸入脚症候群の場合、保存療法が第一選択
このようなことにならないためにも、胃切除手術後は今まで通りの食生活を送るのではなく、症状が起こらないように注意しなければならないということです。
胃腸に負担とならないような食事内容、食べ過ぎ飲み過ぎには注意しましょう。