停留精巣
・精巣は胎生3か月頃に下降を開始し、7~8か月頃に鼠径管を通過し、8~9か月頃に陰嚢内に達する。
・停留精巣とは、精巣が発生学的に下降する道程の中途に留まっている状態。
・生下時での発生頻度は満期産で3~4%、未熟児で30%と報告されている。
・年齢とともに発生頻度は低くなり、1歳まででは0.8%である。
・10%で両側性。両側性の場合は、腫瘍の発生の可能性がより高くなる。
・停留精巣は部位によって3つに分類される。
- 腹腔内(intra-abdominal retension)
- 鼠径管内(intracanalicular retension)
- 前陰嚢(prescrotal retension)
・前陰嚢型>鼠径管内型。
・合併症は、不妊、悪性精巣腫瘍(セミノーマなど)、精巣捻転、精巣上体異常、鼠径ヘルニアなど。
・悪性腫瘍は、停留精巣がある場合、1-2%に発生し、健常人の7~10倍高いと言われている。
・合併症の頻度が高いので、早期の治療が必要。
・2歳以前には悪性化は起こらないが, 2歳を過ぎると停留精巣の悪性化の可能性は正常例の10-40倍に増加する。
・移動精巣は陰嚢内〜外鼠径輪間の可動性精巣。
停留精巣の診断は?MRIは?
・診断は、超音波検査(エコー)もしくはMRI(特にT2WI冠状断)にてなされることが多い。
・超音波検査では、正常の精巣は均一なエコー輝度を有する楕円状の器官として認められる。エコー輝度の高い線状の精巣縦隔 (mediastinum testis) が認められれば、精巣と同定できる。
・MRI拡散強調画像では精巣を含めた性腺は高信号を呈するため、病変の同定に役立つ(Umeoka S,etal:Abdominal Imaging 30:637 2005).
症例 25歳男性 MRI T2強調像 冠状断像
年齢により変化する。
- 11歳までは2c㎥
- 14歳までは3~10c㎥
- 15歳以上では平均13c㎥
停留精巣の治療は?
・GnRH、hCGなどのホルモン療法、精巣固定、精巣摘除術が年齢に応じて行われる。
・1歳まで自然下降を期待して経過観察する。しかし下降しない場合は、3-4歳までに精巣固定術を行う。
停留精巣で注意することは?
・放置した場合、造精機能障害、精巣腫瘍のリスクが高まる。ただし、手術をしても通常よりはこれらのリスクが高い。
・移動性精巣(retractile or migratory testis)は、陰嚢内と外鼠径輪の間を移動する可動性の精巣で小児期に多い。通常、思春期になると精巣は陰嚢内に収まるようになるので、治療は不要である。
・成人で停留精巣内に限局性病変を検出すれば、悪性精巣腫瘍の合併を考える。
・乳幼児期の鼠径部・陰嚢腫脹の鑑別としては、鼠径ヘルニア、精索水腫・陰嚢水腫、精巣捻転、精巣腫瘍など。
・Prader-WIlli症候群では、停留精巣が90%以上に認められる。