下肢閉塞性動脈硬化症(PAD: Peripheral Arterial Disease)や急性下肢虚血の診断において、下肢CTA(CT血管造影)は治療方針を決定するための極めて重要なモダリティである。TASC IIガイドライン等の国際的基準においても、病変部位や狭窄・閉塞の長さを正確に評価することが推奨されている。正確な読影とレポート作成のためには、下肢を栄養する動脈の解剖学的走行と分岐を完全に把握しておく必要がある。
本稿では、下肢CTA読影の基礎となる骨盤から足趾に至る動脈の解剖を、領域別に解説する。
下肢CTA(下肢の血管)の解剖は?
下肢CTAの解剖は次のようになります。

腹部大動脈→総腸骨動脈→外腸骨動脈→大腿動脈→膝窩動脈→(3分枝)→前脛骨動脈、腓骨動脈、後脛骨動脈 →足へという流れで血管の名前は変わっていきます。
1. 骨盤領域(大動脈分岐部〜腸骨動脈)
下肢への血流は、腹部大動脈(Abdominal Aorta)から始まる。腹部大動脈は通常、第4腰椎(L4)レベル、臍のやや下部で左右の総腸骨動脈(CIA: Common Iliac Artery)に分岐する。
- 総腸骨動脈(CIA):大動脈分岐部から仙腸関節の前面あたりまでを下行する。
- 内腸骨動脈(IIA: Internal Iliac Artery):CIAから骨盤腔内へ向かって分岐し、骨盤内臓器や臀部の筋肉(上殿動脈・下殿動脈など)を栄養する。PADにおいて外腸骨動脈が閉塞した場合、このIIAからの側副血行路(コラテラル)が下肢への重要な血流供給源となることがある。
- 外腸骨動脈(EIA: External Iliac Artery):CIAから連続して骨盤の辺縁に沿って下行し、下肢へ向かう本幹となる。
2. 大腿領域(大腿動脈)
外腸骨動脈が鼠径靭帯(Inguinal ligament)の下を通過した時点から、名前が総大腿動脈(CFA: Common Femoral Artery)に変わる。大腿領域はカテーテル治療(EVT)の穿刺部位としても重要である。
- 総大腿動脈(CFA):鼠径部を走行する短い血管であり、すぐに浅・深の2枝に分かれる。
- 深大腿動脈(DFA: Deep Femoral Artery / PFA: Profunda Femoris Artery):大腿の深部、外側後方へ向かい、大腿の筋肉群を栄養する。浅大腿動脈が閉塞した際の強力な側副血行路となるため、DFAの開存状況の確認はCTA読影において必須である。
- 浅大腿動脈(SFA: Superficial Femoral Artery):下肢へ向かうメインストリートである。大腿前内側を下行し、大腿下部で内転筋管(ハンター管)と呼ばれる筋膜のトンネルを通過する。このハンター管出口付近は物理的圧迫を受けやすく、PADの好発部位として知られている。
3. 膝・下腿領域(膝窩動脈〜下腿三尖枝)
浅大腿動脈が内転筋裂孔(Adductor hiatus)を抜けて膝の裏側に回り込むと、膝窩動脈(PA: Popliteal Artery)となる。
- 膝窩動脈(PA):膝関節の後方を下行する。膝関節の屈曲・伸展による力学的なストレスを受けやすい部位である。
- 前脛骨動脈(ATA: Anterior Tibial Artery):膝窩動脈から最初に前方へ分岐し、骨間膜を貫いて下腿前面(前脛骨筋の深部)を下行する。
- 脛腓動脈幹(TPT: Tibioperoneal Trunk):前脛骨動脈を分枝した後の短い本幹。すぐに以下の2枝に分かれる。
- 後脛骨動脈(PTA: Posterior Tibial Artery):下腿後面の内側を下行し、内果(内くるぶし)の後方を通過する。
- 腓骨動脈(PeA: Peroneal Artery / Fibular Artery):下腿後面の中央〜外側を下行し、主に腓骨周辺の筋肉を栄養する。
これらATA、PTA、PeAの3本を合わせて「下腿三尖枝(Trifurcation)」と呼ぶ。重症下肢虚血(CLTI)においては、これら末梢血管の開存状態がバイパス術やEVTの成否を分ける。
4. 足部領域(足背・足底動脈)
下腿の動脈は足関節を越えると、足部を栄養する末梢動脈となる。創傷治癒を目指す上で、どの動脈がどの足趾(Angiosome)を栄養しているかを把握することが近年特に重要視されている。
- 足背動脈(DPA: Dorsalis Pedis Artery):前脛骨動脈(ATA)が足関節前面を越えて名前を変えたもの。足背を走行し、第1・第2趾間などへ向かう。触診で拍動を確認しやすい血管である。
- 足底動脈(Plantar Arteries):後脛骨動脈(PTA)が内果後方を通過した後に、内側足底動脈と外側足底動脈に分岐し、足底アーチ(Plantar arch)を形成する。
5. CTA読影時のポイント
- 部位、長さ、狭窄の程度、側副血行路:増生の有無と程度
- 狭窄の程度の表現:軽度、中等度、高度の狭窄、閉塞
- 広い範囲で血管内腔の凹凸が見られる場合:「広狭不整」と表現する。
- 病変の範囲はcmで測定記載する。
- 極めて短い範囲の狭窄は (ultra) short segment stenosisと表現する。
- MRAでは狭窄所見が過大表示(over estimate)される傾向にある。
- →狭窄血管内の血流信号がほとんど見えない症例でも、周囲に側副血行路がほとんど見られない場合は、完全閉塞ではなく高度狭窄の方が多い。
- 石灰化の評価:高度な石灰化はCTAにおける内腔評価の妨げ(ブルーミングアーチファクト)となる。また、血管内治療時のデバイス通過性にも影響する。
- 側副血行路(コラテラル)の経路:閉塞部位の遠位(末梢側)が、どの血管からの側副血行路によって造影されているかを確認する。
- Run-off血管の評価:末梢の流出路(Run-off)となる下腿三尖枝〜足部動脈の開存状況は、血行再建術の長期予後に直結する。
下肢動脈の径と流速の関係
下肢の動脈の径と流速の関係は次の通り。
| 下肢動脈 | 径 | 流速 |
| 大腿動脈 | 10mm | 0.8~1.2m/s |
| 膝窩動脈 | 5mm | 0.5~0.7m/s |
| 後脛骨動脈 | 2mm | 0.4~0.6m/s |
| 足背動脈 | 2mm | 0.3~0.5m/s |
Fontaine分類とは?
- Ⅰ度:無症状、冷感、しびれ感
- Ⅱ度:間欠性跛行、安静時無症状 →手術療法の相対的適応
- Ⅲ度:安静時疼痛
- Ⅳ度:潰瘍、壊死 →Ⅲ、Ⅳ度は手術療法の絶対的適応
参考文献
- 1) Norgren L, Hiatt WR, Dormandy JA, et al. Inter-Society Consensus for the Management of Peripheral Arterial Disease (TASC II). J Vasc Surg. 2007;45 Suppl S:S5-67.
- 2) Fleischmann D, Hallett RL, Rubin GD. CT angiography of peripheral arterial disease. J Vasc Interv Radiol. 2006;17(1):3-26.
- 3) Conte MS, Bradbury AW, Kolh P, et al. Global vascular guidelines on the management of chronic limb-threatening ischemia. J Vasc Surg. 2019;69(6S):3S-125S.e40.
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遺残坐骨動脈について教えて頂きたいです。
存在する場合どこから分岐するのでしょうか
コメントありがとうございます。
内腸骨動脈から(多くは下殿動脈として)分岐して、大坐骨孔を抜けて後方へ回り込むが基本です。