頭部外傷によって起こる病態として急性硬膜下血腫というのがあります。
同様に頭部外傷で起こる一文字違いで急性硬膜外血腫という病態もありますが、今回はこの病態との違いも合わせて・・・
急性硬膜下血腫について
- どんな病態か
- 症状
- 診断
- 治療法
をイラストや実際の画像を交えてまとめました。
急性硬膜下血腫(Acute subdural hematoma)とは?
急性硬膜下血腫は、頭に強い衝撃を受けた外傷で起こるもので、交通事故・殴打・転倒などが原因として挙げられます。
その衝撃により、下のイラストのように
- 頭蓋骨の下の「硬膜」と「くも膜」との間に出血が起こる病態
です。
急性硬膜下血腫は、単体で起こることもありますが、外傷性くも膜下出血や、脳挫傷を伴うことが多くあります。
硬膜下血腫は、文字どおり硬膜の下に血腫を作る病態です。
破綻する血管は?
架橋静脈や脳表動脈の破綻により硬膜下に血腫を作ります。
CT画像の特徴は?
通常CT検査など画像検査において、三日月型の血腫を形成することで知られています。
※ただし、三日月型にならずに凸レンズ型になることもしばしばありますので、形だけで判断しないようにしましょう。
急性硬膜外血腫と異なり、頭蓋骨の縫合線を無視して進展することも特徴です。
また硬膜下血腫は受傷部側(coup:クー)だけでなく受傷部の反対側(contrecoup:コントラクー)にも認めることがあります。
好発年齢は?
高齢者が多く、転倒などによって起こるものが大半です。
若い人の場合、スポーツ中の外傷によって起こることも多いです。
小児の場合は転倒や落下では滅多に起こらず、虐待などでこの急性硬膜下血腫になることが多くあります。
その場合虐待を隠すことから、処置が遅れることが多く、虐待による死因の1位となっています。
中には何も殴られたなどの衝撃がなくても、「揺さぶられっこ症候群」といって、2歳以下の小児を過度に揺すぶったことによって架橋静脈が破綻したり脳組織の損傷が生じ、急性硬膜下血腫となる場合もあります。
好発部位は?
急性硬膜下血腫は、ほとんどの場合大脳の表面に起こります。
稀に小脳表面や大脳半球の間の左右に発生することもあります。
硬膜外血腫との違いは?
同様の頭部外傷によって起こるもので一文字違いで急性硬膜外血腫が起こることがありますが、こちらは頭蓋骨と硬膜の間に凸型の高吸収域が見られるものです。
(急性硬膜外血腫について詳しくはこちら→急性硬膜外血腫とは?症状から画像診断、治療法徹底まとめ!)
図で見ると、硬膜の下か上かで違いが明らかですが、CT画像ではしばしば鑑別が困難なことがあります。
急性硬膜下血腫の症状は?
頭部外傷後から意識障害が50-60%に見られます。
急性硬膜外血腫の場合、血腫が広がる速度が遅い傾向にあり、意識清明期を認めることがありますが、急性硬膜下血腫の場合はそのようなことは通常なく(稀に見られることはある)、治療をしなければ意識障害は進行性です。
急性硬膜外血腫と比較して、脳浮腫や腫脹の程度が強く、血腫の増大速度も急速です。
結果、脳ヘルニアを起こす頻度も多い疾患です。
脳ヘルニアを起こせば、瞳孔不同、除脳硬直、呼吸異常などの脳ヘルニア症状が出現します。
ですので、急性硬膜下血腫は急性硬膜外血腫よりも一般的に重篤であり、より重症度が高いと言えます。
急性硬膜下血腫のCT画像診断は?
診断にはCT検査が必須です。
上記でご説明したように、硬膜とくも膜の間に出血が生じ、硬膜下腔に血液が広がり、画像で見た際三日月型の出血像が確認できます。
また外傷を受けた場所だけでなく、衝撃により脳が動くことで対側の脳にも硬膜外血腫や脳挫傷、くも膜下血腫が生じることがあるため、注意深く画像で確認する必要があります。
好発部位としては、大脳の弓隆隆部に多く、次いで次いで小脳テントの上に多く、後頭蓋窩には比較的少ないものです。
骨に接する硬膜下血腫は評価が難しいことがあり、その場合はウインドウ幅を150-200へと広げる(subdural window)ことで骨と血腫が分離されます。
正確な診断にはMRIのFLAIR像が有効です。
では実際の症例を見ていきましょう。
80歳代女性 転倒により頭部外傷
頭部CT横断像
右側の頭蓋骨に沿って三日月状の血腫を認めており、急性硬膜下血腫を疑う所見です。
頭部CT冠状断像
横断像と同様に右側の硬膜に沿った三日月状の血腫を認めています。
10歳代 男性 硬球が当たった。骨条件で骨折は認めなかった。
頭部CTの横断像です。右の側頭窩に硬膜に沿って少量の急性硬膜下血腫を認めています。
見落としがちな所見です。
70歳代女性 頭部外傷
頭部CT横断像
右の後頭部に血腫を認めており、急性硬膜下血腫を疑う所見です。見逃しがちなので注意が必要なケースです。
頭部CT冠状断像
横断像と同様に右後頭頭頂部に硬膜下血腫を認めています。
こちらも一見すると見落としがちで注意が必要です。
50歳代男性 作業時に脚立から転落
頭部CT横断像
右側に頭蓋骨に沿って三日月状の血腫を認めています。
また大脳鎌に沿っても血腫あり。
ともに急性硬膜下血腫を疑う所見です。左の前頭部では脳挫傷を疑う脳内出血も認めています。
頭部CT冠状断像
横断像と同様の急性硬膜下血腫所見を認めます。
左側頭部では広範な脳内出血を認め、周囲には浮腫を反映する低吸収域を認めています。salt and pepper状と表現される脳挫傷の所見です。
70歳代男性 頭部外傷
頭部CT横断像
大脳鎌に沿って右側に血腫を認めています。
大脳鎌に沿った急性硬膜下血腫を疑う所見です。
このように大脳鎌沿いのみに血腫を認めることもあり、注意が必要です。
頭部CT冠状断像
横断像と同様に大脳鎌に沿って血腫を認めています。
軽微な場合は見落としてしまいがちですので、注意が必要です。
急性硬膜下血腫の治療法は?
外科的手術
急性硬膜下血腫を診断した後は、危険な切迫脳ヘルニアの状態ならば緊急で外科的手術が行われます。
そうでない場合は、数時間後に頭部CT検査で再検査されるのが一般です。
そこで増大傾向にある場合は外科的手術になることがあります。
外科的手術では、血腫がゼリー状に凝固して脳の表面を覆った状態になるため、それを開頭術にて血腫を除去し、出血点の止血を行います。
保存的治療
意識があり、手術で血腫を取り除かなくても回復が見込める場合には保存療法が行われます。
また、開頭時に頭蓋骨を全て元に戻さずに閉じ、脳の圧迫を防ぐ外減圧術を行うこともあります。
しかし、手術を行わない場合もあり、意識がはっきりしていて血腫が少量の場合には血腫が自然に吸収されることを見込み、薬物療法で済ませることもあります。
意識が混濁した重症な場合でも、血腫が少量で手術による効果は薄いと感じれば、薬物療法のみとなることもあります。
その場合以下のような薬が使われます。
- 脳圧降下薬
- バルビツレート療法
- 低体温療法
また、手術を行うかどうかの判断基準は以下の通りです。
- 血腫の大きさが1cm以上の場合
- 血腫による神経症状が出ている場合
ですが、脳ヘルニアが進行し呼吸停止など脳幹機能が失われた可能性がある場合には、開頭手術を行えないこともあります。
その場合、穿頭血腫ドレナージ術といって頭蓋骨に穴を開け血を抜く手術を行うこともあります。
急性硬膜下血腫の患者さんの看護のポイントは?
頭部外傷を受けて受診された場合には、患者さんの状態(意識レベル・瞳孔異常・痙攣・眼球偏移・四股の異常・創部や出血の状態・バイタルサイン)を詳しく観察することが重要です。
また、患者の意識がはっきりしていたとしても安静は重要です。
急変も考えられますので、看護をする上では、引き続き患者の状態(バイタルサイン・意識レベル・神経症状)を継続的に観察する必要があります。
同時に家族への十分な説明をおこなうことで、動揺を減らし、またちょっとした変化に家族が気づけることも多いので、協力を仰ぎましょう。