精巣腫瘍の基礎知識

  • 精巣腫瘍は15~40歳位の比較的若年男性に多く、約90~95%が悪性の胚細胞由来の腫瘍。
  • 間質を起源とする腫瘍には, Leydig cell tumor, Sertoli cell tumor,granulosa cell tumorがある。
  • 特殊型で稀な腫瘍としては,胚細胞と間質両者を起源とする混合型のgonadoblastomaがある。
  • その他、悪性リンパ腫などのリンパ組織や白血病など造血組織由来の腫瘍、転移性腫瘍がある。
  • 転移性腫瘍として、原発部位は前立腺、肺、腎臓、悪性黒色腫などが見られる。

精巣腫瘍の分類(詳細に)

  • 胚細胞腫瘍:セミノーマ、胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫
  • 性索/間質腫瘍:Leydig細胞腫、Sertoli細胞腫、顆粒膜細胞腫
  • 胚細胞/性索成分:性腺芽腫
  • リンパ/造血組織:悪性リンパ腫、白血病
  • その他の腫瘍:カルチノイド、類表皮嚢腫
  • 転移性腫瘍

悪性精巣腫瘍のstaging

TNMステージング

T因子が重要。

  • T1 :精巣実質内に限局
  • T2 :精巣被膜を越えて浸潤あるいは精巣上体に浸潤
  • T3 :精索に浸潤
  • T4 :陰嚢壁に浸潤

治療方針決定のための病期分類

スライドの最初に出てきた病期分類を、臨床的なイメージがつくように言い換えると次のようになる。

● I期

  • 後腹膜リンパ節や遠隔臓器への転移なし

  • 腫瘍マーカーも術後に正常化
    → サーベイランス、補助化学療法、RPLND(非セミノーマの一部)などを個別に選択

● IS期

  • 画像上は転移なし

  • しかし高位精巣摘除後も腫瘍マーカーが高値のまま
    → すでに「どこかに微小転移がある」と考え、基本は全身化学療法

● II期

  • 後腹膜リンパ節のみに転移あり

  • 最大径と個数で IIA / IIB / IIC に分ける(例:2cm以下、2〜5cm、5cm超など)

● III期

  • 遠隔転移あり(肺、縦隔、脳、肝など)

  • もしくは強いマーカー高値(S2以上)

こうした病期に、IGCCCGリスク分類(good / intermediate / poor)を組み合わせて、治療レジメンや回数を決めるのが現在の標準。

化学療法後残存腫瘍:セミノーマ vs 非セミノーマ

セミノーマの残存腫瘍

セミノーマは化学療法や放射線感受性が高く、残存腫瘍の多くは壊死/線維化
NCCNなど主要なガイドラインでは次のように扱われている。

  1. 化学療法後、CTで3cm以下の残存腫瘍

    • 原則 経過観察(定期的なCTとマーカーフォロー)

  2. 3cmを超える残存腫瘍

    • FDG-PET/CTを施行(完了後少なくとも6週以降)

    • PET陰性 → 高い確率で壊死/線維化 → 経過観察

    • PET陽性 → 偽陽性も多いため、外科切除や再生検を慎重に検討

FDG-PETはセミノーマ残存腫瘍で特に有用とされ、陽性的中率・陰性的中率とも高いと報告されてる。

3-2. 非セミノーマの残存腫瘍

一方、非セミノーマの化学療法後残存腫瘍は事情がまったく違う。

大規模なシリーズでは、術後に切除された残存腫瘍の組織はおおよそ

  • 壊死/線維化:約 40〜50%

  • 成熟奇形腫:約 30〜40%

  • viableな癌:約 10〜20%

とされている。
1cm未満の小さな残存腫瘍であっても、約3割に成熟奇形腫やviable cancerが含まれるとされており、サイズだけで「大丈夫」とは言い切れない。

したがって、

  • 腫瘍マーカーが正常化している非セミノーマで、後腹膜に1cm以上の残存腫瘍がある場合
    → 原則として後腹膜リンパ節郭清(PC-RPLND)による切除が標準。

  • 残存腫瘍が 1cm未満 の場合
    → 施設・患者背景によって、

    • 積極的に切除する

    • 画像とマーカーで厳重フォロー(短い間隔でCT)
      のいずれかを選択。近年はリスクモデルを用いたサーベイランス戦略も検討されている。

非セミノーマではFDG-PETはあまり役に立たない

非セミノーマの残存腫瘍に対するFDG-PETの感度・特異度は十分とは言えず、

  • 壊死組織なのに集積する

  • 成熟奇形腫ではあまり集積しない

などの問題点が指摘されている。

そのためNCCN・EAUともに非セミノーマ残存腫瘍に対するFDG-PETの routine 使用は推奨していない。
「非セミノーマ=PETは基本出番なし」と覚えておくと整理しやすい。

Growing teratoma syndrome(GTS)とは?

定義

代表的な定義をまとめると、GTSとは次の3条件を満たす状態。

  1. 非セミノーマに対して化学療法を行ったあと

  2. 腫瘍マーカーは正常化しているにもかかわらず、

  3. 画像上、既存の腫瘍が増大/新たな腫瘍が出現し、

  4. 切除標本は成熟奇形腫だけ(悪性成分なし)

発生頻度は報告により異なるが、精巣NSGCTの約1.9〜7.6%とされている。

なぜ起こる?

機序は完全には解明されていませんが、

  • 化学療法に感受性の高い悪性成分だけが消失し、耐性のある成熟奇形腫成分が残存・増大する

  • 化学療法が未熟成分から成熟奇形腫への成熟分化を促す

といった仮説がある。

どこにできる? どう見える?

  • 好発部位:後腹膜リンパ節、縦隔、肺、頸部など

  • 画像:

    • 多房性嚢胞と軟部陰影が混在

    • 石灰化を伴うことも多い

    • 化学療法前よりゆっくり、しかし確実に増大していく

腫瘍マーカーが陰性化しているため「治っているはず」と油断しがちですが、CTでじわじわ大きくなる腫瘍を見たらGTSを必ず鑑別に入れる必要がある。

治療は?

化学療法抵抗性であり、根治には完全切除が必須

  • 不完全切除だと再増大しやすい

  • 長期的には肉腫や腺癌などへの悪性転化の報告もあり、
    「良性だから放置でOK」という訳にはいかない。

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